2021年02月16日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3

※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2946に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。


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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3

岡和田晃
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「なんてこと(シグマーズ・ブラッディ・ハンマー)……」
 一難去ってまた一難。トロールから逃げてボグ・オクトパスに遭うとは、よく言ったもの。
 薄暗い物陰に佇んでいたのは、忘れもしない、魔狩人フレイザーだ。
「よお、レジーナ。貴様の顔は忘れようにも忘れられねぇ。色々と愉快なことをやらかしてくれたからな。貴様の周りからは、混沌の臭いがするんだ、それはもう、プンプンとな。実際、貴様のおかげで、ミュータントを一人狩ることができたってなもんだ」
 フレイザーとは腐れ縁だ。シグマーへの狂信の割に異端摘発の「成績」がよくないこいつの前で、学府に認められていない魔法をかけ、魔女狩りの口実を与えなくて本当によかった。
 わたしはサッシュ(帯)に忍ばせている、身代わり人形のことを思った。いざとなれば、思い切って針を突き刺せばいい。こいつに激痛の呪いをかけられる。その隙に……。
「そんなに警戒するなって。実はな、貴様にちょっとした相談(はなし)があるんだ」
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 好評いただいている本連載、Vol.3の今回は、『ウォーハンマーRPG』第4版の実際のキャリアを総覧し、『ウォーハンマーRPG スターターセット』のサンプル・キャラクターを紹介、さらには多様性(ダイヴァーシティ)の問題にまで話を広げていきます。

●キャリア・クラスについて

 『ウォーハンマーRPG』の大きな特徴は、その職業(キャリア)の豊富さです。およそ中世から近世にかけて存在してきた、ありとあらゆるタイプの職業が、「キャリア」として網羅されていると言っても過言ではないでしょう(サプリメントで、さらに追加されていきますから)。
 生活感あふれるキャリアを出発点にして物語を紡いでいけば、その生活がそのまま「冒険」に直結する、というのが『ウォーハンマーRPG』の醍醐味です。
 プレイヤーが演じるキャラクターの就くキャリアは第4版では、学士、都市民、農村民、野外民、河川民、無頼、戦士の8通りのクラスに分類されています。
 初版をご存知の方は、キャリア・クラスがウォリアー(戦士系)、レンジャー(野人系)、ローグ(町人系)、アカデミック(学者系)の4つに大別されていたのをご記憶かもしれません。4版では、それがさらに細分化されている、ということになります。

●キャリア総覧

 学士に区分されるキャリアは、薬剤師、技師、弁護士、修道士、医者、司祭、学者、魔術師。
 都市民に区分されるキャリアは、扇動家、職人、物乞い、捜査官、商人、ネズミ捕り、都市住民、警備兵。
 廷臣に区分されるキャリアは、顧問、芸術家、決闘者、渉外使者、貴族、召使い、密偵、所領管理人。
 農村民に区分されるキャリアは、領地代官、似非魔術師、薬草師、狩人、鉱夫、占い師、偵察兵、村人。
 野外民に区分されるキャリアは、賞金稼ぎ、御者、芸人、鞭打苦行者、伝書、行商人、街道巡視員、魔狩人。
 河川民に区分されるキャリアは、川舟乗り、水先案内人、河川巡視員、河川の民、船乗り、密輸商人、港湾労働者、難破船荒らし。
 無頼に区分されるキャリアは、斡旋人、いかさま師、故買人、墓荒らし、無法者、ゆすり屋、盗賊、魔女。
 戦士に区分されるキャリアは、騎兵、衛兵、騎士、剣闘士、流れ者、兵士、スレイヤー、戦闘司祭。

●『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリア

 なかなか壮観ではないでしょうか。『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリアを解説していくと……。
 ネズミ捕りは、害獣駆除業者のこと。彼らなしでは都市の衛生は成り立ちません。
 決闘者は、裁判の被告や告発者の替わりに決闘に参加する代理戦士。
 似非魔術師は、魔法諸学府で公認されていない、似非魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。
 鞭打苦行者とは、己や他人の贖罪のために世界が終るまで自らを鞭打ちながら旅して回る者のこと。中世史によく登場しますよ。
 魔狩人とは、混沌の信者や非合法の魔術を使う者たちを追い求めて火刑にしようとする者。
 斡旋人は麻薬窟や売春宿など悪徳とされるサービスへの手引きを行う者。ポン引きですね。
 魔女とは、俗魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。男性キャラクターでも「魔女」です。
 スレイヤーとは、心に傷を負い、獣脂で髪をモヒカンに逆立て、死に場所を求めて彷徨うドワーフ戦士。
 戦闘司祭とは、シグマー神に仕える僧兵で、ハンマーを手に前線で戦う者。『ウォーハンマーFB』が好きな方はお馴染みかもしれません。

 これが、例えば鞭打ち苦行者ならば「狂信者」→「鞭打苦行者」→「悔悟者」→「終末預言者」と、キャリア・パスをステップ・アップしていき、獲得できる技能や異能も増えていくという塩梅です。
 鞭打苦行者は世捨て人なので収入は増えませんが、通常はキャリア・パスが上がると、収入や社会的な地位が増していきます。

●キャリアはどうやって選べばいい?

 これらのキャリアはダイスでランダムに選ぶこともできますし、任意のものをチョイスしてもかまいません。
 ただ、ランダムで選んだ場合、ボーナスで経験点が入ります(いいルールなので、何度でも紹介しておきます)。
 ちなみに、初版の時には、技能が1つ(乗馬)しかない、街道巡視員のようなキャリアもありました。それはそれで面白く、弱いキャリアをプレイして成り上がっていくのも『ウォーハンマーRPG』の醍醐味ですが、2版からはバランスが調整され、基本的に著しく不利な職業というのはなくなりました。
 ただ、キャリア毎の社会的な立場はさまざまです。
 例えば、魔女の使う俗魔術は非合法で、使うと死刑に処されます。それゆえ、常に魔狩人に追われる立場を余儀なくされます。
 それはシナリオの導入に使うこともできますが、魔女と魔狩人をパーティに同居される場合、何らかの理由付けが必要となります。
 『ウォーハンマーRPG』の冒険はシティアドベンチャーが基体になることが多いのですが、もちろんダンジョン探険等、ファンタジーRPGに期待される冒険は一通り、こなせるようになっています。
 あらかじめシナリオの舞台が決まっていれば、それに合わせて、ゲームマスターがクラスを指定しても面白いでしょう。

●サンプル・キャラクターには、こんな設定も

 このあたりが便利なのは、日本語版の発売が予定されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』です。
 『スターターセット』には人間の兵士サルンドラ、ドワーフのスレイヤーのグンナー、ハーフリングの盗賊モルレラ、人間の魔術師フェルディナント、ハイ・エルフの商人アムリス、人間の魔狩人エルゼ、といった6体の作成済みキャラクターが収められています。
 フルカラーですが、あらかじめ折りたたまれており、自分だけが知っておくべき情報を、周りに見せずに済むように配慮されています。
 数値的なデータだけではなく、各キャラクターには、瞳の色や髪の色、家族構成、出生地、決めゼリフ、行動の動機、パーティの他の面々との関係、さらには自分だけの秘密が設定されています。
 パーティの関係と自分だけの秘密は、1つないしそれ以上を、プレイヤーが任意に選択します。

●サンプル・キャラクターはこういう性格

 サルンドラは貴族の出身なので、自然とパーティのリーダー格になりますが、酒好きで、いつも周りを騒がせ、「放っておけない」と思わせます。
 グンナーは家族を亡くしてスレイヤーの誓いを立てたドワーフですが、戦闘マシーンに徹しきれない人間味(ドワーフ味?)のあるキャラクターです。
 モルレラは人懐っこいハーフリングですが(人間の子どもくらいの身長の種族で、料理が得意)、夫も子どももいる肝っ玉母さんです。
 フェルディナンドは、紫水晶(死の魔法体系の魔術を駆使する学府)の魔術師たるべく修行をしています。無口ですがこちらも貴族の出で育ちはよく、義理堅い一面もあります。
 アムリスは人間に興味しんしん、好奇心いっぱいのハイ・エルフです。能力的に強力なので、いざという時には頼りになります。
 エルゼは魔狩人の母から直に教えを受け、シグマー神を熱心に崇めています。静かに、強固な意志をもって任務を遂行する仕事人気質のキャラクターです。
 これらのキャラクターに、ユーベルスライクを舞台にした付属シナリオをプレイする際には、街周辺の情報が、あらかじめ「ハンドアウト」として手渡されます。
 このハンドアウトの情報を駆使すれば、ゲームセッションの導入がすんなり行き、なかには冒険をスムーズに進めるための手がかりにもなる、という塩梅なのです。


●多様性(ダイヴァーシティ)を前提とした雰囲気づくり

 『ウォーハンマーRPG』の各キャリアには、それぞれ味わい深いイラストが添えられていますが、描かれるキャラクターの男女比は、ほぼ半々になっています。
 『ウォーハンマーRPG スターターセット』の導入シートでは、キャラクターだけではなくプレイヤーも、肌の色に関わらず、和気あいあいと卓を囲む様子がイラストで示されています。
 サンプルキャラクターも、男女比は半々。人間と異種族の比率も半々です。
 『ウォーハンマーRPG』は、中世から近世にかけての厳しい社会背景を舞台に、シニカルなブラックユーモアが多々、登場する世界を描いています。
 だからといって、ゲームセッションを通じて、既存の性・人種/民族(エスニシティ)等の差別を正当化するようなことが、あってはならないのは当然のことです。
 微妙かな? と思えるシチュエーションがあれば、しっかり卓の合意を取るのが安全ですし、ルールブックにはそのための指針も記されています。
 ルールやガイドラインのみではなく、多様性(ダイヴァーシティ)を許容するための雰囲気づくりも大事になるのですが、第4版はそのための配慮も行き届いています。

●卓を囲む仲間を「大人」として尊重するために

 多様性についての議論が進んでいる英語圏でも、残念なことにレイシズム的な言説が問題になることが、ままあります。
 昨年も、英語圏のあるオールドスクール・ファンタジーRPG関係の企業のトップが、あからさまな人種差別発言を行い、SNSでそれに便乗するゲーマーたちも現れる、という事件が起こってしまいました(ことを重く見た取引先の企業が、差別発言を看過せずに取引停止を宣告する自体にまで発展しました)。
 レイシズムやセクシズムの問題は、誰にとっても非常に身近なものとなっています。誰もが加害者になりえるというわけです。
 ほろ苦い大人のためのRPGだからこそ、『ウォーハンマーRPG』第4版はユーザーに対して、多様性(ダイヴァーシティ)のあり方を――声高な演説ではなく――ごく自然なあり方として表現しているのです。
 それはつまり、卓を囲む相手を平等な仲間、「大人」として尊重するためのスタイルなのでしょう。
 そこに甘んじることなく、自らの発言や振る舞いを常に省みて、RPGを通して、社会、そこに生きる人間、そして歴史の連なりを、より深く理解していくことができれば最高ですね。


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2021年02月02日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2

※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2932に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2

岡和田晃
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 わたしは魔力の風との交信を試みた。けれども、眼前にミュータントが迫っている状態では、どうにも気が散る。軽く舌を噛み、じりじりと後ずさりしていると、そいつがニヤリと笑ったかに見えた。間髪入れず、爪を振り上げて飛びかかってくる。
 何かが炸裂する音、そして悲鳴……恐る恐る目を開けると、飛び出した両眼のちょうど真ん中、化物の眉間のあたりに、ぽっかり穴が空いていた。
 どう、と倒れる。思わず振り返ると、黒い羽根付き帽を被った魔狩人が立っていた。胸の鎧は……ブレスト・プレートか。両手に構えたピストルからは、硝煙が立ちのぼっている。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より


 本連載のVol.1では、『ウォーハンマーRPG』の歴史と概要をお伝えしました。Vol.2の今回は、発売が予告されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』を紹介しつつ、『ダンジョンズ&ドラゴンズ(クラシック)』との比較から、その特徴を解説していきます。

★本気のRPG、それが『ウォーハンマーRPG』!

 現在、ホビージャパンから発売されている『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』(第4版)は、ハードカバー・フルカラーのA4判で350ページほどと、分厚い書籍の中に、ぎっしりと情報が詰まっています。
馴染みのない方は、騙されたと思ってページを繰ってみると、異世界を表現するための本気度に、きっと驚かれるのではないかと思います。
 もっとも、『ウォーハンマーRPG』が本格的な作りだったのは、初版の時からそうでした。社会思想社現代教養文庫から発売されていた『ウォーハンマー ファンタジーRPGルールブック』が出た時のインパクトを、ご記憶の方もおられるでしょう。なにせ、文庫版で3分冊。1巻と2巻は600ページ、3巻でも500ページを超えていましたから。俗に「(形状が)サイコロ(のような)本」とも言われました。

★気後れしてしまう方には『スターターセット』を!

 ただ、中にはあまりの分厚さに気後れしてしまう方もおられるかもしれません。そうした方は、ゲームマーケット2020秋のホビージャパン・ブースで日本語版の発売が予告された『ウォーハンマーRPG スターターセット』をお待ちいただくのがよいでしょう。
 これは、入門用のボックス・セットで、箱の中に、導入用のシート、ルールサマリー、作成済みキャラクター6人、それらのキャラクターに行動の動機を与えるハンドアウト、そして、導入用の冒険シナリオ(5幕の連作形式+シナリオソース10本)の収められた本と、舞台となる都市ユーベルスライクのガイドブック、地図が4枚、それに10面体サイコロ(ブランド品)が2つに、戦闘時の「優位」を記録するための大量のトークン、それにボックスの裏を利用する簡易ゲームマスター・スクリーンがワンセットになっている、というものです。導入用シート、キャラクターシートや同梱の本2冊に、地図はすべてフルカラー!
 海外RPGでも、はたまた国産のRPGでも、昔から入門用のパッケージをボードゲームのようにボックス・タイプで発売するという形式がありますが、その『ウォーハンマーRPG』版、とご理解下さい。
 箱を開ける時のワクワク感は格別ですし(これは「アンボックス」などと言われ、海外では動画配信されることもしばしばです)、なんといっても、最小の準備でセッションを始めることができるのが最高です。それでいて、ベテランにとっても資料的価値が高いものです。
 舞台になっているユーベルスライクの街は、『ウォーハンマーRPG』第4版のメイン・フィールドであるライクランドという領邦の南部にあるものです。ボックスに同梱されたガイドブックでは、ユーベルスライクの歴史と、ユーベルスライクを支配するユングフロイト家、近年の皇帝カール・フランツによる政治的な侵攻、さらには街の具体的なロケーションが70カ所以上扱われ、周辺諸領や暗黒のカルト教団までもが紹介されています。
 ユーベルスライクは旧版ではあまり目立ちませんでしたが、第2版の地域ガイド本『シグマーの継承者』でもきちんと出てきますし、未訳の第3版でも、ドワーフの設定などで言及されています。PCゲームの『Total War WARHAMMER』でも登場しますよ。
 なんといっても、ユーベルスライクはジャック・ヨーヴィルの〈ウォーハンマー〉小説『ドラッケンフェルズ』の舞台であるドラッケンフェルズ城にほど近いところが素晴らしい。初版では『ドラッケンフェルズ』を再現する冒険シナリオも出版されていましたが(未訳)、『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』や『スターターセット』でも、ドラッケンフェルズ城については言及がありますので、探してみるのも一興でしょう。
 ちなみに、『ドラッケンフェルズ』には吸血鬼ジュヌヴィエーヴという有名なキャラクターが出てきますが、彼女はヨーヴィルがキム・ニューマン名義で書いた〈ドラキュラ紀元〉シリーズ(アトリエサードから新版が刊行中)にも出演しています。タイムリーにも、『《ドラキュラ紀元一九五九》ドラキュラのチャチャチャ』の発売が、この2月中になると予告されています。

★初版のデザイナーは、D&Dの仕事もしていた

 『ウォーハンマーRPG』は1986年に初版ルールブックが出ていますから、今年(2021年)で35周年です。『ウォーハンマーRPG』に2年先駆けて始まった『ドラゴン・ウォーリアーズ』もそうなのですが、初版の『ウォーハンマーRPG』は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(新和や電撃ゲーム文庫から邦訳もされた、いわゆるクラシックD&D[CD&D]、特に1983年からの第4版以降)との差別化が、陰に陽に意識されていたように思います。
 実際、『ウォーハンマーRPG』に参加していたクリエイターの多くは(フィル・ギャラハー、ジム・バンブラ、グレアム・デイヴィス、グレアム・モーリス等)、CD&Dを当時出していたTSR社のUK支社の仕事もしていました。
 CD&Dがお好きな方は、1989年に邦訳が出た『X8モジュール 炎の島』(新和)や、1996年に邦訳が出た『ナイツ・ダーク・テラー 黒い夜の恐怖』(電撃ゲーム文庫)をご確認いただければと思います。
「CD&Dも魅力的だが、より『ウォーハンマーRPG』らしさを追求するにはどうしたらいいか?」という問いが、行間から溢れているのがおわかりになることでしょう。

★クラシックD&Dと『ウォーハンマーRPG』の違い

 試しに、2つのシステムをおおまかに比較してみましょう。
 CD&Dは20面体ダイスの1回振りで、基本的な判定が行われますが、『ウォーハンマーRPG』では、技能システムをベースにした10面体サイコロ2個で%を作る(今では『クトゥルフ神話TRPG(クトゥルフの呼び声)』等でお馴染みの)やり方が基本になっています。
 職業(クラス)の数が最小限に抑えられたCD&Dとは違い、『ウォーハンマーRPG』では、100種類を超える職業(キャリア)を転職しながら渡り歩くシステムが採られています。
 低レベル帯ではダンジョン探険が中心のCD&Dに比べ、『ウォーハンマーRPG』では、初期段階から、街での冒険が活発に行われるようになっています。
 古代から中世の雰囲気を色濃く遺すCD&Dに比べ、『ウォーハンマーRPG』では、中世から近世への過渡期における都市での冒険が中心で、銃器すら出てきます。
 CD&Dでは(「スレッショールド」の街など)地名や文化は英語がベースのものが少なくありませんでしたが、『ウォーハンマーRPG』の舞台であるエンパイアでは(「アルトドルフ」の街など)ドイツ語ベースが基本。
 戦闘でも、アーマークラス制による処理のスピード感を重視したCD&Dに比べ、命中部位やクリティカル・ヒット表など、戦闘はリアル志向で危険性が強調されています。
 もちろん、「どちらが優れている」というわけではなく、自分の表現したい世界観に合わせて、システムを選択すればよい、という話ですね。きっと、クリエイターもそう考えていたことと思います。

★嶮難(けんなん)なる冒険に満ちた残酷な世界 

 『ウォーハンマーRPG』第4版のコンセプトは、「嶮難(けんなん)なる冒険に満ちた残酷な世界(A Grim World of Perilous Adventure)」です。
 残酷さをもたらす根幹にあるのは、"禍つ神々(ルイナス・パワーズ)"と呼ばれる"混沌"の邪神たちや、その手下であるディーモン(『ウォーハンマーRPG』ではこう表記します)が、絶えず、オールド・ワールドを侵攻しようとしてくることです。
 かつて世界の安寧を守ってきた太古の魔術がすでに破られ、"混沌の時代"が到来してしまっているのですが、こうした"混沌"との戦いが、『ウォーハンマーRPG』の重要なテーマになっています。
 混沌の正体は不明です。一見、善きものに見える魔力も、煎じ詰めれば混沌の力に由来するということが少なくありません。
 混沌の神々を崇拝することは非合法であるため、通常は地下に潜伏していますが……敵は、彼らだけではありません。混沌に穢されたミュータントやビーストマンや、人間たちと別種の論理で動くグリーンスキン(ゴブリン類のこと)やネズミ人間スケイヴン、といった勢力が跳梁跋扈しているからです。
 仲間であるはずの人間たちですら、まるで信用はできません。その日を暮らすのもやっとのため、数枚の銅貨のために、平気で人殺しに手を染めるような連中だって珍しくないからです。
 案の定、ドワーフとエルフは互いを煙たく思っており、しばしば人間をも見下していることは言うまでもありません(第4版ではドワーフとエルフの不仲は「嫌悪」という特徴で表現されますが、パーティの仲間に関しては無視してもよい、という救済策が提示されています)。

★エントロピーに対峙せよ!

 こうした厳しい世界の中で、わずかに残る希望を失わずに悪戦苦闘を続ける、というのが『ウォーハンマーRPG』のプレイヤー・キャラクターの立ち位置です。
 混沌との戦いに終わりはなく、勝利の道筋は見えません。世界が滅びる"終焉の刻(エンド・タイムズ)"は、刻一刻と近づいていますが、避けようがない衰滅(エントロピー)を、少しでも遅らせようと悪あがきをするわけです。『ウォーハンマーRPG』には8種類のクラスが存在し、各クラスに8種類のキャリアがあり、それらは4段階のキャリア・レベルで成長を遂げていきます。つまり単純計算で、基本ルールブックだけで256種類(!)のキャリアが用意されているわけですが、成長するにつれて、社会的な地位は上がっていき、混沌をめぐる世界の真実に気づく……といった仕組みになっています。
 こうしたコンセプトも、実はCD&Dへのアンサーであると言えます。CD&Dは、キャラクターのレベルが上がるごとに、社会的な地位も上昇していき、15レベル以上を扱うコンパニオン・ルールセット(緑箱)からは、領主となって自領の経営に乗り出したり、あるいは今いる世界(物質界)を離れて次元界をまたにかけた冒険に出向いたりすることになるのですが、やがて直面するのは、宇宙のすべてに熱力学的な死をもたらす「エントロピー」との対峙にほかなりません。
 私自身、「エントロピーとの戦い」をテーマに、『ウォーハンマーRPG』やCD&DのキャンペーンをGMとして運営したことがあります。

★変化するシステム

 D&DにはCD&Dのほかに、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』という別ラインのシリーズがあり、それらは2000年の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3版で統合され、2003年の第3.5版、2008年の第4版、2014年の第5版と、システムを大きく様変わりさせています。
 『ウォーハンマーRPG』の第2版は、D&D第3版の系列のサードパーティであったGreen Ronin社が関わっていたため、緻密な状況の再現がウリであったD&D第3.X版を意識しつつも、随所でゲームマスターのファジーな判断を加えやすいデザインになっていたと、私は現場で何度となくプレイして、つくづく実感しました。イベントでは、「D&D第3.X版と、『クトゥルフ神話TRPG』をハイブリッドさせたようなシステム」と紹介したこともありました。
 『ウォーハンマーRPG』第4版は、世界観的には初版回帰の色彩が強いシステムで、実際、メイン・スタッフには名作ユーモア・シナリオ「エウレーカ!」で知られるアンディ・ローも名を連ねていますが、システムも独自の変化を遂げてきました。
 ただ、第4版の『ウォーハンマーRPG』を、純粋に数理的なルールシステムに限って言えば、単純に他のファンタジーRPGと比べることは、以前の版に比べて、難しくなってきているように思えます。第4版では「優位」等、独自のギミックが増えてきたからです。
 それでも、「キャラクター作成の時に、ダイスでランダムにキャラクターを選んだ場合、任意に選んだ場合よりも、ボーナスとして経験点をもらえる」といった具合に、オールドスクールRPGファンならば、「なぜ、ここに気づかなかったんだろう」という、痒いところに手が届くようなルールが増えています。
 既存のファンのみならず、ゲームデザインの最新形がどうなっているのかを知るためにも、ぜひ、第4版に触れていただければと思います。


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