2021年10月19日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.15

 2021年10月7日配信の「FT新聞」No.3179に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.15」が掲載されています。シナリオ作成の続き、『ゲームマスター・スクリーン』の紹介とメタテーマについても掘り下げています。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.15

 岡和田晃
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 魔狩人フレイザーはピストルを抜き放つと、いきなり相手に突きつけた。
 ネズミ捕りのラッテンファンガーは真っ青になって手を挙げ、
「まだ終焉の刻(エンドタイムズ)の訪れには早いですぜ、旦那」
 震えながら、そう吐き出している。フレイザーは楽しそうに笑いながら、
「その話は、以前ライクヴァルドでも聴いたことがある。双尾の彗星と混沌の八芒星のあざをもった子供が生まれたら終焉が訪れる、とかなんとか。どうせ、迷信にすぎんが」
「なぜわかるんです、旦那」
「そういう噂を流した張本人たち、魔女やら似非魔術師やらを火刑にかけてやったからだ。見てのとおり、"終焉"どころか、こちらはピンピンしている。偉大なるシグマーの御加護というわけだな」
 横目でわたしを見てくる。あからさまな嫌味だが、気づかないふりをしておく。

 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より


●強力なエンハンスメントをご紹介!?

 本連載の前回、『ウォーハンマーRPG』日本語版公式サイトから無料ダウンロードできる『ライクランドの冒険あり!』を使ったシナリオ作成案を書きましたが、なんと仲知喜さんから、強力なエンハンスメントを寄せていただきました。以下、そちらをご紹介いたします。
「●アドベンチャー・フックからシナリオを作る」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/483417873.html)への注釈としてお読みいただければ幸い。

 下水道に隠された抜穴を配置、『ライクランドの建築』のお好みの建物の床下(地下室)に繋げると(一本道でOK)マップを描く時間が大幅に省略できると思います。賊が抜け穴を繋げた理由と、建物内部の状態を決めて、遭遇を配置すると完成です。

 なんともエレガント。ベテランならではの、無理のない省力化の美学が冴えていますね。そのまま使えてしまうと思います。というか、私なんかの案よりもずっと上手い……。加えて、その後の展開まで考えてくださいました。

「時、すでに遅し!」 
屋敷は賊に襲撃されていた。
遭遇1:見張り役。運び出し中の盗品。住人の遺体。 
遭遇2:探索中の賊。
遭遇3:賊と内通者。(賊は何を狙っていたのか?)
演出せよ:2階の窓をぶち破ってスケイブンと共に賑わう街路に飛び降りてください。

 こんなにシンプルなのに、具体的かつ映像的に情景が見えてくるのだから、さすがというほかありません。というわけで、2本もシナリオが出来てしまいました。このように、フックからシナリオをデザインする訓練を積んでおくと、RPGの設定を読んだだけで、瞬間的かつ自動的にシナリオが作成できるようになります。その境地にまで到達できたら、しめたもの。
 最小の労力でマスタリングができるだけではなく、プレイヤーが思わぬ動き方をしても、できるだけそれに合わせてシナリオの方を可変的な形で動かしていく必要ができるからですね。RPGのシナリオデザインには、様々なやり方がありますが、こと『ウォーハンマーRPG』に関しては、基本となる設定を隅々まで読み込んでおくのが、回り道のようでいて近道なのです。何より楽しい!

●神は細部に宿る(混沌の神々も例外ではない)

 さて、『ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン』と、『ウォーハンマーRPG スターターセット』が相次いで発売になりました。スターターセットはボックスなのですが、無事に中国の製造工場から届いたようで、私としてもほっとしています。
 ゲームマスター・スクリーンは4面印刷のかなり豪華なもので、表面はすべてイラストになっており、描かれたヴィジュアルのきめ細やかさは一見の価値があります。
 とりわけ英語圏のRPGイラストは、「神は細部に宿る」というばかりに、できるだけきめ細やかに情景を可視化させていくことこそが、重要な評価軸になっているように思われてなりません。
 『ウォーハンマーRPG』は近世をモチーフにしたRPGですから、それこそピーテル・ブリューゲルやヒエロニムス・ボス等の16世紀のフランドル絵画が、一つの規範になっているのではないでしょうか。このあたりの細部を考えるためには、森洋子『ブリューゲルの「子供の遊戯」 遊びの図像学』(未來社、1989年)がお勧めです。
 そこまで古典的なものに遡らずとも、同じゲームズ・ワークショップ関連のゲーム作品では、めでたく日本語版も復活を遂げた『ファイティング・ファンタジー』シリーズのイラストレーションが典型的ですね。世界を隅々まで味わってみてください。

●ゲームマスター・スクリーンの裏面のデータ

 ゲームマスター・スクリーンの裏面には、実際にゲームに役立てられるチャートが、これでもかというばかりに並べられています。
 向かって左側から1〜4面としておきますと、1面には「オールド・ワールドの一般的な名前」、「キャラクターの特徴、動機、癖の表」、「全技能一覧」が列挙されています。これでもうキャラクター作成の時に困ることはありません。GMにとっては、NPCをランダムに決めたい時にまず、役立てられますね。
 2面には、主にテストや戦闘の時に使うチャートが集められています。「難易度、対抗テスト、成功レベル、異能とテスト」、「優位」、「運命点、執念点、幸運ポイント、決意ポイント」、「射程」、「命中部位」、「支援」、「心理ルール」といったチャートが揃っています。これらは頻繁に参照すること請け合いですが、「心理ルール」は基本ルールブックとの異同があります。どうも『ウォーハンマーRPG』第4版は、頻繁にエラッタを当てるというよりも、サプリメントごとにルールをアップデートしていく方針のようですが、日本語版では『ルールブック』側の記述を訳載したうえで、訳注として『ゲームマスター・スクリーン』原著の記述を紹介しています。こうすることで、GM側がどのルールを使うのかが、自由に決められるというわけです。
 3面には、主に街中や旅路で参照するチャートが集められています。「貨幣、収入、売却、入手可能度、頻出するアイテム」、「移動」といった具合に。「経験点付与の手引、待望の達成から得られる経験点」、「キャリアの満了、各種成長にかかるコスト」と、成長に関したルールもまとめられています。下段には「各状態リスト」や「よく登場する状態」がまとめられています。これは2面下段の「心理ルール」と並べて使うと便利なものですね。
 4面には、「武器と盾」、「鎧」のチャート。日本語版ルールブックではエラッタが出てしまった箇所ですが、こちらのチャートではきちんと修正済みですからご安心ください。下段には「「サイズ」のルール」についての記載もあり、これもまた下段つながりで戦闘に使うと便利なものですね。

●『ゲームマスター・ガイド』の第1章

  『ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン』には、32ページのサプリメント『ゲームマスター・ガイド』が付いています。こちらを「本命」として購入する人も少なくないのではないでしょうか。その期待に応えて恥じない、充実の一冊となっています。
 第1章は「ウォーハンマーたらしめるもの」。GM目標および私信が細かに綴られています。意外と気づかないかもしれませんが、ここにはゲームの思想がよく反映されていて、つまりは「オールド・ワールドらしさを出すためには」というのが主眼にあるのですよね。
 私自身も書いたことがありますが、ゲームマスターの技巧というのは一般化できる部分が少なからずありまして、その意味ではよく言えば総花的な、悪く言えば八方美人なガイドが好まれやすい面があります。
 それはそれで大事なのですが、このゲームマスター・ガイドでは、あえて最初に「オールド・ワールドに命を吹き込む」、「オールド・ワールドをさらけ出す」ことが第一に置かれているのですね。
 つまり、オールド・ワールドらしさをどうやったら演出できるか、そこに特化した記述になっているのですね。
 初心者GMを相手にしていないというわけではありません。
 ただ、『ウォーハンマーRPG』でGMをするということは、必ずしも勧善懲悪なストーリー展開が是とされるわけでもありませんし、ラスボスとの戦闘を回避して生き延びることが最良の選択となるケースも珍しくありません。
 そのぶん、GMとしての基準がゆらぎやすく、円熟の技量が求められてしまうわけですが、そこをサポートするために書かれている、というわけだと思います。GMが「オールド・ワールドらしさ」をきちんと掴んでいれば、それは自ずからGMのスタンスにも反映してくるわけで、公正な裁定のためには、まず世界の理解が必要だという前提であるわけです。日本という環境でRPGをしていると、意外と忘れがちなポイントではないかと思います。

●メタテーマと「終わり」の問題

 次いで、「ウォーハンマーRPGのテーマ」が語られます。これはいわゆる、メタテーマと言われるもの。私が編集した『再着装(リスリーヴ)の記憶 〈エクリプス・フェイズ〉アンソロジー』(アトリエサード)もたまたま同時期に出たのですけど、そちらでも書いたのですが、RPGには個別のシナリオにおけるテーマのほか、世界観やシステム全体の方向性としてのテーマというものが存在し、それを私は「メタテーマ」と呼んでいるわけですね。
 『ウォーハンマーRPG』の場合は、「階級闘争(富民 対 富民)」、「信条(秩序 対 混沌)」、「近代化(都市 対 農民)」、「派閥抗争 (我ら 対 彼ら)」、「宗教(教団 対 教団)」の5つのメタテーマが明確に設定されています。言い換えれば、大半のシナリオは、これらのメタテーマのどれかの枠を意識すると、オールド・ワールドらしさが出る、というわけです。
 これは他のテーマを否定しているわけではありません。「愛と友情」や「夢と希望」のようなテーマがあってもよいのですが、それを表現する過程で「派閥抗争」のメタテーマにはまるようにすると、シナリオとして美しくなるという話なのですね。このあたりは豊富な具体例が示されているので、ぜひ現物をご参照ください。
 さて、「メタテーマ」が行き着くと、オールド・ワールドは最終的にどうなるのか? そうした問題へと行き着きます。地を這い泥水を啜る貧民だった冒険者たちが、いつしか栄誉ある英雄にまで成長し、世界の命運を握ることになるのだとして、そうして命運を握られた側の世界は、いったいどうあるのが正しいのでしょうか。
 『ウォーハンマーRPG』は初版の頃から、混沌の勝利と世界の滅亡は避けられず、必然であると言われてきました。それはある面では正しく、別の面ではまったくの嘘なのです。すべてが決定された世界で待ち受けているのは、何をやっても無駄という諦念、ニヒリズムにすぎません。しかし、もしそうだとしたら、RPGでプレイする意味なんてないでしょう。
 ではどうすべきか。答えは決まっていますよね。オールド・ワールドではそれは「終焉の刻(エンドタイムズ)」として表現されています。
 これも『ウォーハンマーRPG』だけではなく、例えばモダン・ホラーを扱う『ワールド・オブ・ダークネス』シリーズでも「タイム・オブ・ジャッジメント」(http://www.a-third.com/trpg/products/wod/toj.html)という設定がありました。世界を無限に拡張していくのではなく、どこかで「終わり」を設定することで、各々の物語にメリハリをつけるという技法のことです。『ワールド・オブ・ダークネス』の場合は、いったんシリーズの展開にも決着をつける形になりました。『ウォーハンマーRPG』の場合、シリーズ展開と「終焉の刻(エンドタイムズ)」がどこまで連動していくかは、まだはっきりと私には見えない部分がありますが、どんなに長いキャンペーンもいつかは終わるもの。
 そういった意味では、公式展開とは別に、各々が自分たちの物語の「終焉の刻(エンドタイムズ)」を考えないわけにはいかない。これは西洋世界では馴染みの深い考え方で、そもそも暦法という概念自体、最後の審判までの時間を計算するために発達したという面があるのですね。
 それを思いきって世界観にまで落とし込んでしまったのがオールド・ワールド。さすがこのRPGの主役だけあります。

●特殊な商品!?

 一般に、ゲームマスター・スクリーンというのは特殊な商品と言われがちです。そもそも、ゲーマーではない人にとっては何に使うものかわからない。書籍流通・玩具流通いずれの形を取るにしても、それ単体ではゲームができない、単なる厚紙のようにも見える。メイン・ターゲットはゲームマスターですから、どうしても流通量が限られる、などなど。
 『トンネルズ&トロールズ完全版』(グループSNE、邦訳2016年)、『ゴブリンスレイヤーTRPG限定版』(ソフトバンククリエイティブ、2019年)等、ボックス・タイプのRPGに同梱されたり、サプリメントや雑誌の付録としてスクリーンが付いてきたりするのも珍しいことではありません。
 ではどうして、かくもスクリーンは根強い人気があるのでしょうか? そもそもコロナ・ウイルス禍において、対面でのセッションが困難になっているにもかかわらず、オンラインでは(ほぼ)使えないスクリーンが出るのでしょうか? 前回募集した「あなたのお気に入りのマスター・スクリーンと、その理由は何ですか?」には、ありがたいことに熱い回答をたくさんの方からいただきましたので、次回はそちらを紹介しつつ、ゲームマスター・スクリーンについて考えていきたいと思います。

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ウォーハンマーRPG スターターセット ¥3,300
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ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン ¥3,850
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出版社:ホビージャパン(HobbyJAPAN)
発売日:2021年10月1日