2022年10月22日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.10


 2022年10月20日配信の「FT新聞」No.3557に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.10が掲載されています。今回はいよいよ、GAZ2『イラルアム首長国連邦』の設定が入り、凶悪無比な「あの」D&Dオリジナルモンスターと対峙します!

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.10

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回はGAZ2『イラルアム首長国連邦』の設定も導入しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/491279639.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第10話「ビホルダー」)の内容となります。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。

インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
マレク/リアの兄。故人。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリックス男爵/邪悪きわまりない貴族。通称「ブラック・イーグル」。
占い師アルヤ/謎めいた美貌の占い師。正体は「盗賊王」フレームフリッカー。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のギルドマスター。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
シャーレーン大司教/スレッショールドの街の統治者。
ゴルサー/謎の魔法使い。
「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマン/イラルアム首長国連邦のデルヴィーシュ。

●殺人事件

 スレッショールドで起こった殺人事件に戸惑うパーティ。
 しかも被害者はリアの兄、マレクである。
 慌てて現場に駆けつけた一行が目撃したものは、見るも無惨に引き裂かれた肉片の山だった。
 それを見たインジフは、好々爺の仮面を脱ぎ捨てた。
 かつてスレッショールドの裏社会を取り仕切っていた頃に戻ったかのような猛々しい様子で、真相の徹底的な究明にかかることを宣言したのだ。
 あまりの剣幕に、取りつくしまもない。

●アラディンとの出会い

 一方、「鉤と十字亭」に残っていたメンバーは、奇妙な人物との出会いを果たした。
 ターバンを巻き、ぼろぼろになったローブを着込んだ初老の男が話しかけてきたのだ。
 彼は、自分が「砂漠のウズラ」、アラディン・アル・スレイマンと名乗った。
 砂漠の国イラルアム首長国連邦から、占い師アルヤを尋ねるためはるばる旅してきたらしい。

●イラルアム首長国連邦とは

 イラルアムでは、アル・カリムという伝説的英雄が興した一神教、「エターナル・トゥルース」が奉じられている。
 信者は「ナーメー」という教典に記された厳格な教えに従って生きる。
 彼らは、イラルアムの地を再び牧草が生い茂り、水が空気のように豊かに湧き出る地とするために、まさしく全力を傾注しているのだ。
 そしてアラディンは、「ナーメー」の生き方のみを自らの範とし、砂漠で孤独な修行の日々を送ることを旨とする「デルヴィーシュ」と呼ばれる特別な職についているのである。
 だが、自ら「砂漠のウズラ」(ウズラは歌が上手な人の意)と称するだけあって、アラディンはなかなかに弁舌巧みである。
 詩人ドワーフであるタモトも負けていられない。
 二人は「歌合わせ」で詩人としての力を競うことにする。
 結果は……。見事、タモトが勝利した。
 朗詠があまりにも見事だったので、立ち聞きしていたスペキュラルムの文学サークルの面々からお誘いがかかるほどだった。
 その後、彼らはアラディンをアルヤ(フレームフリッカー)に引き合わせようとしたけれども、彼女の姿はいずこかへ消えてしまっていた。
 そこで、イラルアム人はこの宿で一夜を明かすこととなった。

●次の日

 晩になっても、インジフは「鉤と十字」亭に戻ってこなかった。
 代わりに現れたのは、スペキュラルムで密偵をやっているはずの、リアの長兄ダニエルだった。
 本人は語らないが、どうやら祖父の呼び出しを受けたらしい。
 不穏な雰囲気が立ちこめる。
 翌日。起きて食事に向かった一行を待ち受けていたのは、楽しげに話を交わしているアラディンとフレームフリッカーだった。
 いつの間に戻ってきたのか。
 彼女は、自分たちのテーブルに一行を招いた。
 話の内容が、パーティが関わってきた冒険に関係あるらしい。

●アラディンの来訪目的

 アラディンは静かに語り始めた。
 それによると、彼が国を離れ、フレームフリッカーを尋ねた理由は2つあるという。
 1つは、彼の氏族が守護していた「生命の樹」が原因のわからないまま枯れ始めるという事件の、打開策を探さねばならなくなったため。
 もう1つは、「フォート・ドゥーム」のブラック・イーグル男爵と名乗る男が、ひそかにイラルアムの首長連に、カラメイコス大公国に攻め込むための手引きを行っていることを、報告するためである。
 彼の口から発せられた「生命の樹」という言葉に、パーティは動揺を隠せない。
 そこで、パーティはこれまでの冒険を包み隠さず話したうえで、ロスト・ドリームの森に住むカラーリー・エルフを訪れるべきだとアラディンに勧めることにした。
 イラルアム人は頷き、「ナーメー」を引用して礼を言った。
 「自分はこれからそのエルフに会いにいかねばならない」、と。
 「君たちの行く手は死のごとき暗闇に包まれている」と付け加え、多少の手助けにでもなればと、首から下げていた「プロテクションスカラベ」(一定回数の呪いや「フィンガーオブデス」を吸収するアイテム。ただし、「デススペル」には効果がない)を手渡した。

●シャーレーン大司教との会合

 宿を後にするアラディンの後ろ姿を眺めつつ、一行はどう行動すべきかを相談し合った。
 決定事項はこうである。
 ヨランダの提案を受け入れ、まずはシャーレーン大司教と面会して、ステファン・カラメイコス公から預かった書面を渡し、スレッショールドへの難民受け入れを要請しなければならない。
 それが終われば、ブラック・ピーク山脈に眠っているという伝説の武器を魔術師ゴルサーが入手してしまう事態を阻止することが急務となっている。
 パーティはシャーレーン・ハララン大司教の住む、ターンズ砦へと向かった。
 今日はターンズ砦の警備を任されていたアーソル軍曹に挨拶し、大司教に取り次いでもらう。
 パーティは、シャーレーン大司教の厳格そうな様子にたじろぎながら難民受け入れの話を持ち出したのだが、相手は拍子抜けするくらいあっさりと了解してくれた。
 娘であるアリーナ・ハラランから一行の活躍を聴いていたからだろう。
 が、大司教は駆け引きというものを心得てもいる。
 交換条件として、パーティブラック・ピーク山脈にあるフォームファイア峡谷に救うノールどもを掃討するという使命を負わされることとなってしまった。
 ただ、彼らはもともとブラック・ピーク山脈へと向かう途中だったから、このクエストは渡りに船だった。

●フォームファイア峡谷へ

 砦を離れ、「鉤と十字」亭に向かったパーティ。
 その途中、なぜか町中で暴れている熊に出くわしたり、スリに間違えられたりとひと騒動あったのだが、無事、一行は再会を果たした。
 その足で、フォームファイア峡谷へと通じる道を歩いていく。
 殺人事件も心配だが、そちらの方は、海千山千のインジフとフレームフリッカーに任せることにしておいた。
 峡谷はなかなか険しく、旅慣れた彼らにとっても決して楽な道程ではなかった。
 ノールに襲撃された冒険者の遺骸を片づけ、先へ先へと進んでいくと、急に辺りが濃い霧に包まれてきた。
 ほとんど前が見渡せない。
 そのうえ、怪しげな旋律が響き渡ってきた。ノールどもが現れたのだ。
 だが、経験を積んだ彼らにはノールごときは敵ではない。
 順調に掃討していく。
 しかし、その背後には、もっと恐ろしいものが控えていた。

●目玉の暴君

 空中に浮遊する巨大な球状のモンスター。
 頂部には先端に目の付いた10本の突起が映えており、体の正面には大きな主眼がある。
 開かれた口は、体全体のおよそ半分を占めており、鋭い牙が間断なく生えている。
 「多眼の球魔」と畏れられる伝説のモンスター、「ビホルダー」が、その姿を現したのだ!!
 ビホルダーは非常に高い知性を有している。
 魔力によるゆっくりとした飛行で移動するうえ、正面の主眼は常に「アンチマジック・レイ」を放っており、敵の魔力を無効化する。
 さらに、眼突起はそれぞれ、「チャーム・パーソン」、「チャーム・モンスター」、「スリープ」、「テレキネシス」(念動力)、「フレッシュ・トゥ・ストーン」(石化)、「コーズ・フィアー」(恐怖付与)、「スロー」(減速)、「キュア・シリアス・ウーンズ」(重症治癒)、「デススペル」(死の呪文)の呪文を同時に放つことができる。
 まさしく悪夢の到来だ。
 あまりの事態に愕然とする一行。
 必死で応戦するも、「テレキネシス」の呪文で、頼りにしていたグレイの「スタッフ・オブ・パワー」は奪われてしまうし、リアやヨランダは「チャーム」されてしまう。
 それでも必死でエフリーテを呼び出して援軍とし、眼突起のほとんどを切り取ることに成功した。
 しかし、ビホルダーも負けてはいない。
 眼突起から放たれた「フレッシュ・トゥ・ストーン」の光線が、ドワーフの鋼の抵抗力を貫き、タモトを石に変えてしまったのだ!

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2022年10月19日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.24

 2022年10月6日配信の「FT新聞」No.3543に、「『ウォーハンマー RPG』を愉しもう!」Vol.24が掲載されました。今回は英語版の新作『ザルツェンムント』や、待望の日本語版新作サプリメント『ライクランドの記念碑』について紹介しています!

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.24

 岡和田晃
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 苦悶の表情を浮かべた霊は、問わず語りに、故郷グリュンブルク南部にいた頃、ホルガー・ラウク市長の立像に悪戯した経験を話し出す。
「石を投げつけ、ゴミを投げつけ、時にはもっと“ステキな”ものまでをもぶつけてきた。
 ケバケバしく飾られていた像は見る影もない情けない。
 悪臭紛々とし、金目のものは引き剥がされている。よほど腹に据えかねていたのだろう。
 ただ、やりすぎると市長の霊が戻ってくると及び腰な連中がいたのも確かで、実際のところ像の影はおかしくないのを見て、それで……」
 わたしは困惑した。幽霊が幽霊怪談を語り始めたのか? それとも、市長の幽霊との対決、ということなのか?
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●お待たせしました

 少し間が空いてしまいました。当初から本連載は隔週ペースというハイペースで書きたいことをあれこれ綴って参りましたが、文字数からすると“異常”な頻度を少しセーヴしつつ……他の連載や企画と並行する形で、『ウォーハンマーRPG』についてもじっくり語っていければと考えますので、どうぞ長い目で見てやってください(『ユーベルスライク冒険集』についても語り足りないですし)。

●新作サプリメント、これが面白い

 英語版の新しめのサプリメントで岡和田のお気に入りは、『ザルツェンムント:塩と河の都(Salzenmund: City of Salt and River)』です。
 ザルツェンムントとは、エンパイア北部の両方ノードランドの首都で、名目上の君主はテオドリック・ガウサー選帝侯ですが、勅許自由都市として、アルトドルフのように権謀術数が蠢くというよりは、「半分ノース人」と揶揄されるような、のびのびして大らかな気風で知られています。そのぶん好戦的な面もあるようです。
 私は都市設定サプリメントが好きで、第2版のときはミドンランドの首都ミドンヘイムの都市サプリメントも兼ねた『ミドンヘイムの灰燼』の企画を持ち込んで自分で訳したほどなのですけど、まさかミドンヘイムよりもさらに北にあるザルツェンムントが単独のサプリメントになるとは、夢にも思いませんでした。まさしく情熱が奇跡を呼んだ1冊です。

●日本語版の新作『ライクランドの記念碑』

 で、日本語版はどうなのか、という話しですが、これまためでたく、『ウォーハンマーRPG』第4版の日本語版公式サイトでアナウンスされていた新作サプリメント『ライクランドの記念碑』が出版されました!
 PDFオンリーで700円、15頁構成と、取り回しのいい小著ですが、中身はぎっしり詰まって濃厚です。何より、「このサプリメントは『ウォーハンマーRPG』じゃないと出せない」感が素晴らしい!
 こちらは編集の伏見義行さんが翻訳を手掛け、私と待兼音二郎さんが監修に入っています。
 しかしいったい、なぜ「記念碑」? 原著のタイトルは「Monuments of the Reikland」ですから、忠実な訳になっています。それでは商品紹介を見てみましょう。

 『ウォーハンマーRPG ライクランドの記念碑』には、五つの注目すべき記念碑、彫像、塔が記されており、プレイ中のキャンペーンに登場させたり、新たな物語を始めるきっかけづくりとしたりするのに最適だ。
 各記念碑の外観の詳細な描写だけではなく、その記念碑に秘められた危険な秘密や陰謀などが、新たな冒険の幕開けとなるだろう。

 ――うーん、わかったような、わからないような? 「五つの注目すべき記念碑、彫像、塔」って何なのでしょう? 『ウォーハンマーRPG』ファンの「鋼の旅団」さんは、これは「シグマー像とホエスの白い塔とストーンヘンジ」とおっしゃっています。
 『ウォーハンマーRPG』をご存知ない方には馴染みが薄そうな言葉を解説すると、シグマー像とは、エンパイア建国の英雄にして今は神となった者の像ということ。ホエスの白い塔とは、ウルサーン諸島にあるハイ・エルフの塔のことで、あらゆる知識が集積され、至高魔術(ハイ・マジック)の研究がなされている場所。「ホエス」とは、『ウォーハンマーRPG』第4版のルールブックでは、エルフの神々に分類されています。
 どれもオールド・ワールドでは有名な固有名を冠するもので、そう思いたくなります。

●5つの記念碑とはどんなもの?

 ただ、『ウォーハンマーRPG』は、私たちの予想の遥か先を行ってくれておりました。『ライクランドの記念碑』で解説されるのは、次の5つ。

・ホルガー・ラウク市長の立像
 凶作なのに小麦粉の供給を操作して私服を肥やした市長が、自画自賛のために造った彫像。市民から嫌われているので、頭部は取れて代わりに腐ったカブが置かれている。

・アウエルスヴァルトの戦いの戦没者追悼碑
 ゴブリンやオークの軍勢から人々を護るため、決死隊を組んでドワーフが大砲(キャノン)の弾込めをする時間を稼いだマルタ・フォン・ヴァレンシュタイン女男爵らの108名に及ぶ戦没者の追悼碑。

・フォン・プロツカナルの時計塔
 分や秒まで刻まれるばかりか、メリーゴーランドまで付いている精巧な機械仕掛けの時計塔で、製作者の技師ゲルト・フォン・プロツカナルはこれがため狂気に陥った。

・マッケンシュタインの鷹の像
 オーベルヴァルト群とマッケン男爵領との境界を示す鷹の像で、幸運の印とみなされており、旅人は嘴部分に触れると前途を見通すことが可能となる。

