2021年04月27日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.7

 本日2021年4月27日配信の「FT新聞」No.3016に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.7が掲載されました。T&Tにおける僧侶をヒントに、『ウォーハンマーRPG』における神々を総覧しつつ、版上げでいなくなった神、データのない神の取り扱いについてなどにも触れています。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.7

 岡和田晃
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 魔狩人フレイザーに連れられて、ユングフロイト家ゆかりの建物を、あれこれ見て回る。
 傍目には親娘か、年の離れた兄妹にしか見えないだろう。
 わたしが改めて魔力の風との交信を試みるたびに、フレイザーは顔をしかめる。わたしの方は、まるで気にしないでエーテルの痕跡をたどり、「真のダハール」がどこから来たのか、見極めたいと思った。
 魔狩人に絡むチンピラはいない。ミュータントは別だが、フレイザーは銃弾で、たちまち彼らの額に風穴を開ける、
 やがて、わたしは少しずつわかってきた。この混沌の妖術師(ケイオス・ソーサラー)は、いまは忘れられた混沌の神々を崇めているのだ。ナーグルでも、コーンでも、スラーネッシュでも、ティーンチでもない、神。それらに反旗を翻したマラルを崇めているのだ。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●土俗的な息吹を伝えるもの

 オールドスクールRPGは、しばしばゲームだからといって、再現する世界を無機質な数字の塊として表現するような振る舞いを、基本、退けます。
 ただ、そうであっても、世界の何がゲームとして表現でき、何が表現できないのかを、割り切って区別しているのとも違うわけです。
 近代の原理では割り切れない、土俗的なダイナミズム。魔術にも共通する要素ですが、より日常に即した形で、宗教はその息吹を伝えてくれるものです。

●T&Tの宗教ルール

 宗教について考えるには、あらかじめ宗教に関する設定がないなかで、本格的に宗教を導入した事例について考察するのが手っ取り早いでしょう。
 そう、『トンネルズ&トロールズ』の僧侶魔法についての追加ルールです。
 これは「Mirable Dictu!」というタイトルで、1983年の「ソーサラーズ・アプレンティス」17号に掲載されました。
 カール・エドワード・ワグナーのダークファンタジー小説「ミセリゴルド(Misericorde)」が載った号で、また裏表紙には、2020年に日本語版が出たばかりの『RPGシティブックII』(書苑新社)の広告が載っていた……。
 そんな頃の話ですが、いまは〈RPGシティブック〉シリーズも、あるいは「ナイトランド・クォータリー」のような雑誌も元気ですから、まったく古いという感じは受けませんね、
 邦訳は「『T&T』世界での僧侶」として、「ウォーロック」Vol.21(1988年)に載りました(清松みゆき訳)。社会思想社版『モンスター! モンスター!』(社会思想社現代教養文庫、1989年)にも収められていますので、ご存知の方も多いでしょう。
 この記事はオールドスクール・ファンタジーRPGが、史実の宗教をデザインに取り入れようとする際にしばしば採られてきた考え方の筋道を、はっきりと伝えるものになっているのです。

●時代によって神は変わる

 設定の根っこにあるのは、神々の力は信者の力に比例すること。そして、ある宗教での神が、別の宗教では悪魔とされることが挙げられます。
 トゥアハ・デ・ダナーンの神々はフェアリーとなり、バアルやモレクは悪魔となりました。ドルイドが信仰していた“角を持つもの”はサタンと同一視されました。つまり、時代の趨勢によって、あるいは民族や宗派によって、神々の顔は様々に変貌していくのです。
 実際、訳者の清松みゆき氏による、3柱のオリジナルの神々が、『ハイパー・トンネルズ&トロールズ』のルールブック(社会思想社現代教養文庫、1991年)に掲載されました。これらは意図的に、神々のある種の面を誇張してみせたアクが強いものとなっており――私も自作のソロアドベンチャー「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中」(『傭兵剣士』所収、書苑新社、2019年)で登場させたことがありますが――むしろ反面教師として提示されたように思います。
 1994年版の『ハイパーT&T』改訂版からは、出てくるのはよりスタンダード志向のハイ・ファンタジーな神々に変わり、『ドラゴン大陸』(角川スニーカーG文庫、1995年)では、勝利神スークと鋼鉄神ベルクボーン、破壊神オーボーと混沌神ンヌープが別々に設定され、さりげなく神々の複数の相(かたち)が提示されていたものです。 

●エンパイアの主要な神々

 それでは、『ウォーハンマーRPG』ではどういった神々がいるのでしょう? まさしく、こういう区別は『ウォーハンマーRPG』の独壇場、といってよいかもしれません。
 第4版のルールブックに載っているエンパイアの主要な神々は……。

・ヴェレナ(学識、正義、知恵の神):信者は写字生、法律家、学者など。
・ウルリック(戦い、冬、狼の神):信者は主に戦士。またミドンランドの領邦では広く信仰されている。
・シグマー(エンパイアの主神):エンパイアの守護神で、とりわけライクランドの領邦で広く信仰されている。もとはエンパイア皇帝が神となったもの。
・シャリア(慈悲と治癒の神):信者は主に貧民、医師、病人、虐待を受けた女性など。
・タール(自然、春の神):信者は遊牧民、森の住民、その他農民。タラベックランドの領邦で広く信仰されている。
・マナン(海、外洋の神):信者は船乗り、漁師、商人など。荒ヶ原[ウェイストランド]で信仰されている。
・ミュルミディア(軍略の神):信者は軍人など。ティリア、エスタリアで広く信仰されている。
・モール(死と夢の神):信者は葬儀屋やアンデッド・ハンターなど。オストマルクで広く信仰されている。
・ラナルド(ペテン、盗賊、幸運、貧困の神):信者は無頼、博徒、貧民。
・リア(多産、生命、夏の神):信者は農家、薬草師、助産師等。

 これらが基本的な神々で、プレイヤー・キャラクターが信仰するのは、だいたいはこれらです。ルールブックやシナリオ集、小説なんかでも頻繁に言及されるのは、このあたりです。

●ライクランドの地域神

 これらに加え、ライクランドの神々としては、以下のような地域神もいます。これらになると、ぐっと登場頻度は落ちてしまいますが、なかなかユニークです。

・カチャ(心和ませる美人の神):信者は売春婦、愛人稼業に従事する者など。
・クリオ(歴史の神):信者は学者。
・ディラト(女性の神):もちろん信者は女性。
・ベーゲナウアー(ベーゲン川の神):信者は船頭、商人、ベーゲンハーフェンの街の人々。
・ボルヒバッハ(修辞法の神):信者は扇動家、政治学者、法律家
・ライク爺様(ライク河の神):信者は、はしけの船頭、商人、漁師など。

 なるほど地域密着型、あるいは生活密着型の神々といった塩梅ですね。ボルヒバッハやクリオあたりはNPCが信仰しているとして登場させてもおかしくないですし、ベーゲナウアーやライク爺様は「内なる敵」キャンペーンをプレイする際に、彩りを添えてくれますね。
 カチャやディラトのような女性を守る神が出てくるのは、それこそ自然に男性中心主義的な価値観を相対化することにつながると思います。

●ドワーフ、エルフ、ハーフリングの神々

 信仰はデミヒューマンたちも持っています。彼らは人間とは異なる神々を信仰することが多いのです。ゲームによっては、エルフは信仰とは無縁だったりもしますが、『ウォーハンマーRPG』はこの点、徹底していますね。

【ドワーフの神】
・バラヤ(醸造、炉端、癒しの神):信者は職人、学者、医者。
・グリムリル(戦士、勇気の神):信者は兵士、スレイヤー。
・グルングニ(採掘、金工、石工の神):信者は職人、坑夫。

 これらはドワーフの神でもメジャーで、特にグリムリルあたりは、ブライアン・キングの〈ウォーハンマー〉小説『トロール殺し(Trollslayer)』(未訳、1999年)あたりでも出てきたと記憶します。このシリーズ、めちゃくちゃ戦闘シーンが多いので、「さすが〈ウォーハンマー〉だ!」と叫びたくなるような内容です。

【エルフの神】
[カダイ]
・アシュリアン(すべての創造物、天国、不死鳥の神):信者は支配者、判事、法律家。
・イシャ(多産、生命の神):信者は農村地帯のエルフ、とりわけウッドエルフ。
・クルノス(動物、狩りの神):信者は狩人、木こり、動物とともに働くエルフ。
・ホエス(知恵、知識、教育の神):信者は学者、魔術師、完璧主義者。

 エルフはハイ・エルフとウッド・エルフに大別されますが、前者はアシュリアンやホエス、後者はイシャやクルノスを信仰することが多いようです。
 また、[カダイ]というグループのほかにも、[キタライ]というグループのエルフの神々や、どちらにも属さないモライ=ヘグという神もいます。これらはエルフの面倒をほとんどみないため、信仰を集めることはほとんどありません。
 ちなみにエルフの聖職者はいますが、祝福や奇跡を使うのではなく、魔術師たちと同じ8大魔法大系の呪文を使用します。

【ハーフリングの神】
・エスメラルダ(健康、家、もてなしの神):多くのハーフリングが信者。
・クウィンズベリー(知識、祖先、伝統の神):学者が信者。
・ヒャシンス(出産、多産、性交の神):助産婦、妊婦、道楽者が信者。
・ヨシアス(農業、家畜の神):農民、牧畜民、庭師。

 多くのハーフリングはエスメラルダを崇めていますが、人間のように神殿を立てたりはしません。神々を鎮める必要が生じたら、長老に委ねられます。

●データのない神を信仰することはできるのか?

 もちろん、それ以外の神々を信仰するのも、できないではありません。
 私は『ウォーハンマーRPG』の第2版で、鮫の神ストロムフェルズの司祭をプレイしたことがあります。GMの許可を得て、基本のデータはマナンに準じました。
 ストロムフェルズ教団は攻撃的で、マナン教団をライバル視しており、またエンパイアでは禁教となっているのですが、あえてそれをロールプレイしたということですね。
 人間社会の通常信じられている倫理とは別種の信念をもっていて、かつ混沌信者でもないキャラクターを演じるのは、なかなか難しいことでした。
 結果、私は何かにつけて鮫に生贄を捧げたがるダメな司祭をプレイする羽目になってしまいましたが、ダイスのいたずらで、「神の天罰」というファンブル表を振ってしまい、鮫が暴走して股間を食いちぎられるという悲惨な目に逢いました(実話)。

●版上げによって、いなくなった神々

 このように、『ウォーハンマーRPG』には、実にバラエティ豊かな神々が設定されていますが、版によって、神々の種類や内実は、微妙に異なってきています。
 例えば、『ウォーハンマーRPG』初版には、魔狩人の神ソルカンというのが出てきまして、キム・ニューマンの小説〈ドラッケンフェルズ〉シリーズ内でも言及されているのに、私の知る限り、2版のルールブックにも4版のルールブックにも登場しません。
 また、混沌の神々のなかにも、マラルという裏切り者がいました。混沌の神々と反目していて、滅ぼそうとする神ですが、2版や4版のルールブックで言及されたのは見たことがありません。
 もちろん、公式で「これらの神々はなかったことになりました」とアナウンスされているわけではないのですが、せっかくですので、これらをアレンジしてシナリオに登場させても面白いでしょう。
 ……そう、神々には沢山の相(かたち)があるのですから!

●RPGの基本はユダヤ教?

 『「T&T」世界の僧侶』では、「ファンタジー・ロールプレイの宗教はユダヤ教に基づいたものになりがち」なので、呪文リストには聖書に基づいたものを入れた、とあります。《蛇作り》の呪文と同様の効果を持つ〈モーゼズ・スタッフ〉などですね。
 ユダヤ教が基本、というと若干ハテナと思わないでもないのですが、要するに『旧約聖書』に出てくる奇跡は呪文に応用させやすい、ということでしょうね。それこそ、チャールトン・ヘストン主演の映画『十戒』(1957年)での有名な、海が割れるシーンをイメージすれば早いかもしれません。
 また、クラシックD&Dの僧侶は、回復呪文をひっくり返して相手を傷つける呪文とするような「逆呪文」を使うことができるのですが、T&Tの僧侶呪文リストにも、逆呪文はしばしば記載されています。逆呪文は、治癒と呪いを並用できる僧侶には、まさにピッタリです。その例としては、「サウロがダマスコへの途上で視力を失った逸話」を元に〈目に光/目に鱗〉の呪文で表現されています。
 つまり、『旧約聖書』、『新約聖書』に出てくる奇跡はRPGと相性がよい、ということでしょう。
 これは、ケルト的な多神教の世界でありながら、一神教的な不寛容さも残存しているオールド・ワールドを考えるうえで、貴重な示唆を与えてくれます。あなたの使おうとする奇跡は、何が元ネタになっているのかと、考えてみるのも面白いですね。

●僧侶魔法、奇跡の体系化ということ

 もっとも、『「T&T」世界の僧侶』は、記事としては、それほど親切なものではありません。僧侶呪文が多数追加されてはいるものの、追加キャラクター・タイプである僧侶や侍祭が仕える教団や神々に関しては、読者であるゲームマスターが個々にデザインするものとなっているからです。あくまでも、半組みのキット方式なのですね。
 『ハイパーT&T』の僧侶呪文は、T&Tの僧侶呪文から、曖昧な呪文をバッサリとカットし、ユーモアを増量しつつ体系化させて成り立っています。これはこれで、一つの回答としては正解でしょう。
 宗派によって、使えない呪文や特殊な呪文などが設定されているのですが、他方の『ウォーハンマーRPG』は、個々の宗派によって、異なる奇跡の大系が、すでに容易されています。
 次回は、魔術と奇跡を対比させながら、その意味するところを考えてみたいと思います。

2021年04月22日

D&D小説リプレイ「悪魔の住む河を蔽う呪詛」


 本日2021年4月22日配信の「FT新聞」No.3011に、D&D小説リプレイ「悪魔の住む河を蔽う呪詛」を掲載いただきました。
 クラシックD&Dコンパニオン・レベル用モジュールの高レベルリプレイを、お蔵出ししてお届けします。保管庫でも読めます(配信時発生した文字化も訂正済)。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(クラシック)リプレイ「悪魔の住む河を蔽う呪詛」

岡和田晃

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●はじめに

 本作は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(クラシック)のルールシステムを用いてプレイしたRPGセッションを、主にダンジョンマスター(DM)の視点から小説風に再構成したものです。
 クラシックD&Dとは、日本で最初に翻訳されたD&Dの版(新和より、1985年〜)。クラシックD&Dは1〜36レベルまでキャラクターレベルを上昇させることができ、その都度ゲームスケールも広がっていくのですが、もっとも頻繁にプレイされるのは、レベル4〜14を扱う『エキスパートルールセット』(通称青箱)の範囲内(とりわけ「ネームレベル」と呼ばれる9レベルまで)です。
 ところが、今回プレイした「悪魔の住む河」は、それよりもさらに上級レベルのキャラクターを扱う『コンパニオンルールセット』(15〜25レベル対応ルール)の対応モジュール(CM3)です(日本語版は1989年に発売されました)。
 一国の趨勢を担うほど強力に成長したキャラクターたちが、本格的なダンジョン探検に乗り出したら……というコンセプトでデザインされた凶悪無比なアドベンチャー、パワープレイの妙味をご堪能ください。
 デザイナーはダグラス・ナイルズとブルース・ネスミス。ダグラス・ナイルズは〈ムーンシェイ・サーガ〉シリーズ(荒俣宏訳、富士見ドラゴンノベルズ)等のD&D小説や、D&D系ゲームブック『奪われた竜の卵』(鷹井澄子訳、富士見ドラゴンブック)で、日本でも人気を集めました。2019年にも『ドラゴンの教科書』が邦訳されたばかりです(原書房)。
 実際のプレイは2003年頃に行われ、当時岡和田は大学生。ゲームデザインとライター修行を兼ねて、できるだけ詳しいプレイリポートをつけるようにしていた時期のこと。本格的な商業デビュー前の作品を、非営利でお蔵出しした原稿であるがゆえ、お見苦しいところもあるかもしれませんが、実セッションを経ているがゆえの展開にはなっており、是非そこのところをご堪能ください。
 細部はDMである私がアレンジを加えておりますが、内容は「悪魔の住む河」の核心に触れているため、同作をプレイ予定の方は、終了後にお読みいただけましたら幸いです。複雑な立体構造ダンジョンをお楽しみください。
 なお、キャラクターの初期アイテムを決めるため、ゲームアクセサリー(AC4)『マーベラスマジック』を使用しています。

●登場人物

「輝ける」ファラミア:21レベルパラディン(*)。
ヨーシオンス:22レベルのドルイド(*)。
ジャック:20レベルのマジックユーザー。
レー・ザ・ブロークンハート:23レベルのシーフ。
ハインツ伯爵:ノルウォルド王エリコールの片腕。
カッター:依頼人の少年。
シーア:謎の予言者。
ネロス:17レベルのマジックユーザー。
将軍:魔法帝国アルファティアの将軍で、ノルウォルドの地に呪いをかけた。
(*は『コンパニオンルールセット』で追加されたキャラクタークラス) 

●リプレイ本編

 D&Dのオフィシャルワールド、ミスタラ世界の北方に位置するノルウォルド王国。近年入植されたばかりのこの未開の地では、南方の一大帝国ジアティスと、東方の魔法帝国アルファティアが、領土をめぐって日々熾烈な戦いを繰り広げていた。アルファティア側の譲歩により、国の主権は形だけでもジアティス皇帝の三男エリコールのものとなってはいたが、いまだジアティスとアルファティアとの確執は根強い。加えて、北方の地ならではの過酷な自然環境や、時折王国を襲い来る邪悪の尖兵どもが、王国を平和に統治することをさらに難しくしている。

 エリコール王の片腕と称されるハインツ伯爵もまた、尽きてやまない種々の問題に心を痛める一人であった。王国を突如襲撃してきたフロスト・ジャイアントの一団を無事撃破したまではよかったものの、今度は農民たちの間に奇妙な噂が広がり、租税の収入が滞っているのである。やむなく彼は、日々懇意にしていた国内でも有数のつわものどもを呼び寄せ、彼らの意見に耳を傾けることにした。
 間もなく、堂々たる威厳を全身にみなぎらせ、冒険者たち、いや、もはやそんな領域を超越してしまった者たちが入城してきた。先頭を行くのは21レベルパラディン(HP97)、「輝ける」ファラミア。その後には、22レベルの放浪のドルイド(HP67)、ヨーシオンス。また、国内に塔を構えるほどの実力者、20レベルマジックユーザー(HP46)のジャック、そして、ノルウォルドの盗賊ギルドのギルドマスター、レー・ザ・ブロークンハート、シーフ23レベル(HP64)も続いてやってきた。

 彼らが謁見の間に集結し、伯爵から問題事の相談をうけていると、突然、門番の制止を押し切って、一人の12歳くらいの少年が部屋に飛び込んできた。少年はカッターと名乗り、伯爵様の助けを願うため、わざわざここまでやってきたのだと説明する。今年に入ってから、彼の村では、なぜか急に畑の作物が腐っていってしまったり、家畜が死んでしまったり、たとえ生き残っていたとしても凶暴になって飼い主に襲いかかってくるようなありさまで、とても税を納めるような余裕がないのだという。「でも問題なのはそれだけではありません」カッターは悲壮な面持ちで続ける。「村の近くにモンスターが出没するようになったのです。特に新月の間は、モンスターは日中にも現れ、村の人は皆おびえながら暮らしています。今では、隣の家の人が変死したり、突如村人が意地悪くなったり、凶暴になったりすることすらあるのです。このままでは破滅です。伯爵様、どうか、どうか、僕たちをお助けください」

 伯爵は当惑する。それもそのはず、国内は、いたるところで混乱した情況を呈しており、一つの村に割くだけの人的、経済的な余裕はないのである。
 と、突然、室内が暗くなり、冷たい風が吹き始めた。空中に突如、部屋を覆わんばかりの巨大な頭蓋骨が出現したのだ。その眼窩は闇に包まれており、鼻や口、耳からは水が流れ落ち始めている。水は床に触れるとたちまち血と化した。そして、おもむろに頭蓋骨は語り始めた……。

「人々の血は穢れ、探索の間にも土地は腐り続ける。
 大地は蝕まれ、文明は滅びゆくのである。
 むなしく探しまわっても、救いは常にお前の手の内にある。
 この邪悪を止められる者はいない。呪いの源を見出さぬ限りは。」

 そう告げると、骸骨は忽然と消え失せてしまった。
 ただならぬ雰囲気が謁見の間を包んだ。どうやら事は予想外に大きいようだ。
 少年は言った。「村の近くを流れる河に、シーアという名の予言者が住んでいます。彼はかつて村人たちにこう言いました。『水が血となり予言が為されるとき、私を探せ』と。」
 沈黙。しばらく後に伯爵は振り返り、一行に向かって重々しく言葉を吐いた。
 「少年の村へ行ってくれ。頼む。」

***

 村は伯爵の領地のいちばん外れに位置していた。馬で行けば3、4日かかる。1日目の昼、目の前に4匹のグリズリー・ベアが姿を現した。しかし、5ヒットダイス(1ヒットダイスはPCの1レベルに相当する)のモンスターなど彼らの敵ではない。瞬殺。
 2日目の昼、今度一行の目の前に現れたのは、通常の8倍はあろうかという巨大なトロール(ガルガンチュアトロール、ヒットダイス51)であった。緑色をした狂気の瞳をらんらんと輝かせ、やる気十分である。先頭のファラミアはそれなりに苦戦したものの、しょせん敵は1体。ヨーシオンスの「キュア・オール」の魔法や、一度に7本もの矢が飛ぶジャックの「マジック・ミサイル」などの後方支援によって、無事ガルガンチュアはその巨体を大地に横たえる羽目となった。ジャックはあえなくつぶされかけたが。
 その晩、ファラミアを除いた3人は奇妙な夢を見た。驚くほど醜い三人の老婆が20フィートはある巨大な黒ウサギに乗って現れ、けたたましい笑い声を上げたかと思うと、ストーム・ジャイアント、ヒュージ(超巨大)ゴールドドラゴン、そして通常の8倍の大きさのガルガンチュア・ビホルダーが現れ、哀れ一行はトマトピューレにされてしまったのである。相次ぐ不吉な予兆におののく一行。

 次の日、ようやく村が見えてきた。しかし、家々の煙突からは煙も出ておらず、通りにも人の姿は全く見えない。怪しむ一行。とりあえず、ジャックが「ウィザード・アイ」の呪文を用いて村を探索することに。魔法の目が見たものは、物陰に隠れ、手にダガーを構えた村人たちの姿だった。
 両親の安否を心配するカッターをなだめようと、今度はレーが、「ハイド・イン・シャドー(影潜み)」を使用して、村に入る。だが、しばらく歩いているとレーは、物陰から突然現れた村人たちにのしかかられ、組み伏せられそうになる。彼女の技は失敗していたのだ! 村人を必死でふりほどくと、レーはあわてて逃亡を図る。
 この様子じゃあ、村への潜入は諦めたほうがよさそうだ、とふんだ一行は、今度は少年が言ったシーアの島へ行くことに決めた。
 シーアの島は、村の傍らを流れている河、サーベル・リバーの中ほどにある、さしわたし100フィートほどの小さな島である。島の周りには黒っぽい水が渦を巻いており、接近は容易ではなさそうだ。が、一行はウォーターウォーキングリングの使いまわしという、実にD&D的な手法で河を渡りきってしまった。

 だが、島の中には枯れ果てた木や草のほかには何も見えない。しかし、一行が島を探索しているうちに、カッターの姿が見えなくなった。と、突然少年の悲鳴が聞こえた。あわてて声のしたほうに近寄っていくレー、すると、足元が急になくなり、穴の中へと落ち込んでしまった。
 穴の中は豪華な調度の部屋だった。そして部屋の奥のソファーには、絹で全身を覆った女性が横たわっていた。ベールで隠されているので、残念ながら顔は見えない。彼女は優しく、レーに傍らのテーブルにおいてある豪奢な食事をとるように言う。だが、長年の経験の甲斐あって、レーにはそれが、幻影でカモフラージュされただけの腐った食べ物であることがわかった。
 その頃には、残りの一行も部屋に到着していた。観念した女はフードを上げた。そこに現れたのは、ヘビの頭髪を有した非常に醜い女の顔であった。だが、さすがは歴戦のつわもの、誰一人として石化することもなく、無事1ラウンドでメデューサを肉塊へと変える。

 ほっと一息ついたのも束の間、シーアが友好的とはいえない人物だとふんだ一行は、警戒しながらも、歩を進める。先頭のレーが10フィート棒を取り出し、床をコツコツ叩きながら進んでいったおかげで、途中の橋が幻影だということにも無事気がつき、ジャックがあやうく飛び移ることに失敗して、下の泥沼に蠢いているマッドマンの餌食になりかけたことを除いては、何事もなく次の部屋に進むことができた。10フィート棒の先に鏡を取り付けたり、Xレイビジョン・リングやインビジビリティ・リングを併用したり、相手の手の届かないところから矢を射続けるというセコイ手法で、次の部屋で待ち受けていたガルガンチュアガーゴイル&グレムリンのいやらしいコンビも比較的楽に退治することができた。

 問題は次の部屋だった。Xレイ・リングで部屋をうかがうと、石像が散乱しているのが見えた。これはメデューサかコカトリスか、それともバジリスクか。とりあえず、ふたたびレーが透明になって、部屋に潜入した。
 どうやら奥にいるのはバジリスクらしい。だが、透明化したレーには当然気づかない。安心して部屋の奥の方へと行こうとすると……。突如、石像の一つから謎の怪光線が発射された! レーは対:死の光線のセービングスローを行うことに。20面体で4以上の数値を出せば成功だ。だが、出た目はなんと3! あわれレーは、「ディスインテグレイト(粉砕)」の一撃を喰らって文字通り塵と化してしまったのだ! 塵になってしまったら、たとえヨーシオンスが持っている「レイズ・デッド・フリー」の呪文を使ったとしても甦ることはかなわない!

 絶望感にとらわれる一行。しかもご丁寧に、レーの所持品が入っていたホールディングバッグ(こちらは塵にならずにすんだ)は、見えない何かによって部屋の中央にあった穴へと蹴り落とされる。
 だが、落ち込んでばかりもいられない。とりあえず一行は、バジリスクをおびき寄せて撃退し、次に現れたファイア・エレメンタルやインビジブル・ストーカー(こいつがレーのマジックアイテムを落とした犯人)を次々と打ち倒していく。しかし、彫像が恐ろしく、なかなか部屋のなかに踏み込むことができない。

 と、彫像が消えたかと思うと、目の前に年老いたローブの男が現れた。なんと彫像は、「スタチュー」の魔法で姿を変えた魔法使いだったのだ! 業を煮やした魔法使いは、一行の前に「テレポート」して現れ、敵を一網打尽にしようとしたのである。「パワーワード・スタン」の詠唱が辺りに響き渡る。しかし、間一髪のところでかけた、ジャックの「リムーブ・カース」の呪文が功を奏した。魔法使いの瞳から狂気の色が消えたのである。
 「わしは何をしていたんじゃ」魔法使いは放心した呈で告げた。彼が言うには、自分は17レベルのマジックユーザー、ネロスであり、旅の途中で、彼はサーベル・リバーの水を飲んだ。それから意識がなくなって、気がつくとここにこうしていたのだという。意識をなくしている間に起こった出来事はぼんやりとは記憶に残っていたものの、とても自分が行ったというような実在感はない。無意識のうちに抵抗しようとはしたものの、それも結局無駄であった。彼を操っていた大いなる存在には、一切の魔法は効果がなかったのである。
 彼の処置に戸惑う一行。しかし、ファラミアはなんと、レーの代わりに、ネロスを仲間に入れようと提案する。当然ながら反発もあった。たとえ操られていたのだとしても、罪なきものを手にかけたという罪悪は免れるものではない。そんな奴を仲間にいれていいのか? と。けれどもファラミアは言う。「ネロスが我々の仲間を手にかけたからこそ、彼は我々とともに行動しなければならない。彼の罪を購うためには、そうするより他にないのだ。きっと、神もそうおっしゃるはずだ」 
 かくしてネロスはパーティの一員として迎えられることになったのである。

 部屋の中央の穴は、螺旋階段となっていた。一行は先に進むと共に、レーのマジックアイテムを回収しようと、下の回路に降りていく。だが、そこにはマン・スコーピオンと、その配下のジャイアント・スコーピオンが待ち構えていた。素早く引き返す。そうして、今度はヨーシオンスが「コンジュア・エレメンタル」で呼び出したファイア・エレメンタルを突っ込ませ、弱ったところを突撃して、無事マン・スコーピオンを撃退する。マン・スコーピオンの死体から、レーの持っていたホールディング・バックを回収することもできた。部屋の様子を見てわかったのだが、どうやらマン・スコーピオンの敗退は、エレメンタルの強さというよりも、レーの奇妙なマジック・アイテムをうまく活用できなかったためらしい。たとえば、彼女が持っていた「スター」というアイテム。これはオルターネイト・ワールドゲイトを開くための魔法のアイテムである。これを使えば、TSR社(D&Dの発売元)の西部劇ロールプレイングゲーム『BOOTS HILL(R)』の世界から、シェリフ(保安官)を呼び出すことができる。しかし、彼は戦わず、腰に挿していた拳銃をくるくる廻し、ポーズを決めた後、ウィンクをして、そのままもとの世界に帰ってしまうのだ。他にも、「ファンファーレ」という名前の扇(ファン)。この扇はクラブ+2として使えるものの、殴るたびに、あたりにけたたましい騒音が鳴り響き、周囲の生き物の怒りを買ってしまうという困ったアイテムである。こうした奇矯なアイテムを自在に使いこなせるのは、やはり専門家であるレーだけなのだろう。しかし、彼女はもういない。

 とりあえず一段落ついた一行は、ヨーシオンスの「スピーク・ウィズ・ザ・デッド」の呪文によってレーと会話をし、彼女のマジックアイテムを譲り受けることに成功する。そして、いざ次の部屋へ進もうと扉を開けると、その部屋で待っていたのは、巨大な、そう、超大型の、黒い羽根がテラテラと光る、ドラゴンであった……。
 一行はすぐさまもとの部屋にもどり、扉に「ホールド・ポータル」をかける。そしてとりあえず、十分な魔法を使えるようになるために休息することにする。

 その間もドラゴンが「ベントリロキズム(腹話術)」の魔法で、執拗にファラミアの気を引こうとするものの、さすがに通用しない。休息を終え、ジャックによって、「ヘースト」の魔法を「パーマネンス(永久化)」された一行は、ヨーシオンスの「トゥルーサイト」の呪文でドラゴンの弱点を調べると、すぐさま総攻撃をかけ、わずか2ラウンドでヒュージ・ブラックドラゴンを屠ってしまう。そんなこんなで、無事シーアの島のいちばん奥の部屋にたどり着いた。

 その部屋は六角形で、壁は黒いタペストリーに覆われていた。タペストリーには灰色の糸で、さまざまな戦争の光景が織り込まれていた。部屋の中央には赤く輝く炭が入れられたケトル(容器)が置かれていた。その横の空中に、苔むした一冊の本が浮いていた。さらにその後方には、黒いローブを着た一人の老人が、あぐらを組んだままやはり宙に浮いていた。顔はフードに隠されていてはっきりとはうかがうことができない。
 彼は自分がシーアだと名乗った。ヨーシオンスがここに来た理由を告げると、シーアはおもむろに頷いて、朗々と、歌うように語り始めた。
 「昔この地に極めて勇敢な、一人のアルファティアの将軍がいた。しかし、彼の部隊に対する本国からの補給はまことに僅かなものだった。そしてとうとう、彼の部隊は、この河の岸で蛮族どもに襲われ、全滅してしまったのである。彼は怒りと裏切りに全身を震わせ、愛用の魔法のサーベルを振り上ると、呪いの言葉を吐いた。『100年が七の七回巡る間、この地は荒廃し、未開のままであるがいい!』 言葉が響き渡ると同時に、突如雷が光り、サーベルを二つに引き裂いた。将軍とサーベルは河に落ち、二度と発見されることはなかった。だが、蛮族のシャーマンの一人がサーベルの柄を河岸で発見し、来るべき呪いの到来に備えて慎重に保管した。

 長い間呪いのことは忘れられていた。誰もこの地の開発などをたくらんでいなかったからである。だがしかし、最近になって、この地は開拓されるようになった。そのために、呪いも発動しはじめたのである。それが、おまえたちが見てきたような忌まわしき事態の原因となったのだ。
 私は、長い時間を研究に費やして、ようやく、サーベルの柄のありかを見出した。それは、フレイムズマウス山のタワー・オブ・テラーの中にある。それを持ってくれば、私がこの河の呪いを解いてやろう。私は研究のためについていってやることはできぬが、この地を救うためには、この探索に成功するしかないのだ。」

***

 フレイムズマウス山は従来は死火山だと思われてきた山であるが、近年になって急に活動が盛んになってきた。駆け出しの頃を思い出し、山を登っていく一行。と、600フィートほど先に洞窟の入り口が見えてきた。そのとき、突然、夕闇の中から、突然煙のようなものが巻き上がると、人の形を取り始めた。三人の老婆となったのである。今や一行は全てを思い出した。老婆は彼らがノルウォルドにやってきたばかりのときに打ち倒した、ゴネリル・リーガン・コーディリアの三姉妹であったのだ。彼女たちは耳障りな笑い声と不吉な予言を残して、消え去ってしまう。危険を感じた一行は、洞窟をさけ、ジャックの「マス・インビジビリティ(集団透明化)」の呪文によって透明となって、一路山頂のカルデラを目指すことに。

 ようやく山頂が見えてきた。と思ったのも束の間、何か巨大な、赤い飛行物体が近づいてくるではないか。ヒュージ・レッドドラゴン、インセンディアロス(アーマークラス−5、ヒットダイス22、ヒットポイント108、1ラウンドに6回攻撃、さらに急降下攻撃などのオプションあり)である! 姿が見えないから安心、と一行はそのまま登山を続ける。しかし、明らかにレッドドラゴンはこちらをめざして飛んでくるようだ。しかも、そのスピードは異常なほど速い。長年の経験から危険を感じた一行は、ただちに散開し、迎撃体勢に入った。「しまった! インバルネラビリティ(不死身)ポーションをとっておくんだった!」 ファラミアが叫ぶが、もう遅い。
 大型のドラゴンは賢い。自在に呪文を唱えられる。そう、侵入者に気づいたのも、彼女があらかじめ「ディテクトインビジブル」、「ヘースト」、「ESP(思考を読む)」の魔法をかけていたからである。けれども、彼女は自分の力を過信していた。自分に「インビジビリティ」をかけるのを怠っていたのである。おまけに、大いなる神のきまぐれによって、彼女は「ファンタズマルフォース(幻影)」を使って、自分の隣にもう一匹の巨大なドラゴンを出現させることさえ忘れていたのだ。
 それに比べて、冒険者たちは文字通り必死だった。ドラゴンのブレスを喰らえば一撃でパーティが半壊してしまう可能性すらある。かくして、彼らの全力を尽くした総攻撃を喰らい、なんとインセンディアロスはわずか1ラウンドで撃墜されてしまった。

 だが、安心したのはほんの束の間だった。母竜の断末魔の叫びを聞いて、さらに、5体のスモール・レッドドラゴン(ヒットポイント45)がこちらに向かってきたのだ! 死の予感が一行をかけめぐるが、とりあえずやるだけのことはやろうと、ファラミアはレーの形見であるショートボウ+5で攻撃し、ヨーシオンスは「レジスト・ファイアー」を唱え、ジャックとネロスは「スタチュー」の魔法を使い、石像に変身。そうして変身したまま攻撃魔法を放ち、遠距離からドラゴンどもを壊滅させようとする。「マジック・ミサイル」や「アイス・ストーム」、「ディスインテグレイト」などを延々と放ち続ける2体の石像。
 しかし、彼らの迎撃も思うようにはいかず、1体しか倒せない。残る4体のドラゴンどもは1体が石像に、残り3体がファラミアとヨーシオンスに向かってきた。ドラゴンの最初の攻撃はもちろん、ドラゴンのヒットポイントと同じだけのダメージを与えるドラゴン・ブレスである。そんなわけでファラミアとヨーシオンスは3回の対:ドラゴンブレスでセービングスローを行う羽目に。結果、ファラミアは死亡。ヨーシオンスは「レジスト・ファイアー」のおかげで生きてはいるものの、もはや虫の息である。スタチューどもが必死にもう1体を撃破しているうちに、ヨーシオンスはかろうじて先制を取り、自分に「キュア・オール」をかけるのに成功した。

 兄弟を殺され怒り狂ったスモール・ドラゴンは、攻撃の矛先を、魔法を飛ばしてくる生意気な石像の方へ向けた。ドラゴンのツメや牙を受け、ネロスは石像であるにもかかわらずヒットポイントが一桁まで落ち込み、殺されそうになる。けれども、必死で、ヨーシオンスはドラゴンの攻撃をかいくぐって、ファラミアに「レイズ・デッド・フリー」をかけることに成功する。
 ネロスをおとりにして目の前のドラゴンのうち1体を屠ったジャック。それを見て、もう1体はたじろぐが、あえて攻撃を続ける。そのうちに、生き返ったファラミアは、ドラゴンに愛用のインテリジェント・トゥーハンデッドソード+3ウィズ・ライティング「クロスファイア」を叩き込む。ヨーシオンスが何度か死にそうになったものの、この後何ラウンドかかかって、ようやく一行は勝利を収めることができた。

 ドラゴンどもは火口のカルデラを巣にしていたようだ。山のような財宝。120000枚の銀貨、75000枚の金貨、15000枚のプラチナ貨、金貨200000枚の価値はあろうかという装飾品、それに金貨70000枚の価値はあろうかという宝石、12本のポーションやスクロールなどなど……。だが、この程度の宝には見慣れている一行はさして気を惹かれた様子はなく、逆にカルデラの底に、さらなる縦穴が続いていたのを発見した。宝物のなかにまぎれていたクライミングロープを使い、降りていく一行。すると、そのおよそ1000フィート下はマグマだまりとなっており、天井から300フィート以内のところに、3つの張り出しのあるトンネルが見えた。
 そのうちのトンネルの一つに降り立った一行は、とりあえず奥へと進んでいこうとするが、そこに待ち受けていたのは、通常の8倍はあろうかというガルガンチュア・ファイアー・エレメンタル(ヒットダイス64、ヒットポイント252)であった! とっさに身構える一行だが、ジャックは落ち着いて、ネロスにしたのと同じように、エレメンタルにも「リムーブ・カース」をかける。だが、何も変化した様子はない。どうやら1回では足りないようだ。ジャックはもう1度、「リムーブ・カース」を唱える。かくしてエレメンタルは無事自分のプレーンに帰ることができた。

 その奥の通路を行く一行。そのとき、偶然「ディテクトインビジブル」をかけていたネロスは、その部屋に透明化されたゴルゴン(石化ブレスを吐く巨大な雄牛)が3体待ち構えているのに気がついた! しかも、そのうちの1体は、今まさにブレスを吐こうとしている! 慌ててネロスは逃げ帰り、代わりに入ったヨーシオンスが、ドルイド最強魔法「クリーピング・ドゥーム」をかけると、現れた1000匹の虫に押しつぶされ、ゴルゴンどもはたちまちミンチになっていった。
 その奥は二手に分かれていた。カッターが上がいいと言うので、一行はそれに従い、長い階段を上っていった。すると、そこで彼らが見たものは、たくさんの彫像に囲まれた部屋だった。壁にはシーアが告げたような、悲惨な歴史が連作で描かれている。部屋の奥には、祭壇と、そこに掲げられたサーベルの柄が見える! しかし、警戒を重ねた一行は、なかなか動こうとしない。ジャックが「テレキネシス」の魔法でサーベルの柄を取り寄せるが、それをネロスが鑑定すると、どうやら偽物らしいということが判明した。
 意を決した一行は、エレメンタルを呼び出して、1つずつ像を調べてさせていくことに決めた。結果は正解。いちばん奥の彫像の持っていたサーベルが本物だったのだ。

 これでクエストは完了だ! 意気揚々と帰路につく一行。しかし、悲劇はそれからだった。一足先に「テレポート」の呪文で地上に向かったネロスは、100面体を振って100を出してしまう。そう、こともあろうに瞬間移動に失敗してしまったのである! 結果は「低すぎ」。よく知っている場所へテレポートするときにこの結果になるのは100回に1回の確率である。思わぬ貧乏くじを引いてしまった彼は、「ドーン」という大きな音を立て、フレイムズマウス山の岩の中に埋もれてあわれ圧死してしまう。

 そうとは知らない一行は、前方を塞ぐヘリオン(炎の哲学者)を無事回避し、来た道を通って、無事地上に出ることができた。だが、ネロスの姿はどこにも見えない。散々骨折ってさがしたあげく、ネロスがテレポートに失敗したと結論づけた一行は、「アニメイト・デッド」の呪文によってドラゴンゾンビを作り出し、岩を掘らせて、ようやくネロスの死体を発見する。そして、その土まみれの死体は「レイズ・デッド・フリー」によって、すぐさま活動を始めるのであった……。

***

 ようやくサーベルの柄を手に入れ、シーアの島への帰還を果たした一行。しかし、シーアは何も言わず、ただ手を差し出すだけである。いぶかしんだ一行がそれを拒否すると、シーアは机に戻り、再び本を読み始める。仕方がないので、柄を渡すと、シーアはカッターを近くに呼んだ。
 そうして彼は言った。「コルスの息子エルバスよ、腕を前に伸ばすがよい」 ゆっくりとカッターが右手を伸ばすと、シーアは続けた。
 「長く失われていた、ソードの柄を握るよい。ソードの力を得るのだ」
 カッターはしっかりと柄を握り締めた。その途端、シーアは未知の言語で勝利の雄叫びをあげた。柄はまぶしい光に包まれ、同時にカッターの体は溶けて縮んでいき、何かの姿に変化した。
 すべてが終わったとき、その場に立っているのは、完全なサーベルを手にしたシーアだけだった。サーベルの刃は、青い魔法的な光に包まれている。シーアはサーベルを握り締めて言った。

 「おまえたちは皆死ぬがよい。今や再び我が手にサーベルがそろい、呪いは成就した。この地は永遠に荒れ果てたまま残るのだ。我が手にサーベルあるかぎり誰にも邪魔はできぬ」

 そう、シーアはアルファティアの将軍が放った呪いが具現化した存在だった。カッターはまたの名をエルバスといい、自分の真の正体を知らぬまま、川辺で義父コルスに拾われ、養子となったのである。


***

 かくして最後の戦いが始まった。シーアはサーベルを手に、ひたすら斬りかかってくる。そしてその背後のタペストリーからは、次々とサーベルクローや、ビホルダーや、ガルガンチュアヘルハウンドや、ドロウ・エルフが姿を現し、攻撃を仕掛けてくる。
 ジャックとネロスはモンスターを退治し、その発生源であるタペストリーを破壊するのに精一杯。おまけに、シーアはスペル・イミュニティを持っており、あらゆる魔法が通用しないようだ。戦闘は長引き、いっこうにらちがあかない。
 ファラミアは、シーアの手からサーベルを落とし、部屋の端へと蹴り飛ばすが、シーアはテレキネシスを用いてすぐさまそれを回収してしまう。ネロスも「インビジブル・ストーカー」を使って、サーベルを回収しようとするがうまくいかない。このような状態が何度となく繰り返される。
 息の根を止めては「レイズ・デッド・フリー」で甦るファラミアに業を煮やしたシーアは、今度は攻撃目標を変え、魔法の使い手から倒そうと、ヨーシオンスに攻撃を始める。サーベルに斬られ、一撃で44ダメージを食らったヨーシオンスは、残りヒットポイント2の瀕死状態に陥ってしまった。ヨーシオンスが死ねば、もはや回復は不可能になってしまう。
 そのときだった。ヨーシオンスを斬ったサーベルの刃を通じて、彼の心に、カッター少年が語りかけてきた。「僕を取り戻して、それでシーアに攻撃するんだ!」

 ヨーシオンスは大声をあげてファラミアにそのことを伝える。ファラミアはうなずいて、ふたたびシーアの手からサーベルを落とすと、それを拾って、一刀のもとにシーアを斬った! サーベルの刃が体に食い込むと、かれは断末魔の叫びをあげる。彼の体はドロドロと溶けていった。だが、その、かつてシーアだったものの上に、ゆっくりと黒い霧が立ち込めて、シーアの顔となった。
 「お前たちはまだ救われたわけではない。お前たちはここで私を倒したが、私はすぐに戻ってきて、お前たちを含むすべての者に、私の怒りの大きさを教えてやろう」
 そう告げると、霧は雲散霧消した。同時に、島全体が崩れ始める。慌てて、一行は外に出ようとする。ファラミアとヨーシオンスとネロスは、ヨーシオンスの「トランスポート・スルー・プラント」の魔法で、無事外に出ることができた。しかし、その魔法では、3人までしか運ぶことができないので、ジャックは自分で「テレポート」の魔法を使って外に出ることにする。
 ジャックはテレポートが成功したかどうかを確かめるために、100面体ダイスを振った。結果は97! 「高すぎ」である。ちなみにこうなる確率は100回に3回。落下したときに彼は臀部をしたたかに打ったものの(ダメージ7D6)、無事一命を取り留めた。 崩壊していく島を眺める一行。だが黒い霧はいっこうに晴れる気配がない。

 ファラミアの手に握られたサーベルが、おもむろに話し始める。
 「僕を助けて下さって、どうもありがとうございました。でも、すべてが終わったわけではありません。シーアは死にましたが、呪いの力はいまだ残ったままなのですから。呪いを解くためには、私の刃を、河の源(ハート・オブ・ザ・リバー)に突き立てなくてはなりません。そうしなければ、呪いを永遠に封じ込めることはできないのです」
 一行はため息をついた。まだ続きがあるのか。とりあえず休んでからだ。あと一息だ。ゆっくり休んで英気を養い、それから、ハート・オブ・ザ・リバーに向かおう。
 ファラミアはサーベルを地面に起き、日ごろ愛用しているソード「クロスファイア」を手にとった。旅立つ前に磨いておかねば。と、誤って指を切ってしまった。まがりなりにも21レベルのパラディンであるファラミアは、めったにこんなミスはしない。少し間を置いて、ファラミアは自分を傷つけた剣に話しかけた。

 「わかったぞ。お前、やきもちをやいているんだろう」

【初出:早稲田大学TRPGサークル乾坤堂プレイリポート】

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2021年04月21日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.6


 2021年4月13日の「FT新聞」No.3002にて、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」のVol.6が配信されました。今回は、オールド・ワールドの宗教と信仰について、中世史、『指輪物語』、D&D、『メタモスの魔城』、T&T、『ハーンマスター』等と比較しつつ考察しています。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.6

 岡和田晃
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 ピンと来た。魔力の風を察知するのと、必ずしも一致しない、直感。
 わたしを身の危険から、いつも守ってきてくれた、生きるのに必要な原初の感覚だ。
 「真のダハール」に染まった魔術師が呼び出そうとしている脅威が何か、この魔狩人はよくわかっていない。
 なるほど、彼は魔女については、一定の知識があるようだ。似非魔術や俗魔術に何ができるのかも、これまで拷問にかけて火炙りにしてきた数々の魔女からの「耳学問」として、一定の知識はあるようだ。
 しかし、魔女の魔術と殺人の神カインの信者が起こす奇跡の違いを問われても、フレイザーは答えられないだろう。シグマーには狂信に近い敬慕の念をもっているようだが、そういった手合いに限り、他の神々にはほとんど無関心だからだ……むろん、そのことを認めるとは思えないが。
 ここにチャンスがある(ラナルズ・グリン)。
 混沌による汚染の拡大を食い止めて、かつ、わたしも吊るされずに済む道が。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 前回は『ウォーハンマーRPG』における混沌と、その裏返しの「エーテル」について説明しました。しかし、オールド・ワールドにおいて、混沌の神々は、決してマイナーではありませんが、あくまでも日陰の存在であり、よりキャラクターたちの生活へ密接に結びついた神々が設定されているのです。
 そこで今回は、オールド・ワールドにおける神々と宗教について概観していきたい……ところなのですが、こと宗教の位置づけというのは『ウォーハンマーRPG』が、もっとも微に入り細に入り、こだわっている部分としても過言ではありません。

●生活と密接に結びついた宗教

 オールド・ワールドを扱った小説を読んでも、「こんちくしょう」に「シグマーズ・ブラッディ・ハンマー!」とルビが振られるなど、すなわち慣用句となるほどに、宗教が生活に密接に関わっているということが窺い知れます。
 いざ、ルールブックをめくってみたら、膨大な数の宗教が設定されています。それは初版の時からの伝統です。それでも物足りない方は、ぜひ『ウォーハンマーRPG』第2版の『救済の書:トゥーム・オヴ・サルヴェイション』(ホビージャパン、2009年)をご参照ください。
 教会が絶大な権力を行使していた中近世ヨーロッパがモデルにされており、かつ、一神教ではない多神教なので、ともすれば中世の異端信仰を総ざらいしたよりも、多くの神々が設定されていると言えるのかもしれません。

●「死」に関した神のあれこれも

 初めてオールド・ワールドの設定に触れた時、私は死を司る神モールが、単なる悪役ではなく、エンパイアの社会に自然に溶け込んでいることに、とても驚いたものです。
 しかし、『ウォーハンマーRPG』は死と隣り合わせの世界。死は対峙すべき敵ではなく、付き合い方を見極めなければならない、隣人なのです。
 いま、コロナ・ウイルス禍は、スペイン風邪や黒死病など、歴史上、世を席捲した疫病に擬えられています。一説によれば、中世ヨーロッパの人口の3分の2は黒死病で命を落としたと言われています。
 そして、オールド・ワールドにも、当然、黒死病はあるのです。それだけではなく、病気のカタログに一節が割かれているほど、多数の病気が存在します。
 それでは、病気をもたらす混沌の神ナーグルと、死の神モールはどう違うのでしょうか?
 実はまったく違うのです。ナーグルは腐敗を撒き散らし、混沌の力を広げるためには、手段を選びません。
 けれども、モール神は不自然な死を振りまくことに加担せず、結果として生じた死者を、正しく冥界へ送り届けることを旨とします。
 ゆえに、モールの信者は、混沌の信者はもとより、いたずらに死を弄ぶ死霊術師やアンデッドを、激しく憎んでいます。
 あるいはモールの兄弟神に、暗殺者と殺人者の神カインがいます。
 当然、オールド・ワールドではカインの信仰は禁じられているのですが、それではカインはナーグルのような混沌の神々の一柱なのかと問われたら、違うと言わざるをえません。
 確かに、カインを奉ずるあまりに気が狂った無差別殺人鬼ならば、より多くの死をもたらすため、流血の混沌神コーンと手を結ぶこともありえるかもしれませんが、カインの司祭は必ずしもいい顔をしないでしょう。
 請け負った殺しの仕事を確実にするためカインの力を借りようとする、誇り高い職人肌の暗殺者が、混沌の信者と混同されることをよしとしない例を考えてみれば、わかりやすいのではないかと思います。
 『ウォーハンマーRPG』の8大魔法学府の設定は、ハイエルフが介入しているだけあって、よく整理されているものですが、逆に宗教は史実の宗教がそうであるように、あるいはそれ以上に、見通しが付きづらいものとなっています。
 そこで、RPGの根幹の部分にまで立ち返り、他のファンタジーRPGとも比較しつつ、この問題を様々な角度から考えてみましょう。

●古典ファンタジー小説に回復呪文は出てこない!?

 多くのファンタジーRPGでは、神々や宗教が設定されています。古代から中世にかけて、神々や宗教の社会的な影響力は、現代とは比べものにならないほど大きなものでした。
 こうした世相を反映してか、商品化された最初のRPGである『ダンジョンズ&ドラゴンズ』では、僧侶(クレリック)という職業が設定されています。
 剣ではなくメイスを振るい、回復呪文で味方を治療し、あるいはアンデッドを退散させる、というのがその役割です。
 ところが、こうした回復系の僧侶呪文は、おそらくゲーム的な必要性によって生み出された部分が大きいのではないかと思われます(ただし、死者を蘇生するとなるとまた別で、ホラー小説を中心に多数の実例がありますが)。
 というのも、D&Dは多数のファンタジー小説から影響を受けたのにもかかわらず、D&D以前のファンタジー小説に、回復呪文が使われる場面は滅多にないのです。
 いや、あるにはあるんですよ。例えば『指輪物語』に、アラゴルンがファラミアを「王の手は癒しの手」と薬草で治療する有名な場面が出てきますが、これは史実でのエドワード証聖王が、ハンセン氏病に苦しむ患者を背負って治療したという逸話に由来するものと思われます。
 ただ、これはどちらかというと、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』(AD&D)から登場するパラディン(聖騎士)に近いのかもしれません。
 こうした聖人の逸話は回復呪文の重要な発想源と思われます。史実の僧侶や聖人伝については、「Role&Roll」Vol.155に掲載されている「戦鎚傭兵団の中世“非”幻想事典」第40回をご参照いただければと思います。

●遠隔型攻撃ユニットとしての魔法使い

 背景設定とは別に、ルール面から考えると、ウォーゲームからRPGが生まれた際、剣や斧で直接攻撃をする近接型のユニットとしての戦士に、「マジックミサイル」や「ファイアーボール」で遠くの敵を一掃する遠隔型ユニットとしての魔法使いを対置してみれば、しっくり対比できるのではないでしょうか。
 1974年に発売されたオリジナルのD&D(OD&D)では、ファイティング・マン、マジック・ユーザー、そしてクレリックの3種類でした。
 なんと盗賊(シーフあるいはローグ)はいなかったのです(ただ、クラス扱いのエルフ、ドワーフ、ハーフリングについては、この時から設定されていましたが)。
 遠隔攻撃は魔法だけではなく、弓矢もあります。つまり、物理攻撃を主軸とした、遠隔ダメージ・ディーラーで、クラシックD&Dでは盗賊、AD&Dではレンジャー(野伏)が該当しますね。
 ただ、それは、あくまでも魔法使い(マジック・ユーザー)の後から設定されたものなのです。

●『デンドロギガス メタモスの魔城』のクラス(職業)観

 『デンドロギガス メタモスの魔城』(2015年〜)という、D&Dに強い影響を受けた食玩シリーズ『ネクロスの要塞』(1987〜89年)の精神を受けた新しいオマケシール・シリーズがあります。
 この『メタモスの魔城』のデザインにあたり、クリエイターのあだちひろし氏は、「R・P・G」(国際通信社)の2号に掲載された芝村裕吏氏の『トンネルズ&トロールズ』(T&T)やD&Dの分析を紹介し、それを『メタモスの魔城』のキャラクター設定に活かしています。
 そこで、あだち氏が行なった要約を以下に紹介してみましょう。

 <戦士>というのはその体力を生かした守備の専門家である。<魔法使い>は攻撃魔法を生かした攻撃の専門家である。
 …というのですね。これはアメリカン・フットボールのフロントラインとクオーターバックの関係からのイメージのようです。意外でしたが、役割分担としては合っている気がします。
 <盗賊>は宝箱・罠などを解く専門家。<僧侶>は回復魔法の専門家。…これはすんなり理解できます。(「変妖亭」2016.8.12より)

 『ネクロスの要塞』も『メタモスの魔城』も、オールドスクール・ファンタジーテイストに溢れたシリーズで――「FT新聞」の読者には、『メタモスの魔城』はまだ未チェックの方も多いようなので、この機会に触れていただきたいのですが――こと、低年齢層から参加できるオマケシールをデザインする場合においても、D&DやT&Tでなされたようなクラス(職業)の原理の問題を念頭に置く必要がある、ということをあだち氏の要約は示唆しています。

●T&Tには僧侶がいない?!

 しかし、ご承知の方も多いでしょうが、T&Tには僧侶という役割がありません。T&T完全版においてさえも、僧侶というキャラクター・タイプは特に設けられていないのです。
 もちろん、データは魔術師で社会的な位置づけは僧侶、というキャラクターをデザインするのは自由です。
 デザイナーのケン・セント・アンドレが宗教や神が嫌いだからとも言われますが……こと、システム面から考えれば、魔術師に回復呪文を使えるようにさせたり、毒を中和させたり、呪いを解いたりするという能力を与えれば、ゲームとしての僧侶はそれで事足りてしまう、というわけだからとも言えるでしょう。
 先に確認したところでは、魔術師は遠隔ダメージ・ディーラーというわけですが、別にそうしたタイプの僧侶だけではなく、近接攻撃型の僧侶がいてもいいわけです。
 事実、D&D第4版のクレリックは、敵を近接攻撃で殴ったら味方が回復するというパワーを駆使する役割なのです。
 それにリアリティがあるかどうかはともかく、ゲームとして見れば(味方の回復に追われて、プレイが受動的になるということがないという意味で)デザイン・センスに優れており、英語圏にはD&D第4版をリスペクトするゲームデザイナーが多い、というのも頷ける話です。

●「負傷を治す」という行為はリアリティ・ラインに関わる

 あるいは、傷を回復するという奇跡は、相手を炎で傷つける呪文等に比べて、ゲームのリアリティ・ラインに大きな影響を与えやすい、という側面があります。
 現実世界で怪我をして入院したら、治るまでに何週間もかかってしまいます。破傷風といった感染症等の脅威もあるでしょう。
 なのに、満身創痍になったキャラクターが呪文一声で一瞬にして全快すると、世界における「生」や「死」の位置づけまでが軽く見られがち、とも言うことができるでしょう。いかにもコンピュータゲーム的になってしまう、と言えるかもしれません。
 「リアル中世シミュレーター」との異名をとる『ハーンマスター』(第3版は2007年、サンセットゲームズから日本語版が出ています)のように精緻さがウリのRPGなどは、傷からの治療プロセスや破傷風の判定が、できるだけ自然になるようルール化されています(単にデータを増やしているのではないのがミソ)。
 クラシックD&DのようにシンプルなルールのRPGでも、クレリックは1レベルの間は何ら呪文が使えず、戦闘では多くの場合「ちょっと弱めの戦士」として前線に立たざるをえないことになります。

●『ウォーハンマーRPG』における治癒

 そして『ウォーハンマーRPG』も、いたずらに奇跡を用いて傷を治すよりは、まずは、〈治療〉技能や、癒やしのドラフトなどのアイテムを用いて「自然に」治癒を行う方が自然、といったタイプのゲームなのです。
 『ウォーハンマーRPG』第4版では、司祭や戦闘司祭のキャリアは、いちばん下の段階のキャリア・パス(入信者や修練者)の段階から、《祝福》という、神の意思のちょっとした具現化による恩恵を得ることができるようになりました。
 ただ、『ウォーハンマーRPG』の第2版では、入信者の段階では、第4版での《祝福》に相当する《初歩魔術:信仰》も習得することができません。
 秘術魔法大系の習得を選んだキャラクターよりも、呪文(《奇跡》)が使えるようになるには――最短で1キャリアを満了するまで――余計に時間がかかってしまい、それまでの間は〈負傷治療〉技能やアイテム、所属教団へのコネクションを使い倒すのが基本でした。
 世界観のリアリティ・ラインをいたずらに崩さないため、そしてゲーム的には(とりわけ初期において)僧侶系の魔法が必ずしも必須ではないというところから、こういう発想は生まれているように思います。
 実際のところ、『ウォーハンマーRPG スターターセット』に収録されている6体のサンプル・キャラクターに、シグマーを信仰する魔狩人はいても、そのものずばり、《奇跡》や《祝福》を駆使する入信者や司祭はいないのです。
 次回も、『ウォーハンマーRPG』における宗教と信仰の問題を、引き続き考えていければと思います。