2021年03月30日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.5

 本日2021年3月30日の「FT新聞」No.2988で、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.5」が配信されました。今回は「混沌」と、その裏返しだと示唆されている「エーテル」について解説しています。概説と踏み込んだ分析を両立させようと足掻いています。以下に採録いたします。


『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.5 No.2988
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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.5

岡和田晃
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 2世紀ほど前、"敬虔なる"マグナスの治世から、ここユーベルスライクの街は、幾度も包囲にさらされてきたという。
 近隣の黒色山脈から攻め寄せてきたグリーンスキン勢に。あるいは、混沌に脳まで冒されたビーストマンたちに。
  "敬虔なるマグナス"が魔法を公認したおかげで、かえってわたしのような魔女は活動がしづらくなったと思っていた。そう、これまでは。
 魔狩人の攻撃対象が分散されなくなり、"非公認"の魔女や似非魔術師たちへの弾圧が、いっそう厳しくなってしまい、それが今でも続いているのは間違いないからだ。
 ……そんなわたしがいま、魔狩人と並んで、ユーベルスライクの裏路地を歩いている。コーンとティーンチの同舟、と毒づきたくなるものの、"禍つ神々(ルイナス・パワーズ)"の気を惹きたくなかったので、もちろん言葉にはしなかった。
 フレイザーは舌打ちをしながら、肩を震わせて歩いている。不快感を隠せないようだ。
 それでも彼は、ユングフロイト家が、「真のダハール」に手を染めた悪魔術師をかくまっていると確信しているようで、毒をもって毒を制すと、わたしを「利用」すると決めたらしい。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 前回は『ウォーハンマーRPG』でもっともプレイされたであろう、〈内なる敵〉キャンペーンの第1部『ベーゲンハーフェンを蔽う影』の話をしました。同作の後半では"紫の手"教団という混沌の教団(カルト)との戦いにスポットが当たります。
 「混沌」。それは『ウォーハンマーRPG』における「究極」の敵役ですが、では具体的に、いったいどういう存在なのでしょう?

●『トンネルズ&トロールズ』でデザインしてみた「混沌」

 こと、「混沌」とはわけのわからない存在だと言われますし、実際そうなのです。そのわけのわからなさを、かつて私はそのままの形でゲーム化したことがあります。
 『トンネルズ&トロールズでTRPGをあそんでみる本』(冒険企画局、2016)にも収録されていますが、私はティーンの頃に『モンスター! モンスター!』のキャンペーンをやっていました。
 ウッズエッジ村を襲撃する付属シナリオから始め、オリジナルの「ドラゴン大陸」を設定し、コースト、ノーア、カーマッド、ガル島など名前のある街は、だいたい襲撃されて廃墟と化してしまいました。
 終盤には「英雄戦争」が起き、真の黒幕が、人間よりも悪しき、不定形の存在「混沌」であると思い知るのです。
 『トンネルズ&トロールズ』では、モンスターの攻撃力とヒット・ポイントに相当する耐久度は、MR(モンスター・レート)というただ1つの数値で表現することができますが、その「混沌」のMRはなんと300万! オーク1体のMRが15だとすると、その20万倍のパワーを秘めている、ということになるわけですね。
 
●『ウォーハンマーRPG』第4版に登場する「混沌」
 
 こんな若気の至り(?)とも言うべき私のオリジナル設定はさておき、『ウォーハンマーRPG』での「混沌」については、より詳細な設定が設けられています。
 根本にあるのは、"禍つ神々(ルイナス・パワーズ)"とも呼ばれる、4大混沌神です。疫病の神ナーグル、流血の神コーン、苦痛と快楽の神スラーネッシュ、魔法と裏切りや嘘の主人であるティーンチの4柱です。
 彼らは別に仲がよいわけではありません。私も翻訳に参加したボードゲーム『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』(ホビージャパン、2010年)は、混沌の4大神の勢力争いがテーマでした。
 これら"禍つ神々"は独自の魔法体系を有し、各々のディーモン・プリンスをはじめとしたディーモン軍団を率いています(余談ですが、『ウォーハンマー』においては、DemonではなくDaemonと表記するため、「ディーモン」と書きます)。
 混沌の子供たちことビーストマン各種(ゴール、アンゴール、ミノタウロス、ビュレイシャーマン)、ミュータント(変異種)、混沌教徒、ケイオス・ウォリアー、さらにはレッサー・デモン2種(ブラッドレター・オヴ・コーン[コーン神の流血悪魔]やデモネット・オヴ・スラーネッシュ[スラーネッシュ神の蠱惑悪魔])といったディーモンのデータは、『ウォーハンマーRPG』第4版のルールブックにも掲載されている通りです。
 これだけではなく、第4版では「内なる敵」という選択ルールがあり、混沌教徒やミュータントたちを、ルールブックに掲載されているライクランドの標準的な人物のデータを下敷きにデザインしてかまわないとされています。
 初版には『レルム・オブ・ケイオス』、第2版には『堕落の書:トゥーム・オヴ・コラプション』(ホビージャパン、2008年)という混沌を扱う専門のサプリメントが存在し、d1000(!)を使って混沌変異を決める表が圧巻でした。第4版でも、いずれ目玉製品として、混沌を扱う専門の資料集が出版されるのではないかと思います。

●バラエティに富んだ混沌変異

 キャラクターが混沌の影響に冒されるのには、色々なパターンがあります。
 例えば、(混沌の精髄そのものである)ワープストーンという魔法の鉱石のようなものに触れてしまった場合、あるいは混沌に汚染された土地を通ってしまった場合、ディーモンの武器を使ってしまった場合、"禍つ神々"の誘惑に屈してしまった場合など……。
 シチュエーションに応じ、GMは【意志力】や【頑健力】テスト(判定)を行わせ、失敗の程度に応じて、混沌変異の表を振り、「身体の周りに蝿が黒雲のようにたかっている」だとか、「制御不能なまでに放屁を続けている」だとかの変異が加わるわけです。
 目立たない変異であれば人間社会に溶け込むことも不可能ではありませんが、強烈な憑依だと相手に恐怖を与えるようになってしまいます。

●「堕落ポイント」の導入

 さて、GMにとっては喜ばしいこと(?)に、『ウォーハンマーRPG』第4版においては、「堕落ポイント」というルールが追加され、キャラクターが混沌に汚染されていくプロセスに、より緊張感が生まれるようになりました。
 『ウォーハンマーRPG』第4版には、「幸運ポイント」というルールがあります。これは、1点消費するごとに、失敗したテストを再ロールさせる等の効果を得ることができます。
 再ロールでも失敗してしまった場合、さらに1点の「幸運ポイント」を消費すれば、三度目の正直で成功することに望みを託すことができるわけです。しかし、それは混沌の力を借りることにほかならず、堕落ポイントを獲得するための対象となります。
 その他、混沌の露出に触れたり目撃したりした場合も、もちろん堕落ポイントは増えます。【頑健力】ボーナス(【頑健力】の10の位)および【意志力】ボーナス(【意志力】の10の位)を上回る「堕落ポイント」を得た場合、混沌の影響で心身が崩壊していく可能性があります。
 抵抗に失敗した場合、肉体か精神のどちらかが変異していきます。肉体的な堕落には、「舌が回転する」、精神的な堕落には「拷問を幻視してしまう」などがあり、肉体的な堕落の合計が【頑健力】ボーナスを超えるか、精神的な堕落が【意志力】ボーナスを超えてしまった場合、そのキャラクターは混沌の配下となってしまうわけです。

●「堕落ポイント」の意義

 「堕落ポイント」について考察しておられる野村平さんの言葉を借りれば、この「堕落ポイント」が、いかにも「ドラマチックだけどTRPGだと発生しづらい」けれども「ウォーハンマーらしいシーン」を再現するのに適しています。
 混沌の誘惑に抗いきれず、葛藤の末に短期的な不利益(テストの失敗)を取るか、長期的な不利益(混沌変異を受け入れる)を取るかの決断を迫られる、というわけです。
 そして、『ウォーハンマーRPG』の世界では、混沌の影響を完全に振り切ることはできません。
 世界はやがて、混沌に征服されて滅びてしまうことが明白である。にもかかわらず、背水の陣で戦い抜くこと。
 こうした美学を再現できれば、『ウォーハンマーRPG』らしいゲームセッションを執り行うことができるでしょう。

●エーテルと混沌

 なぜ、混沌の影響を振り払うことができないのか。それは混沌が、世界の本質そのものだからです。
 ファンタジーRPGには、地・水・火・風の4大元素がしばしば登場します。これは、ナーグル・スラーネッシュ・コーン・ティーンチの4大混沌神をそのまま連想させます。
 それに加えて、第5元素である「エーテル」が設定されています。エーテルは、ヨーロッパの自然哲学ではお馴染みの概念で、かいつまんで説明すると、4大元素で説明できないものをエーテルと呼んでいたわけです。
 『ウォーハンマーRPG』では、すべての魔力の源は、物質界の彼方にあるエーテル界に存在するとされ、そこはディーモン(悪魔)や精霊の生まれ故郷であるとも言われるわけです。
 エルフたちは、このエーテル界は、エンパイアのはるか北方に位置すると語ります。世界を蔽う布地にかぎ先が出来ていて、そこから生(き)の魔法がなだれ込んできて、魔術師たちは、それを第2の視覚、通称"眼"をもって感知し、その力をコントロールするわけですね。
 しかし、実は『ウォーハンマーRPG』第2版の『魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー』(ホビージャパン、2008年)では、このエーテル界は"混沌の領域(レルム・オヴ・ケイオス)"そのものであることが示唆されています。
 つまり、魔法の淵源は「混沌」そのもの……かもしれないのです。このジレンマは、『ウォーハンマーRPG』におけるメタテーマであり、公式の規定とは別に、各々のGMごとに「真相」を設定してかまわないものともなっています。

●マグナスとテクリス

 帝国暦2304年から69年まで、エンパイアの皇帝だった"敬虔帝"マグナスは、『ウォーハンマーRPG』第4版の基本ルールブックにおいては、約1,000年ぶりに、すべてのシグマー大領邦を代表する皇帝として選出されました。
 同時に、彼はまた正式に発足したエンパイア領邦軍や帝国海軍、アルトドルフの魔法学府を含む、多くの新たな組織の設立を監督した皇帝としても知られています。
 喧々諤々の議論を巻き起こしながらも、マグナスはエンパイアにおいて、魔法を合法化した初の皇帝となったわけです。
 それにはどういう経緯があったのかと言いますと、"敬虔帝"マグナスは、エンパイアを破滅の危機に陥れた混沌大戦(グレート・ウォー・アゲインスト・ケイオス)の折に、ウルサーンの島(現在のブリテン島にあたる地)に住むハイエルフのテクリスの助力を得ました。
 テクリスは混沌の勢力に立ち向かうため、エーテル界からの力を、うまくコントロールするすべを人間たちに教えたのです。
 反対する各種の教団や魔狩人たちを、テクリスはマグナスの力を借りつつ綱紀粛正し、半ば強引に反対勢力を納得させました。
 そして、エルフの大魔道士たちと、人間の弟子たちが協力し、混沌の魔物(フィーンド)たちを混沌の領域(レルム・オブ・ケイオス)へと追い返すことに成功したのです。
 魔術師たちは、エンパイアの救い主だとみなされるようになりました。

●8色ある魔力の風

 エーテルを、大きく分けて8種類の「魔力の風」に分類しました。テクリスが言うには、人間はそのうちの1種類しか操ることができません。
 魔力の風は、それぞれ独自の魔法体系を構築しています。アルトドルフの魔法大学校では、風毎に専門の学府が存在し、日夜研究が進められています。それを列挙すると、以下のようになります。

 ・ハイシュ(hysh):白い風(光の魔法体系、光の学府)
 ・アズィル(azyr):青い風(天空の魔法体系、天空の学府)
 ・シャモン(Chamon):黄金の風(金属の魔法体系、黄金の学府)
 ・グューラン(Ghyran):緑色の風(生命の魔法体系、翡翠の学府)
 ・ガウル(Ghur):茶色の風(獣の魔法体系、琥珀の学府)
 ・アキュシー(Aqshy):赤い風(焔の魔法体系、輝きの学府)
 ・ウルグ(Ulgu):灰色の風(影の魔法体系、灰色の学府)
 ・シャイシュ(Shyish):紫色の風(死の魔法体系、紫水晶の学府)

 例えば「焔の魔法体系」には、敵を灼熱の炎で攻撃するような魔法があります。影の魔法体系では、隠密に役立つ魔法がある、という具合なのです。
 これらの魔力の風を強引に複数操ろうとすると、それは色が入り混じった「黒の風」になってしまいます。「黒の風」が表すのは、暗黒の魔法体系です。逆にテクリスは、8つの魔力の風をすべて操ることができました。これを「至高魔術」というわけです。
 エンパイアにおける公認された魔法体系は上記の8色のみで、それ以外の魔法は、魔女が使う俗魔術、似非魔術師が使う似非魔術、混沌の魔術があります。暗黒の魔術も、悪魔術と死霊術に細分化されます。
 そもそも魔力の風は混沌と紙一重、あるいは混沌そのものかもしれないのに、発露の形がこのように多様であること。こうした作り込みこそが、オールド・ワールドの魅力なのです。
 魔力の風に興味のある方は、私の2版リプレイ「魔力の風を追う者たち」をお読みになってみてください。「GAME JAPAN」2008年3〜5月号、および『ウォーハンマーRPG』第2版の公式サイトで読むことができます。後者はすでにリンク切れですが、Wayback machineにはログが残っています(https://web.archive.org/web/20170627215810/http://www.hobbyjapan.co.jp/wh/)。


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2021年03月17日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.4


 2021年3月16日の「FT新聞」No.2974で、連載「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」第4回が配信されています。キャンペーンシナリオ「内なる敵」の第1巻『ベーゲンハーフェンを蔽う影』の初版・第4版について。「パワープレイ」と「ストーリープレイ」をめぐる考察も。


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 記事で触れた「内なる敵」シリーズ(初版)を写真でお見せすると、このような具合です。以降も連載で触れていくかも……。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.4

岡和田晃
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 「大人」たちはとかく、子どもと女を軽んじる。
 子どもならば「大人」の難しい話は理解できないだろうと、路地裏で、酒場の片隅で、あるいは橋の上で、おおっぴらにすべきではない話題を聞かせてくれる。
 すでに働くような年齢だとしても、12〜3歳の少女など、無教養な石ころと同じというわけだ。
 フレイザーから聞かされた話は、わたしが小耳に挟んだことのある噂話と矛盾しない。
 このところ、ユーベルスライクを統治するユングフロイト家は、カール・フランツ皇帝率いるアルトドルフとうまく行っていない。
 言うまでもなく、シグマー神の狂信者であるフレイザーもまた、ユングフロイト家を背後では、混沌の信者が糸を引いていると信じ込んでいる者の一人だった。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 『ウォーハンマーRPG』は単発セッションでも楽しい作品で、第4版も原著では『ライクランドが舞台の単発シナリオ集(One Shot in Reikland)』というサプリメントも発売されていますが、プレイヤー・キャラクターのキャリア成長による醍醐味を堪能できるのは、やはりキャンペーン(連続)シナリオでしょう。今回は初版と第4版で展開されている「内なる敵」キャンペーンの第1巻について解説し、RPGにおける「パワープレイ」と「ストーリープレイ」の意義についても語っていきます。

●「内なる敵」キャンペーン

 「内なる敵」としての人間こそが、『ウォーハンマーRPG』でもっとも頻繁に出くわす敵である……そんなことを、前回には書きました。
 この「内なる敵」について、もっとも正面から向き合ったキャンペーンが、初版の「内なる敵(Enemy Within)」キャンペーンではないでしょうか。第1部『ベーゲンハーフェンを蔽う影(Shadows Over Bogenhafen *最後のoはウムラウト付き)』(1991年)は、すでに第4版にコンバートされています。第2部『ライクの死(Death On the Reik)』も発売の予告が出ています。
 『ベーゲンハーフェンを蔽う影』については、社会思想社現代教養文庫にて、『エンパイアの興亡』と『死の街ベーゲンハーフェン』と二分冊される形で邦訳がなされており(1992〜93年)、お読みになった方も多くおられるものと存じます。

●初版の『エンパイアの興亡』と『死の街ベーゲンハーフェン』

 キャンペーン・シナリオ『ベーゲンハーフェンを蔽う影』で特筆すべきは、設定の細かさ。中近世のヨーロッパ社会史や、それを背景にした創作に関心のある方は、絶対に押さえておくべき逸品ではないかと思います。
 前半部にあたる『エンパイアの興亡』では、エンパイアの歴史・政治・宗教・地勢・軍備が緻密に解説されています。同じイギリス発のRPG『混沌の渦』を思わせる薬草ガイドなんてものもありました。
 首都アルトドルフに行く交通手段を見つけようとするシナリオ「人ちがい」から始まり、行く先々で陰謀や騒動に巻き込まれながら、アルトドルフ南西にあるベーゲンハーフェンへ赴きます。
 旅が中心となるウィルダネス・アドベンチャー(荒野の冒険)ですが、アルトドルフ、ヴァイスブルック、ベーゲンハーフェンと街から街へ移動する際の地図は、ちゃんとヘックス(六角)マップになっており、望むならばいくらでもリアルな旅が演出できる仕掛けになっていました。もちろん、後半の『死の街ベーゲンハーフェン』の主な舞台となるベーゲンハーフェンの街は、地上だけではなく、下水道のマップが用意されている凝りようです。
 『ウォーハンマーRPG』は、とかく地味でプレイヤーの達成感が薄いと、意地の悪い人たちから嫌味を言われることがありますけれども、それは誤解です。『死の街ベーゲンハーフェン』は壮大なシナリオで、冒険者たちが打つ手を間違えれば、街全体が滅びてしまいかねません。
 十二分にやりがいのある作品だと、太鼓判を押しておきましょう。ベーゲンハーフェンは人気があり、2版の『シグマーの継承者』でも、「ベーゲンハーフェンの災難」という、続編(後日譚?)めいたシナリオが発表されているくらいです。

●第4版の『影の内なる敵(Enemy in Shadows)』

 第4版では、このキャンペーン・シナリオは『影の内なる敵(Enemy in Shadows)』、『影の内なる敵コンパニオン(Enemy in Shadows Companion)』に二分冊されており、前者はシナリオ、後者はデータの追補が主な内容となっていますが、単なるベタ復刻ではありません。まったく新しい作品だとみなしてもかまわない、とすら言いたくなります。
 「内なる敵」は『ウォーハンマーRPG』で最も広く遊ばれたキャンペーン・シナリオの一つですから、新規プレイヤーが触れやすいようヴィジュアル・イメージを完全に刷新しながらも、ベテラン・プレイヤーのみにユーザーを絞った懐古趣味の産物に終わらない仕掛けが随所に見受けられます。つまり、ビギナーとベテランの出逢う場として設計されているわけです。
 前半の舞台となる〈馬車と馬〉亭など、お馴染みの場所はそのままに、アルトドルフの地図は手描きの絵画のような仕上がりとなっており、ウィルダネスの地図も雰囲気を活かしながらグリッド(四角)マップに整理されています。
 細かいルールは選択ルールとしてゲームマスターの裁量で選べるようになっているのですが、そのルールに目を通すだけで、シナリオの背景や世界観の理解が深まります。選択ルールは、「なぜそのような選択肢があるのか」を解説することで、一種のプレイ・ガイドになっているからですね。

●「パワープレイ」という求道

 『ウォーハンマーRPG』第2版は、「追加ルールを導入すればするほど、キャラクターが弱くなる」と、いう笑い話がプレイヤー間では囁かれました。
 これは、とりわけ『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』初版・2版から『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3版系列までの(A)D&Dに代表されるRPGが、「サプリメント(追加設定資料集)を購入することで、キャラクターのとりうる選択肢が広がり、それだけ強力なキャラクターを作ることができる」というのが一つのウリであることをふまえた、一種の諧謔ですね。
 もちろん、D&Dの公式ルールが、ひたすらキャラクターを強化させる行為を推奨していたわけではありません。むしろ、「パワーだけを追い求める」行為を暗にたしなめ、キャラクターの多様な個性を広げるためのヒントにしてほしい」という意味のコメントを、盛んに発信していました。
 けれども、もっとも熱心にサプリメントを購入する層は、まずもって「パワー」を求める層だったというのも一つの現実ではありました。キャラクターのクラスや種族、技能や特技・信仰の組み合わせによって、もっとも最適解となる「強い」キャラクターを構築することを目指すわけです。
 もちろん、卓において他のプレイヤーをさしおいて自分のキャラクターのみを活躍させようとするような行為は問題外だと断ったうえで……スタイルとしての「パワープレイ」は、卓の合意がとれていれば一概に間違っているわけではありません。
 「パワー」を求める層は、すべての関連製品を買い、ルールを隅々まで読み込む層であり、またゲームマスター(D&Dではダンジョンマスター)の恣意的な裁定よりも、できるだけ客観的に公正な裁定が望めるというメリットもあったからです。
 何より、ルールの運用をきわめた高レベル帯のセッションでしか見えない風景があるのも事実です。強力なコンボをさらに上回るコンボの応酬によって、予想を超えた複雑なゲーム展開を見せることは珍しくなく、それは他の経験では替えが利かない、RPGの一つの醍醐味と言うべきものでしょう。「パワープレイヤー」と名乗ることは、自分がある種の求道者である、ということを、他人に示す意味合いもありました。
 それに実際のところ、パワープレイのコンボは、トレーディングカードゲーム(TCG)やオンラインRPG(MMORPG)へと輸入され、それがまた逆輸入……という往還関係により、相互に影響を与えあってきたという側面もあります。

●「パワープレイ」対「リアル・ストーリープレイ」の思い出

 私は「パワープレイヤー」を名乗ったことこそありませんが、それでも自前のD&Dのキャンペーンでは、ルールが提供する複雑さを「複雑だからこそ、面白い」ものとして紹介できるような運用を心がけていました。
 以前、「Lead&Read」(新紀元社)のVol.1、Vol.3、Vol.5(2008〜09年)に掲載されたD&D第3.5版の私の筆になるリプレイでは、そうした複雑さを世界観(エベロン世界というマジカルパンクな世界)に落とし込んで伝えるべく、あれこれ心を砕いた次第です。つまり、パワープレイ的な発想を「ストーリープレイ」に融合させる、という試みだったわけですね。
 ストーリープレイというのは、「オフィシャルD&Dマガジン」の常連ライターだった藤川俊一氏が提唱した「リアル・ストーリープレイ」の影響を受けています。氏はAD&Dを日本に普及させた功労者の一人ですが、土日のすべてを費やしてAD&Dのグレイホーク世界、あるいは自作のウォーレンメルド世界でのプレイを深めていました。
 しかし、藤川氏はある時から、いたずらに追加データを導入するのではなく――あくまでも私の理解では、能う限りメタ視点を廃し、キャラクター視点での「没入」を徹底するという――リアル・ストーリープレイというスタイルを提唱するようになりました。一九九〇年代後半のAD&Dファンコミュニティでは、パワープレイかリアル・ストーリープレイか、という議論が交わされたのをよく記憶しています。パワープレイヤーはAD&Dのオンリーイベントで、壇上に山のようにサプリメントを積み上げて「関連資料全解禁」のプレイをしており、圧倒されたものです。
 私が言うストーリープレイは、藤川氏のように徹底したものではありません。むしろ、私がこの議論を面白いと思ったのは、RPGにおいてパワープレイを論じると、理論的には対概念としてストーリープレイが浮上してくるという事例を確認できたことでした。
 藤川氏の言うリアル・ストーリープレイとイコールではありませんでしたが、AD&Dは十字軍、ケルト、ヴァイキング等ヒストリカルな背景のサプリメントが大量に出ていて、決してパワーだけではない世界観重視のスタイルがあったわけで、声は大きくないにしろストーリープレイヤーも少なからずいました。
 これがTCGの場合、ストーリープレイを前提としたプレイは、不可能ではないにしても、なかなか難しいと思われます(『指輪物語CCG』のように、ストーリーの表現を重視したTCGも少なからず存在してきましたが、その性質上、どうしても「勝ち負け」を重視せざるをえないからです。
 RPGの場合、目に見える「勝ち負け」は、そのままゲーム・セッションの出来不出来には結びつきません。極端な話、全滅しても、それで満足のいくストーリーが構築できたら、総合的には勝利した、とも言えるのですから。TCGはRPGほどに、重要なのは「プロセス」の堪能だと言い切ってはいないのです(もっとも、このことはRPGはTCGよりも優れている、もしくはその逆だということを意味しません)。

●D&D第4版の配慮

 多くのRPGではパワープレイに特化することは戒められています。ルールに習熟していない初心者がふるい落とされてしまいかねないからです。
 ところが、遊びこめば遊びこむほど、プレイヤーはひたすら「パワー」を求めがちとなる……このジレンマは、RPGを(とりわけ商業的かつ持続的に)展開していくうえでの悩みの種となっていました。
 D&Dも第4版からは、パワープレイな志向を取り入れつつも――D&D第4版は、それまでのRPGの中でも、飛び抜けてTCGやMMORPGと似たタイプのルールがあちこちに見受けられたシステムです――サプリメントの追加を「とりうるキャラクター・ビルドや戦術の広がり」であり、ただパワーを増やすわけではないという方向に舵をとってきました。
 もちろん、私も翻訳に参加したサプリメント『秘術の書』(ホビージャパン、2009年)で追加されたクラス「バード」(吟遊詩人)のように、d20(20面体サイコロ)を振り直させる特殊能力をたくさん有するような、相対的にバランスブレイキング(褒め言葉です、念の為)なオプションは存在しました。
 けれども、D&D第4版はアップデートでバランスが何度も見直され、その後も『エッセンシャルズ』という(既存のルールを整理した、互換性を持ちながら実質的な第4.5版ともいえる)仕切り直しが行われることで、初心者がふるい落とされないような配慮が常になされてきたのも事実です。
 こうした見直しには当然ながら、賛否両論が起きました。ただ、その是非は措くとして、D&D第4版は当初からチームプレイが前提とされており、「防御役」「撃破役」「指揮役」「制御役」と、さながらサッカーやアメフトの役割分担のように、キャラクターが配置されることを前提としたシステムでした。ゲームデザイナー層に、D&D第4版が高く評価されるという話も頷けます。それぞれに得手不得手があるため、必然的にバランスが保たれるというわけですからね。

●ストーリープレイへの再帰

 D&D第5版は、いったんクラシックD&Dに先祖返りしたと評されることが多い作品なのですが、それは思い切ってパワープレイとは別方向に舵を切ったからです。
 D&Dは第4版で抜本的なシステム変更を行なったため、新規プレイヤーを獲得した反面、第3.5 版までの(特に)パワープレイ志向なプレイヤーは、基幹ルールを同じくしD&D第3.75版とも言われる『パスファインダーRPG』へと流れていきました。
 『パスファインダーRPG』も、それ自体はパワープレイ的というよりは、背景世界ゴラリオンをじっくり堪能するようなスタイルが推奨されているのではありますが、それでも、多少の調整を加えれば、D&D第3版系列のサプリメントがそのまま活用できるため、パワープレイにも向いています。
 ゆえに、RPGのマーケットにおいては、『パスファインダーRPG』が、(シェアNo.1がデフォルトであった)D&D第4版を凌駕する光景さえ、珍しくありませんでした。
 そういった流れを承けて登場したD&D第5版においては、あまりルールを読み込んでいないプレイヤーがなんとなくキャラクターをデザインしても、それなりにベテラン・プレイヤーと肩を並べて活躍できるような設計思想が、意図して採られています。
 さらに、キャラクターの背景を演出するシステムや、「インスピレーション」というロールプレイ推奨ルールも加えられ、『魂を喰らう墓』、『バルダーズ・ゲート:地獄の戦場アヴェルヌス』ほか長大なキャンペーン・シナリオが、続々と出版されるようになりました。第4版までもキャンペーンはたくさん出ていましたが、「まずはキャンペーンで遊んでね」とでも言いたげな出版ラインナップになっているのです。
 D&Dは第3.5版の頃から、D&Dゲームデイという世界各地で共通したシナリオを遊ぶ、という試みがなされていました。加えて、D&D第4版からは、D&Dエンカウンターズという、各ゲームショップを拠点に、長大なキャンペーン・シナリオを毎週、少しずつ遊んでいくスタイルが採られるようになりました。
 私もD&Dエンカウンターズの模様を取材したことがありますが、キャラクターを強化するにしても、それはあくまでもパーティ全体の強化に溶け込ませる形でなされ、あくまでも抽象的な戦闘ゲームではなく、各遭遇がキャンペーン内に上手く落とし込まれる……そんな設計思想がよく伝わってきました。
 つまり、D&Dは第4版から第5版にかけて、パワープレイよりもストーリープレイ方面へ、少しずつスタイルを移行させてきたと言えるのかもしれません。もともとRPGはストーリーを遊ぶ表現スタイルとして広がったところがありますから、単なる回帰ではなく「再帰」と言うべきなのかもしれません。
 そして、こうした「再帰的なストーリー志向」は、ダークファンタジーを基軸にした雰囲気こそ異なれども、『ウォーハンマーRPG』第4版も有している特徴です。

●『ウォーハンマーRPG』第2版の曖昧さ

 以前も書きましたが、『ウォーハンマー第2版』をデザインしたグリーン・ローニン社は、もとはD&D第3版系列のサードパーティでした。そのため、『ウォーハンマーRPG』第2版のルールは、陰に陽にD&D第3版が意識されるようになっています。
 D&D第3版や第3.5版では、ゲーム世界で起こるすべての事象は、余すところなくゲームルールで説明できるようなデザイン思想が打ち出されていました。しかし、『ウォーハンマーRPG』はそうではありません。そのあたりが、『ウォーハンマーRPG』では、あえてゆるくデザインされていたというわけです。
 例えばグリッドマップで戦闘を行う際、D&D第3版では斜めに移動する場合、通常の移動力消費が1だとしたら、1.5を消費するものとして処理されていました。ですが、『ウォーハンマーRPG』第2版では、明確な記述がありません。そのため、GMは、斜め移動の際の移動力の消費を1とするか、1.5とするのかをあらかじめ選択する必要があります。
 要するにリアリティを重視するのであれば、D&D第3版のように1.5にすればよく、面倒だと思うのであれば、斜め移動も1として処理してしまえばいい、というわけなのです。ちなみに、D&Dも第4版からは、斜め移動の際の移動力の消費は1になりました。

●運命づけが示唆するもの

 サプリメントを導入するにしても、『ウォーハンマーRPG』第2版での宗教を解説する『救済の書:トゥーム・オヴ・サルヴェイション』を導入すると、確かに信仰系の呪文(「奇跡」)の選択肢も増えるのですが、教団独自の戒律などの「縛り」も増えます。きわめつけは、「運命づけ」の異能です。この異能を取得すると、「運命予言者」というモールの司祭に、キャラクターの死に様を予言されます。その予言通りに死亡すると、新たにキャラクターを作り直す際にボーナスが入る、というわけです。
 強くなるといえば強くなるのかもしれませんが、なんと迂遠なのでしょう(笑)。そして、この「運命付け」の異能は、『ウォーハンマーRPG』第4版では、基本ルールブックからデフォルトで収録されています。
 おそらく、「『ウォーハンマーRPG』は、サプリメントを導入すればするほど、キャラクターが弱くなる」というのは間違いです。無限に追加データを渉猟してキャラクターを強化しても、『ウォーハンマーRPG』は協力型ゲームであり、原則としてプレイヤー・キャラクター同士が始終やり合うわけではありません。
 ゲームマスターはゲーム内における絶対的な権力をもっており、いかに強力なキャラクターを用意しても、「きみは死んだ」の一言で、そのキャラクターを殺してしまうことができます。それならば、プレイヤーは何のためにサプリメントを購入するのでしょうか? 
 マゾヒスティックなゲーム経験のため?――そういう人もいるでしょうが、それだけならば、こんなに長い間、支持されるわけがありません。
 一つの答えとしては、参加する世界をより深く理解するため、世界の解像度を上げていくため。これに尽きるのではないかと思います。


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2021年03月16日

『史学研究とゲーム研究の徒・蔵原大―遺稿と追悼―』(蔵原大遺稿集刊行会)の電子第2版および印刷版が完成

 『史学研究とゲーム研究の徒・蔵原大―遺稿と追悼―』(蔵原大遺稿集刊行会)の第2版が完成しました。これまでの誤字・脱字を修正し、発表後に「SF Prologue Wave」に出た追悼文をあとがきへの追記で紹介、そしてカンパ協力者を奥付でクレジットしています。電子版の無償頒布は継続し、カバーもダウンロード可能にして、手製本もできるようにいたしました。

 BOOTHにて、電子版の無料頒布を続けております。

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 印刷版もが届きました。石塚正英さん曰く、「内容はたんなる追悼の域をはるかに超えています。関心おありの方は、どうぞお読みください。大歓迎です」
 現物は、ものすごい迫力! 重さは5冊で7kgほどでした。関係者、カンパ協力者の皆さん、各種アーカイブ施設への発送作業をすでに開始しております。

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 Good Gamer's Groupのサイトより。遺稿集追悼文集の表紙を供えてくださいました。

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2021年03月02日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3.5

本日2021年3月2日配信の「FT新聞」No.2960に、連載「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.3.5が掲載されています。なぜ端数かというと、読者の方からの応答によって、多様性についての議論を掘り下げる回となったからですね。Analog Game Studiesでもアーカイビングいたします。

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3.5 No.2960
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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3.5

岡和田晃
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 魔狩人フレイザーは、ずっとわたしを付け狙っている。
 わたしが「混沌」そのものだと疑っているのだ。それも無理もない。当時、帝国暦2512年。わたしの実年齢は7歳だった。けれども、外観は12〜3歳にしか見えていないはずだ。わたしは、それが呪いの賜物だということを知っているが、それを告白するということは、魔女として火刑に処されることを意味する。
 しかし、今回、フレイザーの口から出たのは、それとは無関係のようだった。
 ユングフロイト家。ここユーベルスライクを治める名家だ……。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 本連載の前回では、『ウォーハンマーRPG』と多様性について取り上げましたが、読者の方々から、Twitter上で、とりわけ興味深い応答をいただきました。
 そこで今回はいささかイレギュラーですが、補足を兼ねて、「多様性」の問題をもう少し深く掘り下げてみたいと思います。

●キャラクター・シートに「性別」欄がないということ

 まず、「鋼の旅団」さんからは、「『ウォーハンマーRPG』第4版はこれまであった「性別」の記入欄が無くなっています。髪の色や瞳の色の欄はあるのに肌の色を記載する欄もありません。つまり、どれだけウォーハンマーRPGがオールドなファンタジー作品であるにも関わらず、先進的で大人のゲームなのかをわかりやすく説明して下さっています。」とのコメントを頂戴しました。
 はい、そうなのです。もちろん、これはセクシズムやレイシズムにゲームを悪用させないための配慮の賜物でしょう。
 例えばキャラクター・シートから「性別」欄を撤廃するというのは、『ウォーハンマーRPG』のみならず、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第5版等、最近の海外RPGでは珍しいものではなくなっています。
 なぜそうなのか? キャラクター・シートに書かれている内容は、ゲーム世界においての客観的な事実だからです。

●主観的な真実ではなく、客観的な事実を書くものとしてのキャラクター・シート

 ゲーム・セッションでは状況によって、他のプレイヤー・キャラクターあるいはノン・プレイヤー・キャラクターに「嘘」をつかねばならない場合があります。シートに記載されている事実とは異なる内容を話して伝えることで、交渉を有利に進めようとする場面などですね。
 ただ、現在のデータについて、キャラクター・シートに虚偽を書き込んではなりません。本当は「耐久値」が10なのに、(単に死にたくないからと)ルールを無視して20と書き込んでしまっては、ゲームが成り立たなくなってしまうのは自明ですね。
 一方で、性別を書き込まないということは、事実としての「性」の多様性を固定化してしまわない、ということを意味しています。
 本人が公言していないマイノリティ性を暴露(アウティング)する行為は犯罪ですから、そうはならない雰囲気づくりという配慮もあるのでしょう。
 多様性(ダイヴァーシティ)をめぐる議論が進んでいるとはいえ、まだまだ差別や偏見は社会に根強い状態ですから、ゲーム・キャラクターをネタにかこつけた差別を認めない、というスタンスが大事になってくるわけです。
 そういった意味で、「本連載の前回、『ウォーハンマーRPG』の各キャリアには、それぞれ味わい深いイラストが添えられていますが、描かれるキャラクターの男女比は、ほぼ半々になっています」というのは、厳密に言えば正確ではありませんでした。
 説明の便宜のため、あえて単純化していたとご理解ください。要するに、イラストで表象された身体的な「外観」のバランスが取れていた、という話です。

●『エクリプス・フェイズ』とジェンダー・アイデンティティ

 もちろん、キャラクター・シートに性別欄を設けない、というのは、あくまでも一つの方法論にすぎません。
 別のやり方もあります。参考までに、『エクリプス・フェイズ』というSF-RPGの例を見てみましょう。
 この作品では、人間の精神がデジタル化され、肉体は義体(モーフ)として取替え可能になっているという未来の世界観が採用されています。
 演じるキャラクターはトランスヒューマンと呼ばれます。「超人(トランスヒューマン)思想=トランスヒューマニズム」とは、遡れば19世紀後半の神秘思想に由来します。
 大雑把に説明すれば、修行によって精神を上昇(アセンション)させることで、肉体を超えた存在になることができる、という人神思想です。
 しかし、コンピュータ・サイエンスをはじめ科学技術が極限まで発展した未来においては、AI(人工知能)が人間の予測もつかないレベルにまで到達し(技術的特異点【シンギュラリティ】の到来)、既存の人間観を抜本的に変容させてしまいました。つまり、技術がトランスヒューマニズムを常態化させたわけです。
 ゆえに、『エクリプス・フェイズ』のキャラクターは、外見では性別の見分けがつかない場合がままあります。
 義体も生体義体(バイオモーフ)と合成義体(シンセモーフ)に大別され、合成義体の場合、脳はサイバー・ブレイン、呼吸・睡眠・飲食不要となるのです。
 こうした世界観ですから、『エクリプス・フェイズ』では、キャラクター・シートに「ジェンダー・アイデンティティ」という記載欄があります。外観とは無関係に、どのようなジェンダー(社会的性)を自認しているのか、ということを記述するわけです。
 私がゲームマスターをする時には、『エクリプス・フェイズ』は、魂(エゴ)の性別、義体(モーフ)の性別、ジェンダー・アイデンティティ、性的指向のそれぞれにおいて、男性・女性・中性・両性・無性の5つから、選んで記述してもらう、という形にしています。
 ジェンダーをめぐる現実世界の複雑な状況を、SFの世界観としての思考実験という形で、応用しているわけです。実際、『エクリプス・フェイズ』のゲーム・セッションでは、ごく自然にアイデンティティをめぐる問いが発生する仕掛けになっています。
 「FT新聞」をお読みの皆さんはソロアドベンチャーがお好きだと思います。
 月刊アナログゲーム総合情報書籍「Role&Roll」(アークライト/新紀元社)のVol.193では、私が書いた『エクリプス・フェイズ』のソロアドベンチャー「流れよわが涙、と監視官は言った」が掲載されています。
 簡易ルール付きですので、ぜひプレイしてみてください。

●多様性(ダイヴァーシティ)をめぐる2つの位相

 『ウォーハンマーRPG』と多様性について、仲知喜さんからは、「今回、岡和田さんはWHRPGの多様性に注目して紹介しておられます。そうくると「仲間」ではない存在、ゲームに欠かせない存在である「敵」にも関心が向かいます。オールドワールドにおける「敵」はどう現れ、描かれ、何を持って敵だと解釈されるのでしょうか。今後の連載で解き明かされるのでしょうか」とのコメントをいただきました。
 これまた興味深いご指摘です。
 RPGにおいて多様性(ダイヴァーシティ)という言葉が使われる際、大きく分けて2つの位相が念頭に置かれるものと思います。
 第1の位相はゲーム内の世界。つまり『ウォーハンマーRPG』で表現されるオールド・ワールドのことですね。
 第2の位相は、ゲーム外の世界。現実世界においてテーブルを囲む、プレイヤー同士の人間関係です。
 ことRPGが特異なのは、こうした2つの領域が、必ずしも截然(せつぜん)と分かたれているわけではない、ということです。
 学術的なゲーム研究では、例えば「魔法円(マジック・サークル)」という概念をめぐる議論として、話し合われている問題です(ご興味のある方は、ケイティ・サレン&エリック・ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ』【山本貴光訳、ニューゲームズオーダー】をお読み下さい)。

●卓を囲む人々の間においては「敵」を作ってはならない

 もちろん、プレイヤー・キャラクターとプレイヤーは別人格であり、極端な話、ゲーム内のキャラクターが死んでもプレイヤーまでが死んでしまうわけではありません。そういう意味では、ゲーム内とゲーム外は別で、両者を混同してしまうのは危険です。
 しかし一方で、『ウォーハンマーRPG』の世界は、参加するゲームマスターとプレイヤー同士の相互作用(インタラクション)によってはじめて成立する、という性格を持ちます。その相互作用の前提となるのは−−世界観やコミュニケーションの作法をも包含するという広い意味での−−ルールなのです。
 こと、ルールがあるからこそ、現実と架空の世界は区別されるわけですが、そのルールは参加するプレイヤーたちの自主的な管理によって成り立つという性格を持つもので、金科玉条というわけではありません。
 実際、ゲームマスターは、それによってゲームがより面白くなると判断したのであれば、ルールを曲げてしまうことすら許可されているのです。
 つまり、現実世界とゲーム世界の境界は常に曖昧であり、プレイヤー・キャラクターの性格は、必ずどこかの面でプレイヤーの性格の投影になっているものです。
 前提として、現実世界で卓を囲む相手に、差別やハラスメントを行うことは、あってはならないことです。
 気心の知れた友人に限るならばともかく、コンベンションやオンラインセッション等で、見知らぬ人と一緒にRPGをプレイする機会は少なくありません。
 本人がカミングアウトしていないだけで、同卓している人は何らかのマイノリティ性を孕むかもしれません。
 そして、そのマイノリティ性をカミングアウトしろと強要することは許されないため、多様性(ダイヴァーシティ)を確保できるような環境づくりが求められるわけです。
 平たく言えば、卓を囲む人々の間においては「敵」を作ってはならない、というわけです。

●ゲーム世界における明確な「敵」とは

 今回、仲さんがおっしゃっているのは、あくまでもオールド・ワールドのなかにおいての「多様性」であり、では、それを裏切る「敵」というのはどういうものかを問うておられます。
 RPGの中では、「多様性」からいったん棚上げされるような、明確な「敵」が設定されているシステムも少なくありません。残虐非道な、討伐されるべき絶対悪というわけです。
 『ウォーハンマーRPG』にも、ルールブックには明確な「敵」として使われるべき、凶悪なクリーチャーが多数、記述されています。
 知性がなくコミュニケーションが取れない、それこそ相手を食用としてしか思えないようなクリーチャーも、少なからず存在します。
 珍しいところでは−−ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に出てくるジャバーウォックを、さらに凶悪にさせたような−−ジャバースライスという、見るだけで相手を狂気に陥らせ、ほとばしる血液が敵を腐食させる力を有したクリーチャーさえいるのですから。

●初版にあった属性(アラインメント)というルール

 初版の『ウォーハンマーRPG』では、属性(アラインメント)という概念が存在しました。この属性(アラインメント)という概念は、興味深い論点を提供してくれています。
 すべてのキャラクターは、「混沌」−「邪悪」−「中立」−「善良」−「秩序」といった、直線上に並ぶ5つの属性のいずれかを有します。自分と同じ属性ではないキャラクターと交渉する場合、1段階離れるたびに−10%のペナルティがかかるというわけです。
 面白いのは、同じく属性(アラインメント)のルールがある『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』(AD&D)では、「混沌」と「秩序」、「邪悪」と「善良」はそれぞれ別枠だったのに、『ウォーハンマーRPG』初版ではそうなっていなかったことです。
 属性のルールは、しばしば世界を善悪二元論(もしくは秩序と混沌の二元論)的に単純化していると批判されますが、実のところ、単なる単純化と受け止めることはできません。
 ゲーム内世界を一つの宇宙だと捉えると、その宇宙に、各属性の場所をしっかりと与えることで、単純化しつつ多様性を担保しているとも言えるのです。
 「混沌」と「秩序」は決して、真の意味で互いを理解することはできません。しかし、理解しえないながらも、世界においては共存しえているのです。
 他者を生半可にわかったふりをしない、けれども他者は確かにそこにいる……そうした思想を、属性(アラインメント)のルールからは読み取ることができます。
 そして『ウォーハンマーRPG』世界においては、「邪悪」も「善良」も、結局のところは、「混沌」と「秩序」のどちらかに至る一プロセスにすぎない、というわけです。

●「内なる敵」を適切に演出するために

 『ウォーハンマーRPG』の第2版からは、属性(アラインメント)のルールはなくなりました。初版回帰の色合いが強い第4版においても、このルールは復活していません。
 それでは、『ウォーハンマーRPG』における「敵」はどこにいるのでしょうか?
 ルール上では、「混沌」という存在が、究極の悪だとされています。ただ、究極の悪というのは、あくまでも到達不可能な理想の裏返しにすぎません。
 いくら混沌の神々の寵愛を受けても、ケイオス・チャンピオンという強力な存在にはなれるかもしれませんが、神々そのものと化すことはできないのです。
 さらに言えば、オールド・ワールドは中世から近世にかけてのヨーロッパをモチーフにしています。当然、近代以降に確立された人権概念、というのはありません。
 世界は不条理に満ちており、社会格差もすさまじい。
 こうしたなかで、いちばん恐ろしいのは、理解したかに思えていながら、その腹の底までは読みきれないという「内なる敵」という存在なのではないでしょうか。
 『ウォーハンマーRPG』では、混沌のミュータント、スケイブン(スケイヴンとも、ネズミ人間のこと)、グリーンスキン(ゴブリン類)等、多様な敵役が設定されています。
 ただ、実際のところ、いちばん頻繁に出逢う敵は、「人間」そのものです。
 オールド・ワールドでもっとも勢いがあるのは人間ですが、「混沌」よりも恐ろしいのは、マジョリティである人間である、というわけです。
 初版の有名なキャンペーン(連続)シナリオ群の−−4版対応で順次、英語版が刊行されていますが−−サブタイトルが「内なる敵」と題されているのは、謂れなきことではないのでしょう。
 つまり、人間と人間同士の、エゴのぶつかり合いや善意のすれ違い。そして、私利私欲のための日常化した裏切りと陰謀。
 絶対悪としての「混沌」は、そこに巧妙に入り込む存在という形でデザインされています。世界観の基本には「内なる敵」があるとすると、単に倒されるべき「悪」というだけでは、その特性を充分に描き出すことはできません。
 そして、こうした世界観を演出するためにも、それこそ成熟した大人のプレイヤーによる、充分な配慮が求められるというわけです。


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2021年02月16日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3

※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2946に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。


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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3

岡和田晃
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「なんてこと(シグマーズ・ブラッディ・ハンマー)……」
 一難去ってまた一難。トロールから逃げてボグ・オクトパスに遭うとは、よく言ったもの。
 薄暗い物陰に佇んでいたのは、忘れもしない、魔狩人フレイザーだ。
「よお、レジーナ。貴様の顔は忘れようにも忘れられねぇ。色々と愉快なことをやらかしてくれたからな。貴様の周りからは、混沌の臭いがするんだ、それはもう、プンプンとな。実際、貴様のおかげで、ミュータントを一人狩ることができたってなもんだ」
 フレイザーとは腐れ縁だ。シグマーへの狂信の割に異端摘発の「成績」がよくないこいつの前で、学府に認められていない魔法をかけ、魔女狩りの口実を与えなくて本当によかった。
 わたしはサッシュ(帯)に忍ばせている、身代わり人形のことを思った。いざとなれば、思い切って針を突き刺せばいい。こいつに激痛の呪いをかけられる。その隙に……。
「そんなに警戒するなって。実はな、貴様にちょっとした相談(はなし)があるんだ」
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 好評いただいている本連載、Vol.3の今回は、『ウォーハンマーRPG』第4版の実際のキャリアを総覧し、『ウォーハンマーRPG スターターセット』のサンプル・キャラクターを紹介、さらには多様性(ダイヴァーシティ)の問題にまで話を広げていきます。

●キャリア・クラスについて

 『ウォーハンマーRPG』の大きな特徴は、その職業(キャリア)の豊富さです。およそ中世から近世にかけて存在してきた、ありとあらゆるタイプの職業が、「キャリア」として網羅されていると言っても過言ではないでしょう(サプリメントで、さらに追加されていきますから)。
 生活感あふれるキャリアを出発点にして物語を紡いでいけば、その生活がそのまま「冒険」に直結する、というのが『ウォーハンマーRPG』の醍醐味です。
 プレイヤーが演じるキャラクターの就くキャリアは第4版では、学士、都市民、農村民、野外民、河川民、無頼、戦士の8通りのクラスに分類されています。
 初版をご存知の方は、キャリア・クラスがウォリアー(戦士系)、レンジャー(野人系)、ローグ(町人系)、アカデミック(学者系)の4つに大別されていたのをご記憶かもしれません。4版では、それがさらに細分化されている、ということになります。

●キャリア総覧

 学士に区分されるキャリアは、薬剤師、技師、弁護士、修道士、医者、司祭、学者、魔術師。
 都市民に区分されるキャリアは、扇動家、職人、物乞い、捜査官、商人、ネズミ捕り、都市住民、警備兵。
 廷臣に区分されるキャリアは、顧問、芸術家、決闘者、渉外使者、貴族、召使い、密偵、所領管理人。
 農村民に区分されるキャリアは、領地代官、似非魔術師、薬草師、狩人、鉱夫、占い師、偵察兵、村人。
 野外民に区分されるキャリアは、賞金稼ぎ、御者、芸人、鞭打苦行者、伝書、行商人、街道巡視員、魔狩人。
 河川民に区分されるキャリアは、川舟乗り、水先案内人、河川巡視員、河川の民、船乗り、密輸商人、港湾労働者、難破船荒らし。
 無頼に区分されるキャリアは、斡旋人、いかさま師、故買人、墓荒らし、無法者、ゆすり屋、盗賊、魔女。
 戦士に区分されるキャリアは、騎兵、衛兵、騎士、剣闘士、流れ者、兵士、スレイヤー、戦闘司祭。

●『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリア

 なかなか壮観ではないでしょうか。『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリアを解説していくと……。
 ネズミ捕りは、害獣駆除業者のこと。彼らなしでは都市の衛生は成り立ちません。
 決闘者は、裁判の被告や告発者の替わりに決闘に参加する代理戦士。
 似非魔術師は、魔法諸学府で公認されていない、似非魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。
 鞭打苦行者とは、己や他人の贖罪のために世界が終るまで自らを鞭打ちながら旅して回る者のこと。中世史によく登場しますよ。
 魔狩人とは、混沌の信者や非合法の魔術を使う者たちを追い求めて火刑にしようとする者。
 斡旋人は麻薬窟や売春宿など悪徳とされるサービスへの手引きを行う者。ポン引きですね。
 魔女とは、俗魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。男性キャラクターでも「魔女」です。
 スレイヤーとは、心に傷を負い、獣脂で髪をモヒカンに逆立て、死に場所を求めて彷徨うドワーフ戦士。
 戦闘司祭とは、シグマー神に仕える僧兵で、ハンマーを手に前線で戦う者。『ウォーハンマーFB』が好きな方はお馴染みかもしれません。

 これが、例えば鞭打ち苦行者ならば「狂信者」→「鞭打苦行者」→「悔悟者」→「終末預言者」と、キャリア・パスをステップ・アップしていき、獲得できる技能や異能も増えていくという塩梅です。
 鞭打苦行者は世捨て人なので収入は増えませんが、通常はキャリア・パスが上がると、収入や社会的な地位が増していきます。

●キャリアはどうやって選べばいい?

 これらのキャリアはダイスでランダムに選ぶこともできますし、任意のものをチョイスしてもかまいません。
 ただ、ランダムで選んだ場合、ボーナスで経験点が入ります(いいルールなので、何度でも紹介しておきます)。
 ちなみに、初版の時には、技能が1つ(乗馬)しかない、街道巡視員のようなキャリアもありました。それはそれで面白く、弱いキャリアをプレイして成り上がっていくのも『ウォーハンマーRPG』の醍醐味ですが、2版からはバランスが調整され、基本的に著しく不利な職業というのはなくなりました。
 ただ、キャリア毎の社会的な立場はさまざまです。
 例えば、魔女の使う俗魔術は非合法で、使うと死刑に処されます。それゆえ、常に魔狩人に追われる立場を余儀なくされます。
 それはシナリオの導入に使うこともできますが、魔女と魔狩人をパーティに同居される場合、何らかの理由付けが必要となります。
 『ウォーハンマーRPG』の冒険はシティアドベンチャーが基体になることが多いのですが、もちろんダンジョン探険等、ファンタジーRPGに期待される冒険は一通り、こなせるようになっています。
 あらかじめシナリオの舞台が決まっていれば、それに合わせて、ゲームマスターがクラスを指定しても面白いでしょう。

●サンプル・キャラクターには、こんな設定も

 このあたりが便利なのは、日本語版の発売が予定されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』です。
 『スターターセット』には人間の兵士サルンドラ、ドワーフのスレイヤーのグンナー、ハーフリングの盗賊モルレラ、人間の魔術師フェルディナント、ハイ・エルフの商人アムリス、人間の魔狩人エルゼ、といった6体の作成済みキャラクターが収められています。
 フルカラーですが、あらかじめ折りたたまれており、自分だけが知っておくべき情報を、周りに見せずに済むように配慮されています。
 数値的なデータだけではなく、各キャラクターには、瞳の色や髪の色、家族構成、出生地、決めゼリフ、行動の動機、パーティの他の面々との関係、さらには自分だけの秘密が設定されています。
 パーティの関係と自分だけの秘密は、1つないしそれ以上を、プレイヤーが任意に選択します。

●サンプル・キャラクターはこういう性格

 サルンドラは貴族の出身なので、自然とパーティのリーダー格になりますが、酒好きで、いつも周りを騒がせ、「放っておけない」と思わせます。
 グンナーは家族を亡くしてスレイヤーの誓いを立てたドワーフですが、戦闘マシーンに徹しきれない人間味(ドワーフ味?)のあるキャラクターです。
 モルレラは人懐っこいハーフリングですが(人間の子どもくらいの身長の種族で、料理が得意)、夫も子どももいる肝っ玉母さんです。
 フェルディナンドは、紫水晶(死の魔法体系の魔術を駆使する学府)の魔術師たるべく修行をしています。無口ですがこちらも貴族の出で育ちはよく、義理堅い一面もあります。
 アムリスは人間に興味しんしん、好奇心いっぱいのハイ・エルフです。能力的に強力なので、いざという時には頼りになります。
 エルゼは魔狩人の母から直に教えを受け、シグマー神を熱心に崇めています。静かに、強固な意志をもって任務を遂行する仕事人気質のキャラクターです。
 これらのキャラクターに、ユーベルスライクを舞台にした付属シナリオをプレイする際には、街周辺の情報が、あらかじめ「ハンドアウト」として手渡されます。
 このハンドアウトの情報を駆使すれば、ゲームセッションの導入がすんなり行き、なかには冒険をスムーズに進めるための手がかりにもなる、という塩梅なのです。


●多様性(ダイヴァーシティ)を前提とした雰囲気づくり

 『ウォーハンマーRPG』の各キャリアには、それぞれ味わい深いイラストが添えられていますが、描かれるキャラクターの男女比は、ほぼ半々になっています。
 『ウォーハンマーRPG スターターセット』の導入シートでは、キャラクターだけではなくプレイヤーも、肌の色に関わらず、和気あいあいと卓を囲む様子がイラストで示されています。
 サンプルキャラクターも、男女比は半々。人間と異種族の比率も半々です。
 『ウォーハンマーRPG』は、中世から近世にかけての厳しい社会背景を舞台に、シニカルなブラックユーモアが多々、登場する世界を描いています。
 だからといって、ゲームセッションを通じて、既存の性・人種/民族(エスニシティ)等の差別を正当化するようなことが、あってはならないのは当然のことです。
 微妙かな? と思えるシチュエーションがあれば、しっかり卓の合意を取るのが安全ですし、ルールブックにはそのための指針も記されています。
 ルールやガイドラインのみではなく、多様性(ダイヴァーシティ)を許容するための雰囲気づくりも大事になるのですが、第4版はそのための配慮も行き届いています。

●卓を囲む仲間を「大人」として尊重するために

 多様性についての議論が進んでいる英語圏でも、残念なことにレイシズム的な言説が問題になることが、ままあります。
 昨年も、英語圏のあるオールドスクール・ファンタジーRPG関係の企業のトップが、あからさまな人種差別発言を行い、SNSでそれに便乗するゲーマーたちも現れる、という事件が起こってしまいました(ことを重く見た取引先の企業が、差別発言を看過せずに取引停止を宣告する自体にまで発展しました)。
 レイシズムやセクシズムの問題は、誰にとっても非常に身近なものとなっています。誰もが加害者になりえるというわけです。
 ほろ苦い大人のためのRPGだからこそ、『ウォーハンマーRPG』第4版はユーザーに対して、多様性(ダイヴァーシティ)のあり方を――声高な演説ではなく――ごく自然なあり方として表現しているのです。
 それはつまり、卓を囲む相手を平等な仲間、「大人」として尊重するためのスタイルなのでしょう。
 そこに甘んじることなく、自らの発言や振る舞いを常に省みて、RPGを通して、社会、そこに生きる人間、そして歴史の連なりを、より深く理解していくことができれば最高ですね。


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