・パラノスの柱
 翡翠の学府の主席魔道士(パトリアーク)であるガーヴァン・パラノスにちなんだ脊柱で、高さは67フィート(約20メートル)を越え、隅々までが植物で覆われている。

 興趣を損ねない程度に記念碑群の概要を伝えると、こんな具合になります。実に細かいものながら、固有名を入れ替えれば他の地方――さらには他のファンタジーRPGでも――使えそうな、そんな設定ばかりなのです。
 こうした普遍性があるにもかかわらず、こんなサプリメントが発売されるのは『ウォーハンマーRPG』くらいだろうと思わずにはいられないところが、実によく“わかっている”のです。
 各々の記念碑には、あっと驚く秘密や仕掛けが隠されており、これが謎と危険に満ちた世界オールド・ワールドの深奥に、それぞれの切り口から踏み込んでいるのが読ませます。もちろん、NPC等の関連する追加データも収められており、初心者GMでもこの記念碑を扱うシナリオをデザインしたくなるのは請け合いですし、手慣れたGMならば個々の設定だけで、そのままセッションが出来てしまうことでしょう。
 加えて、個々の記念碑にまつわる設定の拡張案も、アドベンチャー・フックとして記されているといった具合で、ぬかりがありません。

●『ライクランドの記念碑』を活用しよう

 もともと、『ウォーハンマーRPG』第4版「古代の遺跡と恐るべき廃墟」の節があり、太古のちからが眠る闇石の輪、〈大魔法使い〉コンスタント・ドラッケンフェルズの塔、危険な山頂に現れるヘルスパイア、息を飲むような絶景ロウレィ群礁、歌う太古の支石墓(ドルメン)、といった曰くありげな場所が紹介されており、読者はそれらを参考にシナリオを作成することができました。
 ただ、『ライクランドの記念碑』は、公式サイトから無料ダウンロードできる『ライクランドに冒険あり!』とはまたテイストが異なります。思うに、記念碑というブツにこだわったところがオールド・ワールドらしさなのではないかと。
 つまり、今回の冒頭で紹介した『ザルツェンムント』のように街まるごとをデザインするのではなく、だからといってあまり抽象的にもなりすぎず、どの都市にでも応用できて具体的にイメージしやすいのが記念碑本、ということなのでしょう。
 「この記念碑の秘密はこういうのかな?」と予想したくなるユーザー心理を、絶妙なバランスで突いているのです。
 「ホルガー・ラウク市長の銅像」について言えば、汚職の疑いが濃厚な政治家が自身の銅像の建立を企てる……これは現代日本においても、ついこの間ニュースになったばかりの話でして、同種の事例は日本のみならず世界各地で起こっていることなのですね。
 そういう意味では、本書はいつの時代にどこの場所で起きてもおかしくない事件を題材にしているわけですが――世界観的には矛盾がないものの――あっと驚くどんでん返しを仕掛けることで、既視感を満足度に変えるための工夫がなされているのです。
 是非『ライクランドの記念碑』をはじめ、『ウォーハンマーRPG』第4版の各種サプリメントを入手し、フル活用なさってみてください。
 翻訳・紹介している側も、皆さんの応援こそが力の源であるのです。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
『ウォーハンマーRPG ライクランドの記念碑』
 オールド・ワールドの五つの注目すべきモニュメント
 発売日:2022年10月
 価格:700円(+税) *PDF版ダウンロード販売のみ
 https://conos.jp/product/whrpg-5elements/

『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
 https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/


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2022年09月29日

SISD(スペース・インベストメント・ソリティア・ダイス)

 2022年9月22日の「FT新聞」No.3529に、「SISD(スペース・インベストメント・ソリティア・ダイス)」が掲載されています。小池鷹生さんデザイン、単体プレイ可能な宇宙版「ソリティア・ダイス」! ぜひ遊んでみてください。

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SISD(スペース・インベストメント・ソリティア・ダイス)

作:小池鷹生
監修:岡和田晃
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◯はじめに(岡和田晃)
 本稿は「FT新聞」No.3515にて配信された「シド・サクソン「ソリティア・ダイス」の構造分析」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/491671714.html)に記した発展案をもとに、小池鷹生氏が完成させたオリジナル・バリアントゲームで、単体でのプレイが可能です。
発送元となった「ソリティア・ダイス」を収めた『シド・サクソンのゲーム大全』(1969年、竹田原裕介訳、ニューゲームズオーダー、邦訳2017年)の版元の許諾をいただき、「FT新聞」にて公開します。同書の編集を手掛けられた沢田大樹氏に記して謝意を捧げます。
「ソリティア・ダイス」をプレイしたことのある方は、ぜひ試してみてください。未プレイの方は、本家の方も遊んでいただければ幸いです。

◯ルール(小池鷹生)
 本ゲームのゲームメカニクスは『シド・サクソンのゲーム大全』に収録されている「ソリティア・ダイス」(シド・サクソン作)を強く参考にしています。

 21XX年、人類は宇宙への進出を果たしつつある。しかし資源は足りていない。

 あなたは成長しつつある惑星間事業へと投資を行っていく宇宙資源マネージャーだ。採掘船はまだ少なく、得られる資源はばらつきが多い。あなたの持っている資源コンテナはたった1つ。そして投資対象を適切に見極めなければ、不採算部門となってしまったり供給過多による値崩れが発生したりする。20年であなたの宇宙開発はどこまで成長することができるだろうか?

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↓続きはこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/article/SISD.pdf
posted by AGS at 06:26| コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月21日

シド・サクソン「ソリティア・ダイス」の構造分析


 2022年9月8日配信の「FT新聞」No.3515にて、「シド・サクソン「ソリティア・ダイス」の構造分析」」(小池鷹生作、岡和田晃監修)が掲載されています。『シド・サクソンのゲーム大全』収録作を論じたもの。東海大学のゲームデザイン論、学生レポートの優秀作です。

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シド・サクソン「ソリティア・ダイス」の構造分析

作:小池鷹生
監修:岡和田晃
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◯はじめに(岡和田晃)

・この記事は何か?
 本記事は岡和田晃が東海大学文芸創作学科で2022年度春学期に開講したゲームデザイン論における中間レポートの優秀作です。
 通常、この講義ではRPGを中心としたストーリーゲームの視点から文学(史)を見直すというアプローチを採ることが多いのですが、今期は『シド・サクソンのゲーム大全』(1969年、竹田原裕介訳、ニューゲームズオーダー、邦訳2017年)や、ウォーシミュレーションゲーム「ドイッチュラント・ウンターゲルト」(高梨俊一デザイン、「タクテクス」7号、1983年)を実際にプレイしてゲームの構造や歴史的背景を分析するという課題に取り組むことで、デザインの幅を広げることを目指しました。
 そして本稿は、『シド・サクソンのゲーム大全』所収の「ソリティア・ダイス」を分析するものです。サクソンは『アクワイア』のデザイナーとして著名ですが、同時にゲーム研究者やコレクターとしても知られています。彼はダイス・ゲームの歴史を概観した後、「その歴史の長さにもかかわらず、ダイスを使用するゲームの開発がここまで少ないことは驚きである。しかもそのほとんどは技術や決断を行使する機会がほとんどない、純粋なギャンブル・ゲームなのだ」と嘆き、そのギャップを埋めるために「ソリティア・ダイス」をデザインしたといいます。
 実際、私が知るなかでも商業的に成功したダイス・ゲームはさほど多くなく、代表的なものとしては(シド・サクソン自身の『キャント・ストップ』やアレックス・ランドルフの『ウミガメの島』を除けば)、ダイスポーカーというべき『ヤッツィー』や、複雑なコンボを発生させていく『王への請願』(トム・レーマン)等が挙げられるでしょうが、私見では「ソリティア・ダイス」のプレイ感覚は、ちょうど両者の間くらいです。

・ルール
 具体的なルールについては『シド・サクソンのゲーム大全』を確認いただきたいのですが、かいつまんで説明しますと、6面体サイコロを5つ振り、その結果をダイス2個ずつによる「コンビネーション」2組と、「リジェクト」1つに振り分けることを繰り返していくというものです。ただし、「リジェクト」の数字は3種類までしか選択できません(なお、「リジェクト」が固定化された後でも、それら3つの数字を含まない出目を振ってしまった場合、「フリー・ライド」が発生します)。
ゲームはリジェクト数字3つのうち1つを8回出すまで続けられ、発生したコンビネーションの種類と回数によって、得点が決まります。得点は表によって決まり、そちらは『シド・サクソンのゲーム大全』をご参照ください。


◯本論(小池鷹生)

 前提として、分析対象には選択ルールの競争プレイを含まないものとする。また、ダイス 5 個を振り、2 つのコンビネーションを作る (さらにフリー・ライドでなければリジェクトを 1 つ決める) 一連の工程を「ラウンド」と呼ぶことにする。

 『ゲーム探検隊』(草場純・南雲夏彦・赤桐裕二・本間晴樹、ニューゲームズオーダー、新版2021年)を参考に区分するとしたら、「ソリティア・ダイス」は 1 人非有限非確定完全情報ゲームに分類され、どのようなダイスの出目であっても勝利条件 (500 点の獲得) を満たせるような戦略、すなわち必勝法はおそらく存在しない。ダイスを 5 個振った際に出る可能性がある組み合わせは重複を考えると 252 通りと有限であるが、3 つ以上チェックがついている場合にはフリー・ライドが 1/32 の確率で、それ以下のチェック数であればより高い確率で発生するために無限にラウンドが続く可能性があり、本ゲームは非有限ゲームに分類される。

 具体的な数字を用いて考察を行おう。このゲームはフリー・ライドが発生するラウンドを除けば最大で 23 回までダイスを振ることができる。フリー・ライドの発生確率とリジェクトするダイスの選択が限られる場合の事を考えると、概ね 20 回程度のラウンドで一つのゲームが構成されると言えるだろう。ここで例えば和が 2 となるようなコンビネーションを作るとする。これには出目 1 が 2 以上必要であり、5d6 でこのような組み合わせの出る確率は 19.6%、概ね 5 回に 1 回となることを考えればコンビネーション 2 を得点源として狙うのはリスキーな戦略であることがわかる。

 より大きい和の場合はどうだろうか?コンビネーション 3 を作ることができる確率は32.8%、コンビネーション 4 の場合は 49.1% となる。ただ、注意しなくてはならないのはこの計算ではリジェクトを考慮していないことである。例えば 2 がリジェクトされている場合、コンビネーション 3 を作るためには出目 1 に加えて 2 つ以上の出目 2 を出さねばならず、確率は 9.1% にまで低下する。ここで考えられる戦略の一つはリジェクトする数字を偏らせる、例えば 4、5、6 を選ぶことで特定のコンビネーションを作りやすくすることである。ただ、この戦略では想定外のコンビネーションを作らざるをえないリスクが高くなる。

 これと対立する戦略として、出やすい組み合わせを狙う事も考えられる。和が 6、7、8となるようなコンビネーションは様々な組み合わせで作ることができる一方で、得られる得点は少なく、かつ 11 個目以降のチェックが得点にならないという弱点がある。

 この 2 つの戦略のどちらが高い点数を得やすいかは簡単には判別できない。それぞれの戦略がルールによって適度に制限され、プレイを重ねなければどのレベルでリスクを許容すべきかを掴むことはできないからである。それに加え、ダイスの乱数性がプレイヤーがどのような選択をするかを複雑にさせる。

 本ゲームの面白い点として、どのコンビネーションに「投資」を行うのかの判断に伴う戦略性が挙げられる。あるコンビネーションはチェックが 5 つ溜まるまでは負債であり、それ以上のチェックをしなければ得点にすることができない。ここで作りやすいコンビネーションは得点が低く、逆に作りにくいコンビネーションは得点が高いことが単純な戦略を立てることを難しくしており、プレイヤーごとに戦略を考える楽しさを作り出している。先に説明したリジェクトやコンビネーションの選択以外にも、例えば序盤のどのタイミングで 3 つのリジェクトを決定するか、終盤で望まないコンビネーションの形成とゲームの終了のどちらを取るかなどといった判断が必要となり、それぞれにプレイヤーごとのやり方が構成されるだろう。

 さらに踏み込んで考えよう。このゲームを発展させることはできるだろうか? 例えばゲームの外観を変え、ストーリーを作ることが可能である。サイコロで出た目を資源、コンビネーションを事業、リジェクトを独占禁止法や税金と置けばソリティア・ダイスは投資ボードゲームになる。事業が成長しなければ初期投資を回収できず、赤字が生まれる。一定以上安定した事業では、さらなる投資を行っても利益は得られない。このようにルールにストーリーを適切に持たせれば、一つの世界観を作ることができる。

 ルール自体を変えることもできるが、これは決して易しい作業ではないと考えられる。このゲームには変更可能なパラメータ (各コンビネーションごとの得点、得点となるチェック数の上限と下限、リジェクトの制限、ゲーム終了の条件、勝利となる得点) が存在するが、今の状態で比較的よくまとまっているように見られ、変更を加えた際のゲームバランスへの影響はテストプレイを繰り返すかある程度複雑な数学的計算を行わなければ把握することは難しい。

 ソリティア・ダイスはサイコロと紙があればプレイでき、様々な戦略が考えられ、一回のプレイ時間はそこまで長くなく、適度にダイスの女神に翻弄されうるゲームである。二、三回遊べば把握できるシンプルなルールであることを考えると、非常によく練られているゲームであると言えるだろう。

◯補足(岡和田晃)

 ここで記した発展案を、小池氏は期末レポートとして取り組み、実際に完成させました。そちらについては機会がありましたらぜひご紹介したいと思います。また、それとは別に、講義内でプレイしたRPG『聖珠伝説パールシード』のハウスルール(オリジナルの追加データ)もデザインしました。こちらはオニオンワークスが2022年9月に刊行する30周年記念本『魔の謔れ』(http://tamasuna.jp/pearl/kinen2022.html)に掲載される予定です。
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2022年09月06日

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる『名もなき村を越えて』リプレイ

 2022年8月29日の「FT新聞」に、齊藤(羽生)飛鳥さんによる、「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中〜名もなき村を越えて〜」のリプレイが掲載されました。

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.14
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このたび、九月中旬にPHP研究所から羽生飛鳥名義で『『吾妻鏡』に見るここがヘンだよ!鎌倉武士(仮)』を刊行することとなりました。
小説ではなく、著者初の歴史うんちく本です。タイトルでおわかりのとおり、鎌倉武士達を中心に、『吾妻鏡』に登場する面白人間達総勢50人を紹介した本です。
T&Tの世界に転生してきても、たくましく生き延びられるような愉快な人々が満載です!
……と、わたくしごとはここまでにして、今回も翠蓮とシックス・パックの冒険です。
前回の冒険をすんでのところでしくじった二人組ですが、今回の冒険はどうなることやら……。
ちなみに、今回のキャラクターで気に入ったのは、タクシー運転手のウカです。
眼帯タクシー運転手、そしてボスキャラの犬とは、一人でいくつ属性を背負っているんでしょうか。とても想像がはかどって、勝手に個性を膨らませてしまいました^^
ちょっと登場するだけのキャラクター達にも味があるのが、T&Tソロアドベンチャーの魅力の一つですね♪


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『名もなき村を越えて』リプレイ
 『〈屈強なる〉翠蓮とシックス・パックの名もなき村を越えて』

著:齊藤飛鳥
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0.屈強なる開幕

あたしの名前は〈屈強なる〉翠蓮。
前回の冒険で金髪に染めた髪が元に戻って来たせいでプリンみたいな頭になっている、ロリ体形がチャーミングな18歳の人間の戦士ヨ。
旅の相棒は、アルコール漬け岩悪魔のシックス・パック。
いずれ〈トロールワールド〉の恋愛要素皆無の美女と野獣コンビとして知られる予定の冒険者ネ。
前回の冒険で盛大にしくじったあたしらは、イーグル大陸のゾルに漂着したけれど、そこから酒と涙と汗と涎なくして語れない冒険をして、しくじった冒険のリベンジとばかりに、目的地だったダークスモーク島にやって来たところヨ。
「おい、翠蓮。おめえ、時々あらぬ方向に向かって自己紹介してねえか?」
「気にするな、シックス・パック。単なるお約束ってやつネ」
あたしは、屋台の黒ビールを大ジョッキであおっているシックス・パックに返事をしてやった。
「しかし、前の冒険のリベンジだと勢いこんでダークスモーク島に来たものの、冷静に考えてみりゃ、今さら果たせなかった依頼をできるわけもねえ。新しい冒険を探さなくちゃな」
「今さら気がついたのカ、おまえは」
ここ最近、買い物できる場所に着くまでは、ランプのアルコールすら飲ませる節約冒険ライフだったから、シックス・パックの知性度があたしよりも怪しくなっていたようだ。
この飲んだくれ岩悪魔は、酒さえたっぷり飲ませていればそこそこ頭も切れるし腕も立つ奴なのだが、酒が切れるとたちまち役立たずを通り越して襲いかかってくる、厄介者でもあるネ。
でも、あたしらはお互いに利用し合う麗しい関係ってことで納得づくだから別にいいサ。
「何だ、翠蓮。その使い古した便所スリッパを見るような目は? 俺様より知性度が低いくせに、俺様の知性を疑っているのか?」
そう言ってから、シックス・パックは、ダークスモーク島をおおっていた青みがかった霧について、うんちくを語り出したネ。
「それはさておき、シックス・パック。今度の冒険はどうするヨ」
「せっかく俺様がそらで語ったコフラディウムの講義をさておくなよ! とは言え、早く冒険して一稼ぎしてたっぷり酒を飲みてえのは事実……」
「悩んでいる時間がもったいないから、波止場で情報収集するネ」
「賛成。何で早くそのことに気づかなかったんだろう?」
「おまえが今の今まで、波止場の屋台で黒ビールをあおっていたからヨ」
こうしてあたしらは、屋台の親父に別れを告げて情報収集を開始したネ。


1.屈強なる波止場

波止場には、ゾラグ男爵のガレー船が停泊し、転移門経由でジンド大陸と〈トロールワールド〉を行き来している命知らずの船員達がうろついていたヨ。
「ダークスモークに気に入られて煩わされたら厄介だが、この辺りで手に入る麻薬“ダークスモークの喜び”の価値は、危険を補って余りあるよな」
「だよな。“漆黒の鷲”子爵は、どうやってか大量に手に入れて売りさばいているから、笑いが止まらないってよ。羨ましい話だぜ」
波止場を行き交う通行人達の会話を耳にして情報収集していると、シックス・パックが鷹と百合の紋章が掲げられたガレー船に中指を立てていたネ。
こいつの反社会的奇行は、日常茶飯事。鼻くそを船体になすりつけていないだけマシだから、ここはスルーしてやるヨ。
波止場にはえらく似つかわしくない、ダルセン公爵の旗が上がっている要塞めいた建物を見つけたネ。
「こうして見ると、冒険のネタを持っていそうな連中がそろいまくった波止場サ」
「そうだな。で、どこへ行ってみる? 言っとくがまた“ダークスモークの喜び”に関わるのはごめんだぜ。あれに関わったおかげで、俺様達がえらい目にあったんだからよ」
「だったら、さっきおまえが中指立てていたガレー船に行ってみるカ?」
「ああいうお上品ぶった連中とは関わるのは、虫唾が走る!」
「そんなこと言って、本当は怖いだけカ?」
「違う! よし、いっちょ行ってやろうじゃねえか!」
こうして話がまとまったところで、あたしらはゾラグ男爵のガレー船へ向かったヨ。


2.屈強なる依頼人

ゾラグ男爵はモーベロス家のカイシールに仕えているお貴族様で、傍らにはカイシールの姪にあたるダイアラがいたネ。
深窓の令嬢な見た目に反して、強情っぱりで凄腕の剣士って評判らしいヨ。
だけど、ダークスモークのダンジョンに挑戦したら、魔術の罠にかかって囚われの身になってしまったとか。
「ダロウズ・エンドの魔女のアシュヴィラに助けてもらわなければ、今頃どうなっていたか……」
「嬢ちゃんもアシュヴィラに助けてもらったネ。あたしらもヨ」
思いがけず共通の知人の名前が出てきたので、一気に話が弾んだ。
「アシュヴィラにせっかくダンジョンから助けてもらったのに、佩いていた野太刀を失くすは、名もなき村の〈七つの呪い〉亭で祝杯を上げたら、ダンジョンの出入り口の記憶を失くすは、自分が情けない……」
「気にしないネ。酒を飲めば誰だってそうなるものヨ」
あたしはさっきから会話に参加せず、虫唾が走った顔のままゾラグ男爵を見ている飲んだくれ岩悪魔をちらりと見た。
「あの野太刀は、モーベロスの家紋、すなわち鷲と百合の紋章があしらわれている貴重なものです。あれを持ち帰らないと、ご先祖さまに申し訳が立たない……」
「わかった。あたしらが嬢ちゃんの野太刀を探しに行ってくるネ。シックス・パックもそれでいいナ?」
「おうともよ、相棒。で、男爵さんよ。あんた、いくら報酬をはずめるんだ?」
ここから、交渉開始。
男爵とダイアラは二週間、波止場で待ってくれているから、その間に野太刀を持ち帰れば、お礼に3000gpの報酬をくれると決まったヨ。
話がまとまると、あたしらは波止場に戻ってさっそく“タクシー”の運転手に交渉し始めた。
“タクシー”は牛車で、この島唯一の集落である名もなき村と波止場をつないでくれている。
運転手は、ウカと呼ばれる隻眼のいぶし銀で、やたらと存在感のあるナイスミドルだったヨ。
「タクシーに乗りたい? 嬢ちゃん達、料金は一人50gpだが払えるのか?」
「払えるネ。ここへ来るまでに散っていった仲間達の血と涙が染みついた財布に入った金貨を今こそ使う時が来たナ、シックス・パック」
「おう、そうだな。あいつらもこんなイケている“タクシー”に乗るために生涯かけて貯めた金を使われて幸せだろうよ」
「……一人20gpにまけてやるから、とっとと乗りやがれ、てめえら」
目頭を押さえて天を仰ぐウカに促され、あたしらはアドリブにしてはうまく値切ることができたことに満足しながら、座席でこっそりとグータッチしたネ。


3.屈強なる酒場

“タクシー”の移動は快適で、島で唯一の集落である、名もなき村に安全に到着できたヨ。
ウカに礼を言うと、「てめえらはせいぜい長生きしていきやがれ」と捨て台詞を吐いて去っていったサ。
「あいつ、何だかんだでいい奴だったな」
「きっと帰り道に小銭を拾うとか、いいことに出会えるネ」
あたしらはそう言いながら、村を一望したヨ。
前方には渦森という名の暗い森が広がっている。ダークスモークのダンジョンは、その森を抜けた先にあるようだ。
初めて来た村なのに、なんであたしらが知っているかと言うと、ウカの“タクシー”の中に置いていた「ご自由にお取り下さい」という村のパンフレットをもらってきたからネ。
「このパンフレットによると、『木造・石造りのクラシカルな建物が点在している閑静な村です。ダークスモークのダンジョンへ赴いた者の多くが帰って来ないか、戻ってきても狂気に陥ってしまっているからみすぼらしいし活気づいていない印象を受けるかもしれないけど、あくまでもうちは閑静な村です』だとよ」
「言葉を選びまくったパンフレットだネ。他にめぼしいこと書いてない?」
「『村に唯一の酒場〈七つの呪い〉亭は、アップルブランデーとピーチブランデー、蜂蜜酒が名物! 寡黙な男主人のプーカスさんが出迎えてくれますよ』とある。ほら、ここだ」
「パンフレット読み上げるふりをして、まんまと酒場に誘導しやがったヨ!」
あたしのツッコミも何のその、シックス・パックはスキップして〈七つの呪い〉亭へ入っていく。
「ひゃあ、アップルブランデーに、ピーチブランデー、そして蜂蜜酒! ここは甘ったるい酒がうまい店だにゃあ、はらほろひれはれ……。よーし、つぎはエールだあっ!」
わかってはいたけど、酒場のカウンターにフェードインした途端、シックス・パックは勝手に酒を飲み始めやがったネ。
果たして、プーカスがこの傍若無人飲んだくれアル中岩悪魔を目の当たりにした感想は? あたしは、気になって寡黙な酒場の主人ことプーカスを見てみたヨ。
……すごい。眉一つ動かさないし、冷静に空き瓶を数えて勘定をしているネ。
もう、寡黙とか冷静とかぶっきらぼうの領域を通り越して、無関心の領域ヨ。虚無すら感じるサ。
あたしは酒に夢中のシックス・パックの財布から5gpを抜き取ってから、自分の財布から出した5gpと一緒にプーカスに払ったヨ。
そして、一息ついてからエール酒を注文し、酒場の他の客の様子を観察したネ。
ダークスモーク島に来る連中なだけあって、みんな一癖も二癖もありそうな奴らばかりヨ。
“ダークスモークの喜び”を扱う商人もいるけど、こいつもあきらかにタダモノじゃない気配がプンプンしているネ。
あーぁ。絶対に“ダークスモークの喜び”には関わりたくないと思っていたのに、どっちにしろ関わる運命にあるみたいヨ。
覚悟を決めて、あたしは“ダークスモークの喜び”について訊ねてみることにしたネ。
「おぢさん、さっきから“ダークスモークの喜び”って言葉を何度も話しているけど、どんな喜びサ?」
エール酒片手に小首を傾げながら質問するロリ体形の美少女戦士に話しかけられ、返事をしない男はごく少数派ヨ。
「“ダークスモークの喜び”はカイワ草の別名なんだ。ただし、カイワ草は、緑色の苔のようで脂がかって見えるため、コレーラという接触毒によく似ているんだ」
商人の説明が終わったと思ったら、隣に座っていた商人その2まで説明してきた。
「カイワ草をいぶせばトリップでき、2時間の間、目につくものをランダムに《念動》の呪文を5レベルで使ったのと同じ効果を発揮できるんだ。わかりやすく言えば、6メートル以内で、君たちが持ち運べる重さの2倍までの無生物を、視線内のどこかへ瞬間移動できるんだ」
今度こそ説明が終わったと思ったら、商人その2の脇から、新手の商人その3が現れたヨ!
「知られている限り、ダークスモーク・ダンジョンにのみ自生しているが、迷宮探検家の乱獲に業を煮やした魔術師が、持ち帰る者から取り上げているそうだ」
ほー、さよカ。
これで説明終了かと思いきや、あたしの背後から新手の商人その4が耳元でこっそりとこうささやいたネ。
「タクシー屋のウカには気をつけろ。あいつはイヌなんだ」
思った以上に饒舌な商人達にお礼を言ってから、あたしは自分の席へ戻ろうとして、目つきの危険そうな魔術師が酒場の隅の席に座っていることに気がついたヨ。
あたしは、こいつにも話を訊いてみることにしたネ。
「あー、もしもし。そこの魔術師さん?」
あたしが声をかけても、狂った眼差しの魔術師はぶつぶつ呟きながら杯を傾けて、何やらぶつぶつ呟いていたヨ。
しかも、記憶を失った戦士が言葉を被せてくる。
どちらも言っていることがわけがわからないけど、世界の秘密の一端に触れたような気がしたネ。あたしは思わず持っていたエール酒をあおったヨ。
ふう、うまいネ。
こうして必要な情報を得られたところで、あたしはまだ酒を飲もうとするシックス・パックを引きずって酒場を後にしたヨ。


4.屈強なる集落

〈七つの呪い〉亭を出ると、お向かいにハイプリックス食料品店があったので、さっそくそちらへ赴いたネ。
パンフレットには「ハイプリックス食品店は、品揃え豊富! しっかり者の店主ハイプリックス・バゴットが経営しています」と書いてあったけど、扉を開けて見えたのは、いかにも吝嗇家って気配が溢れかえっている店主だったヨ。
さっきからこのパンフレット、言葉を選びまくっているサ。
冒険必需品が定価の5倍で売っていると知った時には、店の壁に「ぼったくり商店のぼったくり店主、昇天」という落書きと天使のわっかのついた棒人間を書きこんでやろうかと真剣に検討しかけたネ。
だけど、大金を支払えば呪いのアイテムにかかった呪いを《厄払い》の巻物で解呪してくれるし、干し肉で作られて、いざという時には食糧にもなる優れモノのビーフ・ジャーキンを取り扱っているので、思いとどまったヨ。
「ここではまだ買う物はないようだな」
シックス・パックがそう言ったのを合図に、あたしも食料品店を後にした。
次に行くことにしたのは、ティントン・ティリーの宝石店ネ。
理由は簡単。
食料品店に近いから。
宝石店の扉を開けると、ぽっちゃりとした店主のティントン・ティリーが見えたネ。
直後、あたしは目をハートにしたシックス・パックという信じられないものを目撃したヨ!
全力で店主を口説き始めるシックス・パックに、あたしは茫然とするしかなかったネ。
酒好き飲んだくれ岩悪魔が、人間の女性に興味を持つなんて……。
しかも、ぽっちゃり豊満陽気で小悪魔系の美女が好みだなんて……。
「おまえ、意外と女の趣味はまともだったのカ!」
「え、翠蓮? 何だよ、いきなり? あ、ティントン嬢。俺様が迷宮で見つかる最大の宝を楽しみにしていてくれ!」
シックス・パックは、今までに見たこともないくらい男前な表情で、ティントン・ティリーにウィンクする。
こんなうざい客にも笑顔を保てるとは、さすが店主ネ。
あたしは、意気揚々と店を後にする勘違い岩悪魔を追いかけ、彼女へ「うちのバカがすみませんねぇ」という顔で頭を下げてから店を出たヨ。


5.屈強なる“タクシー”

「麗しのティントン嬢に最大の宝を捧げるべく、ダークスモークの迷宮へいざゆかん!」
「おい。冒険の目的は、ダイアラ嬢ちゃんの落とし物を拾いに行くことヨ。ちゃんと覚えているネ?」
恋する男になったシックス・パックという世にも珍しい珍獣と連れ立って歩きながら、あたしらはウカの“タクシー”へ向かった。
「またおまえらか。どこへ行きたいんだ?」
「ちょっと待って。えーっと……」
確かダイアラは迷宮に閉じこめられ、アシュヴィラに助けてもらってやっと出られたと話していたネ。
すると、迷宮のわかりやすい場所にはいなかったことになるから……。
あたしの考えは、まとまった。
「ダークスモークのダンジョンの『知られざる別エリア』まで運んでほしいヨ」
「どこでその話を聴いた? こいつらはあのお方にとって脅威かもしれんな……」
「考え抜いた末の当てずっぽうの頼みネ。そこまで真剣に受け止めなくてもいいヨ」
何かきなくさくなりそうだったので、あたしは言いわけをしたけど、ウカは話もきかずにトレードマークの眼帯を外したネ。
そこにあったのは、つぶれた目ではなく、赤い宝石だったヨ!
「かっちょいー! マジで目に宝石が入っているぜ!」
「タクシー運転手にしてはやたら存在感あると思っていたら、やっぱりただ者じゃなかったネ!」
あたしらがはしゃいでいると、ウカが少し頬を赤らめてから、魔法の通信を始めたヨ。
「ええ。何と言うか……こう、骨があるというより、中身が濃いと言うか、こちらの予想をことごとくはずしてくると言うか、手に負えないと言うか……」
その通信が終わるか終わらないうちに、あたしらの前に突然人影が現れたネ!
「面白そうな連中だな。私の迷宮へご招待しよう……」
そう言い終えるか言い終えないうちに、人影は《あなたをどこかへ……》の呪文を唱えて、あたしらは……。


6.屈強なる第2層

……気がつくと、ダークスモークの迷宮の第2層にいたヨ。
「ここ、気味が悪いネ。鳥肌が立つヨ」
「妙だな。ここは物質界のはずなのに、奈落のようなニオイがするぜ」
「よくわからない時は、調べてみるに限るサ」
「それもそうだ」
あたしらは知性度を駆使して、今いる場所を調べてみたネ。
そこは、細長い通廊で左右に扉がついていたヨ。
「とりあえず、東の扉を開けてみるか」
シックス・パックが扉を開けると、時間が巻き戻るような感覚がしたネ。
そして、さほど広くない部屋に小さな祭壇が置かれていて、傍らには手首や足首、腰、額に謎めいた宝石を填められた裸の人物が鎮座していたネ。
それは、無事に迷宮から救出されたはずのダイアラだったヨ!
「ダイアラ嬢ちゃん、どうしてここに?」
「これはきっと、過去に迷宮にしかけられていた魔術の罠に囚われていた時のダイアラだ!」
シックス・パックが叫んだところで、ダイアラの周囲にあった様々な色の人影が、虹人間となって襲いかかってきたネ!
てなわけで、戦闘開始!
最初に襲いかかって来たのは、無駄に頑丈な緑色の虹人間。
次に襲いかかって来たのは、魅了をしかけてくる赤色の虹人間。
三番目に襲いかかって来たのは、器用度のSRにさえ成功すればノーダメージな青色の虹人間。
「なんて奴らだ……だんだんキャラが立って来やがったぜ!」
「これは、四番目のキャラも立ちまくりネ!」
あたしらにハードルを上げられた橙色の虹人間は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません……わたしの攻撃、耐久度と幸運度を減らすだけなんで、キャラは薄いかと……」
「幸運度を減らす攻撃をしかけてくる奴のキャラのどこが薄いんだ!」
あたしとシックス・パックのツッコミと攻撃が決まって倒された時、橙色の虹人間は影だけで顔がないくせに、満足そうに微笑んでいるように見えたヨ。
すべての虹人間を倒し終えると、不思議なもので、いつのまにかダイアラの姿はどこにもなくなっていたネ。
「これは夢だったカ……?」
「そんなことより、祭壇の向こうに別の扉がある。行ってみようぜ、翠蓮」
シックス・パックが見つけた扉の前に、あたしらも駆けつけた。


7.屈強なる通廊

「せーの!」
「ドラー!」
あたしとシックス・パックが扉を蹴破ると、またもや通廊だったネ。
あたしらが出てきた扉のちょうど正面、南に扉が一つあったので、そこを開けてみることにしたヨ。
さっきの戦いで幸運度がけっこう減っていたので、知性度で扉を調べてみたら、運よく成功!
扉の向こうは、長方形の部屋だったネ。
中央には、4本腕の彫像と石造りの長椅子があって、植物が垂れ下がっているヨ。
そして、南には扉がある。
「いかにも何かありそうな彫像と長椅子だが、まずは南の扉を開けて先へ行ってみるか」
「賛成ネ」
今度の扉は素直だったので、あたしらが蹴破らなくてもすぐに開いた。
扉の先はL字型の通廊になっていて、折れ曲がる途中に不思議なシンボルがついた扉があったヨ。
その扉の前で何やら相談しているパーティーが見えたけれど、すぐに消えてしまったネ。
どうやら、今のは幻のようサ。
さらに進むと、綴れ織りで行き先が塞がれた上り階段が、階段を上らず直進した先にはまたL字型に折れ曲がった道があったネ。
「俺様、シンボルのついた扉なら行っていいが、階段や通路の先は絶対に行きたくねえ!」
「わかったヨ。では、シックス・パックの言うとおりにシンボルのついた扉を開けるネ」
シックス・パックは、自分の身が危険になることに関しては絶対に嘘をつかないと、これまで一緒に冒険してきてよく学習しているあたしは、いい子にシンボルのついた扉を開けてやった。
すると、えらく見覚えのあるタイタンが仁王立ちで扉の前で待ちかまえていたヨ!
「我はマニュマー、エフティラ次元界のタイタンなり。汝らは、我がタロットの試練を受けるか?」
「またおまえかよ! いいか、翠蓮。またトンチンカンな答えを言って冒険終了になっちまう前に、試練を放棄……」
「リベンジマッチのために来たカ、マニュマー! 試練、受けて立つネ!」
何かあたしの傍らでシックス・パックが「ノォォォー!」だか「ウオォォォー!」だか絶叫しているけど、関係なし!
今度こそ、タイタンの試練に合格してみせるサ!
「よかろう」
マニュマーは、あたしの前に巨大なタロットカードを渡した。それは見る見るうちにあたしにぴったりの手のひらサイズに変わったヨ。
カードを見ると、ピラミッドの絵が描かれていたネ。
「望むなら、一度のみ交換を許そう」
「大丈夫サ。ここはカードの巡り合わせに賭けるヨ!」
「おいぃぃー! 翠蓮、タロットカードにそんな絵柄はないぞ!? 本来の絵柄に交換しなくていいのかよ!」
シックス・パックの取り乱す声をバックに、あたしは試練を受けた。


8.屈強なる試練

たちまちカードから閃光がほとばしり、あたしはいいとして、試練に参加してないシックス・パックにまで光が覆って来たネ。
光が消え去ってから目を開けると、そこにはスタイル抜群のボディラインがくっきりとわかるように包帯を巻いた、マミーの美女が立っていたヨ!
「ハァイ、わたしはプリンセス・ルナ。あなたは?」
「〈屈強なる〉翠蓮。人間の戦士サ」
「すると、冒険者ね? だったら、魔力度かお金、お宝を捧げてくれたら、冒険の仲間になってあげなくてもなくてよ」
「ファビュラスな美女の恋人に誤解されそうなので、あんたみたいなセクシー美女を仲間にはできないネ」
「え? あなた、同性の恋人がいるの?」
そこで、あたしはかいつまんでジーナとのなれそめから現在に至るまでの関係をプリンセス・ルナに語ってやったサ。
「複数性愛主義なわたしだけど、同性の恋人はいなかったわ。まだまだわたしも青いってことね。いいわ、あなたと恋人に幸あれ!」
女子トークみたいなノリで会話した後、プリンセス・ルナは現れた時と同じように閃光と共に消え去っていったヨ。
「試練終了! 合格だ、翠蓮。褒美に多元宇宙の真理を一つ授けよう。『小ちゃい女の子と美女の組み合わせは眼福!』」
「おい、翠蓮! このタイタン、大声で自分の趣味を真理とか言い出してやべえ! とっととこの部屋を出ようぜ!」
自分でこの部屋以外入りたくないと言い張ったくせに、シックス・パックはあたしの手を引っぱって、元いた彫像と長椅子のある通廊に引き返していったヨ。


9.屈強なる長椅子

「あのタイタンと関わると、ろくなことにならねえな」
「何を言っているネ。今回はあたし、試練に勝ったヨ?」
「その代わり、知りたくもねえタイタンの趣味を知っちまって、こっちは気分悪い。おい、翠蓮。酒樽一個頼む。あそこの長椅子で休みながら飲んで、気分を直す」
「はいはい、わかったサ」
あたしらは、そこで長椅子に腰かける。
たちまち、ぶら下がっていた植物があたしらに巻きついてきたネ!
「よく見たらこの植物、吸血植物のストラングラー・ヴァインじゃねえか!」
「あの伝説の飲血者クル……クル何とかの呪いがあたしらに降りかかるってことカ!」
「やべえよ……血を吸われてヴァンパイアにクラスチェンジした日には、俺様の魅力度が上がってイケメン度が上がっちまう。そうなったら、ティントン・ティリー嬢以外の女のハートまでかっさらっちまうことに……」
「ヴァンパイアになったら夜型生活になって、朝方生活のジーナと環境の不一致でふられてしまうヨ……」
あたしらが呪いを覚悟していると、意外なことが起きたネ。
吸血されたけれど、耐久度が1減っただけで、体力度が2回復したヨ!
「どうやら、瀉血効果で健康になったみてえだな」
シックス・パックはそう言いながら何かに気づいたようで、長椅子に目を凝らす。
「『廃都コッロールより愛を込めて。瀉血王ピピン13世より』だとよ。ジョーク大好きなヴァンパイアの、いわばジョークアイテムだったようだな、この長椅子は」
「サプライズもいいところだったサ」
元気になったら、頭もさえてきたあたしらは、通廊でまだ調べていない唯一の物、彫像を調べることにしたネ。


10.屈強なる彫像

彫像は4本腕で、やけに精巧な造りをしていたヨ。
「どうやらダークスモークに挑んで、呪文で石にされた探検家のなれの果てのようだぜ」
「悪趣味なことをしていやがるネ」
あたしがダークスモークに呆れていると、シックス・パックがひきつった顔で彫像の影を指差したヨ。
「おい、あの影を見てみろ!」
言われた通り彫像の影を見てみると、どんどん影が実体化してシャドウ・デーモンへと変身していくヨ!
4本腕から繰り出される攻撃は、予測不能から仕掛けられてくるから厄介ネ!
しかも、シャドウ・デーモンは2戦闘ターンに1回で、耐久度が高いシックス・パックに絞め落としを仕掛けてくるヨ!
「シャドウ・デーモンって不死なるものだったか? だったら、この前ゲットした夢歩きの両手剣の攻撃力は2倍になるか?」
「わからないけど、とにかく戦い続けるネ、シックス・パック!」
あたしらががむしゃらに戦ううちに、ついにシャドウ・デーモンを倒せたヨ。
「ふう、ようやく倒せたぜ……」
「泥仕合になったネ……」
ヘナヘナと彫像の台座の下に腰を下ろしたところで、台座と床の溝に鷲と百合の紋章があしらわれている野太刀が収納されているのを見つけたヨ!
「これはまさにダイアラ嬢ちゃんから頼まれていた野太刀ネ!」
「すげえな。グランド・シャムシールじゃねえか。こいつを構えて『カルマロ』と叫んでいる間だけ妖気が発せられて、かけられている呪いのどれかを一つ、一時的に18レベルで《厄払い》できるって代物だ!」
「よくそこまで鑑定できるナ、シックス・パック!」
毎度のことながら、シックス・パックは底知れないヨ。
もしかしたら、この世界の最大の謎は、神々やら多元宇宙でもなく、シックス・パックかもしれないネ!
でも、そんな細かいことは気にしている暇はなし!
今回の冒険は無事に成功ヨ!
あたしらは急いで来た道を引き返し、波止場に停泊しているゾラグ男爵のガレー船で待っていたダイアラへ鷲と百合の紋章の野太刀を届けたネ!
「かたじけない! これでご先祖さまへの申し訳が立つわ」
「へっへっへっへ。では、約束の物を……」
「シックス・パック、手を揉みながら言ったら、あたしらの品位が落ちるネ。こういう時は、相手が言い出すまで言わないものヨ」
「面白いわね、あなた達。正直でいいわ。ゾラグ男爵、約束の物を彼女達へ」
「承知いたしました、ダイアラ様」
ゾラグ男爵は、3000gpの入った金貨の袋をあたしらにくれたネ。
「よっしゃ! さっそくティントン・ティリーの宝石店へ行くぜ!」
恋に狂った男と化したシックス・パックという、世にも血迷った生物は、自分の取り分の1500gpを手に走り去っていったヨ。
あたしはと言うと、名もなき村にあった書記マングの元を訪ねようかと検討中ネ。
ウカのタクシーに置いてあった村の案内パンフレットによると、そこでは手紙の代筆をしてくれて届けてくれるサービスをしているからヨ。
「今回の冒険は、ジーナに報告できるネ」
あたしは手紙の内容を考えながら、ウカのタクシー乗り場へのんびりと歩いて行ったサ。

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2022年6月に『蝶として死す 平家物語抄』の続編で初長編『揺籃の都 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が遷都した福原の平清盛邸で続発した怪事件の謎解きに挑む。雪の山荘を舞台にした館ミステリ。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『T&Tビギナーズバンドル 魔術師の島』 収録
 ソロアドベンチャー『無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中〜名もなき村を越えて〜』
 作:岡和田晃
 協力:吉里川べお
 発行 : グループSNE/書苑新社
 2022/7/1 - 3,300円
posted by AGS at 10:23| 小説・リプレイ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする