2024年03月23日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.26

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.26

 岡和田晃
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 「魔力の風」は、複数の色が乱れて混じり合い、影と心に歪みをもたらしている。
 ――幻視したこの台座には、きっと何かある。
 いや、ウルサーンのハイ・エルフにちなんだ何かが、この像には関係しているのかもしれない。
 わたしはいったん、「魔女の目」を介して“視る”のをやめた。
 霊をも恐れ、ハイ・エルフを憎悪する何か。ダーク・エルフ。その痕跡、あるいは気配を感じたからである。
 奴らにまで目をつけられてはかなわない。わたしはチーズ店をそっと離れることに決めた。霊の相手は、それこそ魔狩人に任せておこう。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●新作サプリメントが2冊同時発売!

 2024年3月下旬、いよいよ『ウォーハンマーRPG』第4版日本語版の新作サプリメントが発売になります。しかも、『武器を掲げよ!』と『帝立動物園』の二段構えです。これらは第2版の『オールド・ワールドの武器庫』と『オールド・ワールドの生物誌』に相当する作品で、本連載をお読みの方にとっては必見といってよいでしょう。
 すでにホビーショップや各種の通販サイトで予約が始まっています。玩具流通であるため書店では手に入らないことにご注意ください。
 以下、まずは裏表紙の紹介文をご紹介し、概要の解説にかえたいと思います。詳しい内容紹介については、本連載の次回以降をご期待ください。

 『武器を掲げよ!』には、『ウォーハンマーRPG』で戦士のキャリアを歩むキャラクターのための新たな選択肢と手引きが用意されている。本書では、オールド・ワールドで戦闘に関わる人々の種類と専門知識を増やすのに活用できる能力に焦点を当てている。
 この144ページの本には以下の内容が含まれている:
・ミュルミディア教団についての章。軍略の女神を崇拝する人々の信仰と実践について、これまでに出版された中で最も包括的な手引きを提供する。
・多様な兵士たち。栄光ある帝国州軍兵の一般的な経歴を詳しく説明し、さらに小銃兵、斧槍兵、大剣兵などの新しいキャリアが用意されている。
・オールド・ワールドの戦争における傭兵の役割の歴史。ティリア人のキャラクターや“戦争の犬ども”でのプレイをサポートするための背景とルールが含まれている。
・エンパイアの名高い騎士団のガイド。世俗騎士団や聖堂騎士団へ入団するか、自由騎士として単独で活動するかの選択肢が含まれる。
・武器と防具の拡張されたリスト。剣や斧などの基本的な武器から、重りつきネットやパヴィースなどの一風変わった特殊な装備まで。
・車両や建物内で遮蔽を取るためのルールと――その一方、破壊兵器で車両や建物を爆破するためのルール。
・選択ルールおよび追加ルール。新しい冒険外活動、負傷の代替ルール、騎馬戦闘、優位の使い方、追撃、異能。

 『帝立動物園 ウォーハンマーRPG生物誌』は、最果て山脈のカラク=カドリンから、南国ティリアの都市ミラグリアーノに至るまで、オールド・ワールドをはるばる巡った三度にわたる調査遠征に基づいた怪物寓話集にして旅行記。
 本書には、オールド・ワールドに生息する珍獣奇獣、怪物魔物、合わせて60種を上回るクリーチャーの細目が羅列され、さしもの凄腕冒険者パーティをも武者震いさせること請け合いである。
 さらに、かねて作成済みのキャラクター6名が、いずれも独特な技能と異能、そして秘めたる過去を抱えて、出番を待っているのだ。
 オールド・ワールドに跳梁跋扈する甚大この上ない脅威との対決に主眼を据えたキャンペーンに投入するには、まさしくうってつけの陣容である。
 この136ページの本には、以下の内容が収められている。
・知識と少しばかりの栄誉を求め、オールド・ワールド中を探検する冒険者一行の旅路を描いたスリリングな物語。
・冒険者の行手に立ちはだかる数十種ものクリーチャー。
稀少ではありながら危険至極なプレイトンから、“紅蓮の大鎌”カレダイア――暴威をふるう伝説のドラゴン――のように、個体名が広く知られているモンスターに至るまで。
・新たなクリーチャー特徴。冒険者パーティへの新たな挑戦状が、随所に立ち現れる。
・クリーチャー、とりわけ“魔力の風”に触れた存在から採取した錬金術の材料を保存し、販売するためのルール。
・作成済みのキャラクター6体。君たちがすぐに冒険に乗り出せるよう、あらゆる情報が書き込まれている。

●『ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート』紹介の続き

 さて、本連載の前回(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/502574244.html)では、『ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート』(以下『コンセプトアート』)をご紹介していきましたが、そちらの続きも忘れずに記していきたいと思います。

 『コンセプトアート』は、Creative Assemblyが開発したPC戦略ゲーム『Total War:WAHAMMER』シリーズ三部作のコンセプトアートを、それこそ開発段階のものから、テクスチャ研究、フルレンダリングされたものまで、幅広く紹介していくという内容となっています。
 ミニチュアのイメージを参考にしつつ、それをデジタルに落とし込む際に、どの部分を補っていくのか、そうした試行錯誤がはっきり伝わってくる内容です。

