2021年02月16日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3

※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2946に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。


●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3

岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

「なんてこと(シグマーズ・ブラッディ・ハンマー)……」
 一難去ってまた一難。トロールから逃げてボグ・オクトパスに遭うとは、よく言ったもの。
 薄暗い物陰に佇んでいたのは、忘れもしない、魔狩人フレイザーだ。
「よお、レジーナ。貴様の顔は忘れようにも忘れられねぇ。色々と愉快なことをやらかしてくれたからな。貴様の周りからは、混沌の臭いがするんだ、それはもう、プンプンとな。実際、貴様のおかげで、ミュータントを一人狩ることができたってなもんだ」
 フレイザーとは腐れ縁だ。シグマーへの狂信の割に異端摘発の「成績」がよくないこいつの前で、学府に認められていない魔法をかけ、魔女狩りの口実を与えなくて本当によかった。
 わたしはサッシュ(帯)に忍ばせている、身代わり人形のことを思った。いざとなれば、思い切って針を突き刺せばいい。こいつに激痛の呪いをかけられる。その隙に……。
「そんなに警戒するなって。実はな、貴様にちょっとした相談(はなし)があるんだ」
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 好評いただいている本連載、Vol.3の今回は、『ウォーハンマーRPG』第4版の実際のキャリアを総覧し、『ウォーハンマーRPG スターターセット』のサンプル・キャラクターを紹介、さらには多様性(ダイヴァーシティ)の問題にまで話を広げていきます。

●キャリア・クラスについて

 『ウォーハンマーRPG』の大きな特徴は、その職業(キャリア)の豊富さです。およそ中世から近世にかけて存在してきた、ありとあらゆるタイプの職業が、「キャリア」として網羅されていると言っても過言ではないでしょう(サプリメントで、さらに追加されていきますから)。
 生活感あふれるキャリアを出発点にして物語を紡いでいけば、その生活がそのまま「冒険」に直結する、というのが『ウォーハンマーRPG』の醍醐味です。
 プレイヤーが演じるキャラクターの就くキャリアは第4版では、学士、都市民、農村民、野外民、河川民、無頼、戦士の8通りのクラスに分類されています。
 初版をご存知の方は、キャリア・クラスがウォリアー(戦士系)、レンジャー(野人系)、ローグ(町人系)、アカデミック(学者系)の4つに大別されていたのをご記憶かもしれません。4版では、それがさらに細分化されている、ということになります。

●キャリア総覧

 学士に区分されるキャリアは、薬剤師、技師、弁護士、修道士、医者、司祭、学者、魔術師。
 都市民に区分されるキャリアは、扇動家、職人、物乞い、捜査官、商人、ネズミ捕り、都市住民、警備兵。
 廷臣に区分されるキャリアは、顧問、芸術家、決闘者、渉外使者、貴族、召使い、密偵、所領管理人。
 農村民に区分されるキャリアは、領地代官、似非魔術師、薬草師、狩人、鉱夫、占い師、偵察兵、村人。
 野外民に区分されるキャリアは、賞金稼ぎ、御者、芸人、鞭打苦行者、伝書、行商人、街道巡視員、魔狩人。
 河川民に区分されるキャリアは、川舟乗り、水先案内人、河川巡視員、河川の民、船乗り、密輸商人、港湾労働者、難破船荒らし。
 無頼に区分されるキャリアは、斡旋人、いかさま師、故買人、墓荒らし、無法者、ゆすり屋、盗賊、魔女。
 戦士に区分されるキャリアは、騎兵、衛兵、騎士、剣闘士、流れ者、兵士、スレイヤー、戦闘司祭。

●『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリア

 なかなか壮観ではないでしょうか。『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリアを解説していくと……。
 ネズミ捕りは、害獣駆除業者のこと。彼らなしでは都市の衛生は成り立ちません。
 決闘者は、裁判の被告や告発者の替わりに決闘に参加する代理戦士。
 似非魔術師は、魔法諸学府で公認されていない、似非魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。
 鞭打苦行者とは、己や他人の贖罪のために世界が終るまで自らを鞭打ちながら旅して回る者のこと。中世史によく登場しますよ。
 魔狩人とは、混沌の信者や非合法の魔術を使う者たちを追い求めて火刑にしようとする者。
 斡旋人は麻薬窟や売春宿など悪徳とされるサービスへの手引きを行う者。ポン引きですね。
 魔女とは、俗魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。男性キャラクターでも「魔女」です。
 スレイヤーとは、心に傷を負い、獣脂で髪をモヒカンに逆立て、死に場所を求めて彷徨うドワーフ戦士。
 戦闘司祭とは、シグマー神に仕える僧兵で、ハンマーを手に前線で戦う者。『ウォーハンマーFB』が好きな方はお馴染みかもしれません。

 これが、例えば鞭打ち苦行者ならば「狂信者」→「鞭打苦行者」→「悔悟者」→「終末預言者」と、キャリア・パスをステップ・アップしていき、獲得できる技能や異能も増えていくという塩梅です。
 鞭打苦行者は世捨て人なので収入は増えませんが、通常はキャリア・パスが上がると、収入や社会的な地位が増していきます。

●キャリアはどうやって選べばいい?

 これらのキャリアはダイスでランダムに選ぶこともできますし、任意のものをチョイスしてもかまいません。
 ただ、ランダムで選んだ場合、ボーナスで経験点が入ります(いいルールなので、何度でも紹介しておきます)。
 ちなみに、初版の時には、技能が1つ(乗馬)しかない、街道巡視員のようなキャリアもありました。それはそれで面白く、弱いキャリアをプレイして成り上がっていくのも『ウォーハンマーRPG』の醍醐味ですが、2版からはバランスが調整され、基本的に著しく不利な職業というのはなくなりました。
 ただ、キャリア毎の社会的な立場はさまざまです。
 例えば、魔女の使う俗魔術は非合法で、使うと死刑に処されます。それゆえ、常に魔狩人に追われる立場を余儀なくされます。
 それはシナリオの導入に使うこともできますが、魔女と魔狩人をパーティに同居される場合、何らかの理由付けが必要となります。
 『ウォーハンマーRPG』の冒険はシティアドベンチャーが基体になることが多いのですが、もちろんダンジョン探険等、ファンタジーRPGに期待される冒険は一通り、こなせるようになっています。
 あらかじめシナリオの舞台が決まっていれば、それに合わせて、ゲームマスターがクラスを指定しても面白いでしょう。

●サンプル・キャラクターには、こんな設定も

 このあたりが便利なのは、日本語版の発売が予定されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』です。
 『スターターセット』には人間の兵士サルンドラ、ドワーフのスレイヤーのグンナー、ハーフリングの盗賊モルレラ、人間の魔術師フェルディナント、ハイ・エルフの商人アムリス、人間の魔狩人エルゼ、といった6体の作成済みキャラクターが収められています。
 フルカラーですが、あらかじめ折りたたまれており、自分だけが知っておくべき情報を、周りに見せずに済むように配慮されています。
 数値的なデータだけではなく、各キャラクターには、瞳の色や髪の色、家族構成、出生地、決めゼリフ、行動の動機、パーティの他の面々との関係、さらには自分だけの秘密が設定されています。
 パーティの関係と自分だけの秘密は、1つないしそれ以上を、プレイヤーが任意に選択します。

●サンプル・キャラクターはこういう性格

 サルンドラは貴族の出身なので、自然とパーティのリーダー格になりますが、酒好きで、いつも周りを騒がせ、「放っておけない」と思わせます。
 グンナーは家族を亡くしてスレイヤーの誓いを立てたドワーフですが、戦闘マシーンに徹しきれない人間味(ドワーフ味?)のあるキャラクターです。
 モルレラは人懐っこいハーフリングですが(人間の子どもくらいの身長の種族で、料理が得意)、夫も子どももいる肝っ玉母さんです。
 フェルディナンドは、紫水晶(死の魔法体系の魔術を駆使する学府)の魔術師たるべく修行をしています。無口ですがこちらも貴族の出で育ちはよく、義理堅い一面もあります。
 アムリスは人間に興味しんしん、好奇心いっぱいのハイ・エルフです。能力的に強力なので、いざという時には頼りになります。
 エルゼは魔狩人の母から直に教えを受け、シグマー神を熱心に崇めています。静かに、強固な意志をもって任務を遂行する仕事人気質のキャラクターです。
 これらのキャラクターに、ユーベルスライクを舞台にした付属シナリオをプレイする際には、街周辺の情報が、あらかじめ「ハンドアウト」として手渡されます。
 このハンドアウトの情報を駆使すれば、ゲームセッションの導入がすんなり行き、なかには冒険をスムーズに進めるための手がかりにもなる、という塩梅なのです。


●多様性(ダイヴァーシティ)を前提とした雰囲気づくり

 『ウォーハンマーRPG』の各キャリアには、それぞれ味わい深いイラストが添えられていますが、描かれるキャラクターの男女比は、ほぼ半々になっています。
 『ウォーハンマーRPG スターターセット』の導入シートでは、キャラクターだけではなくプレイヤーも、肌の色に関わらず、和気あいあいと卓を囲む様子がイラストで示されています。
 サンプルキャラクターも、男女比は半々。人間と異種族の比率も半々です。
 『ウォーハンマーRPG』は、中世から近世にかけての厳しい社会背景を舞台に、シニカルなブラックユーモアが多々、登場する世界を描いています。
 だからといって、ゲームセッションを通じて、既存の性・人種/民族(エスニシティ)等の差別を正当化するようなことが、あってはならないのは当然のことです。
 微妙かな? と思えるシチュエーションがあれば、しっかり卓の合意を取るのが安全ですし、ルールブックにはそのための指針も記されています。
 ルールやガイドラインのみではなく、多様性(ダイヴァーシティ)を許容するための雰囲気づくりも大事になるのですが、第4版はそのための配慮も行き届いています。

●卓を囲む仲間を「大人」として尊重するために

 多様性についての議論が進んでいる英語圏でも、残念なことにレイシズム的な言説が問題になることが、ままあります。
 昨年も、英語圏のあるオールドスクール・ファンタジーRPG関係の企業のトップが、あからさまな人種差別発言を行い、SNSでそれに便乗するゲーマーたちも現れる、という事件が起こってしまいました(ことを重く見た取引先の企業が、差別発言を看過せずに取引停止を宣告する自体にまで発展しました)。
 レイシズムやセクシズムの問題は、誰にとっても非常に身近なものとなっています。誰もが加害者になりえるというわけです。
 ほろ苦い大人のためのRPGだからこそ、『ウォーハンマーRPG』第4版はユーザーに対して、多様性(ダイヴァーシティ)のあり方を――声高な演説ではなく――ごく自然なあり方として表現しているのです。
 それはつまり、卓を囲む相手を平等な仲間、「大人」として尊重するためのスタイルなのでしょう。
 そこに甘んじることなく、自らの発言や振る舞いを常に省みて、RPGを通して、社会、そこに生きる人間、そして歴史の連なりを、より深く理解していくことができれば最高ですね。


●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
■今日の新聞に対するお便りはコチラ!
ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m

https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report

【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。
https://ftnews-archive.blogspot.com/

■FT新聞をお友達にご紹介ください!

https://ftbooks.xyz/ftshinbun

----------------------------------------------------------------
メールマガジン【FT新聞】
発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房)

2021年02月02日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2

※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2932に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。

●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2

岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

 わたしは魔力の風との交信を試みた。けれども、眼前にミュータントが迫っている状態では、どうにも気が散る。軽く舌を噛み、じりじりと後ずさりしていると、そいつがニヤリと笑ったかに見えた。間髪入れず、爪を振り上げて飛びかかってくる。
 何かが炸裂する音、そして悲鳴……恐る恐る目を開けると、飛び出した両眼のちょうど真ん中、化物の眉間のあたりに、ぽっかり穴が空いていた。
 どう、と倒れる。思わず振り返ると、黒い羽根付き帽を被った魔狩人が立っていた。胸の鎧は……ブレスト・プレートか。両手に構えたピストルからは、硝煙が立ちのぼっている。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より


 本連載のVol.1では、『ウォーハンマーRPG』の歴史と概要をお伝えしました。Vol.2の今回は、発売が予告されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』を紹介しつつ、『ダンジョンズ&ドラゴンズ(クラシック)』との比較から、その特徴を解説していきます。

★本気のRPG、それが『ウォーハンマーRPG』!

 現在、ホビージャパンから発売されている『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』(第4版)は、ハードカバー・フルカラーのA4判で350ページほどと、分厚い書籍の中に、ぎっしりと情報が詰まっています。
馴染みのない方は、騙されたと思ってページを繰ってみると、異世界を表現するための本気度に、きっと驚かれるのではないかと思います。
 もっとも、『ウォーハンマーRPG』が本格的な作りだったのは、初版の時からそうでした。社会思想社現代教養文庫から発売されていた『ウォーハンマー ファンタジーRPGルールブック』が出た時のインパクトを、ご記憶の方もおられるでしょう。なにせ、文庫版で3分冊。1巻と2巻は600ページ、3巻でも500ページを超えていましたから。俗に「(形状が)サイコロ(のような)本」とも言われました。

★気後れしてしまう方には『スターターセット』を!

 ただ、中にはあまりの分厚さに気後れしてしまう方もおられるかもしれません。そうした方は、ゲームマーケット2020秋のホビージャパン・ブースで日本語版の発売が予告された『ウォーハンマーRPG スターターセット』をお待ちいただくのがよいでしょう。
 これは、入門用のボックス・セットで、箱の中に、導入用のシート、ルールサマリー、作成済みキャラクター6人、それらのキャラクターに行動の動機を与えるハンドアウト、そして、導入用の冒険シナリオ(5幕の連作形式+シナリオソース10本)の収められた本と、舞台となる都市ユーベルスライクのガイドブック、地図が4枚、それに10面体サイコロ(ブランド品)が2つに、戦闘時の「優位」を記録するための大量のトークン、それにボックスの裏を利用する簡易ゲームマスター・スクリーンがワンセットになっている、というものです。導入用シート、キャラクターシートや同梱の本2冊に、地図はすべてフルカラー!
 海外RPGでも、はたまた国産のRPGでも、昔から入門用のパッケージをボードゲームのようにボックス・タイプで発売するという形式がありますが、その『ウォーハンマーRPG』版、とご理解下さい。
 箱を開ける時のワクワク感は格別ですし(これは「アンボックス」などと言われ、海外では動画配信されることもしばしばです)、なんといっても、最小の準備でセッションを始めることができるのが最高です。それでいて、ベテランにとっても資料的価値が高いものです。
 舞台になっているユーベルスライクの街は、『ウォーハンマーRPG』第4版のメイン・フィールドであるライクランドという領邦の南部にあるものです。ボックスに同梱されたガイドブックでは、ユーベルスライクの歴史と、ユーベルスライクを支配するユングフロイト家、近年の皇帝カール・フランツによる政治的な侵攻、さらには街の具体的なロケーションが70カ所以上扱われ、周辺諸領や暗黒のカルト教団までもが紹介されています。
 ユーベルスライクは旧版ではあまり目立ちませんでしたが、第2版の地域ガイド本『シグマーの継承者』でもきちんと出てきますし、未訳の第3版でも、ドワーフの設定などで言及されています。PCゲームの『Total War WARHAMMER』でも登場しますよ。
 なんといっても、ユーベルスライクはジャック・ヨーヴィルの〈ウォーハンマー〉小説『ドラッケンフェルズ』の舞台であるドラッケンフェルズ城にほど近いところが素晴らしい。初版では『ドラッケンフェルズ』を再現する冒険シナリオも出版されていましたが(未訳)、『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』や『スターターセット』でも、ドラッケンフェルズ城については言及がありますので、探してみるのも一興でしょう。
 ちなみに、『ドラッケンフェルズ』には吸血鬼ジュヌヴィエーヴという有名なキャラクターが出てきますが、彼女はヨーヴィルがキム・ニューマン名義で書いた〈ドラキュラ紀元〉シリーズ(アトリエサードから新版が刊行中)にも出演しています。タイムリーにも、『《ドラキュラ紀元一九五九》ドラキュラのチャチャチャ』の発売が、この2月中になると予告されています。

★初版のデザイナーは、D&Dの仕事もしていた

 『ウォーハンマーRPG』は1986年に初版ルールブックが出ていますから、今年(2021年)で35周年です。『ウォーハンマーRPG』に2年先駆けて始まった『ドラゴン・ウォーリアーズ』もそうなのですが、初版の『ウォーハンマーRPG』は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(新和や電撃ゲーム文庫から邦訳もされた、いわゆるクラシックD&D[CD&D]、特に1983年からの第4版以降)との差別化が、陰に陽に意識されていたように思います。
 実際、『ウォーハンマーRPG』に参加していたクリエイターの多くは(フィル・ギャラハー、ジム・バンブラ、グレアム・デイヴィス、グレアム・モーリス等)、CD&Dを当時出していたTSR社のUK支社の仕事もしていました。
 CD&Dがお好きな方は、1989年に邦訳が出た『X8モジュール 炎の島』(新和)や、1996年に邦訳が出た『ナイツ・ダーク・テラー 黒い夜の恐怖』(電撃ゲーム文庫)をご確認いただければと思います。
「CD&Dも魅力的だが、より『ウォーハンマーRPG』らしさを追求するにはどうしたらいいか?」という問いが、行間から溢れているのがおわかりになることでしょう。

★クラシックD&Dと『ウォーハンマーRPG』の違い

 試しに、2つのシステムをおおまかに比較してみましょう。
 CD&Dは20面体ダイスの1回振りで、基本的な判定が行われますが、『ウォーハンマーRPG』では、技能システムをベースにした10面体サイコロ2個で%を作る(今では『クトゥルフ神話TRPG(クトゥルフの呼び声)』等でお馴染みの)やり方が基本になっています。
 職業(クラス)の数が最小限に抑えられたCD&Dとは違い、『ウォーハンマーRPG』では、100種類を超える職業(キャリア)を転職しながら渡り歩くシステムが採られています。
 低レベル帯ではダンジョン探険が中心のCD&Dに比べ、『ウォーハンマーRPG』では、初期段階から、街での冒険が活発に行われるようになっています。
 古代から中世の雰囲気を色濃く遺すCD&Dに比べ、『ウォーハンマーRPG』では、中世から近世への過渡期における都市での冒険が中心で、銃器すら出てきます。
 CD&Dでは(「スレッショールド」の街など)地名や文化は英語がベースのものが少なくありませんでしたが、『ウォーハンマーRPG』の舞台であるエンパイアでは(「アルトドルフ」の街など)ドイツ語ベースが基本。
 戦闘でも、アーマークラス制による処理のスピード感を重視したCD&Dに比べ、命中部位やクリティカル・ヒット表など、戦闘はリアル志向で危険性が強調されています。
 もちろん、「どちらが優れている」というわけではなく、自分の表現したい世界観に合わせて、システムを選択すればよい、という話ですね。きっと、クリエイターもそう考えていたことと思います。

★嶮難(けんなん)なる冒険に満ちた残酷な世界 

 『ウォーハンマーRPG』第4版のコンセプトは、「嶮難(けんなん)なる冒険に満ちた残酷な世界(A Grim World of Perilous Adventure)」です。
 残酷さをもたらす根幹にあるのは、"禍つ神々(ルイナス・パワーズ)"と呼ばれる"混沌"の邪神たちや、その手下であるディーモン(『ウォーハンマーRPG』ではこう表記します)が、絶えず、オールド・ワールドを侵攻しようとしてくることです。
 かつて世界の安寧を守ってきた太古の魔術がすでに破られ、"混沌の時代"が到来してしまっているのですが、こうした"混沌"との戦いが、『ウォーハンマーRPG』の重要なテーマになっています。
 混沌の正体は不明です。一見、善きものに見える魔力も、煎じ詰めれば混沌の力に由来するということが少なくありません。
 混沌の神々を崇拝することは非合法であるため、通常は地下に潜伏していますが……敵は、彼らだけではありません。混沌に穢されたミュータントやビーストマンや、人間たちと別種の論理で動くグリーンスキン(ゴブリン類のこと)やネズミ人間スケイヴン、といった勢力が跳梁跋扈しているからです。
 仲間であるはずの人間たちですら、まるで信用はできません。その日を暮らすのもやっとのため、数枚の銅貨のために、平気で人殺しに手を染めるような連中だって珍しくないからです。
 案の定、ドワーフとエルフは互いを煙たく思っており、しばしば人間をも見下していることは言うまでもありません(第4版ではドワーフとエルフの不仲は「嫌悪」という特徴で表現されますが、パーティの仲間に関しては無視してもよい、という救済策が提示されています)。

★エントロピーに対峙せよ!

 こうした厳しい世界の中で、わずかに残る希望を失わずに悪戦苦闘を続ける、というのが『ウォーハンマーRPG』のプレイヤー・キャラクターの立ち位置です。
 混沌との戦いに終わりはなく、勝利の道筋は見えません。世界が滅びる"終焉の刻(エンド・タイムズ)"は、刻一刻と近づいていますが、避けようがない衰滅(エントロピー)を、少しでも遅らせようと悪あがきをするわけです。『ウォーハンマーRPG』には8種類のクラスが存在し、各クラスに8種類のキャリアがあり、それらは4段階のキャリア・レベルで成長を遂げていきます。つまり単純計算で、基本ルールブックだけで256種類(!)のキャリアが用意されているわけですが、成長するにつれて、社会的な地位は上がっていき、混沌をめぐる世界の真実に気づく……といった仕組みになっています。
 こうしたコンセプトも、実はCD&Dへのアンサーであると言えます。CD&Dは、キャラクターのレベルが上がるごとに、社会的な地位も上昇していき、15レベル以上を扱うコンパニオン・ルールセット(緑箱)からは、領主となって自領の経営に乗り出したり、あるいは今いる世界(物質界)を離れて次元界をまたにかけた冒険に出向いたりすることになるのですが、やがて直面するのは、宇宙のすべてに熱力学的な死をもたらす「エントロピー」との対峙にほかなりません。
 私自身、「エントロピーとの戦い」をテーマに、『ウォーハンマーRPG』やCD&DのキャンペーンをGMとして運営したことがあります。

★変化するシステム

 D&DにはCD&Dのほかに、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』という別ラインのシリーズがあり、それらは2000年の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3版で統合され、2003年の第3.5版、2008年の第4版、2014年の第5版と、システムを大きく様変わりさせています。
 『ウォーハンマーRPG』の第2版は、D&D第3版の系列のサードパーティであったGreen Ronin社が関わっていたため、緻密な状況の再現がウリであったD&D第3.X版を意識しつつも、随所でゲームマスターのファジーな判断を加えやすいデザインになっていたと、私は現場で何度となくプレイして、つくづく実感しました。イベントでは、「D&D第3.X版と、『クトゥルフ神話TRPG』をハイブリッドさせたようなシステム」と紹介したこともありました。
 『ウォーハンマーRPG』第4版は、世界観的には初版回帰の色彩が強いシステムで、実際、メイン・スタッフには名作ユーモア・シナリオ「エウレーカ!」で知られるアンディ・ローも名を連ねていますが、システムも独自の変化を遂げてきました。
 ただ、第4版の『ウォーハンマーRPG』を、純粋に数理的なルールシステムに限って言えば、単純に他のファンタジーRPGと比べることは、以前の版に比べて、難しくなってきているように思えます。第4版では「優位」等、独自のギミックが増えてきたからです。
 それでも、「キャラクター作成の時に、ダイスでランダムにキャラクターを選んだ場合、任意に選んだ場合よりも、ボーナスとして経験点をもらえる」といった具合に、オールドスクールRPGファンならば、「なぜ、ここに気づかなかったんだろう」という、痒いところに手が届くようなルールが増えています。
 既存のファンのみならず、ゲームデザインの最新形がどうなっているのかを知るためにも、ぜひ、第4版に触れていただければと思います。


●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
■今日の新聞に対するご感想はコチラ!
ぜひ、お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m

https://jp.surveymonkey.com/r/2ZM78SP

【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。
https://ftnews-archive.blogspot.com/

■FT新聞をお友達にご紹介ください!

https://ftbooks.xyz/ftshinbun

----------------------------------------------------------------
メールマガジン【FT新聞】
発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房)

2021年01月28日

『日本現代卓上遊戯史記聞』シリーズ&『ゲーム探検隊』電子書籍版の紹介


 岡和田晃

 Analog Game Studiesと合流しているボードゲーム読書会@高田馬場では、これまで、『日本現代卓上遊戯史記聞』という電子書籍を、ニューゲームズオーダーより刊行して参りました。いずれも250円ないし500円と、お求めやすい価格になっております。


【日本現代卓上遊戯史紀聞について】
1950年代アメリカにおいて、「子供のための遊戯」から離れたホビーイスト達のための商業ゲーム出版が始まりました。人類文化と遊戯との関係に不可逆的な変化をもたらしたこの波は1970年代には日本に伝わり、ここでも極めて大きな影響を及ぼすことになります。またこの時代は、遊戯研究の分野において海外で大きな進展があった時期でもあり、呼応する形で日本でも遊戯研究の機運が高まりました。

「日本現代卓上遊戯史紀聞」は、商業ホビーゲームや遊戯研究の日本における受容に関わった人々に対するインタビューを通じて、この波がどのようなものであったのかを記録しようとする試みです。


日本現代卓上遊戯史紀聞 [1]安田均 - 安田 均
日本現代卓上遊戯史紀聞 [1]安田均 - 安田 均

日本現代卓上遊戯史紀聞 [2]草場純 - 草場 純
日本現代卓上遊戯史紀聞 [2]草場純 - 草場 純

日本現代卓上遊戯史紀聞 [1b]安田均/補遺 - 安田 均, 岡和田 晃
日本現代卓上遊戯史紀聞 [1b]安田均/補遺 - 安田 均, 岡和田 晃

 また、このたび、草場純の『ゲーム探検隊』も電子書籍として復刻しました。

ゲーム探検隊 - 草場 純, 南雲 夏彦, 赤桐 裕二, 本間 晴樹
ゲーム探検隊 - 草場 純, 南雲 夏彦, 赤桐 裕二, 本間 晴樹

ゲームはどのような仕組みで成立しているのか、様々な方向からアプローチしてみよう。広大で興味のつきないゲームの世界を旅するための、気楽なガイドブック。

※本書は、二〇〇七年に株式会社グランペールから刊行された『ゲーム探検隊 ―改訂新版―』を、部分的な修正のうえ再刊したものです(なお、同書は書苑新社から一九八九年に刊行された『ゲーム探検隊 ― ゲームのしくみを解き明かす知的興奮読本』の改訂版です)。底本として、二〇〇九年十一月発行の第二版を用いています。


 これらのリンクは、Amazon Kindleのものですが、PDF版もニューゲームズオーダーから発売されています。

 なお、『日本現代卓上遊戯史記聞』は、『安田均のゲーム紀行 1950-2020』でもご紹介いただきました。ありがとうございます。

安田均のゲーム紀行 1950-2020 - 安田 均
安田均のゲーム紀行 1950-2020 - 安田 均
posted by AGS at 14:57| 新作紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年01月21日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.1

FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」2021年1月19日発刊のNo.2918に寄稿した「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!Vol.1」を、Analog Game Studiesにも採録します。


『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.1 No.2918
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.1

岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

一人の人間の行為が、全世界に永遠の平和をもたらすような物語を聞きたいとおっしゃるなら、お話しすることもできます−−でも、そんな話がどんなにばかげて、嘘っぱちなのか、あなたにもよくおわかりのはずです。
 −−ブライアン・クレイグ『嵐の戦士』(岡聖子訳)

小便臭い脇道から飛び出してきたそいつは、わたしが初めて見るような姿だった。田舎の民兵のような服装(なり)をしているのに、眼柄(がんぺい)がカニのように突き出しているのだ。黄色い爪は長く伸び、渦を巻くようにねじくれている。開かれた口からはよだれが滴り、おぞましい腐臭が漂ってくる……。歯には何かの肉片が絡みついている。わたしは、吐き気をもよおさずにはいられなかった。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

★はじめに

 あなたは『ウォーハンマーRPG』を知っていますか?
 2020年9月1日に、発売が電撃的に発表され、月末には第4版の基本ルールブックがホビージャパンより発売されました。「あの『ウォーハンマーRPG』が復活!?」と、SNSではかなりの話題を集めたので、ご記憶の方も多いだろうと思います。
 ただ、「FT新聞」をお読みの方には、ゲームブックや他のRPG(会話型RPG、テーブルトークのRPG)には親しんでいても、『ウォーハンマーRPG』には馴染みがない、という方もいらっしゃるかもしれません。
 それもそのはず。もともと英語圏でも日本でも、『ウォーハンマーRPG』は1980年代のゲームブック・ブームが一段落した後の、"次の一手"として展開された作品でしたから。
 ただ、その奥深い背景世界やルールシステムは、知らないで済ませるには、あまりにももったいない。そこで、「FT新聞」編集長の水波流氏からの依頼を受けまして、『ウォーハンマーRPG』について、紹介する記事を連載していきたいと思います。

★おことわり

 筆者である私は『ウォーハンマーRPG』第2版、および第4版の翻訳に参加、「GAME JAPAN」誌2008年3月号〜9月号まで第2版リプレイ「魔力の風を追う者たち」「混沌狩り」を連載し、各種コンベンションでゲームマスターをしてきました。
 しかし、それ以前に、初版の頃から『ウォーハンマーRPG』に深く親しんできたつもりです。
 当時、私は18歳で上京したて。大学に入ったらRPGを辞めようかと悩んでいて、まだ遊んでいなかった『ウォーハンマーRPG』を"最後のゲーム"にするつもりだったのですが……蓋をあけたらご覧の通り。綿密な考証を軸に作り込まれた世界観にすっかり魅了されてしまったのでした。
 私は大学では創作学科にいたのですが、ユーロピアン・スタイルのダークファンタジーは当時、軽視されていて、そこに非常な不満がありました。そんな私に、『ウォーハンマーRPG』は、自分の志向性が間違っていなかったと教えてくれた作品でもあります。
 ゆえに、私は『ウォーハンマーRPG』に恩義を感じているのです。あくまでも本記事は、いち『ウォーハンマーRPG』ユーザー(個人)としての批評・紹介であり、日本語版の「公式見解」および「公式サポート」ではない、とあらかじめお断りしておきます。

★公式情報は……。

 公式情報については、ぜひ『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』や、ホビージャパンから発売予定の『ウォーハンマーRPG スターターセット』をご参照下さい。日本語版公式サイトからは、キャラクターシートやシナリオ「流血の夜」等が無料ダウンロードできます(https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/)。

★タイトルについて

 第2版および第4版の日本語版では、わかりやすさを重視し『ウォーハンマーRPG』という表記になっていますが、オリジナルは『Warhammer Fantasy Roleplay』というタイトルになっており、英語版から遊んでいる古強者(ヴェテラン)の中には、『ウォーハンマーFRP』という呼び方をする人も少なくありません。
このFRPという呼び方は、日本では1987年にホビージャパンから発売された『指輪物語ロールプレイング』等で提唱されていたものですが……。こと〈ウォーハンマー〉においては、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』(以下、『ウォーハンマーFB』と略)等のミニチュアゲームと区別するために使われることが多い印象です。

★『ウォーハンマーRPG』と『ウォーハンマーFB』

 『ウォーハンマーRPG』は、イギリスのゲームズ・ワークショップ社が1986年に発売した作品です。その前段階として、1984年には、『ウォーハンマーFB』というミニチュアゲームが出ています(日本語版は『ウォーハンマー』とだけ呼ばれることも多いですが、本記事では区別のために「FB」と略称とします)。
 『ウォーハンマーFB』は1990年代半ばから、日本でも紹介されるようになり、あちこちに専門ショップが出来ているため、ご存知の方も多いかもしれません。
 同じ〈ウォーハンマー〉でも、ミニチュアゲームとRPGは、共通する世界観を持ちながら、ゲーム・スケールがそれぞれ異なる別作品です。
 もっとも、RPGがきっかけとなってFBを始める例や、逆の例も多く見受けられます。
 『ウォーハンマーRPG』はミニチュアが必須ではありませんが、あればゲームの状況をしっかりと可視化できますし、「トロール殺し」(心に傷を負ったドワーフが、獣脂で髪をオレンジのモヒカンに逆立て、死に場所を求めてさまようというキャリア)のように、独自のキャラクターを表現するには、FBのミニチュアが使いやすいからですね。
 かいつまんで言うと、『ウォーハンマーFB』ではアーミー(軍団)単位を扱います。逆に『ウォーハンマーRPG』は個人の生活に焦点を当てた仕様になっているのですね。

★泥臭い中近世ヨーロッパを扱う

 理想化されたロマンスとしての中世ではなく、中世から近代への移行期、近世のヨーロッパから多くのモチーフが採られています。
 『ウォーハンマーRPG』の舞台であるオールド・ワールドは、現実のヨーロッパとほぼ同じ地図として描かれていますが、とりわけ第4版では、エンパイアという神聖ローマ帝国時代、三十年戦争期のドイツがモチーフの多くを提供しています。
 プレイにあたっては西洋史の知識は必要ありませんが、あればディテールの描写や演出に役立ちます。「Role&Roll」(新紀元社)では、2011年から隔月で、「戦鎚傭兵団の中世"非"幻想事典」という、創作やRPGに応用可能な、中世ヨーロッパ社会史の入門記事を連載しており、お役に立つと思います(「Role&Roll」Vol.195で60回!)。
 「Role&Roll」での「戦鎚傭兵団」とは、待兼音二郎・見田航介の各氏と私が組んでいるユニット名で、ネーミングの由来は、『ウォーハンマーRPG』の翻訳でつながったことです。オールドスクール・ファンタジーRPGと実際の歴史の交点に着目していますので、「FT新聞」読者の方には、ご一読いただければと思います。

★発売元の総本山は英国ゲームズ・ワークショップ社

 ゲームズ・ワークショップ社と聞いて、「FT新聞」の読者の方は、何を思い出されるでしょうか? そう、〈ファイティング・ファンタジー〉のゲームブックですね。
 もともとゲームズ・ワークショップ社は、アメリカ発のRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を、イギリスで扱う代理店だったのですが、1982年からは『火吹山の魔法使い』が大ヒットしました。
 ゲームズ・ワークショップが直接・間接的に関わったRPGやゲームブック作品に『ドラゴン・ウォーリアーズ』(1984年〜)、『タイガー暗殺拳』(1985年)、『ローン・ウルフ』(1985年〜)等があり、いずれも日本でも訳されています。〈ファイティング・ファンタジー〉のサポート雑誌として「ウォーロック」が創刊されたのも1983年(〜86年、ちなみに日本版「ウォーロック」は86年創刊)です。
 ゲームズ・ワークショップはボードゲームやRPGにも力を入れており、『火吹山の魔法使い』のボードゲームはもとより、『ドクター・フー』(SFドラマ)や『ジャッジ・ドレッド』(SFコミック)をボードゲームやRPG化しています。
 RPGで使うメタル・フィギュアについても、アメリカはラルパーサ社の製品をイギリスで販売するなどしていましたが、自社ブランドとしてのシタデル社をゲームズ・ワークショップ社の子会社として打ち立てました。
 『ウォーハンマーFB』では、シタデル・ブランドのミニチュアが使われ、ペイントに用いる塗料の「シタデルカラー」は、ミニチュアや模型がお好きな方であれば、きっとどこかで耳にしたことがあるはずです。

★『ウォーハンマーRPG』、3つの日本語版

 初版の日本語版は1990〜93年、社会思想社現代教養文庫から刊行されました。翻訳は安田均・高山浩・江川晃・岡聖子ら各氏が中心で、リプレイは友野詳氏が担当。いずれもグループSNEの面々です。デビュー直後の柘植めぐみ氏も、柘植恵名義でシナリオの訳に参加しています。
 第2版の日本語版は2006〜15年、ホビージャパンから出ています。翻訳は待兼音二郎・鈴木康次郎・阿利浜秀明・見田航介ら各氏に私を加えたメインの翻訳チームに、定木大介氏・鶴田慶之氏が別働隊でシナリオ集等の翻訳に参加しています。
 発売されたばかりの第4版(2020年、ホビージャパン)のルールブックでは、待兼音二郎・見田航介・阿利浜秀明、成田未来、田井陽平の各氏に私が、メインの翻訳チームを結成しています。翻訳協力には傭兵ペンギン氏。
 残念ながら初版と第2版はすべて絶版になっていますが、これら3つの『ウォーハンマーRPG』日本語版は、そのままの形で互換性はありませんが、資料として応用することは充分に可能です。
 とりわけ、第4版は初版回帰という色合いが強く、古書で旧版を適価で見つけたら、押さえておいて損はありません。

★〈ウォーハンマー〉関連作品あれこれ

 ジャック・ヨーヴィル〈ドラッケンフェルズ〉やブライアン・クレイグ〈吟遊詩人オルフィーオ〉シリーズほか、〈ウォーハンマー〉は関連小説が何百冊も発行されており、日本語版になっているものも少なからずあります。これらも、お読みになって損はありません。
 ボードゲームでは、『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』というマルチプレイゲームも日本語化されました。
 コンピュータ・ゲームでは、『ウォーハンマー:Chaosbane』や『ウォーハンマー:ヴァーミンタイド』といった人気作も、注目を集めています。余談ですが、コンピュータ・ゲームの有名作『ウォークラフト』は〈ウォーハンマー〉の影響を強く受けているんですよ。
 なお、『ウォーハンマーFB』には、『ウォーハンマー40000』というSFシリーズがあり、英語圏ではこちらの方が人気なくらいで、RPG版も発売されています(未訳)。ミニチュア版の『ウォーハンマー:エイジ・オヴ・シグマー』という、オールド・ワールドを舞台にしないシリーズもあり、RPG版も出ています(未訳)。

★『ウォーハンマーRPG』を一言で言えば?

 これまで『ウォーハンマーRPG』各版のキャッチコピーを比べると、その世界観がよく伝わってきます。

【現実っぽく、パンクな、超ド級のスケールと高完成度のRPG!
 『ウォーハンマー ファンタジーRPGルールブック』全3冊
 RPGの面白さ、だいごみを
 とことん突き詰めた
 新しい王道をいくファンタジーの本格派!】
 (初版の広告)

【ウォーハンマー・ロールプレイングゲームの残酷な世界で、君は異色の英雄として危険な冒険に打って出る。君はエンパイアの無法地帯に踏み込み、余人があえて立ち向かおうとせぬ、あるいは歯向かうこと能わざる脅威に立ち向かう。君は十中八九、どこかの糜爛した地獄穴で犬死にするに違いない。ただしことによると、かすかな望みではあるが、不浄なる変異種、身の毛のよだつ業病、腹黒い陰謀、正気の爆散を招く宗教儀式を耐えて生き延び、運命の果実をつかむかもしれない……。】
 (第2版の紹介文)

【『ウォーハンマーRPG』は、君をここ、オールド・ワールドへと連れ戻す。ならず者たちを団結させ、君ならではの(アンチ)英雄を生み出し、そして、邪悪な腐敗、陰謀を張り巡らす策謀家、破壊を目論む恐るべきクリーチャーたちを掻き分けて、活路を拓くためにいざ出発せよ。】
 (第4版の紹介文)

 つまり、無慈悲でパンクな世界観なのですね。本格ダークファンタジー、ファンタジーパンクなどと、『ウォーハンマーRPG』は形容されることが多いように思えます。
 ピリリと辛い、まさしく大人のためのRPGなのです。
 「パンク」というのは、もともとパンクロックに由来する音楽用語ですが、文化を介した既成権力に対する反逆のスタンスを示すものとして、広く転用されるようになりました。実際、スケイヴンやボルトスロワーといった、〈ウォーハンマー〉からの影響を公言している広義のパンク/ヘヴィメタル・バンドすら存在するほどです。

 〈ウォーハンマー〉全体における『ウォーハンマーRPG』の位置、世界観の大枠と、根本にあるパンクなダークファンタジーという姿勢について、今回は語りました。
 次回は、具体的にシステムについても紹介していければと思います。
 死は、あなたの隣人。恐怖は、あなたの友。
 リアリティあふれるオールド・ワールドの冒険を、是非ともお愉しみください。


●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
■今日の新聞に対するご感想はコチラ!
ぜひ、お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m

https://jp.surveymonkey.com/r/2ZM78SP

【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。
https://ftnews-archive.blogspot.com/

■FT新聞をお友達にご紹介ください!

https://ftbooks.xyz/ftshinbun

----------------------------------------------------------------
メールマガジン【FT新聞】
発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房)

2021年01月20日

『史学研究とゲーム研究の徒・蔵原大―遺稿と追悼―』(蔵原大遺稿集刊行会)が発刊


 Analog Game Studiesのメンバー・蔵原大氏は、大変遺憾ながら、2020年2月に急逝しました。このたび、その遺稿追悼文集が完成いたしました。単体の論集としての強度がある一冊になったと自負しておりますし、Analog Game Studiesからの再録も多数、盛り込んでございます。
 正直なところ、2017年5月の『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集』に続く、Analog Game Studiesメンバーが発刊した第2の論集がこういった形にならざるをえなかったことには複雑な思いもありますが(また、AGSが合流しているボードゲーム読書会@高田馬場では、〈日本現代卓上遊戯史紀聞〉シリーズを発刊していますが)、Analog Game Studies開設後の想いのようなものがわずかでも伝われば幸いです。(岡和田晃)

 web_kurahara_cover_thumbnail_rectangle.jpg

《以下、BOOTHにある紹介文の転載です》

 2020年2月に急逝した、蔵原大氏の遺稿を精選・集成し、関係者30名の追悼文を添えた本文540頁の大著です。戦略学研究から出発し、ウォーゲーム史・シリアスゲームを通じた産官学の連携の研究といった分野で重要な仕事をなした故人の業績、および人柄を偲ぶよすがとして、次のリンク先にて、電子書籍版を非営利で無償頒布いたします。

【[編]石塚正英・岡和田晃、[発行]蔵原大遺稿集刊行会、2020年12月31日刊】

※なにぶん大部の本ということもあり、紙媒体で読みたい人もおられると思いますが、そうした方には、印刷・製本・発送に伴う実費のカンパをお願いしております(2021年2月末、印刷版を限定刊行予定)。詳しくはakiraokawada@gmail.comにまでご連絡下さい。

●目次

・刊行のあいさつ(石塚正英)
・『史学研究とゲーム研究の徒・蔵原大―遺稿と追悼―』解題(岡和田晃)

・第一部「単著論文」
 文民統制こそ国家生き残りのための戦略− 旧西ドイツ政軍関係の精神に学ぶ−
 二十世紀のウォーゲーミング(図上演習の方法論)に関する歴史
 戦略学「教育」の新潮流:紛争シミュレーション教育の理論・実践・政治的利用に関する考察
 近現代ウォーゲーム(兵棋演習)の概史――二百年の変遷

・第二部「共著論文」
 ネット時代における「政府広報ゲーム」の将来性:防衛省シリアスゲーム「自衛隊コレクション」はいかにして企画・制作されたか?

・第三部「翻訳」
 サクセサーズ(AH)ヒストリカルノート
 研究ノート 歴史上の紛争を表現するシミュレーション手法

・第四部「コラム・書評・レポート」
 ハウス=デバイテッド(GDW)リプレイ南北戦争
 −教訓は忘れ去られた−:戦艦大和のミッドウェー海戦
 【書評】石津朋之『リデルハートとリベラルな戦争観』
 米国立公文書館「第二次世界大戦関連デジタルアーカイブ」利用の手引き
 【書評】桃木至朗『わかる歴史・面白い歴史・役に立つ歴史』
 陸自シミュレーション演習はどこまで進んでいるのか――陸自幹部学校主催「総合安全保障セミナー」体験記――
 傷だらけの偉大な負け組に捧ぐ:「役割演技式競技」における「ヒーロー」とは何者であろうか?」
 戦略の迷走:『空の境界』と『キラーエンジェルズ』の場合
 【レビュー】秦郁彦編『太平洋戦争のif[イフ]』(2010)
 歴史学者の秦郁彦と戸高一成、ウォーゲームにて激突す!
 【レポート】DBA(De Bellis Antiquitatis):上古の戦場にようこそ!
 【レビュー】ベアトリス・ホイザー『クラウゼヴィッツ早分かり』(Beatrice Heuser, Reading Clausewitz,2002)
 【レビュー】『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase)さぁ黄昏の未来世界にようこそ!
 【レビュー】ダニガン『ウォーゲームズ・ハンドブック第三版』(J. F.Dunnigan, Wargames Handbook, 2000)
 【レビュー】ジェフリー・パーカー『フェリペ二世の大戦略』(Geoffrey Parker, The Grand Strategy of Philip II, 2000)"
 【レビュー】ジョン・キーガン『戦闘の顔』(John Keegan, The Face of Battle)
 『エクリプス・フェイズ』キャラクター作成術:「軍艦」と「パズル」と「古典」
 世界史プレゼンテーション「ポストナポレオン戦争」「武器」「移民」「将棋=チェスの世界史」「科学革命」
 ゲームと政治のつきあい方――行政広報ゲーム
 ウォーゲーム研究大会・参加談―イギリスで戦略をプレイするということ
 【ちょっと戦略研究】「狂犬」マティス将軍ってどんな人? (1)
 【ちょっと戦略研究】「狂犬」マティス将軍ってどんな人? (2)
 【ちょっと戦略研究】「狂犬」マティス将軍ってどんな人? (3―まとめ)
 【ちょっと戦略研究】「狂犬」マティス将軍ってどんな人? ( 補論) &「狂犬」トランプ
 ボードゲーム読書会『Lost Battles』レジュメ2018 年1 月
 ボードゲーム読書会『Lost Battles』レジュメ2018 年2 月
 ボードゲーム読書会『Lost Battles』レジュメ2018 年3 月
 ボードゲーム読書会『Zones of Control』レジュメ
 宗教とゲーム―頸城野から電脳空間へ―

・第五部「小説・戯曲」
 衛星タイタンのある朝
 「戦うショートショート」又はボーイ・ミーツ・ガール
 「真夏の夜の夢」作戦
 前夜
 女博士イオネスコの受難 リプレイ・忍殺バージョン

・第六部「関係者追悼文」
 蔵原大氏の急逝を悼む(石塚正英)
 蔵原追悼文(市川大河)
 蔵原大さんへ(大沢武彦)
 「戦友」を亡くして(岡和田晃)
 蔵原大氏を悼む(尾ア綱賀)
 追悼文(小野憲史)
 蔵原追悼文(金澤尚子)
 畏友蔵原大君を悼む(岸田伸幸)
 蔵原大氏追悼(草場純)
 ゲームの人、蔵原さん(黒木朋興)
 さようなら、蔵原さん(齋藤路恵)
 蔵原さんとデジタルコンテンツ(佐久間健)
 友になるまえに逝ってしまった友へ(佐藤修)
 蔵原さんのこと(沢田大樹)
 分類を拒むひと(助川幸逸郎)
 追悼文(鈴木香織)
 蔵原さんのこと(瀬戸利春)
 追悼文(高橋志行)
 蔵原大先輩の思い出(谷田雄一)
 蔵原大先生を追悼いたします(張永嬌)
 蔵原さんを偲んで(通堂あゆみ)
 蔵原大さんへ(仲知喜)
 平らな勾玉(西原志保)
 蔵原大氏追悼(伏見健二)
 「遊戯」とは何かを教えてくれた人 蔵原大さん(米田祐介)
 蔵原さん..心優しき善意の人(牧野元紀)
 美女剣士“ 無鉄砲” のダン・ワン( 弾丸) のキャラクターシートをあなたの分身とみて(待兼音二郎)
 「ゲームデザイン討論会」と蔵原さんの思い出(三宅陽一郎)
 蔵原大氏追悼(茂木謙之介)
 蔵原追悼文(八重樫尚史)
 世界の起源の泉(岡和田晃)

・あとがき(岡和田晃)
・蔵原大氏・フォトギャラリー
・著者編者プロフィール

 

【著者】
蔵原 大(くらはら・だい)
1972年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科後期博士課程単位取得退学。修士(人口学)。独立行政法人国立公文書館アジア歴史資料センター、東京大学大気海洋研究所学術支援専門職員、株式会社ジェイブレイン顧問、株式会社分析広報研究所嘱託職員、東京電機大学理工学部情報システムデザイン学系非常勤講師等を歴任する。戦略学研究から出発し、ウォーゲーム史・シリアスゲームを通じた産官学の連携の研究といった分野で重要な業績を遺した。
 主論文に「近現代ウォーゲーム( 兵棋演習) の概史 : 二百年の変遷」(「遊戯史学研究」25号、2013年)、「戦略学「教育」の新潮流:紛争シミュレーション教育の理論・実践・政治的利用に関する考察」(「戦略研究」第9号、2011年)、共著に『世界史プレゼンテーション』社会評論社, 2013年)、『ゲームクリエイターが知るべき97のこと(2)』(オライリー・ジャパン、2013年)ほか、また自身の思想を小説や戯曲としても表現し、代表作に「前夜」(「SF Prologue Wave」、2017年)がある。翻訳書にウィリアムソン・マーレー&リチャード・ハート・シンレイチ『歴史と戦略の本質 歴史の英知に学ぶ軍事文化』(上下巻、共訳、原書房、2011年)など。軍事問題研究会、日本アーカイブズ学会、戦略研究学会、日本デジタルゲーム学会、Analog Game Studies、遊戯史学会、ボードゲーム読書会@高田馬場、ゲームデザイン討論会、アルテス=リベラレス開発研究所、その他に参画。2020年2月急逝。

 

【編者】
石塚 正英(いしづか・まさひで)
1949年新潟県上越市生まれ。立正大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程満期退学、同研究科哲学専攻論文博士(文学)。1982年より、立正大学、専修大学、明治大学、中央大学、東京電機大学(専任、2020年3月退職)歴任。東京電機大学名誉教授。2008年〜、NPO 法人頸城野郷土資料室(新潟県知事認証)理事長(現在に至る)。著書に、『革命職人ヴァイトリング――コミューンからアソシエーションへ』『地域文化の沃土――頸城野往還』『マルクスの「フェティシズム・ノート」を読む――偉大なる、聖なる人間の発見』『ヘーゲル左派という時代思潮――A・ルーゲ/ L・フォイエルバッハ/ M・シュティルナー』『学問の使命と知の行動圏域』(以上、社会評論社)、『アミルカル・カブラル―アフリカ革命のアウラ』(柘植書房新社)、J・G・フレイザー『金枝篇』(監修、既刊7巻、国書刊行会)ほか。蔵原大氏を東京電機大学非常勤講師に招聘し、アルテス=リベラレス研究所を立ち上げ、また研究生活50周年記念誌『感性文化のフィールドワーク』(社会評論社)は、蔵原大氏生前最後の文業発表の場となった。

岡和田 晃(おかわだ・あきら)
1981年北海道上富良野町生まれ。筑波大学大学院人文社会科学研究科で修士(文学)を取得。2007年より、ゲーム作家・研究家、文芸評論家として活動。2011年より、商業媒体で歴史コラム執筆。2015年より、共愛学園前橋国際大学、法政大学経済学部、東海大学文化社会学部等の非常勤講師を務める。2019年より、商業文芸雑誌の編集長、現代詩創作の仕事も開始。「ナイトランド・クォータリー」編集長。著書に、『「世界内戦」とわずかな希望―伊藤計劃・SF・現代文学』(第5回日本SF評論賞優秀賞を含む)『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集』(以上、アトリエサード)、『反ヘイト・反新自由主義の批評精神――いま読まれるべき〈文学〉とは何か』(第50回北海道新聞文学賞佳作の改題、寿郎社)、『掠れた曙光』(茨城文学賞詩部門受賞、書苑新社)、『現代北海道文学論 来るべき「惑星思考(プラネタリティ)」に向けて』(編著、藤田印刷エクセレントブックス)、『幻想と怪奇の英文学W――変幻自在編』(共著、春風社)ほか、RPG『エクリプス・フェイズ』『トンネルズ&トロールズ』『ウォーハンマーRPG』『ダンジョンズ&ドラゴンズ』等関連の翻訳・創作も多数。Analog Game Studiesを立ち上げ、蔵原大氏と共闘した。

 

装丁・製作:松島梨恵
posted by AGS at 06:57| 新作紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする