2021年07月16日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.12


 2021年7月15日に配信された「FT新聞 No.3095」に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.12」が掲載されています。今回は「ライクランドの建築」発売記念! 同作に取り上げられたロケーションについて、またRPGの電子書籍と紙媒体との幸福な関係について、考察を提示しています。

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.12 FT新聞 No.3095
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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.12

 岡和田晃
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 肉だけでは足りない。わたしはヘルベルト・ハルツァートの"ひと味違う"チーズの店へと出向いた。
 ここは「ユーベルスライク最高」を謳ってはいるものの、ライバルになるチーズ店が街のなかに、それほどあるわけではない。
 ただ、客への目配りはきいていて、エンパイア産の硬質なチーズと、ブレトニアの"お上品な"チーズの両方が売られている。
 フレイザーはくんくんと臭いを嗅ぎ、店主のヘルベルト・ハルツァートに、間口に見合った税はきちんと収めているか、混沌に汚染された商品を扱ってはいないか、と、魔狩人らしい執拗さで根掘り葉掘り聞き出そうとしている。
 しかし、ブレトニアのにおいは懐かしい。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●「ライクランドの建築」が出たぞ〜!

 2020年9月末に『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』(第4版、ホビージャパン)が発売されてから9ヶ月ほどが経過しました。
 『ウォーハンマーRPG スターターセット』に先駆けたサプリメントの第1弾として、7月頭、皆さんのお手元に「ライクランドの建築」をお届けすることができました。おかげさまで、あちこちで話題になり、大変な好評を集めています。
 「ライクランドの建築」はPDFオンリーのサプリメントで、第4版のホーム地域であるライクランドに存在する各種の建築物について、解説するものです。
 こういうコンセプトの資料は、それこそ初版の頃からありました。お持ちの方は、初版ルールブック日本語版の分冊3の付録1に、「オールド・ワールドの建築物」として、よくある建物の設定と地図が紹介されているのを確認することができるでしょう。
 今回邦訳されたのは、その第4版バージョンとなります。PDFファイルで15ページのハンディなサプリメントですが、フルカラーで見栄えがよく、またオンラインセッションにも使いやすいスグレモノだと思います。
 それこそT&Tや『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』など、別のシステムにも応用することも簡単です。

●「ライクランドの建築」内容紹介

 内容は、商業建築、住宅、宿屋と酒場、公共建築、宗教建築と大別されます。目次にまとめれば、以下の通りとなっています。ひとこと解説を加えて紹介してみましょう。
 これらの設定は、西洋史の専門文献を渉猟しても、なかなか実運用可能なまでに洗練を見せているものは少ないため、手間暇を考えれば、このサプリメントを買ったほうが早いといえます。

・商業建築
 商店
  ヘルベルト・ハルツァートの"ひと味違う" チーズの店
 →ユーベルスライクの街で最高を謳うチーズ店。地上3階、地下1階。お家騒動や、"婚活"にまつわるシナリオソース付き。

 倉庫
  オルデンハラー倉庫
 →初版の付属シナリオ「オールデンハラーの契約」の舞台はナルンの街でしたが、こちらはアルトドルフのライクフォード地区の埠頭にある、2階建ての倉庫について。見張りについてのシナリオソース付き。

・住宅
 農場
  リンブルク農場
 →農場の広大な敷地がまるごとマップに。GMにとっては、ビーストマンやグリーンスキンに襲撃させるのに最適です。シナリオソースにはそれ以外の、ミステリ小説風のものもあります。

 都市住宅
  "後家女将" ハークルの下宿屋
 →アルトドルフの富裕層の地区、ゲルナー丘地区に建つ下宿屋。地上4階、地下1階。定番(?)の、地上げにまつわるシナリオソースも! オールド・ワールドで『めぞん一刻』をやってみたらどうなるのでしょうか……!?

・宿屋と酒場
 馬車宿
  〈飛びかかるペガサス〉亭
→アルトドルフからベーゲンハーフェン沿いにある馬車宿。街道巡視員も駐在しています。第4版日本語版の公式サイトから無料ダウンロードできるシナリオ「流血の夜」もそうでしたが、馬車宿というのは定番中の定番なのです!

 酒場
  〈太鼓と帽子〉亭
 →こちらはシグマー広場のそばにある、市中のタイプの酒場ですね。自前のエールを売り物にするのではなく、他の醸造所の造ったエールを売りにする、ソムリエ・タイプのお店なのが面白い。

・公共建築
 閘門式運河
  ハーツクライン閘門と閘門管理人住宅
 →閘門は「こうもん」と読みます。運河の水位を調整するための施設です。河川巡視員の出番ですよ〜! 他のファンタジーRPGにはあまり出てこない設定かもしれませんが、ぐっと中近世らしくなります。

 信号塔
  信号塔 NG-163-HY
 →古代から近世にかけて、いわばインターネットの代わりになるのが、この信号塔です。円形の4階建て。難解な暗号を送り合って必要な通信を行う施設です。

 料金所
  プフィーファー料金所
 →通行税を徴収するための施設です。GMにとっては、街道のあちこちに設置させたくなること請け合い!

・宗教建築
 シグマ−神殿
  ヴァーレン神殿
 →シグマー神殿は専用のサプリメントが、『ウォーハンマーRPG』第4版対応のPDFサプリメントとして発売(未邦訳)されているのですが、典型的な神殿の例が収められています。魔狩人の拠点として便利ですね。

 辻の祠
  ディースドルフの石舞台
 →シグマーはエンパイアの主神のために一神教的なイメージですが、こちらは地母神リアの祠。より異教的なイメージですね。それこそ『ドラゴンクエスト3』に出てくるような「ほこら」として運用できそうです。

●PDF販売という画期的な試み

 「ライクランドの建築」は原書で5ドルだったもので、日本語版は700円にて、コノスからダウンロード購入ができるようになっています。ライセンス料、翻訳料等のもろもろを加味すれば、ほぼ世界標準の価格で購入ができるという流れですね。
 また同時に、基本ルールブックもダウンロード販売が開始されました。
 画期的だったのは、これらが特定の電子ブックリーダーに依拠しない、PDF形式の販売になっていること。
 また、画像取り込み形式ではないため、検索も可能です。ふだん読む時は印刷版のルールブックを参照し、キーワードで調べたい場合にはPDF版を使う……という併用も可能でしょう。妖怪帽子さんがTwitterで示しておられたのですが、ルビについても、"禍つ神々(ルイナス・パワーズ)"は、「禍ルイナス・パワーズつ神々」で検索すれば引っかかり、「ルイナス・パワーズ」で検索すればルビ単体もヒットします。

●日本における海外RPG電子版の流れ

 海外RPGの電子版は発売までのハードルが高く、また紙の本に比べて、まだまだ売上が伸びづらいため、また海賊版への対応が難しいことから、日本でもあまり普及はしてきませんでした。
 もちろん、10余年前には、『ロールマスター』日本語版のPDF版(ICE JAPAN、2008〜09年)や、汎用ワールドセッティング『ハーンワールド』(日本語版はサンセットゲームズ、2006年)を『ロールマスター』の簡易版たる『HARP(ハープ)』(日本語版の『HARP LIGHT』は、2008年)でプレイできるようにしたガイドブック『HARP HARN GUIDE』が、コロンビア・ゲームズのサイトからダウンロードできるようになっていました(いずれもICE JAPAN、現在は終了)。
 また、『パラノイア』シリーズの日本語版(ニューゲームズオーダー、2014年〜)は、当初から電子版に力を入れ、関連作品は電子版も売られています。『スケルトンズ』(ハロウ・ヒル、2018年〜)等のハロウ・ヒル作品も電子書籍と紙媒体を連動させる試みをなしています。クラシックD&Dベースのミニマムながらも整理のよいシステム『ザ・ブラック・ハック』は著者のサイトで日本語版が無料公開されていますし(2016年)、近年ではDrive Thru RPGのようなRPG関係のPDF販売サイトで購入可能なインディ・ゲームも散見されますが、それでも歴史と伝統のあるビッグゲームのPDF版が日本で大々的に展開されるというのは珍しいことだというほかありません。

●電子書籍のデメリット

 製作サイドにいる皮膚感覚としては、電子書籍と紙媒体での書籍は、モノとしての「所有している」という感覚に大きな違いが出るためか、そもそもの市場規模として比較にならないというのが現状です。
 また、紙媒体であれば、絶版になっても古書店や図書館を丹念にあたれば、現物にアクセスすることが可能になっていますが、電子版はいったん供給が止まると、現物にまったく当たれなくなるというデメリットもあります。
 これはゲームに限った話でもないのですが、紙媒体の耐用年数は一般に50年ほどと言われます。100年前の資料でも、さほどの問題なく現物を読むことができるものも少なくありません。
 また、電子書籍版は紙媒体よりも、ずっと非公認の海賊版を作成するのが容易です。なにせ、印刷の手間が省けるわけですから。
 海賊版対策については、英語圏でも古くから悩みの種となっているところで、実際にD&D第4版は海賊版対策として、長年、電子版の販売が停止されていました。
 コノスから販売されているPDFは、特定の電子ブックリーダーのサービスが停止したら読めなくなる、といった類のものではなく、PDFなので普通に読むことができるわけですが、購入時に電子透かしを入れることで、海賊版対策はなされている、とのことでした。売り方によって、できるだけ、モノとしての所有に近い感覚を出そうとしているわけです。
 
●電子版RPGは共有できてナンボ!?
 
 他方、電子書籍は便利だからと、プレイグループの間では共有できてしかるべき、という考え方があるのも確かです。
 私が画期的だと思ったのは、東南アジア風のオリエンタル・ファンタジーRPGの泰斗である『ブルーフォレスト物語』がグランペールから復刻したとき(2008年)、本文の内容をすべて収めたCD-Rが付属していたことです。これはGMのセッションを円滑に進めるために、一部のデータをプレイグループで共有することが、デザイナーの伏見健二氏によって正式に許可されていました。
 ただし、著作権を放棄しているわけではありませんので、データをそのままネットにアップしたり、勝手に製本して販売したりするのはNGなわけですが、それでも電子版のRPGがほとんどなかった時期には、なんとも大胆で、かつ先駆的な試みでした。
 ここでもう一つ着目してほしいのが、ポストヒューマンSFホラーRPG『エクリプス・フェイズ』(新紀元社、2016年〜)です。これはCreative Commonsの「BY(表示)−NC(Noncommercial、非営利)−Share Alike(継承)」が付いています。つまり、『エクリプス・フェイズ』関連のクレジットを添えたうえで、非営利であれば、作品を改変・変形・加工してできた作品についても、元になった作品と同じライセンスを継承させた上で頒布を認める。
 極端な話、非営利であれば、ルールブックを全文印刷して配布してもかまいません(印刷代はかさみますが)。これはオリジナル・デザイナーの意向により、「Role&Roll」に連載されている日本語でのサポート記事も、すべてそうなっています。
 また、ネットマガジン「SF Prologue Wave」上での何十もの『エクリプス・フェイズ』シェアード・ワールド小説も、Creative Commonsを利用して行われています。
 
●ルールブック未所持問題の解決
 
 ネット上のRPG関係の議論は、過去の議論の蓄積が共有されないためか、しばしば堂々めぐりの様相を呈します。思い返せば、今ほどネットが普及していない頃から、自前でルールブックを買わないプレイヤーはしばしば散見されました。それで自前でシステムを作ってしまう人もいましたので、一概に悪いと言い切れない部分もありますし。そもそも同調圧力でルールブックを買うように仕向けるのも、どこか間違っている気がします。

 私の信条は、RPGは「文学」である、というものです。その作品世界を自分のクリエイティヴィティの一部とするため、つまりルールや背景を読み込むためにルールブックを購入する必要があるので、ルール未所持のゲームをプレイする気持ちにすらなれないタイプのゲーマーなのですが……人によってゲームをどこに位置づけるかは異なってきます。
 こうした状況のエレガントな解決方法として、『エクリプス・フェイズ』の大胆な挑戦は、もっと着目されてよいでしょう。ルールブック未所持問題がいやなら、『エクリプス・フェイズ』をプレイすればいいのです。これは冗談ではありません。

●うまく併用していこう

 さて、『ウォーハンマーRPG』に立ち返ってみれば、PDFで発売されていた作品をまとめてハードカバーで書籍化する、連作シナリオの1話目のみを無料にする、追加魔法(カード含む)をPDFによる薄い追加サプリメントとして発売するなどの試みをしており……それ自体として新規性があるわけでは必ずしもないのですが、「内なる敵」キャンペーンのリヴァイヴァルを含む、大型サプリメント群の刊行ペースがきわめて早く−−あるいは旧版とクリエイターが重複しているために、さほど大きなイメージ変更もないゆえにか−−かなり柔軟な印象を与えるのに成功しているように思えます。
 いずれにせよ、ウイルス禍のなか、それまでオフライン・セッションが専門だった層も、オンラインに進出せざるをえなくなった状況において、電子版の必要性は、かつてよりもいっそう増しているのが現状です。
 つまり、うまく紙媒体と電子媒体を使い分け、共存させていくことができるのかが、今後のRPGシーンを占うのは間違いないわけで、『ウォーハンマーRPG』第4版日本語版は、そのための試金石になるのかもしれません。


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2021年07月15日

児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる「ヴァンパイアの地下堂」小説リプレイ


 本日2021年7月11日配信の「FT新聞」No.3091に、齊藤(羽生)飛鳥さんによる、『トンネルズ&トロールズ』完全版の小説リプレイ、「ヴァンパイアの地下堂」(拙訳、『コッロールの恐怖』所収)編が掲載されています。高レベル用ホラー・アドベンチャーをご堪能あれ!

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児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.8
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『ヴァンパイアの地下堂』は、個人記録過去最高で、プレイヤーキャラが死んだソロアドベンチャーです。
何人ものプレイヤーキャラが、様々な最期を遂げていきました。
そんな中、唯一生き残ったのが、今回の主役のディーバです。
その喜びにより、テンションが上がったため、終盤から私の好きな漫画の引用ネタが増えます。
それでは、BGMに『VOODOO KINGDOM』をイメージしつつ、ご笑覧くださいませ^^

※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『怜悧なるディーバのヴァンパイアの地下堂』
〜『ヴァンパイアの地下堂』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:怜悧なる自己紹介

ボクの名前は、〈怜悧なる〉ディーバ。
『ボク』と言っているけど、本当は18歳の金髪碧眼の人間の乙女だからね。
身長158cm、体重はヒ・ミ・ツ!!
職業は、魔術師。レベルは12。
この年齢で、レベル12の魔術師になったのと、知性度68から、つけられた二つ名は〈怜悧なる〉だ。
魔術師組合の同期で、風の噂では奴隷になった落ちこぼれ……失礼、変わり種のエルフの魔術師の幸薄きジークリットが、いまだにレベル一桁代をさまよっているのとは、大違いだ。
さて、そんな優秀な魔術師のボクだから、カザンの魔術師組合からの危険極まりない依頼を受けたのも、当たり前と言えば当たり前なことだった。
「高貴なる者の務め」ならぬ「優秀なる者の務め」は果たさないと、ボクに才能をくれた神様から天罰を食らってしまうからね!


1:怜悧なる旅立ち

主任魔術師のメンスラー様から、これから行くコッロールのヴァクシュミの地下堂の説明と、案内人となる召使いの岩トロールを紹介された。
岩トロールは、岩悪魔みたいなものだろうとたかをくくっていたら、6メートルだって!?
想像していたよりも3倍大きくて、びっくりだよ!
名前は、トラン=トール=ホム。
石のクリーチャーだから、対ヴァンパイアやアンデッドの仲間として、最適だ。
ラバ呼ばわりも護衛呼ばわりも嫌うことを、メンスラー様はさも悪いことのように言ったが、トランは単に自分を正しく評価されたがっているだけじゃないのかな?
異種族差別発言を平然とするとは、メンスラー様は意地が悪いお人だ。
だから、怜悧なるディーバちゃんとしては、差別などせず、岩トロールは酒場でくだをまいている冒険者くずれのおっさんを相手にするように、おだてて利用するのが一番だと思うんだよね。
「君のようなたくましい戦士を旅の相棒にできるとは、ボクはついているよ! 魔法攻撃はボクにまかせて、君は思う存分実力を発揮するといいよ!」
と、挨拶の後に、軽くリップサービスしたら、トランはため口から敬語に早変わり!
ボクのことを「ディーバ様」と呼ぶまでになった!
おかげで、旅の打ち合わせはスムーズに進んだ。
さあ、いよいよ廃都コッロールの冒険が始まるぞ!
ボクとトランは、カザンの魔術師組合事務所を後にした。


2:怜悧なる市内探索

廃都コッロール。
そこは、カザン帝国の地下一帯に広がるヴァンパイアとアンデッド達の都。
その郊外に、ボクとトランがたどり着いたのは、カザン帝国魔術師組合事務所を後にして10日後のことだった。
生者の時が終わりに近づき、アンデッド達死者の時が始まりつつある午後の日差しが、やがて訪れる夜の闇の危険をボクらに告げていた。
「これからどうしますだ? 日のあるうちにヴァンパイアの地下堂へ入りますだか? それとも、日没になってから入りますだか?」
トランは、もっともな質問をする。
ボクの答えは、最初から決まっていた。
「無駄な戦闘を避けて目的を達成したいから、アンデッド達が出て来ない日のあるうちに地下堂の入り口を目指すよ」
トランは、ボクの決定に賛成したので、ボクらはコッロール市内を歩いた。
1000体ものスケルトン・マンが暮らしているので、いつ奴らに襲われるかもしれない。
しかし、今は日中だし、ボクの傍らには6メートルもあるトランがいるから、襲いかかって来る心配はない。
ボクは、姿隠しや幻覚の呪文を使わず、市内を歩いた。
怜悧なるボクの読みは当たり、スケルトン達はただの1人として、襲いかかって来なかった。
おかげで、ボクらは地下堂への秘密の入口にまで無事にやって来ることができた。


3:怜悧なる決断

地下堂の入口である廃墟の壁に近づくと、邪悪なオーラが強烈に放たれていた。
この中に入れば、さらにこのオーラが増すのは容易に見当がついた。
それはつまり、ボクの生命や存在の危機を意味している。
メンスラー様が、トランを紹介してくれて、本当によかった。
こんなに便利な召使いはめったにいない。
……と、感心をしたそばから、トランがとんでもない告白をしてきた。
なんと、彼には入口が小さすぎるため、地下堂には入れないと言うのだ!
魔法で小さくすれば入れると言うあたり、冒険を続ける意思があるのがわかって安心だが、さてどうしたものか。
ちょっと考えてから、ボクは《小さいことはいいことだ》の呪文を思い出した。
この呪文を習得した時、何の役に立つのか、首をかしげたものだが、こういう場合に役立つものなんだね。ちゃんと修行しておいてよかったよ。
「ダトコイイハトコイサイチ……」
呪文を唱え終えると、たちまちトランは元のサイズから4分の1サイズに小さくなる。
「これでよし! さあ、出発だよ、トラン!」
ボクは、先にトランを地下堂の中に行かせると、サンストーンを起動させてから、地下堂のダンジョンへと入った。


4:怜悧なる探索開始

幻の扉を通過した途端、ボクは胸に破壊的な魔力の一撃を食らった!
しまった、怜悧なるボクともあろうレベル12の魔術師が油断していた!
耐久度が10%減るのを感じたけど、魔力度の消費は極力避けたいから、我慢してこのまま探索は継続だ。
ボクは、気を取り直すと、曲がりくねった階段を下り始める。
曲がりくねって歪んだデザインのせいで、見通しがきかない。
こういう場所は、モンスターに遭遇しやすい。
ボクが予想したそばから、階段を上がってきたレッサー・ヴァンパイアと、ばったり鉢合わせしてしまった。
「ギャー……と思ったら、新鮮な血だ! やったー!」
驚いたそばから喜ぶとは、なかなか忙しい奴だ。
出現を予想していた怜悧なるボクは、勇ましく先陣を切るトランの邪魔にならないよう、落ち着いて場所を譲った。
たちまち、トランとレッサー・ヴァンパイアとの戦闘が始まる。
曲がりくねった階段は、身動きが取りにくい。
援護の呪文を放つ時は、トランに当てないように気をつけないとね。
トランは、レッサー・ヴァンパイアをいい具合に打ちのめしてくれた。
おかげで、ボクのしたことと言えば、とどめの魔法を食らわせたのと、動かなくなったこいつの体をあさったことだけ。
ボクの冒険の目的は、この地下堂で少しでも魔術師組合の研究に役立つアイテムを手に入れることだから、罪悪感はない。
レッサー・ヴァンパイアの体をあさると、アミュレットが出てきた。
正直、安物っぽいけど、メンスラー様なら、魔術的価値を見出すかもしれないから、念のため回収だ。
ボクは、レッサー・ヴァンパイアをあんなに打ちのめすとは素晴らしい戦士だと、トランをほめちぎりながら、階段を下り続けた。


5:怜悧なる分かれ道

階段を下りきると、堅い岩を削ってできた狭い回廊に出た。
その先にはトンネルがあり、道が左右に分かれていた。
危なっかしい足元の道で、呪文《そこにあり》で調べてみようかという考えが浮かんだけど、さっきの戦いで魔法を使ったばかりだから、魔力の消耗はできるだけ避けたい。
せっかくトランがいることだし、先に歩かせて危険かどうか様子見をすればいい。
「どちらの道へ行きますだ?」
「左へ進むよ。さあ、行った行った」
ボクは、トランを先頭に左の道を進む。
道は、ちょっと歩いてすぐに右に曲がり、また左右分かれ道になっていた。
迷った時には、左へ進むのがいいと、昔読んだ本に書いてあったことを覚えている怜悧なるボクは、また左の道を選んだ。
今度は6メートルほど歩いたところで、右に曲がる。
左の道を選ぶたびに、必ず道が右に曲がっている法則でもあるのかな?
そんなことを考えながら、曲がり角にさしかかった時だ。
ボクは左手に古い扉を、曲がり角の先に大きな部屋があるのを見つけた。
今まで左の法則で進んできたボクだけど、扉は鍵がかかっている可能性がある。
だけど、これまでの探索でボクらは鍵を入手してない。だから、扉に入ろうとしても開けられないかもしれない。
それよりも、扉がない大きな部屋を探索しに行った方が効率がいい。
怜悧なるディーバちゃんの辞書には『バカの一つ覚え』はないのだ!
ボクとトランは、扉の前を通りすぎて、大きな部屋へと向かった。


6:怜悧なる選択

大きな部屋は、一言で言うと、まがまがしい部屋だった。
天井は蜘蛛の巣で覆われているし、壁には背筋が凍りつくような、おぞましいデス・マスクがたくさんかけられている。
ボクの《魔力感知》と本能が、ここにある物も、この場所も、とてつもなく危険だと告げている。
はっきり言って、このデス・マスクはすべて呪われているよ!
部屋の中を見渡すと、ボクらが入って来たのとは違う扉が遠くの角にひっそりとあるのを見つけた。
扉には、【死せる者のみがこの扉を通るべし】と書いてあった。
扉を開ける前から、強烈なまでにまがまがしくも強大な魔力を感じた。
でも、それだけ、ここには魔術師組合の研究に役立つほど貴重な物があるとも言える。
ボクは、迷わず部屋に入った。
やっぱり、すさまじい魔力だ!
それに、思ったとおり、たくさんデス・マスクがある!
なんて、呪いに満ち満ちた部屋なんだろう。
トランに至っては、部屋に入ってすぐにダッシュで部屋の外に出たよ!
「ディーバ様。自分は、廊下に避難……でねえ、見張りをしていますだ。あの……頼むから、その部屋のマスクには何もしねえで……」
「お言葉だが、トラン。ボクの任務は、こういう物を持ち帰ることなんだよ」
ボクは、トランの助言を受け流し、部屋の壁にかけられたたくさんのデス・マスクの中から、金とトルコ石のルーンで彩られたマスクを見た。
これこそ、メンスラー様が持ち帰ってきてほしいと頼んだものだ。
魔力の弱いマスクと、強いマスクがあるけど、どちらにしようかな?
「そんなガラクタはうっちゃっておいて、外に出ておいでなせえ!」
考えるボクの背中に、トランの必死の叫びが聞こえてくる。
トランには悪いが、ボクにとって大事なのは、メンスラー様からの依頼であり、ボクの使命感だ。
二度とここへ来るつもりはないから、思いきって魔力の強いマスクを持ち帰ろう。
ボクは、魔力の強いマスクを手に取った。


7:怜悧なる衝動

魔力の強いマスクを、こうして手に取ってつくづくながめるに、気味の悪いマスクだ。
ヴァンパイア……仮面……うっ、頭痛が……!
なぜだろう?
人間をやめると、声高らかに宣言しながらマスクをかぶりたい衝動に猛烈に駆られる!
こんな見るからに呪いがかかっているマスクなんてかぶったら、命を落としかねないと、怜悧なるボクの頭は理解しているのに、猛烈にマスクをかぶりたい!
仮面なしじゃNO LIFEな気分だ!
部屋の外で、トランがおびえて早く出て来いと言っているのが聞こえるけど、今はそれどころではない。
「俺は人間をやめるぞー!」
気がつけば、ボクは声高らかにそう宣言して、マスクをかぶっていた。
でも、かぶったそばから、早く脱がなくてはという思いにかられた。
ボクは、必死になってマスクをかぶり続けたい衝動に打ち勝ち、やっとの思いでマスクを顔から引っぺがした。
危なかった……あともう少しマスクをはずすのが遅かったら、どうなっていたことやら。
ボクが額の冷や汗をぬぐったところへ、部屋の中のまがまがしくも邪悪なオーラがいっそう強まるのを感じた。
死そのものが、ボクの背後にたたずんだら、こんな気分かな……。
トランは、恐怖のあまり、全速力で逃げていく。
怜悧なるディーバちゃんよりも、怜悧なる判断だ。
名ばかりの怜悧なるディーバちゃんは、逃げられず、背後を振り向くほかない状況に陥っている。
ボクが振り向くと、そこには濃い霧が立ちこめていた。
霧はやがて濃度を増して、具象化していく。
具象化した先に待っていたのは、太古のヴァンパイアだった!
一目見ただけで、背筋が凍りつく恐ろしい姿をした彼こそ、この地下堂のあるじ、ソーサラー・ヴァンパイア・キングのヴァクシュミだった。
要約すると、ボクの血を吸いに来たと語るヴァクシュミに対して、ボクができることは、ただ一つ。
《わたしをどこかへ……》の呪文を唱えるだけなのだが、魔力がたりない!
終わった……。
Tamam Shudだよ……。
「言い残すことはないか、ちっぽけな魔術師よ?」
ヴァクシュミは、いたぶるように微笑を浮かべながら、弱者の最期のあがきを嬉々として待ちかまえる。
「血を吸われてヴァンパイアの下僕となるなら、男とは思えない妖しい色気と透き通るような白い肌と輝く金髪を持つ魅力度カリスマ級の吸血鬼の下僕がよかっ……」
「もうええわ」
世にも珍しいヴァクシュミのイラッとした声を最期に、ボクは血を吸われ、意識は闇の底へと沈んでいった……。


8:怜悧なる目覚め

目が覚めると、地下堂の一室の石棺の中にいた。
新入りの下僕風情のために、わざわざ部屋と石棺をお与えくださるとは、ヴァクシュミ様は、マジ王様。キングの中のキングだよ!
しかも、ヴァンパイアになったおかげで、魅力度も上がり、ボンキュッボンのナイスバディになった!
ヴァクシュミ様、最高!
ヴァクシュミ様、万歳!
さらには、召集をかける以外は好きなことをしてもいいとは、なんて寛大なんだろう!
カザンの魔術師組合よりも、ずっと労働条件がいいや!
ボクは、すがすがしい気分で、地下堂を出た。
夜空には、赤い三日月がのぼり、吸血コウモリ達が群れをなしてはばたく音が聞こえる。
こんな美しい夜は生まれて初めてだ。
おや、新鮮な血のつまった皮袋がパーティーを組んでやってきたぞ。
さっそく襲撃だ!
皮袋達は、ボクを見るなり、いっせいに攻撃をしかけてきた。
「無駄無駄無駄ァーッ!!」
ボクは、すかさず反撃する。
呪文は覚えているし、魔法の力は上がっているから、あっという間に皮袋どもを戦闘不能にできた。
「頼む……命だけはお助けを……」
何か言っているけど、関係なし!
いっただきま〜す!

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行予定のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
Flying to Wake Island 岡和田晃公式サイト(新)
2020-04-16 児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「ヴァンパイアの地下堂」(『コッロールの恐怖』所収)リプレイ
https://akiraokawada.hatenablog.com/entry/2020/04/16/213228

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2021年07月04日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11


 第4版ルールブックのPDF版、新作の発売と話題沸騰中ですが、2021年7月1日配信の「FT新聞」No.3081に「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11」が掲載。オウガの解説です。新作「ライクランドの建築」に出てくる建物をオウガに守らせ、あるいは襲撃させましょう!

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11

 岡和田晃
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 わたしはユングフロイト家の周辺を探ることにした。
 魔力の風を感知されたら困るので、なるべく魔法を使わずに、あの手この手を使うのだ。
 わたしはフレイザーを連れて、うらぶれた肉屋へ赴いた。そこで、たたき売りされているクズ肉を能う限り買い漁る。
 そして、“くしゃみだらけでぶっ飛んだ”亭と看板が出ているスパイス店に行く。ここのオーナーはハーフリングで、オウガたちの好みを知り尽くしている。
 買った肉を味付けしてもらうわけだ。肉から向こうに任せることもできるが、ここぞとばかりにふっかけられてしまうので、食材はこちらで用意するに越したことはない。
「なあ、この肉は何に使うんだ?」
 フレイザーが勘の鈍い質問をしてくる。
「決まっているでしょ。オウガの衛兵たちに食べさせてやるのよ」
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●オウガ! オウガ! オウガ!

 オールド・ワールドのクリーチャーについて、これまでスケイヴン、グリーンスキンと解説してきましたが……それ以外にも他のファンタジーRPGお馴染みのクリーチャーが、『ウォーハンマーRPG』では登場します。
 ――ずばり、オウガやトロールです!
 オウガ(Ogre)は、ゲームによっては「オーガ」、「オグル」などと訳されてきました。日本におけるRPG黎明期の代表的な解説書である早川浩『RPG幻想事典』(ソフトバンククリエイティブ、1986年)では、「オグレ」というユニークな訳語が当てられていたのが印象深いところでした。
 D&D系列のゲームでは、ゴブリンやオークよりは強いもののトロールやジャイアントには劣る、いわば中級レベル帯の代表的な敵役として登場します。
 クラシックD&Dは、モンスターを狩っても獲得できる経験点はそう大したものではなく、頭を使って宝を得て初めて、充分な成長ができるだけの経験点が得られるというシステムでした。大抵のクリーチャーは、ねぐらにお金を溜め込んでいるわけで、ワンダリング・モンスターとして出逢うような連中はろくな宝を持っていないものが常なのですが……オーガの場合は、大金をもってウロウロしているので、恰好のターゲットでした。昔話や伝承の「人食い鬼」がオーガの起源と思われますが、これでは、どちらが悪どいかわからない。
 そんなオウガは、『ウォーハンマーRPG』では独特の立ち位置を与えられています。独自の思想をもっていて癖があるものの、頼りになる用心棒、何よりもグルメなのです!
 第4版のルールブックでは、オウガは以下のように説明されています。筋骨隆々ですが暴力的で、常に腹を減らしている。基本的には力こそ正義。そして……。

 はるか東の土地からわらわらとやって来たオウガたちは、常に地平線の果ての新たな肉を狩るべく放浪を好むことから、オールド・ワールドでごく普通に見られる。数十年に渡る食料探しの旅を経て、彼らは次の肉にありつく可能性がより高そうな方法として、地元の服を着て、彼らが理解する地元の風習に従い、その地に融け込もうと熱心に働くようになる。

 そう、意外なことに、人間(やデミヒューマン)の社会に溶け込んでいるんですね。扱いやすいとは到底いえませんが、それでも美味しい食べ物を与えていれば文句は言わない。領邦軍における壁役、いかついので用心棒としてもピッタリです。

●オウガとハーフリングは仲良し

 オウガはとりわけハーフリングとは――意外に思われるかもしれませんが――大の仲良しだったりするのです。第4版のルールブックでも、特段にコラムを設けて、両者の関係は解説されています。オウガはハーフリングのために、安価で頑丈な労働力を提供する。逆にハーフリングは料理の腕前を生かした料理人として、とびきりのごちそうを振る舞う。そういったWin-Winな関係が成り立っている、というわけです。しかし残念なことに、しばしばハーフリングの料理よりもハーフリング自身のほうが美味しい、という展開にもなってしまうこともあるようですが……。
 ハーフリングが料理好きというのは、『指輪物語』や『ホビットの冒険』のイメージが応用されていますね。ただ、『ホビットの冒険』に出てくるトロールのイメージは、『ウォーハンマーRPG』や他のファンタジーRPGではオウガとトロールへ、区分される形で踏襲されているのではないかと思えてなりません。それどころかオウガとトロールはしばしば対立し、第4版のシナリオソースとして英語で公開されている無料PDF「ライクランドに冒険あり!(Adventure Afoot in the Reikland )」では、オウガの料理人がリバー・トロールの肉を求めるという、奇妙なシチュエーションのシナリオソースが収録されています。


●奇書「エンパイアのオウガ」

 『ウォーハンマーRPG』第2版では、「エンパイアのオウガ」というウェブエンハンスメントがありました(訳:鈴木康次郎、チェック:阿利浜秀明、岡和田晃)。これはもともと、英語ではBlack Industriesから『ウォーハンマーRPG』第2版が出ていた時分にダウンロードが可能だったものです。ちなみにBlack Librariesというのが、〈ウォーハンマー・ノベル〉を専門で出版している版元のことですね。第2版の日本語公式サイトは閉鎖されていますが、Web Archiveには残っているため(https://web.archive.org/web/20170623035746/http://hobbyjapan.co.jp/wh/dlfiles/empire_ogre.pdf)、そちらで読むことが可能です。
 「エンパイアのオウガ」は純正品というよりも、かつて第2版の公式サイトで私の翻訳で公開されていた「ライク川にかかる橋」のように、ファン・マテリアルだったものです。とはいえ、筆頭製作スタッフは『ウォーハンマーRPG』第4版のメイン・デザイナーの一人、アンディ・ロー氏であり、雑誌で言えばファンジンというよりはセミプロジンに近いものでしょう。
 なのに、必ずしも公式だと銘打たれていないのは、まずはオウガをパーティに入れると、バランスが大きく崩れかねないから。『ウォーハンマーRPG』が面白いのは、バランスが崩れる、というのに2つの意味があることです。1つは戦闘バランス。一般的にオウガは、ドワーフよりも打たれ強いですからね。もう1つは社会的地位ですね。オウガはドワーフよりも、社会的地位が低い、つまりエンパイア社会において、充分に受け入れられてはいない、ということなのです。
 かように癖があることを前提とすれば、オウガをPCとすることは、なかなかユニークです。オウガ・キャンペーンすら可能であり、私自身。スケイヴン・セッションにオウガPCを織り交ぜるという離れ業を試してみたことすらあります。


●オウガの奇妙な背景

 「エンパイアのオウガ」の基本設定は、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』のアーミーブック「オウガ・キングダム」の設定を拡充させたものとなっています。オウガは“大アゴ様”という神を崇めていますが、これはワープストーンの彗星(!)によってあけられたクレーターのこと。複雑な哲学や芸術は理解できませんが、それを補って余りあるほどにパワフル。内面の懊悩とは無縁。しかし、混沌の生き物ではない(混沌への特別な耐性はない)。それがモブではなくプレイヤー・キャラクターにできるのですから、最高ですね。ロールプレイの腕前も試されるというものです。
 「エンパイアのオウガ」のQ&Aでは、オウガとハーフリングが、同じ遺伝材料で“旧き者”から創造されたと、衝撃の事実がさらっと明かされています。この“旧き者”というのは、初版では“オールド・スラン”と訳されていた太古の存在ですね。
 そして、オウガとハーフリングの関係は、『指輪物語』や『シルマリルの物語』におけるオークが、堕落したエルフとして位置づけられていた(もともとは同じ種族である)という設定を彷彿させます。
 こうした背景を、実際にセッションに取り入れるのかはGM次第でしょうが、キャンペーンの合間に仄めかしておいたりすると、ぐっと奥行きが増すだろうと思います。第4版では、アルトドルフの警護など、NPCとしてオウガは使われることが奨励されているようですが、クリーチャー・データのテンプレートは、数値的にアレンジすることもできるとコラムで解説されています。「エンパイアのオウガ」のデータは第2版ですが、身体的特徴の決定表や命名表は、そのまま第4版にも使えてしまうでしょう。


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2021年06月25日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.10

 2021年6月17日配信の「FT新聞」No.3067に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.10が掲載されています。スケイヴンの話題の続きから、グリーンスキンへ。『ヒーロークエスト』、ハーミットインについても触れています。きみはスノットリングを知っているか?!

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.10

 岡和田晃
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 わかった。ユングフロイト家は、悪魔術の使い手のために「愚者の石」ことワープストーンを探し求めている。
 魔法の触媒に使えるし、それを使って鼠人間どもとも取引ができる、という寸法だ。どちらに転んでも損はしない。しかし、混沌は着実に世を穢しゆくことになるが……。
 精鋭の下水道調査隊長に率いられた調査隊員でもない限り、ここユーベルスライクの下水道を隅から隅まで探索し、奴らを根絶することなどできはしない。
 それどころか、見たこともない精度のワープストーン・マスケット銃で撃ち抜かれるのが関の山だろう。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●ワープストーン兵器!?

 スケイヴンについては、いくらでも語れる!
 これ、『ウォーハンマーRPG』のみならず、オールド・ワールドに“生きる”人であれば、誰しもの同意を得られるのではないかと思います。
 とはいえ、実際のセッションでどうスケイヴンを運用するのかは、GMのセンスが問われるところなんですよね。
 連載の前回をお読みになった「鋼の旅団」さんからは、「今回は、鼠とワープストーンでしたね。私も以前、どうしても敵のボスにチェーンソーを持たせてPLに恐怖を植え付けたかったので、考えた末に動力をワープストーンにしたことがあります。鼠は、ミ〇キーやマイティマ〇スに走ってしまうので、自制の意味でほとんど使わなかったんですよね〜。」というコメントを頂戴しました。
 確かに、私も『ウォーハンマーRPG』第2版の『スケイブンの書』を作って、「暗黒ガンバの冒険」と銘打った酷いシナリオをGMしたことがあります(笑)。
 チェーンソーの動力をワープストーンというのは、トビー・フーパー監督の名作ホラー映画『悪魔のいけにえ』(1974年)を彷彿させますね。
 ワープストーンを動力というと、知らない人には突飛に見えるかもしれませんが、『スケイブンの書』には、ワープロック・ピストル、ワープロック・ジャザイル、ワープファイアー・スロワー、ワープパワー・アキュムレーター急速充填型、ワープ・エネルギー・コンデンサー改といった、ワープストーンを使ったアイテムも紹介されており、それらを扱うのが得意なスクリール氏族やウォーロック・エンジニアというキャリアも設定されているほどなのです!
 出版されたばかりの第4版のシナリオ『角ありし鼠(Horned Rat)』(未訳)でも、鼠大隊長(クラン・チーフテン)、魔道技術鼠(ウォーロック・エンジニア)等のデータが追加されており、前述のものに加えて、さらにはワープロック・マスケット銃(!)なんて2版になかった武器までデータ化がなされています。

●スケイヴンか、グリーンスキンか?!

 また、あーるじぇい@owljeyさんからは、「知恵あるネズミ人スケイヴンの特集。自分もAFFでスケイヴンのテロリストから街を守るシナリオを作ったことがあったけど、使い勝手のよい連中!オーバーテクノロジも変異体も許容しちゃう。「スケイヴンの書」欲しいなあ。」というコメントをいただきました。
 『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』(AFF)で、スケイヴンを出したという興味深い証言でした。
 そう、スケイヴンみたいな悪役は、意外にも詳細に設定されていないので、他のシステムへの導入も楽なのですね。
 ただ、ワンダリング・モンスターとして登場させ、プレイヤー・キャラクターたちを襲わせるのなら、別にクリーチャーではなく、ならずものたちに襲撃させればいいわけで、そのほうがよっぽどオールド・ワールドらしくなります。あーるじぇいさんはそこのところをよくおわかりで運用されたことがわかりますね。
 あるいはグリーンスキン。スケイヴンと人気を二分するクリーチャーですが(異論は認めます)、『ウォーハンマーRPG』第4版では、オーク、ゴブリン、スノットリングの3種類が紹介されています。
 ゴブリンについては説明不要でしょう。単体では脆弱ですが、徒党を組むと勢いを増すところは、スケイヴンに似ています。
 地上や野外での戦闘はゴブリン、地下での戦闘はスケイヴン……などと使い分けるとよいでしょう。
 『ウォーハンマー オンライン』日本語版が稼働していた時には、待兼音二郎氏の訳で、「チョッパの物語: ひとつかみほどのチョッパども 第一章「棒と石と」、第二章「モルクさまのお言葉」が公開されていたのですが、サービス終了とともに読めなくなっているのが残念です。グリーンスキン側に視点を当てたのがユニークな小説で、それこそT&Tのヴァリアント『モンスター! モンスター!』(グループSNE、2019年)にも通じる、「逆転の発想」で書かれているものと思います。
 ただ、同じく待兼音二郎氏が翻訳に参加しているウォーハンマー・ノベル『渾沌のエンパイア』(ホビージャパン、2008年)でも、グリーンスキンとの戦闘は描写されておりますので、ぜひ入手できるうちにゲットしておくのがよいでしょう。

●「嫌悪」と「憎悪」

 それでは、『ウォーハンマーRPG』におけるオークやゴブリンは、他のファンタジーRPGとどう違うのでしょうか?
 まず、ドワーフはゴブリンと犬猿の仲で、灰色山脈の洞窟で終わることなき抗争を繰り広げています。
 これはルール的には「嫌悪」や「憎悪」という形で表現されています。
 「嫌悪」というのは心理特徴の一つで、「嫌悪」の対象となるクリーチャーを目撃すると、〈冷静さ〉でテストをせねばならず、失敗するとそいつらを攻撃してしまうんですね。ただ、この時の攻撃というのは物理的な攻撃に限らず、罵声を浴びせるとか嫌がらせをするとか、そういったものでかまわないわけです。
 そして、「憎悪」という心理特徴は、いわば「嫌悪」の上位互換。「憎悪」している対象を見て〈冷静さ〉のテストに失敗すると、やむにやまれず皆殺しにしたくてたまらなくなるわけです。
 ゴブリンは「嫌悪(グリーンスキン)」の特徴を持っており、かつ、選択次第で「憎悪(ドワーフ)」を持つことになります。
 グリーンスキンとは同族なので、同族同士は絶えずいがみあい、しかしドワーフを見かけたらやむにやまれず襲いかかる……といった特性が、うまくルール的に表現されているというわけですね。

●オークの方がゴブリンよりも強い!?

 ところで、わりと見過ごされやすいところでは、オールド・ワールドでは、ゴブリンよりもオークの方が体格は大きく、データ的にも強力です。
 数はゴブリンよりも少ないのですが、そのぶんボアー(猪)に乗って突撃を仕掛けてくるなど、多彩な攻撃手段をもっています。
 また、『ウォーハンマーRPG』第4版では特に表現されていませんが、とりわけ『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』においては、オークはチョッパと呼ばれる、鉈のような武器を好んで使うことでも知られています。
 このあたりはゲームズ・ワークショップの自社ブランドであるシタデル・ミニチュアでうまく表現されていますね。あるいは、ミニチュア映えがするということで、生まれた設定なのかもしれません。

●ハーミットインの挑戦

 『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』は1990年代中盤〜後半から日本に本格紹介されました。ゲームズ・ワークショップ・ジャパン初代代表の籾山庸爾氏で、ブックレット『趣味人への道』は、とても優れた入門書でした。
 現在、籾山氏はオールドスクール・ファンタジー・ミニチュアのブランドである「ハーミットイン」(https://hermitinn.theshop.jp/)を経営しておられます。
 私もよく利用しますが、アザーワールド・ミニチュア、ラルパーサ・ヨーロッパ、リーパー・ミニチュアを、独自のセレクトによって輸入・販売しておられ、籾山氏の「哲学」がにじみ出た運営スタイルを含めてお勧めできます。
 私がお気に入りのブランドは、アザーワールド・ミニチュア。AD&DやクラシックD&Dをリスペクトしたクリーチャー造形が素晴らしく(蜘蛛の女王ロルスにそっくりのミニチュアもあります!)、AD&Dの『プレイヤーズ・ハンドブック』の表紙すら再現されているほどで、この泥臭さこそがファンタジーの淵源だと思う身にはピッタリで、眺めているだけで創作のイマジネーションが湧いてくるほどです。
 ハーミットインでは、これらのミニチュアをコレクションし、あるいはペイントするだけではなく、実際にそれを使ってソロプレイのミニチュア・ゲームが愉しめるよう、『デス・オア・グローリー』というオリジナル・ゲームも製作・販売されています。基本ルールとクエストモジュールが2つ、すでに出版されていますよ。

●『ヒーロークエスト』と『バトルマスター』

 ゲームズ・ワークショップ・ジャパンの設立前には、新和版D&Dの翻訳監修者だった故・大貫昌幸氏らのORGが、シタデル・ミニチュアを輸入・販売していました。「ウォーロック」や「オフィシャルD&Dマガジン」誌等に広告が出ていたので、ご存知の方も多いだろうと思います。
 ただ、実は誰もが知っている大手の玩具メーカーから、シタデル・ミニチュアが出ていたことはありました。それは『ヒーロークエスト』。1991〜92年頃にタカラから日本語版が発売された「立体迷宮RPGボードゲーム」で、ダンジョン・タイル、マスター・スクリーンに、35体のフィギュア、15個の家具・宝箱等のミニチュアに、シナリオが入っていて、そのまま入門用RPGとして愉してしまうお得なものでした。
 私は中学生の時、地元のおもちゃ屋に、『ヒーロークエスト』がひっそりと残っていたのを発見し、友人と地元でしか使えない商品券を出し合って共同購入、使い倒したのを記憶しています。
 「ウォーロック」のVol.63(1992年3月)では、『ヒーロークエスト』のリプレイを読むことができますが、近年の英語圏でのゲーム研究においては、それこそ『ヒーロークエスト』のようなボードゲームとRPGの両方の要素を持つ作品群が注目されており、専門の研究書も出ています(Marco Arnaudo, Storytelling in the Modern Board Game: Narrative Trends from 1960s to Today. Jefferson, NC: McFarland, 2018)。
 こちらは未訳ですが、私の参画しているボードゲーム読書会@高田馬場のサイトで、レジュメと討議の音源が公開されていますので、ご興味のある方はご覧ください(https://www.boardgamereaders.com/books/storytelling)。
 ちなみに、1992年には『バトルマスター 伝説の騎士団』という、それこそ『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』の入門セットのようなゲームが、野村トーイから日本語版が発売されています。ミニチュア105体を駆使し、野外でのインペリアル軍とカオス軍の戦いを表現するというのですから、そのものずばりですね。こちらについては、私は未プレイなのですが、Rman氏のサイトにプレイレポートがありますので、ぜひチェックしてみてください(http://ror.main.jp/kikaku_battlemaster.htm)。

●スノットリングを忘れずに!

 ところで、オークやゴブリンはいいとして、『ウォーハンマーRPG』第4版には、スノットリングというクリーチャーのデータが収められているのも、見逃せません。これはゴブリンよりもさらに小柄な連中で、ゴブリンよりも数が多く、毒キノコや排泄物などを敵に投げつけるのが大好きな連中です。
 これまた人気クリーチャーで、ウォーハンマー版アメフトともいうべき『ブラッドボウル』シリーズでは、スノットリングの専門チームがあるほどに、可愛らしい奴らなのです。
 友野詳氏の『ウォーハンマーRPG』初版のリプレイシリーズにも、スノットリングは出てくる話がありますから、RPG派の方はそちらを読んでみるのも面白いでしょう。


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2021年06月15日

児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる「怪奇の国!」小説リプレイ

 2021年6月13日配信の「FT新聞」No.3063に、作家の齊藤(羽生)飛鳥さんによる「怪奇の国!」(『怪奇の国のアリス』所収)のリプレイ小説が掲載されました。1977年の古典シナリオを「徹夜本」として楽しんでいただいた、そのプロセスが追体験できます。

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児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.7
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徹夜本という表現があります。
徹夜せずにはいられないほど面白い本という意味です。
私は子どもの頃から早く眠る習慣があり、今も12時くらいには寝るように心がけています。
そのため、人生で一度も徹夜したことがありません。
東日本大震災で帰宅難民となり、都庁舎に泊まらせてもらった時でさえ、パイプ椅子の上で眠り、縦と横が同じ厚さの巨大なマグロの刺身を夢見るくらい、しっかりと熟睡していたほどです。
しかし、『怪奇の国!』では二日にわたり深夜1時すぎまでプレイしてしまいました。
私には、徹夜に等しいです。
ですから、『怪奇の国!』は、私の中では徹夜本認定です!
先に冒険した『怪奇の国のアリス』よりもページ数が少ないので、軽い冒険かと思っていたら、これが意外にも大冒険となってしまったからです。
あともう少しでクリアできる……と、常に思わせる絶妙な匙加減の展開のため、ついついのめりこんでしまったのが原因です。
絶妙と言えば、『怪奇の国!』のキャラクター達も絶妙かつ秀逸でした。
個人的には、ガンファイターがお気に入りです。まさか剣と魔法の世界で彼のようなキャラに出会えるとは思わなかったので、インパクト大賞一等賞でした^^


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『幸運のジークリットの幸薄き冒険』
〜『怪奇の国!』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:幸運なる幕開け

私の名は、ジークリット。
エルフの女性。303歳。銀髪金眼褐色肌の160cm/体重55kg。
装備は、おなじみの冒険者の基本セット。
いっそ全裸の方がいかがわしくないと思えるデザインだけど防御力に優れたレザーアーマーの魔法の胴着。
速度2倍にしてくれる魔法のブーツ。
武器は、魅力度48の美貌……じゃなくて、魔法の剣(6d6+5)の女戦士だ。
前の冒険で知り合った、ザンダーという魔法使いの新しいガールフレンドと海賊達に勘違いされたのをいいことに、優雅な船旅を続けていた私は、「壮麗なる」マクシミリアンのマッドハウス、通称〈怪奇の国〉の噂を聞き、冒険者魂をくすぐられて下船。
今まさに、その御影石の館にたどり着いたところだ。
「入館料は、持ち帰る宝が何であれ、その10%または魔法のアイテム一つでかまわんよ……イーヒッヒッヒッ! 」
「壮麗なる」マクシミリアンこと、マクシミリアン・ザ・マグニフィセントは、私の脚を凝視しながら入館の説明をする。
脚フェチか、こいつ!
そんな異世界の知識が脳内に流入してきたけれど、怪奇の国は〈幸薄き〉ジークリットから〈幸運の〉ジークリットになった最初の冒険にふさわしい。
私は、太腿を凝視するマクシミリアンの粘っこい視線を感じながら、怪奇の国に入った。


1:幸運なる入り口

私が部屋に入った途端、巨大な岩が入り口のドアをふさぐ。
外から見て、館の出入り口らしいものは、このドアだけだったのに!
いきなりのアクシデント、やっぱり私は〈幸薄き〉ジークリットだと思いたくなる!
……と、嘆いていたら、どこからともなく声が聞こえてきた。私の脳内に唐突に流れこんでくる異世界の知識によれば、館内放送というものだろう。
私の目の前にあるアイテムをどれか一つ持って行ってもいいと言っている。
だったら、盾を持ってないから、盾にしようかしら。
私が盾を手に取ると、瞬く間に塵になってしまった!
盾だけじゃない。他のアイテムも何もかも塵になって消えてしまった!
ひとえに、風の前の塵に同じ……と、異世界から流入してきた知識を振り切り、私は気を取り直して西の廊下へ向かった。


2:幸運なる実験室

西の廊下をひたすら進むうちにろくにできずは途切れ、突き当たりの部屋に入ってみた。
またも、背後で扉が閉まる。心臓に悪い。
部屋は、絵に描いたような実験室で、ブンゼンバーナーにかけられたビーカーが目についた。
中に液体が入っているけれど、うかつに飲んでまたガレー船の奴隷送りにされたら困るので、部屋の北の通廊から外へ出た。


3:幸運なるレプラコーン

通廊に出ると、身長30cmほどのレプラコーンが、自分と同じサイズの鉛筆を一本抱えている。
道をふさいで、自分が鉛筆で書いた線をまたがらないと私が前進できないようにしている。
ハッキリ言って関わりたくない。
そこで、私はレプラコーンを無視して、北の扉を抜けてすることにした。


4:幸運なる通廊

北の扉を抜けると、東西に延びる通廊に出た。南の壁には、扉がある。
こういう時は、行きやすそうな方へ行ってみよう。
私は西へ歩き出した。
しばらくして、通廊の曲がり角に出くわす。
東へ行くと来た道を戻るだけだから、ここは前進あるのみ!
私は北へ向かった。
こうして歩いていると思い出すわ。モンゴーの塔の地下迷宮を冒険した日のことを。
シックスパックという岩悪魔を相棒に、様々な危険をくぐり抜けてきたっけ。
あいつ、今頃何をしているのかしら……と、思い出に浸るうちに、南北へ続く廊下に出た。
さっきから部屋にも人にも全然出くわさない。
それが幸運なのか不運なのかはわからないけど、永遠にさ迷い続けるのではないかという一抹の不安がわいてくる。
東の壁の扉には「立ち入り禁止」と書かれている。
ご親切にも警告してくれているから、行くのはなしにしよう。
さっきから、私は北へ進んでいる。
ここは、迷子にならないように、また北へ進もう。
私は北へ行った。
今度こそ、どこか、または誰かに出くわせると思ったら、出会えたのはT字路さんでした。
……て、また道なの!?
もう考えるのが面倒くさくなってきたわ。
西へ行ってみよう。
……て、今度は通廊の端!?
もういい加減どこかにたどり着きたい!
東へ進んだら、ただ元来た道を戻るだけで、またもさ迷える冒険者になるのは目に見えている。
こうなったら、北側の壁の扉を開けよう!
私は、ドアノブを回した。


5:幸運なるボート

部屋に入ると、そこは一面霧が広がっていた。
何でかしら、霧の中を歩くうちに、意識が遠のいていく……。
……気づくと、私は水に浮くボートに乗っている。
霧が深いから、このボートが浮いているところが、運河なのか地下水路なのかもわからない。
わからないのは、それだけではない。
どうして、私の手には紐が握らされているの?
あからさまに罠くさいから、引っ張らないでおこう。
それより、紐をよく観察だ。
え!? 紐はボートの底にある排水用コルクに繋げられている!?
危ない危ない!危うく抜いて沈没するところだった!
『かいけつゾロリ』に出てきた「おふねのせん」を自分が体験する日が来るとは、思いもしなかったわ!
脳内に流れこんできた異世界からの知識を引用しながら、私は慌てて紐から手を離す。
やがて霧が晴れ、ボートの中にある壷に奇妙な液体がためられているのに気づいた。
ボート……飲み物……うっ、奴隷船送りとなったトラウマが……。
でも、味は見ておこう。
ペロリ。これは、霊薬!?
私の体力度と耐久度が永久的に5も上がった!
何だかいい気分になってきたから、ボートを漕ぐわよ!
へぇ、東と南に扉があるのね。
では、東の扉にこぎ着けてみよう。
私は東岸にボートを着岸させると、扉の前に立つ。
扉には、「動物に餌をやらないこと」と書かれていた。
そうそう。世話係以外が餌をやると、厄介なことになるのよね。
奴隷船で、船長のペットだった毒蜘蛛のベティちゃんの世話係をやっていたから、よくわかる。
私は扉の中に入った。
そこは、猿小屋だった。
20匹ほどいる猿達が、イタズラを仕掛けてくるは、物欲しげに食糧を見つめてくる。
だめだめ。君達のご飯は世話係さんからもらいなさい!
私は、南の扉を通って、この場を離れた。


6:幸運なるサイケデリック部屋

猿小屋の隣は、サイケデリックで霊妙不可思議なシンボルや物品が無数にある、それはもうこの上なくうさんくさい部屋だった。
ここで、幸運度で1レベルのSR発生!
〈幸薄き〉ジークリットから、〈幸運の〉ジークリットになって初めての幸運度SR!
はい、挑戦!
はい、失敗!
器用度が4、知性度が3下がった!
それなのに、また幸運度でSR!
はい、挑戦!
はい、成功!
……よかった、どうにか助かった。
やっぱり、私は〈幸運の〉ジークリットになっていたわね。
さもなければ、ここで冒険終了だったわ。
さっさとこんな部屋から離れよう……。
ふぅん、この部屋には、北と南と東に扉があるのね。
ここは、何となくで南に行くとしよう。
……で、扉を開けたら、同じように三ヶ所に扉がついた小部屋?
こうなったら、また南の扉を開けてみよう。


7:幸運なるファンハウス

扉を開けて入った先は、マックスのファンハウスだった!
何、ここ!?
あぁ……いるだけて器用度が4減っていくゥゥ……。
早いところ、こんな部屋から出て行かなくちゃ!
出口となる扉は三つ、そのうちの南の扉を目指して、私はマックスのファンハウスを後にした。


8:幸運なる自動販売機

隣の部屋に入ると、武器の自動販売機があった。
面白そうだから、使ってみよう!
無料のダガーがあるから、これに決めた!
あ、ポチッとな。
スイッチを押す時の定番台詞を決めながらスイッチを押すと、ホイルに包まれたチョコレート・ダガーが出てきた!
しかも、ネスレ製!
私、明治派なのよ!
仕方ない。今度はちゃんとお金を入れ……て、嘘でしょう?
バトル・アックスを買うために20gpを入れたのに、商品が出て来ない!
この自動販売機を使えたのは、最初の1回だけだったということ!?
ただより高い物はないとは、このことね……。
仕方なく、私は自動販売機の部屋を後にした。
せめてもの救いは、ネスレ製のチョコレート・ダガーも案外イケたことだけだった。ごちそうさま。


9:幸運なる円形闘技場

東の通廊から出ると、左右に延びる通廊にいて、北の壁には扉があった。
ちょっと開けて入ってみよう。
うっ……目がくらんだ……しかも、数秒後には暗くなるなんて、もしやこれが噂の眼前暗黒感?
自分の問いに答えを返す暇なく、次の瞬間私は大きな円形闘技場めいた部屋にいることに気づいた。
私の周りには奇妙です服装の人が100人座っているし、私の背後には600人もの人達が座っている。
これ、今、どういう状況?
「はーい、お嬢さん。あなたは、ステージの上にある箱の中の物と、カーテンの後ろにある物とどちらが欲しいですか? 」
こっちがわけがわからなくてキョトンとしているのに、何の説明なしに強引に話を推し進めてこようとするのは怖い!
どんな裏があるか、わかったもんじゃない!
ここは外に駆け出すに限るわ!
私は1ダースもの人達をなぎ倒し、当たるも幸い、ちぎっては投げちぎっては投げちぎって鼻毛ちぎっては投げ……ん? 今、変な言葉が混ざった……?
とにかく、やっとの思いで出口にたどり着いた。
途端に、目の前が暗くなり、私は扉の外にいた。
つまり、元いた左右に延びる通廊の北の扉の前に戻って来たということ。
今度は、東へ行ってみようかしら。
東に行くと、小さな部屋に出た。
南の壁には扉。西の壁沿いには通廊。東の壁沿いにはアーチ型の道がある。アーチの上には「近寄るな」と警告文が書かれている。
ここは、扉を通ってみようかしらね。
私は扉を開き、そして盛大に後悔するのだった……。


10:幸運なるガンファイター

「抜け」
扉を開いてホールみたいな場所に入るなり、ガンファイターが私に銃口を突きつけながら言ってきた。
初対面で、いきなり何なの!?
「虫けらめ、銃を抜きやがれ。さもなきゃ、てめぇはチキン野郎だ……」
あきらかに関わり合いになりたくないタイプだ。
あぁ、扉を開けなければよかったわ……。
「虫けらでも、チキン野郎でもかまいませーん。抜けと言われても、私、銃を持ってないんですけどー? 」
関わり合いになりたくないので、私はできるだけ相手を刺激しないようにする。
「ん? それもそうだな」
よかった。
これで、あきらめてもら……。
「だったら、俺の銃を貸そう。コルトシングルアクションアーミー、別名イクォライザーだ」
……えなかった!
しかも、さも親切ぶって銃を貸そうとしてきているし!
「どちらが早撃ちで殺られても恨みっこなしだぜ」
「それ、あなたが一方的に決めたことで、私が従う理由はないと思うんですけどー? 」
「理由はあるぜ」
ガンファイターは、しぶく笑って見せた。
「俺は銃を持っていて、おまえさんは剣しか持ってねえ」
あ……これ、断ったら即座に蜂の巣にする気満々の目だわ。
「理解したわ……」
私は、しぶしぶ銃を受け取ると、ガンファイターと早撃ちの決闘をすることにした。
器用度は、何だかんだで15に減っているんで、大丈夫かしら?
えぇい、こうなったらヤケよ!
おぉ、まさかの成功!
「いい勝負だった……ぜ……」
ガンファイターが倒れると、彼も銃も消えてしまった。
そして、彼が押しつけるように貸した銃は、500gp相当の金塊に変わった!
これは嬉しい予想外!
やっぱり私は〈幸運な〉ジークリットなのね!
私は、部屋を出て元いた場所に引き返した。


11:幸運なる長虫

今度はアーチ型の道を通ってみよう。
えっ、いきなり幸運度3レベルのSR!?
だ、大丈夫よ、私!
もう〈幸薄き〉ではなくて〈幸運な〉ジークリットなんだから、大丈夫!
はい、挑戦!
はい、ぎりぎり成功!
紙一重とは、まさにこのことだわ。
安心したところで、私のすぐ横を長虫(ワーム)が通りすぎていった。
あともう少し右に立っていたら、飛びかかってきた長虫に呑みこまれていたかも……。
背筋に悪寒が走ったけれど、おびえている場合じゃない!
また長虫が襲いかかってきたから、戦闘開始!
……それが長い戦いの始まりだった。
魔法の剣の攻撃力が高いのはいいとして、器用度は毎回きわどい結果で、何度も紙一重で長虫をかわす羽目になった。
もうこっちがいい加減疲れてきたところで、ありがたいことに長虫が力尽きてくれた。
しかも、長虫の中から、10000gp相当のダイヤモンドが出てきた!
しかも、耐久度が+10になる魔力を秘めている!
これは嬉しい!
私は、意気揚々と部屋を出た。


12:幸運なる信号待ち

また元の場所に戻った私は、まだ行ってない通廊に向かう。
今度こそ、ここ以外の場所へ行きたい。
そう思ったのに、出たのは前にも来たことのある扉の前だった。
開けようとしても、開かない。
仕方なく私は西の通廊に行くことにした。
やっぱり、着いた先は武器の自動販売機のある部屋だ。
使わないから、西の通廊へ行こう。
もうこうなったら、次も西へ進もう。
曲がり角になったから、方向を変えて北へ行く。
すると、「立ち入り禁止」と書かれた扉がある、見覚えのある場所に出た。
立ち入り禁止の場所に入ったらどんな目に遭うかわかったものではないから、北へ。
そして、T字路に出たら、東へ……て、ようやく今まで来たことのない場所に出られた!
3つの明かりが上下に並んでいて、真ん中の黄色い光だけが今は光っている。
何なのかしら、これ?
私がその場に立ち止まって光をながめていると、地響きがしてきた。
何? 何なの、この地響き?
私が戸惑ううちに、真ん中の黄色い明かりが消えて、代わりに一番上の赤い明かりがつく。
直後、私の目の前からほんの1メートル先の壁が破れ、中から大量の巨大クリーチャー達が現れた!
彼らは、私の前を左から右へ横切り、ひたすら突き進んでいく!
地響きの正体がわかったのはいいけど、途惑いは増す一方だ!
私が呆然と立ちすくむうちに、一分が経過。
明かりが一番下の緑色に変わる。
とたんに、これまで駆け回っていたクリーチャー達がピタリといい子に停止する。
今のうちに、東へ進もう。
私は、また彼らが動き出す前に、駆け足で進んだ。


13:幸運なるイーゼルの部屋

駆け足でクリーチャー達の群れを抜けても、私はしばらく通廊を走り続けた。
すると、突如私の背後に壁がスライドしてきた!
これで、二度と元来た道には戻れなくなってしまった。
まさか、閉じこめられてないわよね?
私は、自分が今いる場所を観察する。
壁がスライドしてきたことで、私は東、南、北に扉のある小部屋に閉じこめられている形となっていた。
ここは、自分が今どう移動しているかわかりやすいように、東の扉を開けてみよう。
扉を開けた途端、1レベルの器用度のSRが発生!
大丈夫? 大丈夫かな、私?
はい、挑戦!
はい、成功……て、怖っ! 深さ6メートルの落とし穴に危うく落ちるところだったわ!
見たところ、出口がたくさんある。
東に進んできてろくなことがなかったから、今度は北の扉へ行ってみよう。
扉を開けると、絵画用の刷毛がひとりでにイーゼルのところで絵を描いていた。
透明なクリーチャー?
これだけでも怪しいけど、何の断りもなく私の肖像画を描いているのは、さらに怪しい!
ここはかかわり合いにならないうちに、西の扉から出……られない!
何か、あの刷毛を持っている透明クリーチャーの害意を感じてきた。
ここは、やられる前にやるべし!
私が刷毛を攻撃する決意を固めたところで、2レベルの幸運度のSR発生!
はい、挑戦!
おう、失敗!
たちまち、刷毛は空中に剣の絵を描く。剣は私に襲いかかってくる!
「あっしの名は、アニメイテッド・ブラシ。自分の描いた絵を操る能力を持つ。何たる才能! 何たる奇才! 思うに、あっしはこれでデ〇ズニーで働くのを諦めたんだ……。才能が高すぎるのも考えものだ」
刷毛は、一人で悦に入って語る。
まさか、刷毛そのものがクリーチャーだったとは予想外だったわ!
でも、こっちには魔法の剣がある!
「アブ・アイワークスの足元にも及ばない刷毛ごときが、一人前の口をきいているんじゃないわよ! 」
「何を! 」
どうしたわけか、刷毛ことアニメイテッド・ブラシとは異世界の知識が通じ合った。
「ディズニーの最高傑作は『わんわん物語』! 」
「いいや、『アナと雪の女王』だ! 」
けれど、心まで通じ合うことはなかった。
「ディズニーのベストキャラは、『美女と野獣』のコグスワース! 」
「『リトルマーメイド』のヴァネッサだろ! 」
こんな感じで口論もしつつ、戦いを続けた結果、私はアニメイテッド・ブラシの描いた剣も、アニメイテッド・ブラシとイーゼルも撃破した。
さてと、さっさとこんな所から出ますかね。
西の扉はさっき開かなかったから、南の扉を開けてみよう。


14:幸運なるクリーチャー

南の扉を開けた途端、器用度で1レベルのSR発生!
地味に多くない、器用度のSR?
それはともかく、はい挑戦!
はい、成功……て、また落とし穴に落ちるところだった!
危ない危ない……。
またこの落とし穴の部屋に来てしまったわけか。
こうなったら、次は東の扉を開けてみよう。
扉を開けると、そこには小さなドーム状の頭を持ち、1本だけ触手がはえている、形容しがたいクリーチャーがいた。
何か触手の先に持っていると思ったら、宝石を持っている!
でも、宝石を手に入れるために、何も仕掛けてきてないクリーチャーを襲うのは、ただの強盗くさいからやめよう。
そうして、私とクリーチャーの気まずい二人きりの沈黙が始まった。
いっそ何か言うか、仕掛けてこいよと言いたくなるくらい、クリーチャーはノーリアクション!
もう我慢できない!
何でもいいから話しかけよう。
ここは、見習い魔術師時代に読んだ冒険者ジョーク集で読んだ小ネタを使おう。
「ねえ。あなたの持っている宝石がほしいんだけど、ちょうだい! 」
このジョークを使うと、クリーチャーは「誰がくれてやるか! 」「冗談じゃねえ! 」と何らかのリアクションを見せてくれる。
私にとって決して安全なリアクションではないかもしれないけど、この無に等しい時間を終わらせられるなら、何だっていい。
「宝石ほしいの? だったら、早く言ってよ。はい、どうぞ」
めちゃめちゃ流暢にしゃべってきた!
しかも、触手で宝石を手渡ししてくれた。よく見たら、宝石は1000gpの値打ちものだわ!
それをあっさりとくれるとは、なんて寛大なの!
正直、このリアクションは予想外だったけど、気詰まりな時間から解放された上に、宝石を手に入れられたから、結果オーライだ。
これも〈幸薄き〉から〈幸運の〉ジークリットになった効果かしら!
私は部屋を出るため、西と東と南の扉の中から、選ぶことにした。
ここは、南の扉を選びますかね!
私は、南の扉を開けた。


15:幸運なる天国と地獄

扉を開けると、そこは南の壁に面してテーブルが設置されている部屋だった。
テーブルの上には、2本のボトルが置いてある。
ボトルには「やれ」「やるな」と、命令形のラベルがそれぞれ貼られていた。
何か男らしくてキュンと来た!
そんな薄い根拠で、私は「やれ」のラベルが貼られたボトルの中身を飲み干した。
おいしい!
これ、ヒーリング・ポーションだわ!
おかげで、私の耐久度が全回復する。
きっと、これ以上いいことなんてなさそうだから、いい気分のうちに部屋を出ましょっと!
私は部屋の北側の左手のドアを開けた。
そこには、数多くの黒くて円形で平べったい物体が飛び回っている部屋だった。
あからさまに、危なそう!
その予感は的中し、ダイヤモンドが黒い物体にやられて半分になってしまった!
こんな所に長くはいられない!
私は、南にある左手の扉を開けた。


16:幸運なる大目玉

左手の扉を開けると、床から1.5メートルの高さで浮いている大きな目と目があった。
今まで、この〈怪奇の国〉で色々と変なのに出くわしてきたけど、まさかこんなわけのわからないのと遭遇するとは思わなかったわ……。
この場合、こいつに対してどう対処するのが正解なの?
宝石をくれたクリーチャーみたいに友好的ならいいけど、巨大な目玉なんて私の脳内に流入してきた異世界の知識によれば、西洋妖怪の親玉、すなわちラスボスだ!
だったら、やられる前にやるべし!
私は、巨大な目に斬りかかった。
すると、巨大な目の力でテレポートさせられてしまった!
テレポート中の謎の異空間で、私は2d6でダイスを振れば、12種類別ある行き先のどこかへ出られることを知った。
よーし!
賽は投げるもの!
はい、挑戦!
はい、今回初めてのゾロ目!
それも、6のゾロ目だわ!
合計12となるから、行き先はどこかしら……。
行き先をチェックする暇もなく、私はいきなり外へ投げ出された。
久しぶりの大地、久しぶりの青空。
そして、久しぶりの脚フェチ親父…じゃなくて、マクシミリアン・ザ・マグニフィセント!
「〈怪奇の国〉をご堪能したようで、何より何より。それでは、約束の入館料を払ってもらうぞ」
「入館料……」
私は、これまで自分が手に入れた物を思い出した。


ネスレ製のチョコレートダガー→おいしくいただいた

500gp相当の金塊

耐久度が+10になる効果を持つ10000gp相当のダイヤモンド→黒い物体にやられて半分になったから、5000gp相当の値打ちに半減

クリーチャーからもらった宝石→1000gp相当


……冒険したわりに、ゲットできたアイテムが少ない!
でも、とりあえず入館料は支払えるだけの金額はあるわね。
合計金額6500gpだから、その10%は650gpか入館料か。
「お釣り、出ます? 」
「もちろんだ」
私は、1000gpの宝石をマクシミリアンに渡す。
マクシミリアンは、350gpのお釣りと領収書、それに「冒険済み」という赤いスタンプが押された入館チケットをくれた。意外と芸が細かいな!
「この冒険済みのスタンプは、毎回デザインが違うんだぞ。イーッヒッヒッヒ! 」
「それは、気になるわね……」
「どうだ? また〈怪奇の国〉に挑戦してみたくないかね? 」
「する! してみる! やってみます! 」
こうして、私は再び〈怪奇の国〉に挑戦することになった。


17:幸運なる〈怪奇の国〉

「……そんなやりとりをしたのが、何ヶ月前のことかしら。そして、あなたと勝負するのは、これで何度目になるのかしらね。こんなことになるなら、〈怪奇の国〉に再挑戦するんじゃなかった。知性度が下がった後で重要な決断をするもんじゃなかったうわぁ〜ん! 」
私は、すっかりおなじみになったガンファイターに向かって泣きわめく。
「何を訳の分からねえ泣き言をわめいているんだ? いいから、拳銃を抜きな」
「わかった」
私は、熟練してしまった手つきで引き金を引く。
ガンファイターは倒れ、拳銃は黄金の塊になる。
このやりとり、本当に何度目なの?
そして、私はいつになったら、この〈怪奇の国〉を出られるの?
まさか、死ぬまでここから出られない……?
自分で考えたくせに、あまりの恐ろしさに思わず身震いする。
〈怪奇の国〉難民になるなんて、私はやっぱり〈幸運の〉ジークリットじゃなくて〈幸薄き〉ジークリットなのかしら?
それとも、こんなに長く〈怪奇の国〉をさ迷い続けられるのは、〈幸薄き〉ジークリットではなくて〈幸運の〉ジークリットだからなのかしら?
アイデンティティクライシスに苦しみながら、私は今日も〈怪奇の国〉をさ迷う。
明るい未来という名の出口を求めて……。


(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行予定のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『怪奇の国のアリス+怪奇の国!』
  (T&Tアドベンチャー・シリーズ9)
 著:ジョエル・マーラー、キース・A・アボット
 訳:岡和田晃
 発行 : グループSNE/書苑新社
 2021/2/26 - ¥1,980

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発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房)
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