●グリーンスキン

 ゴブリン類のことです。悪たれ平原(バッドランド)の情景から、“皆殺しの”アズハッグ、“鉄肌の”グリムゴールといった有名なネームド・ゴブリン、さらにはトロールやオークのアート、乗機たるウルフやワイヴァーン、さらには凶暴なスクイッグ(ゴブリンが飼育する、肉食キノコ)までもがよりどりみどりです。グリーンスキンの特徴は、造形レベルでユーモアに満ちていること。それはシタデル・ミニチュアの特徴でもありました。

●ヴァンパイア・カウント

 マンフレッド・フォン・カーシュタインや、見目麗しきイザベラ・フォン・カーシュタインといった著名なキャラクターから、ストリゴイ・ヴァンパイアや、ヴァンパイアのネクロマンサーといったサブカテゴリーも解説。ヴァンパイア以外にもワイト・キングにケルン・レイス、そして特大のゾンビ・ドラゴンといったアンデッド群の造形が堪能できます。
 ヴァンパイア勢の細部をデザインするにあたって、スタッフはミニチュアゲームの設定書であるアーミーブックを読み込んだそう。ゴシック調のムードを活かしつつ、イメージをどう落とし込むんだかの試行錯誤が垣間見えます。

●ブレトニア

 騎士と淑女の国。アーサー王伝説からの強い影響を受けており、1100年代から1200年にかけてのフランスやイギリス等、西ヨーロッパ各国を思わせるスタイルです。
 グレイルナイトやパラディンといった騎士たちや、乗機のヒポグリフにペガサス、さらにはバーディング(馬用鎧)をはじめ武装のイラストが充実しています。
 威風堂々たる“獅子心王”ルーエン公に、エンパイアではまずお目にかかれない美貌のフェイ・エンチャントレスを鑑賞できるのも眼福だと言えるでしょう。

●ウォリアー・オヴ・ケイオス

 『ウォーハンマー』の特徴的なモチーフであるグリムダークな側面を体現するのが、“永遠に選ばれし者”アーケィオンをはじめとする混沌の戦士たちでしょう。
 キメラやマンティコア、ケイオス・ウォーハウンドにケイオス・チャリオットといった混沌の乗機、さらには混沌の荒れ野のねじくれた木々まで、確固たる存在感を発揮しています。グリムダークを単調さに結び付けないための工夫がよくわかります。

●ノーシャ

 混沌の戦士たちとヴァイキングをミックスしたような勢力。混沌風にアレンジされたヴァイキング・シップ、いかにも邪悪なマローダー・チャンピオン、さらにはノーシャン・ウォーマンモスのデザインを確認することができます。

●ウッド・エルフ

 自然の風景をそのまま身体に取り込んでいるのがウッド・エルフ。制作チームは、中央ヨーロッパにある古代の森をリサーチして、「長いこと手つかずとなり、地面全体が分厚い苔で覆われている森」のイメージを背景に取り入れたという。木の幹を利用した攻城塔、木の葉のような帆をした船、さらにはフォレスト・ドラゴンのユニークなイメージが想像を駆り立てます。

●ビーストマン

 エンパイアでも頻繁に遭遇する敵役、それがビーストマンですね。動物と人間、双方の身体構造を参考にしながら、筋肉質でワイルドなイメージを押し出すために、スパイクや鋲を多用したとのこと。ビーストマンのテントやゴミ溜め、トーテムや巨大な戦角笛がヴィジュアル化されています。

●リザードマン

 ここから2016年の『Toral War: WARHAMMER II』でフィーチャーされた設定群の解説となっていきます。
 まずはリザードマン。恐竜のようなイメージだけではなく、メソアメリカや南アメリカの要素を取り入れているのが特徴的。スキンク、スラン、カメレオンスキンク、ザウルス、クロキシゴールの5つの種族が設定されており、色とりどりの装飾や装備が細かなところまで表現されています。

●ハイ・エルフ

 魔術の源流たる“魔力の風”と縁深いのがハイ・エルフ。なかでも白の塔ホエスのロア・マスターであるテクリスと、彼の双子の兄弟である守護者ティリオン、暗い背景を持つ“影の王”アリス・エナールについて、それぞれ解説されています。ハイ・エルフのドラゴンプリンスやメイジの服装も、しっかりわかります。

●ダーク・エルフ

 ハイ・エルフの堕落した親戚がダーク・エルフ。紫がかった黒染めの鉄を基体とする鎧のデザインに迫力がありますが、レジェンダリーロードのモラスィ、シュープリーム・ソーサレスらの妖艶なイメージにも圧倒されます。

●スケイヴン

 ご存知、邪悪な鼠人間のことですが、着ぐるみのようなアニメーションではなく、引きつったような動きをさせるように注意したそう。下級のスケイヴンを率いるレジェンダリーロードたちも個性豊かですが、ラット・オウガやヴァーミン・ロードら亜種のヴィジュアルが提供されているのも嬉しいところ。

●トゥーム・キング

 古代エジプト風の勢力で、ファンの根強い要望によって『Toral War: WARHAMMER II』にも登場することとなったそうです。トゥーム・キングの目覚めのシーンから、セパルチュラル・ストーカーが先頭に立った侵攻の場面まで、ドラマティックなシーンの数々が印象的です。ウォースフィンクスやカタパルトのヴィジュアルも個性的ですね。

●ヴァンパイア・コースト

 『Toral War: WARHAMMER II』の拡張パック『Curse of the Vampire Coast』の設定画を紹介。完全なアーミーブックが存在しないため、海戦ミニチュアゲーム『ドレッドフリート』を参照しつつ設定が練り上げられていったというもの。海賊のイメージのみならず、アンデッドの造形とのブレンド具合がユニーク。

●ナーグル

 ここからは『Toral War: WARHAMMER III』でフィーチャーされた要素が解説されます。特に混沌の神々ですね。
 腐敗の王ナーグルについては、丸みを帯びたフォルムに緑や赤の色合いをうまくまぶすことで、グレーター・ディーモンであるグレート・アンクリーン・ワンをはじめとした、悪役における特有の感触を表現しようとしたことがわかります。

●ティーンチ

 歪みを作りし者ティーンチは、混沌の神々のなかでも魔力に長けていますが、とはいえピンク・ホラーやブルー・ホラーを射撃ユニットにするなど、システム上の役割分担が一面敵にならないようにしつつ、配色を極彩色にすることで、視覚的に埋もれないように工夫したといいます。

●スラーネッシュ

 性的な逸脱と過剰さを体現したスラーネッシュを表現するにあたっては、紫を基調にした“しなやか”なイメージが重視され、豪華でありながら卑猥にすぎると規制されないようなバランスが重視されているのがわかります。テレインである「誘惑の六円環」の断面図はインパクト大。

●コーン

 破壊と戦争を体現する血の神コーン。赤と金を中心にしたギラついたヴィジュアルに幅を持たせるため、コーンの信者である定命者のユニットが追加されました。シリーズのなかでも、ヘヴィメタル・バンドのイメージにもっとも近いのがコーンだとか。ブラッドレターやジャガーノートといった、RPGでもお馴染みの面々のヴィジュアルは必見。

●キスレヴ

 ロシアや東欧の風俗をベースにしたキスレヴは、『ウォーハンマーRPG』第2版の『Realm of the Ice Queen』(未訳)等で詳述されてきた地域です。コンピューターゲームとしては新規のコンセプト・デザインが多いため実装が大変だったようですが、エンパイアとはまた異なる家々や人々のデザイン、乗機に用いるウォーベアや、エレメンタルベア等のモチーフはとても魅力的です。

●オウガ・キングダム

 オウガは巨大なユニットで、恐ろしい突撃能力を秘めています。本書においては、オウガの集落やキャンプ、アゴ穴といったテレインのスケッチを収録することで、そのスケールの大きさを垣間見せようとしています。

●大キャセイ

 中国や東南アジアをモチーフにした地域で、RPGではほとんど舞台に選ばれることのない場所であるため、カラーのヴィジュアルでそれらが確認できるのは貴重です。RPGでキャセイの描写をしようとしたら、まず確認する資料になるのではないでしょうか。

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『ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート』
好評発売中
価格:5000円(+税)
公式サイトの紹介頁
https://hj-trpg.com/news/detail.html?id=1162

『ウォーハンマーRPGサプリメント 武器を掲げよ!』
『ウォーハンマーRPG生物誌 帝立動物園』
発売日:2024年3月
価格:各5000円(+税)

『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/


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2024年03月05日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.25


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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.25

 岡和田晃
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「それで?」
 わたしが問い詰めると、霊は「ひぇっ」と言ったきり、不意にかき消えてしまった。
 霊は定命の者を恐れない。ただ、羨望し恨みをぶつけるだけである。
 市長の像の裏には、何かが隠されているのは間違いないだろう。
 わたしは“魔力の風”の乱れをひしと感じた。いや、“視えた”。
 しかし、この像の台座そのものには、何ら邪悪な印象を受けない。おそらくはエルフ由来だろう。
 確かにエルフは鼻持ちならない連中だけど、生者へ憎悪をぶつけて恥じない、根本的な邪悪とはまた別だ。
 静寂のなか、ざわざわと見えない風が揺れる。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●お次は『Imperial Zoo』と『Up In Arms』

 不定期連載に移行してから、およそ1年2ヶ月ぶりの「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」となります。
これまでの内容については、Analog Game Studiesに再録されておりますので、必要あればご確認いただければと存じます。

https://analoggamestudies.seesaa.net/category/27608570-1.html

 幸い、現状の日本語版では、既成のシナリオだけでも、遊び続けられるくらいの分量のシナリオは提供されており(シナリオ集が、『ユーベルスライク冒険集』、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』、『ライクランド綺譚』の3冊が出ています)、ぜひトライをいただきたいのですが、今後のラインナップとしては、『Imperial Zoo(帝立動物園・仮題)』と、武器や装備に関するサプリメント『Up In Arms』があがっています。
 このうち前者は、待兼音二郎さん・見田航介さん・阿利浜秀明さん・田井陽平さん、そして私のチームが翻訳を担当しておりまして、待兼さん曰く、「こちら、2版の『オールド・ワールドの生物誌』の4版版かと思いきや、エンパイア領内に加えてブレトニアへティリアも含めた調査旅行の記録でもあり、リプレイの一種として読むこともできます。調査旅行の参加メンバーの人間関係にもじつに奥深い設定があり、冒険の終章に至って判明する、ほろ苦い、届かぬ思いのごときもの、これがじつに唸らせられるものとなっておりますので、ぜひ期待してお待ちください」ということで、今しばしお待ちいただければと存じます。

●最近の関連ニュースを!

 「FT新聞」ではすでに、これくら!さんがNo.3971と3978で、ユーザーの立場から「ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブック」を書かれており、第1回(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/501889942.html)では世界における冒険者としての立ち位置、第2回(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/501889954.html)では『ウォーハンマーRPG』のクラスやキャリアの詳細が記されており、よくまとまっているため、セッションにおけるサマリーとしても活用できそうです。
 『ウォーハンマーRPG』はFoundry VTTをはじめ、オンラインセッションツールを駆使すれば、かなりリッチな環境でオンラインセッシ曰くョンを楽しむことができ、SNSでは、そうしたセッションの光景をしばしば目にすることができます。
 しかし、オフラインもいいもの。公的な関連ニュースで外せないのは、2023年11月より、アシェットコレクション・ジャパンにて、週刊ウォーハンマーこと『ウォーハンマー40,000:IMPERIUM』の刊行が始まっていることでしょう。これは週刊分冊百科形式で、毎週、アーミーやペイントキット、解説記事をコレクションしていくというもの。『ウォーハンマー40,000』を比較的安価で始められるスグレモノで、私も定期購読していました。ファンタジーではなくSFがテーマの作品ではありますが、グリムダークな世界の色調は共通しています。
 なお、グリムダークとは、「残酷で暗い」SFやファンタジーを解説するための用語として英語圏では定着した感がありますが、もとは『ウォーハンマー40,000』発祥の言葉です。

●『ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート』が出たぞ!

 『ウォーハンマーRPG』ファンにとり外せないのは、『ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート』(ポール・デイヴィス著、傭兵ペンギン訳、ホビージャパン、以下『コンセプトアート』)が発売になったことでしょう。
 A4変形ハードカバー192頁フルカラーの豪華版ですが、コノスとDLsiteにて、PDF版の発売も開始されています。ヴィジュアル面については、公式サイトから試し読みをすることが可能です(https://hj-trpg.com/news/detail.html?id=1162
 すでに「Role&Roll」Vol.227の「Brand New Games」でも取り上げられているとおり、同作はCreative Assemblyが開発したPC戦略ゲーム『Total War:WAHAMMER』シリーズ三部作のコンセプトアートをまとめたものです。
 開発裏話やコンセプトの紹介、さらにはフルレンダリングされたアートは美麗で、『Toral War』のユーザーに向けたものですが、実質的には『ウォーハンマーRPG』のサプリメントと呼んでしかるべきものでしょう。
 なぜか? それは、オールド・ワールドで暮らす各種族やクリーチャーの実態が事細かに紹介されている以上に、有名NPCたちが見事にヴィジュアル化されているからですね。『ウォーハンマーRPG』に親しんだことのある方であれば、版を問わずに愉しめること、請け会いです。
 『ウォーハンマーRPG』は歴史のあるゲームですが、一方で、随時、関連作が展開され、変化というよりも細部の具体化が進められていく、そのようなタイトルにもなっています。
 この連載でも書いたことのある話ではありますが、展開が盛んなRPGでは、しばしば「More Rules, More Powers!」というスタンスが取られます。より強力なデータの提供をもって、サプリメントの購買動機とするものですね。
 私はそうしたスタイルを必ずしも否定するものではないのですが、パワーのインフレにはいつか限界が来て、抜本的なリセットがなされてしまい、その際のガッカリ感が半端ないものであることも知っています(笑)。
 加えてRPGに限らず『ウォーハンマー』は、ワールドワイドに展開されている作品であり、かつて揶揄されていたような「イギリス人のゲームだから、エルフがイギリスに準えて贔屓されている」なんていうイメージは、もはや程遠いものになっています。
 こうしたなか、今回の『コンセプトアート』は、これまで緻密な文章で表現されていた世界を、アートの角度から捉えるとこうなっていたんだ、と再発見できる喜びがあります。
 この際に痛感されるのが、ミニチュアとの連動の強みです。『ウォーハンマーRPG』は作品世界をとても大事にする作品で、フランチャイズ展開の際、イメージの統一性は慎重に保たれています。これは私自身が、2版の公式リプレイを「GAME JAPAN」誌で連載した際、強く実感したことでもあります。

●エンパイア

 それでは具体的に内容を見ていきましょう。序文に続くのは「エンパイア」、『ウォーハンマーRPG』の主たる部隊についてですね。
 ここでは皇帝カール・フランツ、金属の魔法体系を担う最高主席魔導師バルタザール・ゲルト、さらにはエンパイアのウィザード、トループ、ノーブル等のアートが掲載されています。
 カール・フランツはまさにスーパーヒーロー、バルタザール・ゲルトはなかに人がいることさえ定かではないようなミステリアスな雰囲気が出され、トループは“傾奇者”と形容すべきランツクネヒト(ドイツ傭兵)風か。
 グッと引き込まれますが、解説コメントも面白く、テクニカル・アート・ディレクターのクリス・ヴォラーによれば、都会の大きな建物と田舎の要素が対照的なエンパイアの背景をデザインするにあたり、「慎重に誇張するのが鍵となった」と述べているのが興味深いところ。人物を描くにあたっても、同様の配慮がなされていると語られています。
 建物のディティールについても、実際のスケッチを添えたうえで、鳩罠・物干し紐・屋根窓・煙突等まで作り込まれた複雑さを擁していることがわかるようになっています。
 また、『ウォーハンマーRPG』はスチームパンクの要素が盛り込まれており、上記で動く戦車スチームタンクのヴィジュアルも、ばっちり紹介されています。

●ドワーフ

 続いてドワーフです。中近世ヨーロッパ風のファンタジーでもっとも大事なものの一つが、「ドワーフがちゃんと書かれていること」でしょう。これはイメージの素となる神話や伝承に、直結する要素だからです。
 クリス・ヴォラーはミニチュアゲームのアーミーブック(背景資料)を読み込むとともに、それをビデオゲームに落とし込むうえで、ヴァイキングや中世初期のヴィジュアルを参照し、その要素を盛り込んでいます。
 やはり、ルーンはヴァイキング由来のようですね。スレイヤー(トロール殺し等)はケルトの戦士たちのファッションをもとにしているとのことです。
 ドワーフの髭の編み込みが幾パターンも示されるのは、ドワーフ・ファンにとってはたまらないものがありましょうが(笑)、ドワーフの基地や醸造所のデザインは、それこそトールキン『ホビットの冒険』や『指輪物語』の映像版からの影響も感じさせます。
 スチームパンク要素もばっちりで、ドワーフのジャイロコプター(蒸気ヘリ)や各種大砲のカラーコンセプトも示されていますよ。

 それでは次回はクリーチャー。グリーンスキン(ゴブリン類)やヴァンパイア・カウント等の設定も見ていくといたしましょう。

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ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート
 著者:ポール・デイヴィス
 翻訳:傭兵ペンギン
 定価:本体5,000円(税別)
 A4変形ハードカバー192頁フルカラー
 公式サイト
 https://hj-trpg.com/news/detail.html?id=1162

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初出:「FT新聞」No.3991(2023年12月28日配信)

2024年02月19日

『ブルーフォレスト物語』用シナリオ「ラクタス」

 2024年2月15日配信の「FT新聞」No.4040に、いよいよ真打登場ということで、オリジナル・デザイナーの伏見健二さん自身の手になる『ブルーフォレスト物語』用シナリオ「ラクタス」が掲載! コンベンション用に書き下ろされた貴重なシナリオが初めてpublishされました。伏見さん曰く、「「ラクタス」はまさにブルフォレのファイナルシナリオ、最終回みたいなもので、サービスでゴブリナ、ギアアンティーク、ドラゴンシェルのモチーフも出てきます」とのことでした。

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『ブルーフォレスト物語』用シナリオ「ラクタス」

 作:伏見健二
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●はじめに(岡和田晃)
 本シナリオは、2007年にグランペール版『ブルーフォレスト物語』(リバイバル・エディション)が出た際に開催された発売記念オンリーコンベンションのために書き下ろされたものです(ゆえに、コンベンションでの使用時を想定した但し書きもあります)。物語性豊かな傑作だと思います。
 「FT新聞」での『ブルーフォレスト物語』小特集のため、作者の伏見健二氏に特別提供いただきました。
 御宗銀砂氏、たまねぎ須永氏のご尽力にも、この場を借りて御礼申し上げます。

【『ブルーフォレスト物語』について】
 「FT新聞」では、過去、『ブルーフォレスト物語』について紹介する記事が配信されてきました。「『ブルーフォレスト物語』って何?」という方は……

・「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」(「FT新聞」No.3739)をどうぞ。
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969227.html

 背景世界の解説については、以下の2記事をご参照ください。
・「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」(「FT新聞」No.3781)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969237.html
・「ファンタジーRPGと時間論」(「FT新聞」No.3789)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969264.html

 現在、『ブルーフォレスト物語』はツクダホビー版・グランペール版ともに入手が難しくなっていますが、お持ちでない方のために、フリーの汎用システム2DRをご紹介します。このシナリオはデータはユーザー側で用意するスタイルであるため、2DRほか、T&TやFF、あるいはローグライクハーフ等へのコンバートは用意でしょう。

・2DR(エテルシアワークショップ)
https://w.atwiki.jp/etersia/pages/24.html
 2DRのルールで1 on 1セッションの場合、種族は人間、ジョブポイントは1でキャラクターを作成してください。また、「エフェクトポイント」は「悟りポイント」と読み替えてください。EXPが100に達すると、そのキャラクターは亜神になります。

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【概要】
 ここはサグハ国の南方の田舎、大麦村。
 もうすぐ収穫の祭なのだが、実は去年にゴブリンの一団によって祭が襲撃され、本尊である森の女神「ラクタス」の像が持ち去られてしまったのだ。

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↓【シナリオ本編】はこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/Lactus.pdf


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posted by AGS at 21:16| ブルーフォレスト物語小特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月15日

『モンスター!モンスター!』のあゆみ 補遺

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『モンスター!モンスター!』のあゆみ 補遺

 岡和田晃
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 2024年2月8日に配信の「FT新聞」No.4033に掲載された「『モンスター!モンスター!』のあゆみ」につき、さすがに4000字を超えてしまうことから、別途切り分けていた情報を補遺として述べたいと思います。

 まず、『モンスター!モンスター!』には、なんと、第ゼロ版(Edition Zero)が存在します。これはM!M!の初版と同じ1976年に発表されたプレイテスト・エディションが、第2.7版のクラウンドファンディングに伴い復刻されたもの。個別にDrive Thru RPGでも購入することができます。
 タイプ打ちの原稿が再現されていたり、ケンのアイデア・メモ書きがそのまま挟まれていたり、なかなか興味深い内容です。
 序文もM!M!初版とは違います。曰く、ケンはアリゾナ州フェニックスではじめてRPGをデザインした人物であること。それはD&DではなくT&Tであって、T&Tはもともと「トンネルズ&トログロダイズ」(トログロダイド=穴居人)という名前だったが、初版刊行前のテストプレイでそれを話したらメンバーに笑われ、ロブ・カーヴァーから「トンネルズ&トロールズ」というワーキング・タイトルを提案されたということ)が書かれています。
 T&TではモンスターはMR表記ですが、それを人間と同じく能力値表記にして10倍、20倍も成長するようにしたら面白いだろうということ。『キングコング』や『ゴジラ』が銀幕のスターであるなら、きっと本作も気に入ってもらえるだろうというもの。
 なかなか興味深い設計思想で、M!M!の出発点がわかりますね。

 M!M!のゲーム・エンジンを使ったサードパーティとしては、サラ・ニュートン『豹の女帝のねぐら』(ミッドジャマー・プレス、2023年)も話題です。
 単なる設定の裏返しではないクリーチャー視点から、剣と魔法の世界やエドガー・ライズ・バローズ(『ターザン』『火星シリーズ』)風のエキゾティシズムを再構築したもので、世界設定はズィムララ(ジムララZimlara)へのオマージュも含まれる模様。
 これはハードカバー400ページにも及ぶ設定の分厚さもさることながら、アートワークの美麗さにも目を惹かれますが、実はこれは生成AI(Midjourney)を駆使して書かれたもの。単に出力されたものを集めたのではなく、綿密なディレクションやポスト・プロダクションが施されており、実に壮麗です。

 ちなみに昨今のゲーム研究の領域では、フェミニズムやポストコロニアリズム研究の視点から、RPG産業における白人男性の圧倒的な優位が批判的に取り上げられることが少なくありません。ただ、「図書新聞」2021年7月号での伏見健二さんによる『怪奇の国のアリス』書評で指摘されているように、T&Tは初期からコアメンバーに女性(リズ・ダンフォースら)が参画しており、独特なジェンダー感が保持されています。サラの仕事も、その流れに棹さすものだと言えそうです。

 私は最近文芸評論家として、生成AIと文学に関するインタビューを受けました。共同通信・安藤涼子記者による配信記事として、「「受賞作にAI」波紋 芥川賞の九段理江さん発言 新たなツール、共存模索」と題し、「神奈川新聞」2024年2月6日号をはじめ、「福井新聞」2月3日号、「埼玉新聞」2月4日号ほか、各地の新聞に掲載されています。
 記事には直接の言及という形では反映されてはおりませんが、生成AIの利用は文学よりもイラストレーションの方が一歩先んじている部分もあり、その文脈で『豹の女帝のねぐら』を紹介に使わせてもらいました。
 M!M!は古典的なRPGではありますが、最新の技術的関心ともリンクしているのです。

 その他、M!M!については、関連のソロアドベンチャーやGMアドベンチャーも出ていますが、そちらの紹介はまたの機会にとっておきましょう。

 ところで、これまで私は『モンスター! モンスター!』と表記を採ることが多かったのですが、前回からはFT書房式に合わせて『モンスター!モンスター!』と、エクスクラメーション・マークの後に全角を開けずに表記することにしてみました。
 略称のM!M!のエクスクラメーション・マークは前回は全角にしてみましたが、今回からは半角としています。第2.X版以降の動きについては、まだ日本語版が出ていない段階ですので、多少の表記揺れがあるかもしれませんが、どうぞご海容ください。
 その他、今後のM!M!の展開につき、ご意見があればお寄せいただけると幸いに存じます。

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初出:「FT新聞」 No.4034(2024年2月9日号)
posted by AGS at 09:00| コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月09日

『モンスター!モンスター!』のあゆみ


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『モンスター!モンスター!』のあゆみ

 岡和田晃
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 FT書房から『モンスター!モンスター!TRPG』の日本語版展開権を取得したという発表がありました。「FT新聞」No.4030での告知とほぼ同時にSNSでも発表がなされ、読者の方々の期待と興奮が手に取るように伝わってきました。
 M!M!が多様性を軸にしたTRPGだという杉本=ヨハネ氏の総括には、私も深く同意するところであります。さまざまな異文化が混交する状況に、現実を生きる私たちも投げ込まれてしまっているわけであって、そのなかで、他の文化を尊重し、ときには必要な距離を取りつつ、生きていく姿勢が求められています。
 「多様性」を単にキャッチフレーズ的に消費するのではなく、実際にどうなのか、自然体でリアルに掘り下げようとしたのがM!M!ではないでしょうか。
 もちろん、モンスター種族をプレイできるTRPGは、他にも少なからず存在します。ただ、M!M!の大きな強みは、それをTRPG黎明期から続けてきたことによるでしょう。
 日本においても、M!M!は何度も紹介されてきました。独自のヴァリアントとしてスタンドアローンでプレイできるタイトルで、『トンネルズ&トロールズ』の派生作品であるにしても、版権的には別の流れに属しています。読者の理解に資するため、本稿ではヴァージョンの違いを改めて整理したいと思います。
 すでにSNSで発表したものを、杉本=ヨハネ氏の賛同を得てリファインし、3倍に情報量を増やして「FT新聞」で紹介するものです。

 『モンスター!モンスター!』は初版が1976年と、とても古く、一説では自覚的に「RPG」という名を冠して売り出された最初の作品とも言われます(この経緯は「TtTマガジン」Vol.2の拙稿を参照)。なお、『Bunnies&Barrows』とともに、「GM」という言葉を最初に使った作品とも呼ばれているとか(吉里川べお氏情報)。
 このことがあまり取り沙汰されないのは……人間やエルフ・ドワーフら「善の種族」の迷宮探検家と、「悪の種族」であるモンスターらの立場を入れ替えた「逆転の発想」によるのが目立つためでしょう。
 よく比較されるのが『ウィザードリィ』で、初代の「狂王の試練場」(1981年)のボスであった悪の魔術師ワードナが、1987年の「ワードナの逆襲」では主人公になったというものです。こちらも、多彩な寓意やパロディに彩られ、「善」、「中立」、「悪」といった属性(アラインメント、性格とも)あり方を問い直すストーリーになっていましたね。
 これまで日本語で紹介されたM!M!は、以下の3種類があります。
 
1:『モンスター!モンスター!』初版は、現在でもPDFで普通に購入することができますが、こちらの日本語訳に、日本オリジナルのクリーチャー・カタログを添え、T&Tサポート誌「ソーサラーズ・アプレンティス」掲載の僧侶と侍祭に関した追加ルールを訳載してまとめ直したのが、社会思想社現代教養文庫の『モンスター!モンスター!』(1989)です。

2:日本オリジナルの『ハイパーT&T』は、T&Tの歴史のなかでは第6版に相当するものですが、社会思想社版『モンスター!モンスター!』所収のモンスター・カタログを、ハイパーT&T向けに大きく作り直し、さらには杖魔法・薬草調合・魔法のアイテム等の追加ルールを添えたのが、角川スニーカー・G文庫の『モンスター!モンスター!!』(1995)。翻訳パートを含まない、完全日本オリジナルの作品です。

3:教養文庫版から判型やイラストを刷新し、T&T完全版に対応、僧侶魔法のかわりにソロアドベンチャー「世界で最もタフなダンジョン」、多人数用シナリオ「トロールを捕まえろ」、翻訳「トロール神の恐るべき20体」や各種族の独自の呪文を加えた呪文書を加えて三分冊で発表したのが、書苑新社の『モンスター!モンスター!』(2019)。
 
 これらはいずれも、安田均氏を中心とするグループSNEが翻訳や執筆をしているもの。安田氏の監修のもと、1が清松みゆき、2が北沢慶、3が笠井道子・柘植めぐみ・こあらだまり・笠竜海ら各氏が主に関わった仕事です。
 3に関連した作品としては、清松みゆき「リバーボートの恐怖」(ソロアドベンチャー、「Role&Roll」Vol.175、2019年)、たまねぎ須永「野営地を血祭り」(多人数用シナリオ、「ウォーロック・マガジン」8号、2020年)、水波流「ウッズエッジのひなげし」(ソロアドベンチャー、「ウォーロック・マガジン」9号付録、2021年)等があります。

 今回FT書房から出ると告知された『モンスター!モンスター!TRPG』は、原書では2.7版に相当するものです。M!M!の初版はメタゲーミング社で出ていました。このときディベロップメントをしたのが、『ガープス』で有名な(アメリカの)スティーブ・ジャクソン。1979年にはフライング・バッファロー社から再販されています。
 現在はデザイナーのケン・セント・アンドレと、近年のT&T系列の編集を担うスティーブ・クロンプトンが権利を保有しています。第2版が出たのは、なんと2020年なのです。経緯としては、フライング・バッファロー社の創業者リック・ルーミスが亡くなった2019年から、同社の売却を考えてきたようで、『トンネルズ&トロールズ』の権利も移行し、その過程でケンのもとにあったM!M!の版権があらためて意識された模様。第2.5版を経て、2023年には第2.7版が発表、英語圏では3.0版を目指してリファインが続けられているといいます。
 ちなみにT&Tそのものの版権は、2021年にはアメリカのウェッブド・スフィア社、2023年には英国のリベリオン・アンプラグド社に移っており、T&Tの新展開にも期待が高まっている状態です。そちらの日本語版版権はグループSNEが引き続き保有しています。
 
 T&TとM!M!はきわめて互換性の高い作品ですが、《これでもくらえ!》にあたる呪文が変わっていたり、新ルールのChaos Factorが追加されていたり、モンスター・レートならぬマンカインド・レートとしてのMRが設定されていたり、細かな違いは少なからずあります。ですが、いちばん大きな差異は、タイトルそのもの。看板をT&Tブランドで進めるか、M!M!ブランドでやっていくか、そこにもっとも大きな違いがあるでしょう。
 
 背景設定に関しては、M!M!の最新第2.7版においては、ケンやクロンプトンが読者のアイデアを広範に取り入れ、古代エジプトの神話やクトゥルフ神話をも呑み込んだ新ワールドZimralaの展開と連動し、設定が徐々にすり合わされつつあります。なぜに古代エジプトか? というと、それは汎用本『神々の都』(未訳、2018年)の設定がひとつのコアになっているようです。
 Zimralaは、かつて私は自分の原稿において「ツィムララ」とドイツ語風に表記していましたが、現在では動画サイトにアップされれていたケンの発音を確認し、「ズィムララ」と書くことにしています。人によっては「ジムララ」と表記することもあるようです。
 これは2022年に刊行された『ケン・セント・アンドレのズィムララのモンスターラリー』から始まった新ワールド。ケンやクロンプトンをはじめ、T&T関係のライターも総力を結集していますし、それまでの読者もライターとして、多数参画しています(日本からは、たまねぎ須永氏や私が寄稿)。
 ちなみに、ケンらのレーベルには、トロールファーザー・プレス、トロールゴッドファーザー・プレス、ズィムララ・プレスほか、色々な名前があります。気分で変えているのか、はたまた深い意図があるのかはわかりません。

 また、この流れとは別、姉妹編に『ラヴクラフト・ヴァリアント』(バリアントとも)があります。こちらは、『クトゥルフ神話TRPG』(初版1981)より早い1980年に「ソーサラーズ・アプレンティス」に載ったものです。翻訳は安田均/こあらだまり訳で、「TtTマガジン」Vol.4に掲載されました(2017)。日本オリジナルのシナリオには、「魔女の復讐」(川人忠明作、同号)、「怪人の島」(安田均/柘植めぐみ作、「ウォーロック・マガジン」創刊号、2018年)等があります。
 『ラヴクラフト・ヴァリアント』の版権はもともと著者のグレン・ラーマンが持っていましたが、トム・プーがそちらを購入し、M!M!のサードパーティのひとつとして2023年に新装復刊しています。こちらでプーは、ゼニス・シティというノワール・セッティングを展開中。『シュブ=ニグラスは二度ベルを鳴らす』(未訳、2023年)は大傑作で、近年のM!M!関連作における、最良の成果のひとつと言えるでしょう。
 一方、ケンやクロンプトンもまた、M!M!をベースに『ラヴクラフト・ヴァリアント』の世界をも展開しています。私と豊田奏太氏のシナリオ「ドルイドの末裔」(「ウォーロック・マガジン」Vol.5の英訳、2019/2023年)がトロールゴッドファーザー・プレスから出ていますが、それはこの流れですね。クトゥルフ系への関心は、心なしかズィムララに還流している気もします。プーとケンは互いの立場から協力して、M!M!や『ラヴクラフト・ヴァリアント』を盛り上げているイメージですね。
 
 まったくの余談ですが、FT書房が計画している「モンスター!モンスター!マガジン」というのは、私がM!M!のキャンペーンをやっていたとき(「FT新聞」No.3473を参照、 https://analoggamestudies.seesaa.net/article/490232386.html )、発行していたファンジンと、奇しくも同名で、不思議なご縁を感じました。

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初出:「FT新聞」No.4033(2024年2月8日号)
posted by AGS at 06:37| コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする