2021年09月15日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.14

 2021年9月9日配信の「FT新聞」No.3151に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.14が掲載されています。『ライクランドに冒険あり!』を使って、実際にオリジナル・シナリオをデザインするための実例を示しております。ゲームマスター・スクリーンについての質問も!

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.14

 岡和田晃
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 マルクトプラッツでは、襤褸をまとって悪臭を漂わせている男が何やらわめいていた。
「本当なんだ。見たんだよ、先祖代々ネズミ捕りの、このライネッケ・ラッテンファンガーが言うんだから間違いない!」
 肩に担いだ棒からは鼠や甲虫が吊り下げられており、どうやら、ネズミ捕りというのは間違いないらしい。
 しかし、市民の多くは怪訝な面持ちで、狂人を見るかのように遠巻きにラッテンファンガーを睨めつけている。
「ふむ、面白いのがいるな」
 フレイザーはそう告げ、ニヤリと笑った。きっと、ろくなことを考えていない。

 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●「一回性」を体験すること

 RPGを長くプレイし、とりわけゲームマスターをやっていると、どうしてもオリジナルのシナリオをデザインしたくなってきます。
 最近は状況が若干変わり、市販シナリオのニーズもいっそう高まってきたように言われますが、ことオールドスクールRPGにおいては、シナリオを自作するのが当たり前の前提として、ルールブックが記述されていることも珍しくありません。
 私個人としては、市販のシナリオを使うのは大好きです。デザイナーが「その世界の何を表現したいのか」が、的確に落とし込まれていることが多いからなのであり、コンピュータになぞらえれば、“ルールブック(システム)はハードウェアであり、シナリオはソフトウェアのようなものである”とすら考えています。
 反面、市販のシナリオには問題点も、ないわけではありません。よく言われることではありますが、一番の問題点は、「シナリオが市販されていること」そのもの。つまり、事前に内容を知ることができてしまうわけです。
 すべてのシナリオが内容を知っていると愉しめないわけではありません。ただし、そもそもRPGは世界における、巻き戻し不可能な「一回性」を、キャラクターの視点から体験するものと考えるならば、読んだことのあるシナリオにプレイヤーとして参加することと、まったく未知の状態でシナリオに挑むことを、同列に置くことはできないでしょう。

●アドベンチャー・シナリオのタイプ

 これが大前提ではありますが、『ウォーハンマーRPG』のシナリオにはいくつかのパターンというものは確実に存在し、例えば初心者ゲームマスターでも楽に運用が可能な、基本となる中央プロットから逸脱しないタイプのシナリオがあります。
 逆に、舞台やNPCの設定は詳細に決められているものの、プレイヤー・キャラクターの関わり方や事件を起こすタイミング等の多くがGMに委ねられる、そういったタイプのシナリオも少なからず存在します。特に後者の場合は、プレイヤーがある程度ストーリーを知ってしまっていても、GMがそれをアレンジしてしまえば、ほとんど未知のように愉しめてしまうというメリットもあるわけです。
 『ウォーハンマーRPG』第2版についていえば、都市型の連続シナリオを集成したキャンペーンシナリオ群「呪われし道」3部作の第1部『ミドンヘイムの灰燼』には、GMが展開をコントロールしやすいタイプのシナリオが集められています。第2部『アルトドルフの尖塔』になると、一気に自由度が増して驚くかと思います。
 『ウォーハンマーRPG』第4版の日本語版公式サイトで無料公開されている「流血の夜」の導入部は、かなり強引な巻き込まれ型の展開となっています。とはいえ、全体的にスプラッタ・ホラー映画のような雰囲気が強く打ち出されているため、理不尽ではあっても納得できないというものではありません。
 『ウォーハンマーRPG スターターセット』に同梱されているキャンペーンシナリオ「巡回奇譚」は、ほぼ全編がユーベルスライクの街での冒険となっていますが、シティ・アドベンチャー特有の「何をやっていいいかわからない」丸投げ感はなく、ファンタジーRPGでままある「序盤はオーク退治」めいた単調さとも無縁です。
 むしろ近世都市ならではの驚きの展開が待っていますが、それでも手に負えなくてセッションが崩壊する、という事態にも陥りづらいはずです。

●アドベンチャー・フックからシナリオを作る

 「巡回奇譚」の後半からは、ユーベルスライクの街で出くわすいくつかのミニ・アドベンチャーをキャラクターが解決していくという漫遊記スタイルになります。ここでのミニ・アドベンチャーの書式は、『ウォーハンマーRPG ルールブック』の「第10章:壮厳なるライクランド」に記されたアドベンチャー・フックや、日本語版公式サイトから無料ダウンロードできる『ライクランドに冒険あり!』の書式によく似ています。
 つまり、フックを膨らませてシナリオ化する実例を、「巡回奇譚」で学べてしまうというわけなのですね。
 加えて、『スターターセット』の「アドベンチャー・ブック」には、実際のフックも多数、収められています。これらは半組みのキットのようなもの、各々のGMが自由に想像の翼を広げるためのツールというわけですが、フックをアレンジして冒険に仕立てるには、ちょっと慣れが必要かもしれません。
 そこで、実際にアレンジを試してみるとしましょう。「荘厳なるライクランド」から、ユーベルスライクの項目を見てみると、以下のように記されているのがわかります。

 ユーベルスライクは灰色夫人峠の近くに位置する町だ。灰色夫人峠は灰色山脈を越えてブレトニアに入るための二つだけの主要経路の一つである、そうした立地から、この町では年中オールド・ワールド中からやってきた交易商人や旅行者が見られる。この頑強な要塞都市は“黒岩”と呼ばれ、町に入ろうと企んでいるあまり歓迎できないすべての旅人のために、町の防壁が隙間なくつなげられている。ユーベルスライクは近接する灰色山脈のドワーフ氏族と長きに渡る協力関係を築いており、町のドワーフ住人の代表者が町の参事会に席を持っているのもこの町の特色だ。ユーベルスライクの特に有名な建造物の一つは、トイフェル川にかけられた豪壮な橋で、それは“敬虔帝” マグナスの時代にドワーフたちによって建設されたものだ。ライクランドで見られる最も荘厳な土木建築の偉業として広く称賛されているその橋は、ベーゲンハーフェンからダンケルベルク、さらにナルンへとつながるすべての交易路をつなげている。ユーベルスライクはあらゆる種類の取り引きを扱っているが、中でも最も良く知られているのはドワーフたちの金属細工技術と鉱石だ。

 ユーベルスライクの街の概要が簡潔に整理されていますが、これだけではシナリオ化するには、少々、付け加えなければならない要素が多いと思います。そこで、対応する『ライクランドに冒険あり!」のアドベンチャー・フックを見てみましょう。
 『ライクランドに冒険あり!』では、ユーベルスライクは二箇所で言及されています。そのうち、「漆黒の闇の中へ」と題されたフックは、次の通りになります。

 先祖代々ネズミ捕りであるライネッケ・ラッテンファンガーによれば、ユーベルスライク地下にある下水道で、これまで見たこともないような何かを目撃したとのことだ。ビーズ状の小さな目がついているだけだが、粘着性の黒いベトベトした奇妙な斑点が左右の壁にへばりついているのが発見されたのである。中には、寸法や方位といった数字のような形をしているものもあり、大きな門型構造物のように見えると彼は断言する。さらに彼は、羊皮紙に羽ペンで書きつけるような奇妙な引っ掻き音が、彼の獲物が動き回ることで起きる通常音に加わっていたと断言する。ネズミが読み書きを学んだ、なんてことがあるだろうか? いずれにせよラッテンファンガーは護衛を探している。護衛たちはユーベルスライクを案内してくれる博識な案内人を味方にする代わりに、散々な目に遭うかもしれない。結局のところ、下水道は町の至るところに繋がっているのだから……。

 だいぶ具体的になってきましたね。これをそのままシナリオの大枠として用いることはできそうですが、まだGMが決めなければならないことは残っています。まず、「ラッテンファンガー」の素性です。
 ルールに従ってデータまで決めればなおよし、ですが、面倒ならばルールブックp.311にある「ライクランドの住人たち」をいじって使うくらいでもいいでしょう。
 次に、事件の真相について考えます。いちばんありそうなのは、これはスケイヴンの仕業だというものです。
 そこで下水道の地図を描きます。地上からつながる位置を街のどこかに設定し、あとはフリーハンドでよいので、水路の線を引いて部屋を決め、部屋のいくつかにスケイヴンを配置します。データはルールブックのp.336の「忌まわしきラットマンたち」から引っ張ってきます。p.315にはジャイアント・ラットのデータもあり、これはミスリードに使えますね。
 ルールブックではスケイヴンは、クランラット、ストームヴァーミン、ラットオウガの3体が紹介されています。いきなり出すにはラットオウガは強力なので、今回は除くとして、部屋を10箇所作ったら、うち3箇所には敵を配置しておきます。出現数はPCの人数に合わせて調整するとよいでしょう。
 私なら、PCが4人だとすると、最初は戦闘慣れも兼ねてジャイアント・ラットを2〜3体とし、奥の部屋には、スケイヴンを出現数を3体ほど配置しておきます。戦闘しているうちに、少なくとも1体は逃亡させ、さらに奥にいるストームヴァーミンと合流させ、遭遇と遭遇の間に繋がりをもたせます。
 ほとんど無害な通常サイズの鼠しか出ない部屋や、溜め込んだ宝のある部屋(金貨3d10枚くらいを置けばよいでしょう)を設定しても面白いでしょう。あるいは危険物質ワープストーンがある部屋などを設定すると、フックでのほのめかしに意味が生まれます(「数字のような形」のものはこの場所を示していた、というわけです。もちろん、容易に近づかせないよう、禍々しい雰囲気を演出します)。
 水路を設定するにあたっては、水が深い箇所では〈水泳〉技能テストが必要となる機会を設けるなどすれば、一気に雰囲気が高まります。『ウォーハンマーRPG』なので、必ずしもスケイヴンを殲滅する必要はありません。戦闘は何が起きるのかわからない、危険なものですし、まずは地下に潜む脅威の存在を知らしめることが大事なのです。下水道には、鼠熱などの病気の危険も待っています……。
 ただ、「スケイヴンなぞ絵空事」というのがオールド・ワールドの「常識」ですし、社会的地位の低いネズミ捕りの言うことなど、まともに聞いてくれる人はそう多くありません。しかし、ラットマンたちは実際にいて、何かを企てています。それを具体化していけば、次の冒険への「引き」になるでしょう。

●GM独自のユーベルスライクを作ってもよい

 ユーベルスライクの設定は『スターターセット』にありますので、それを眺めながら、地下からつながっているポイントと、スケイヴンの動機を設定することもできるでしょう。逆に、『スターターセット』の設定をあまり気にせず、GM独自のユーベルスライクを決めて、「公式」との矛盾など気にせず、それに則ってしまってもいいかもしれません。プレイヤーにもし、『ウォーハンマーRPG』に詳しい人が混じっていたとしても、「今回は“私の”ユーベルスライクをやりますから」と前もって断っておけばOKです。
 これがシナリオの一案です。シンプルすぎると思われるかもしれませんが、私が初めて『ウォーハンマーRPG』にプレイヤーとして参加した際、こういった「典型的な」シナリオを遊びましたが、充分に愉しむことができました。

●アドベンチャー・フックから別のシナリオを作る

 あるいは、このフックから別のシナリオを作ることもできます。
 例えば、潜んでいたのが混沌の邪教徒やミュータントだったらどうでしょう。あるいは、人しれず逢瀬を重ねる恋人たちが、人を近づけまいと擬装していたとしたら?
 もちろん、スケイヴンはどこにでもいますから、こうした者たちとも絡んでくることでしょうが、意外な展開を加味すれば、仮に『ライクランドに冒険あり!』を読んだ事がある人がプレイヤーに混じっていたとしても、問題なくセッションを運営できるというわけです。

●『ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン』も出るぞ!

 そんなこんなで、いよいよ『ウォーハンマーRPG スターターセット』の発売が近づいてきました。それと同じ9月30日に、『ゲームマスター・スクリーン』も発売になる予定です。
 ご存知ない方に説明しますと、マスタースクリーンとは、GM用のついたて。
 セッション運用に便利なチャートがまとめられており、かつ場を盛り上げるイラストレーションも添えられています。
 今回発売となる『ウォーハンマーRPG』第4版用のゲームマスター・スクリーンは、厚紙四つ折り・フルカラーの頑丈なもので、ゲームマスター・ガイド(32ページ・フルカラー)もついています。紹介文は、以下の通り。

 アルトドルフに聳える頼もしい砦の如くに頑丈で目立つ『ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン』は、『ウォーハンマーRPG』の重要なルールを簡潔にまとめた、ゲームマスターのためになる便利なツールです。
 一方の面にはオールド・ワールドの腐敗した都市のアートワークが広がり、もう一方の面には各種表やサマリー、ルールの抜粋が掲載されています。加えて、スクリーンは君のシナリオを詮索好きなプレイヤーの目から隠すために大いに役立ちます。
 また、32ページの『ゲームマスター・ガイド』は、実用的なヒントや巧妙なトリック、各種選択ルールなど初心者GMにもベテランGMにも役に立つ記述が多数掲載されています。
 『ゲームマスター・ガイド』と『ゲームマスター・スクリーン』は君のキャンペーンを斬新で心躍る物にしてくれるでしょう。

 本連載の前回で、「こちらは私が翻訳に直接噛んでいるわけではなく」と書きましたが、その後、私と、基本ルールブックのメイン訳者の待兼音二郎さんが、訳語のチェック等で協力をいたしました。
 −−という流れで、次回はマスタースクリーンの紹介もしていきたく思うのですが、ここで本連載をお読みで、(他のRPGの、あるいは『ウォーハンマーRPG』の別の版の)マスタースクリーンをお持ちの皆さんに質問です。
 「あなたのお気に入りのマスタースクリーンと、その理由は何ですか?」
 編集部宛にお便りをいただくか、Twitterで私(@orionaveugle)宛にメンションをいただけましたら、次回の記事執筆にあたっての参考とさせていただきます。

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■予約受付中
ウォーハンマーRPG スターターセット ¥3,300
https://www.amazon.co.jp/dp/B09B231VR1/

ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン ¥3,850
https://www.amazon.co.jp/dp/B09F6CMBF3/

出版社:ホビージャパン(HobbyJAPAN)
発売予定日:2021年9月30日

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児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる「“ほうき拳”をめぐる冒険」小説リプレイ

 8月22日配信の「FT新聞」No.3133で、齊藤(羽生)飛鳥さんが、拙作「“ほうき拳”をめぐる冒険(アヴァンチュール)」(「GMウォーロック」創刊号所収)のリプレイ小説が掲載されました。

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.9
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『“ほうき拳”をめぐる冒険』は、『傭兵剣士』と世界観を共有していますし、そのまま『傭兵剣士』に進めるようになっている優れものです。
これは、今まで書いたことのない、翠蓮とシックス・パックの馴れ初めリプレイができると、ノリノリでプレイしました^^
どんなシチュエーションであろうと、どんなキャラクターであろうと、相棒として打ち解ける姿しか思いつかないシックス・パックの個性は、やはり素晴らしいです。


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『屈強なる翠蓮の冒険エピソード0』
〜『“ほうき拳”をめぐる冒険』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:屈強なる思い出話

あたしの名前は、〈屈強なる〉翠蓮。
黒髪色白ロリ体形がポイント高い女戦士ヨ。
相棒は、飲んだくれ岩悪魔のシックス・パック。
今日は、こいつとどうやって知り合ったか語るネ。


1:屈強なる傭兵剣士

当時1レベルの戦士だったあたしは、青蛙亭史上最大の無銭飲食をやらかした後、〈黒のモンゴー〉なる魔術師に雇われたヨ。
モンゴーいわく、元の持ち主の〈赤の魔術師〉が、塔のどこかに、きわめて重要な魔法のアイテムを隠蔽しているから、回収してきてほしいとのことネ。
「回収するのはいいけど、地図はないのかヨ」
「ない。地図を作るよう雇った戦士が、行方不明でな」
地図はない。
でも、魔法のアイテムはほしい。
こいつ、とんでもないドケチの欲ばりじじいネ。
でも、一文無しのあたしには、こいつに雇われて金を稼ぐほか、選択肢はなし。
雇用関係だけだから、人柄は二の次、三の次にしてやるヨ。
「では、行ってくるサ」
あたしは下り階段を進むと、勢いよく扉を開けて冒険を開始したネ。


2:屈強なる新任傭われ剣士

勢いよく扉を開けると、「グフッ」とガマガエルを踏み潰したような音がしたヨ。
よく見たら、扉に前任の雇われ剣士が目を回して倒れているネ!
「こっちが襲う前に獲物が扉にはねられて気絶とか、前代未聞なんだけど……」
怪物が、形容しがたい表情で、床にのびているドワーフのおっさん戦士と、ロリロリしくかわいいあたしを見比べ始めたヨ。
「隙あり!」
あたしは、扉の先にいた、長い腕を持つ2メートル半はある怪物ほうき拳こと“ナックル・ダスター”に襲いかかったネ!
不意打ちのおかげで、“ほうき拳”へそれなりに攻撃を与えられたと思ったけど、なかなか倒れてくれないヨ、こいつ!
その時だったサ。
あいつが、あたしの前に姿を現したのは……。


3:屈強なる相棒

瘤のある頭。
小脇に抱えたビヤ樽。
“ほうき拳”の背後から、出てきたこいつこそ、のちにあたしの冒険の相棒になる岩悪魔のシックス・パックだったネ。
初対面だったけど、すでに酔っぱらっていやがったヨ。
その証拠に酒臭い息を吐き散らしながら、シックス・パックは“ほうき拳”を攻撃し始めたサ。
あたしとシックス・パックによる二人がかりの攻撃に、“ほうき拳”は耐えきれなくなっているネ。
それをいいことに、あたしは“ほうき拳”にとどめの一撃を繰り出したヨ。
「ふぅ、やっと倒せたぜ。そうだ、名乗り遅れたな。俺様の名前は、シックス・パック。よろしくな!」
「あたしは、翠蓮ヨ。よろしく」
「よろしくな。ところでよぉ、翠蓮。実は、前に契約を結んだ相棒はあの通りとんずらこいちまったし、その前の相棒は奴隷としてて売り飛ばされちまって、俺様、一人ぼっちなんだ。一緒に冒険をしねえか?」
あたしは、考えたネ。
酒臭い息を漂わせるアル中岩悪魔は、はっきり言って一緒に日常生活を送りたい相手ではない。
でも、1レベルのまだまだひよこな冒険者のあたしでは、この先、無事に冒険を達成できるか、かなり怪しい。
利用できるものは、何でも利用するに限るヨ。
あたしは、決心した。
「いいネ。では、今日からおまえはあたしの仲間サ」
「決まりだ! これは、契約を結んだ祝い酒だ。とっておきだぜ」
シックス・パックは、ポーションにビールを混ぜて、あたしにくれた。
「あたし、まだ18歳ヨ」
「細けえことは気にするな。さあ、飲め!」
シックス・パックは、強引にあたしに酒を飲ませてきた!
「何かクラクラするネ……」
酒が強すぎたせいで、あたしは自分と世界の境界があやふやになってきたヨ。
まるで、自分が世界に溶けこみ、無になっていくような感覚がしてきた。
「俺様の特製酒で、存在感が薄くなったようだな。次の戦闘の時には、敵の最初の攻撃目標からはずれるかもな!」
「『かもな!』じゃねえヨ、飲んだくれ岩悪魔。もし、特製酒で変な効果が出たら、どうしてくれる気サ!?」
腹を割ったトークで、早く打ち解けようと、あたしは赤裸々な心情をシックス・パックに明かしたネ。
「その時は、新しい相棒と契約したまでの話だ!」
「そうかそうか。あたしもてめえがくたばった暁には、新しい岩悪魔と契約するヨ」
こうしてお互い腹を割ったトークをしたおかげで、相手の本性がすっかりわかったあたしらは、二人で始める冒険の第一歩として、来た反対側の扉を抜けたネ。


4:屈強なる誘導

扉を抜けると、岩壁の部屋に出たヨ。
そこにも扉が四方に付いていて、次の部屋に行けるようになっていた。
「西へ行こうぜ、相棒」
「は、何でサ?」
「いいから、西の扉にしようぜ! さあ、西へ行こう! レッツ西だ! 西西西!」
「あーあー、わかったネ。西へ行ってやるヨ」
あたしは、シックス・パックの誘導に従って、西の扉を開けたネ。
「ここが、さっきの“ほうき拳”がいた部屋だ。あのガタイを見て、ビビった連れがとんずらしたってわけ。記念すべき12人目の相棒だったんだけどなぁ」
「おまえ、今までどんだけ相棒を見殺しにしてきたヨ?」
「うお、何だよ、あの北に置かれている木箱! エルフ臭くてたまらねえぜ!」
シックス・パックは、あたしの質問をはぐらかし、木箱から離れていく。
まったく、しょうもない奴ネ。
でも、ある意味、わかりやすいから、いいとするヨ。
あたしが、何気なく南側の壁に触れると、妙な感じがしたネ。
よく見たら、巧妙にアルコーヴが隠されていたヨ!
中には、“ほうき拳”を象っためのうの像が安置されているネ!
「けっ、なんだなんだ。不細工な野郎をモデルにするなんて、せっかくのめのうがかわいそうだぜ」
謎の嫉妬をするシックス・パックを放っておいて、あたしは“ほうき拳”の像に触ってみた。
途端に、重々しい音と共に像が動き出したヨ!
「なんてことをしてくれやがったんだよ、翠蓮! こうなったら、戦うしかねえな!」
「おまえが意外と割り切る性格でよかったネ!」
奴からの最初の攻撃は、存在感が薄くなっているおかげで食らわなくてすんでいるから、助かるヨ。
あたしらは、“ほうき拳”の像と戦闘を始めた。


5:屈強なる幕開け

結論から言うと、シックス・パックを仲間にしたあたしの判断は正しかったネ。
1レベルのあたし一人では到底かなわなかった敵も、こいつがいるおかげで、倒せたヨ!
“ほうき拳”の像は砕け、中から〈赤の魔術師〉の紋章の付いたナックル・ダスター(拳鍔)が飛び出してきたネ。
「これがモンゴーが探して求めていた魔法のアイテム? ずいぶん戦士向きの武器サ」
「おいおい、魔法のアイテムが一つだなんて、誰が決めたんだよ? もっと探せば、もっといい魔法のアイテムをゲットできるし、お宝だって見つけられるぜ。さあ、冒険を続けようぜ!」
「そうネ! じゃんじゃん魔法のアイテムもお宝もゲットしていくヨ!」
モンゴーのもとへ魔法のアイテムを届けるのはやめ、あたしはシックス・パックとさらに冒険を続けることにしたネ。
まさかその後、酒蔵に迷いこみ、酔いつぶれたせいで所持金たった1gpになる運命が待っているとも知れずに……。

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.1 収録
 ミニソロアドベンチャー『“ほうき拳”をめぐる冒険』
 著:岡和田晃
 発行 : グループSNE/新紀元社
 2021/4/16 - 2,420円

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posted by AGS at 06:22| 創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする