2011年11月01日

ドイツ・アナログゲームの歴史楽――ボードゲーム『イライラしないで』Mensch ärgere Dich nicht(メンシュ・エァゲレ・ディッヒ・ニヒト)


 『ニセドイツ1≒東ドイツ製工業品』『ニセドイツ2≒東ドイツ製生活用品』(共に社会評論社)という一風変わったタイトルの本をご存知でしょうか?
 自動車、雑誌、ボードゲーム(!)などなど……。いまだ日本では広く知られていない、旧東ドイツの文化風物を豊富なユーモアと写真でわかりやすく紹介する書物で、その独特のアプローチから各紙誌で高い評価を受けました。
 とりわけ、「なんだかよくわからないけれども恐ろしそう」というイメージだけで済ませられてしまいがちな旧東ドイツでどのような生活が営まれていたのかが具体的によくわかり、批評性も豊かな素晴らしい本です。
 その『ニセドイツ』の著者の伸井太一さまが、とかくいかめしい印象を受けがちな歴史学を、奥深さはそのままに、知的な楽しさを掻き立てる「歴史楽」と見てもらえるようにと、ボードゲームを題材にコラムを寄せて下さいました。
 どうぞお愉しみください。(岡和田晃)

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ドイツ・アナログゲームの歴史楽――ボードゲーム『イライラしないで』Mensch ärgere Dich nicht(メンシュ・エァゲレ・ディッヒ・ニヒト)

 伸井太一

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 ボードゲーム『イライラしないで』Mensch ärgere Dich nicht(メンシュ・エァゲレ・ディッヒ・ニヒト) 1910年頃に製作
イライラしないで表紙.jpg
(2010年に発売された記念切手 de.Wikipediaより)

 『Mensch ärgere Dich nicht(イライラしないで)』を知らないドイツ人はいないと言ってもよいくらいの超有名なボードゲーム。その題する通り、このゲームをプレイして「イライラ」した経験が心の傷となって記憶に残っているドイツ人は多いのではないだろうか。本ボードゲームが世に出た1914年から現在に至るまでの売上数は、7000万箱だと言われている(*1)。
 本稿ではこの『イライラしないで』について、「歴史学/楽」を絡めて解説してみたい。では、まずはルールを説明しておこう。
イライラしないで2.JPGイライラしないで3.JPG220px-Menschenaergern.svg.png
(『イライラしないで』のゲーム盤: wikiより)

■『イライラしないで』のルール

プレイヤー人数:2〜4人(6人用の盤もアリ)
プレイ時間:約30分〜1時間
基本ルール:各プレイヤーは、サイコロを振って持ち駒4つ全てを自分の目的地(お家)のマスに誰よりも早く入れることを目指す。ここで圧倒的に重要なサイの目は「6」だ。6を出さないと自コマの待機地点から周回フィールドに自コマを出すこともできない。また、6を出せばもう一度サイコロを振るチャンスが訪れるので、一気に逆転するときも、逆転されるときも6が大きな役割を果たす。
 周回フィールド上に自コマがひとつでも存在し、1〜5の目が出れば、それを目的地へ向けて進めることができる。6が出た場合は、もちろん周回フィールド上の自コマを6マス進めてもよいし、待機地点から自コマを周回フィールドに出してもよい。そして6が出たということは、さらにもう一度サイコロを降ることができる。
 また、周回中に相手の駒と同マスに止まった場合は、その相手駒を待機地点に追い戻すことが出来る。逆の場合は、自コマが追い返される。

 以上が基本ルールだが、なにせ100年もの間、ドイツで愛好されているボードゲームなので、無数の家族内ルールをはじめとして地方ルール、そして変形ルールのバリエーションが存在している。その中でも一番の変りダネのルールが、「共産主義的イライラしないで」である。『イライラしないで』は先に説明した通り、本来は4色のコマを使用するのだが、「共産主義」ルールでは一色である(赤が最適とされている)。まず、誰かが6を出して周回フィールドにコマを出すと、全員が「平等に」自コマを周回フィールドに出す。ここから、共産主義が理想とする平等社会における矛盾の再現が始まるのである。つまり、盤上に出ている赤いコマ4つのどれかひとつを自由に動かすことができ、それを自分のゴール地点に入れることを目指す。最初の標的は、もちろん最短ルートにある右隣のプレイヤーが出したコマとなり、これを自分のゴール地点に入れてしまうのが手っ取り早いだろう。しかし、他のプレイヤーが、自分のゴール地点を追い越させてしまう可能性もある。ここが、共産主義下であっても「ゴールは目指さなければならない(利益は得ないといけない)」状態における、「駆け引きや足の引っ張り合い(旧共産圏の権力争いに見られた権謀術数)」を再現している。これは、既に「イライラ」のレベルを超え、共産主義社会における人間性の露出といっても良い状態に陥り、お互いの人間関係にしこりが残ること必至のルールなのだ。


■『イライラしないで』の「イライラ」ポイント

 本ゲームはふたつの大きな「イライラ」から成り立っている。まずは、「6」が出るまで周回フィールドに出られないイライラ。そして、相手コマに乗っかられてしまい、自コマを周回フィールドから待機地点に戻さねばならないイライラだ。ちなみにドイツ語のMensch(メンシュ)は「人間」という意味だが、この場合は「おい、君」などの呼びかけと取るのが独和辞典的には正しいのだろう。しかし、現代の語用でMensch!で「チキショー!」のような意味で用いられているので(ベルリンだけかも……)、今となってはこの怒りや悔しさを表すMenschの方が近い気がする。
 しかし同時に、快感も用意されている。「6」が連続で出た場合だ。このときは高らかに叫ぼうではないか、「ずっと俺のターン!(By遊☆戯☆王)」と!そして、相手コマの後ろに付きロックオンしたときの快感。しかし、相手コマを越えてしまうと今度は逆にロックオンされてしまうのだが……。

 なお、『イライラしないで』(の類似ゲーム)は、日本の「ドンジャラ」のキャラ商戦のごとく、キャラクター商品化されている。例えば、プーさんやガーフィールド、そしてキティちゃんなどである。ただし、愛くるしいキティちゃんであっても、のんびりしているプーさんであっても、イライラするものはイライラすると思うのだが……。


■『イライラしないで』の歴史

 次に『イライラしないで』の歴史的背景や本ゲームから見える歴史について考えてみたい。ニュルンベルク市のおもちゃ博物館では、『イライラしないで』の特別展(2004年7月〜2005年2月)が開催されていたので、まずはその広報用の資料を元に、『イライラしないで』の歴史の概略をまとめてみたい。その後、このゲームが生まれた20世紀初頭のドイツについて触れながら、『イライラしないで』を解題していく。どうか、イライラしないで読んでいただきたい。

 本ゲームが生まれたのは1910年頃とされており、前掲の切手も開発100周年として2010年に販売されている。ただし、実際に商品化されたのは1914年のことである。発明者は、ミュンヘン市の労働者街に住むサラリーマンのヨゼフ=フリードリヒ・シュミット。彼は子供たちと19世紀に発明されたボードゲームで遊んでいたが、戦術的・戦略的な要素が強く、ゲームの勝敗にどうしても「経験の差」や「年齢の差」が出てしまうことを問題視していた。そこで、シュミット氏は老若男女すべてが楽しくプレイできるように、サイコロを用い運の要素を高めながらルールをより簡略化させた結果、『イライラしないで』が生まれたのである。

 本ゲームが発売開始された1914年といえば、第一次世界大戦が開始された年である。発売当時にはそれほど有名ではなくヒットしなかったが、シュミットは戦争中の兵士への現物寄付として、3000箱の『イライラしないで』を贈った。その後、兵士内でルールが簡明なこのゲームはよく知られるようになり、戦争が終わった翌々年の1920年には、なんと100万個を売り上げていた。人間の「イライラ」の最大の集合体ともいえる戦争が『イライラしないで』を一躍有名にさせたのである。

 19世紀末のドイツでは、ボードゲームが兵士の戦略学習のために用いられており、より戦術的に複雑化する途を辿っていた。それと正反対の流れで、大衆受けするような簡単なルールの『イライラしないで』が、戦争によって流行するのは歴史の皮肉だろうか。いや、この『イライラしないで』の流行は皮肉と言うよりかは必然だったといえよう。つまり、20世紀には労働者といった「非ブルジョワ階級」も盤上遊戯に愉しむ時代が到来していたということなのだ。労働者街在住のサラリーマンが発明した本ボードゲームは、20世紀初頭のドイツ社会の発展と大衆化の好例を示しているのである。


■シュミット社とドイツ・アナログゲーム

 『イライラしないで』の快進撃によって、シュミット社は一躍、アナログゲームの開発・販売の大手となった。『イライラしないで』は、まさにこのシュミット社の草創期に貢献した記念碑的なゲームだ。その後、シュミット社は各種パズルをはじめ、1984年に会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)『The Dark Eye(独語オリジナル名はDas Schwarze Auge)』を世に送り出すなど、ドイツのアナログゲーム界に大きく貢献していく。1997年には家庭用TVゲームの普及などで経営不振に陥り、他社に買い取られてしまったが、今もなお「シュミット」の名前は会社名として残されており、現在はカードゲームやボードゲームを一手に販売している。たとえば、ドイツ・ボードゲーム大賞の受賞作品の『カルカソンヌ』や『ドミニオン』の販売も手がけている(両作共に制作はハンス・イム・グリュック出版)。

 シュミットの歴史は、ドイツ・アナログゲームの歴史そのものであり、『イライラしないで』のヒットがなければ、ドイツが現在のようなボードゲーム大国になることもなかったもしれない。


■最後に:サイの目の〈差異〉

 最後に、さらに本ゲームの「イライラ」のポイントを、仮説めいたとある着想から今一度掘り下げてみたい。では、再度、『イライラしないで』で使用する盤をご覧頂きたい。
220px-Menschenaergern.svg.png
 それぞれが一周を回る距離(コマ数)は同じだが、スタート地点とゴール地点がずれている。この点が、より効果的にイライラに影響を与えているのではないだろうか。たとえば、黄色の自コマが一周を完全に回りかけており、長い道のりの終わりに差し掛かっているときに、他コマに乗っかられてコマがスタート前の地点に戻ったとする。当然、これはコマを戻す方とすれば非常に残念な気持ちになる。しかし、乗っかった方が周回スタートの直後(例えば緑のコマ)だったとすると、乗っかられた方の「長い道のり」と「残念さ」を、彼/彼女は真に理解することはできないので、黄色プレイヤーの残念感と緑色プレイヤーの罪悪感との間に差異が生まれるのだ。これによって、相手をイライラさせる/自分がイライラする効果が増大されているのではないだろうか。

 この観点から、再度、歴史と関連付けて『イライラしないで』を解題したい。本ゲームの登場は、産業革命後の発展などによって社会の流動性が高まった時代を背景にしている。たとえば、1910年頃といえば女性参政権運動が全世界的に盛り上がった時期でもある。『イライラしないで』は、社会の成員の多くが同じルールの上(盤上)で共存・競争しつつある時代の非対称性の不条理を見事に表した「感情のゲーム」であったのかもしれない。

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【脚注】

(*1)100 Jahre 100 Objekte, S.30.

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伸井太一(のびい・たいち)
 1977年生まれ。ヒストリーコミュニケーター/ライター(ドイツ近現代史、サブカルチャー等)。ドイツ・ベルリン在住。
 会話型RPGにハマっていた小学生〜中学生の頃から、歴史学研究者を志す。現在、歴史の「学」と「楽」を架橋する試みを展開中。
 著書に『ニセドイツ1≒東ドイツ製工業品』『ニセドイツ2≒東ドイツ製生活用品』(共に社会評論社)がある。
 また、同人誌『FLOWORDS』(http://d.hatena.ne.jp/FLOWORDS/)では、アニメ論やドイツの日本アニメ受容に関する文章を発表。
 Twitter: nob_de
ニセドイツ〈1〉 ≒東ドイツ製工業品 (共産趣味インターナショナル VOL 2) [単行本] / 伸井 太一 (著); 社会評論社 (刊)ニセドイツ〈2〉≒東ドイツ製生活用品 (共産趣味インターナショナル VOL 3) [単行本] / 伸井 太一 (著); 社会評論社 (刊)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
ドイツ・アナログゲームの歴史楽 by 伸井太一(Taichi Nobby) is licensed under a Creative Commons 表示 - 非営利 3.0 非移植 License.

※2011/11/01 一部修正。
posted by AGS at 00:23| コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月02日

『マーダーゲーム』デザイナーズ・ノート


 『マーダーゲーム』という本格ミステリ小説(講談社ノベルズ、2009年)をご存知でしょうか?

 これはカードゲーム『汝は人狼なりや?』をモデルにしたゲームを基体とした本格ミステリ小説です。
 ゲームを作品内に取り込む際の手つきのこの上ない繊細さ、そしてゲームのルールシステムと小学校という舞台の因果律をみごとに融合させている点がとりわけ素晴らしく、Analog Game Studiesの読者の方々には、気に入っていただけることまちがいなしの作品です。

 その『マーダーゲーム』をお書きになったミステリ作家の千澤のり子さまが、『マーダーゲーム』デザイナーズ・ノートとして、『マーダーゲーム』が生まれるまでの話を寄稿して下さいました。
 本格ミステリ要素、小説、そしてゲームの三者は、いったいどのような交わりを見せるのでしょうか?(岡和田晃)

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『マーダーゲーム』デザイナーズ・ノート

 千澤のり子

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マーダーゲーム (講談社ノベルス) [新書] / 千澤 のり子 (著); 講談社 (刊)

 「小説」の楽しみ方は人それぞれだが、「本格ミステリ」作品には、何かを「当てる」というゲーム的趣向が含まれている。一問即答のクイズ的な要素ではない。謎があり、謎を解く手がかりがあり、手がかりを探りながら正解に向かって推理をしていくというプロセスのことを指す。ユーザーは、奇怪な謎を解くために、伏線という名前のアイテムを集めながら、正解への道筋を組み立て、最終的に犯人役であるラスボスにたどり着く。「本格ミステリ」は、強度な武器や防具をそろえなくても、主人公が自力で結末までたどり着くことのできるRPGと捉えることもできるだろう。

 しかし、「本格ミステリ」+「小説」の場合は、「本格ミステリ」固有のゲーム性を強めていくと、何故か問題が生じてきた。いわゆる「人間が描けていない」という批判のことである。例えば、嵐の山荘で殺人事件が起きたら、パニック状態になったり警察を呼んだり、自分の身を守ろうとしたり、と必死になるのに、犯人は誰かと推理していくのはおかしいという意見がある。あるいは、普通の高校生がこんなに行く先々で殺人事件に遭遇するのはありえないという場合もある。それに対し、謎に対し推理をして解くことに主題を置いているのだから、人物は謎のために用意されたコマでもかまわないのではないか? と私は疑問に思っていた。けれど時を重ねるにつれ、「小説」には「小説」なりの見えないルールがあるのだろうと結論をつけている。「本格ミステリ」には「本格ミステリ」にしかないルールがあるのと同じように。

 「小説」の意味は、辞書によると「作者の構想のもとに、作中の人物・事件などを通して、現代の、または理想の人間や社会の姿などを、興味ある虚構の物語として散文体で表現した作品(大辞泉)」と記されている。この定義に沿うと、「本格ミステリ」+「小説」とは、謎を解くことによって人間や社会の姿までもを表現した「小説」ということなのだろう。現実的に不可能な犯罪を、現実に起こりうることとして落としていく。主眼はそこにあるのだろうが、読み手も一緒にわくわくしたりはらはらしたりできるようなゲームとしての楽しみとは、遠いもののように感じられる。

 ならば、ゲーム的要素と「小説」的要素を融合させた作品は描けないだろうかと、いつしか私は試みるようになっていた。もちろん、作中内で、トランプ、チェス、マージャンなど、ゲームの登場する作品は過去にも存在している。あるいは、謎を解くことによって人物の本質を深く浮かび上がらせる作品もある。けれど、もっと、作中人物と読者の気持ちが一緒になれるようなゲームを用いることはできるだろうか、と私は探すようになっていた。「小説」でしか描けなく、かつゲームプレイヤーの楽しみを兼ね備えた作品。自分が過去に読んだ作品とは、なるべくかぶらないようにしようと記憶を呼び覚ましたが、浮かんでくるアイデアはどれも、過去の作品の模倣になってしまうような気がした。結局、実際にゲームをしている人たちの心理を描き、さらに読者も登場人物たちと同じようにゲームを味わえるような形を作ろうと構想を練っていった。この実験思考から、『マーダーゲーム』という一本の長編小説は生まれたのである。

 最初に考えたのは、プレイヤーの設定だった。大人がランダムに集められ、ゲームをする機会は、実際にはあまりなくて非現実的になってしまう。「こんなの状況ありえない」という反論が起きたら、「小説」のルールに適用できなくなってしまう気がした。賞金目当てと目的を明確にすればゲームプレイヤーは集まりそうだが、『ライアーゲーム』や『インシテミル』と同じような設定になりそうなので避けたい。もっと違和感を失くす方法はないのだろうかと試行錯誤を重ねていった。

 そして、「子供たちがゲームのプレイヤーになればいいのだ」という結論にいたった。子供なら、イレギュラーなプレイやゲームマスターへの反発をせずに、「ルールを忠実に守る」という倫理観を持たせやすい。さらに、たまたま近所に住む同じ年齢の子たちが集められた公立の小学校を舞台にしたら、バラエティ豊富に人物たちを作ることもできる。一石二鳥ならぬ一石数鳥のような気がした。「中学生か高校生を主人公にしてほしい」という要望があっても、小学校六年生以上に年齢を上げることはできなかった。

 肝心のゲームの内容は、舞台、人物と決めた後に考えた。ゲームが現実になっていく恐怖を植えつけるために、殺戮を主体とするゲームを探していたが、しっくりしたのが見つからず、完全にオリジナルのものを作った。

 『マーダーゲーム』の中の「マーダーゲーム」の流れは、以下のようになっている。

1.プレイヤーたちは自分のスケープゴートとなるアイテムを学校のどこかに隠す。
2.アイテムと隠し場所をカードに記載する(他のプレイヤーには記載内容をわからないようにする)。
3.進行役はカードをまとめて封筒に入れ、ある場所に設置。
4.トランプでジョーカーを引いた人が犯人となる(誰が犯人かはわからないようにする)。
5.犯人役はプレイヤーたちにわからぬように、カードを入れた封筒を回収する。
6.一日に一回、犯人役は最初に決められた場所(『マーダーゲーム』では飼育小屋の裏)にスケープゴートを置く。
7.スケープゴートが置かれているのを発見された時点で、その持ち主の人は死亡扱いとなり、ゲームオーバー。
8.生存中の残りのプレイヤーは、死亡扱いとなった人のスケープゴートや隠し場所から犯人役を推理しあう。

 さらに9番目として、全員一致で犯人役を名指しできたら、犯人は自白しゲームセットというルールを用意していたが、『マーダーゲーム』内の発案者・杉田勇人は、「最後まで生存者たちが推理しあう楽しさ」を優先させたかったので、途中でゲームを終わらせることまで頭が回っていなかった(さらにもっと細かい規定があるが、本論では省略する)。

 この推理部分が人狼(編注『汝は人狼なりや?』)に似ていると感じたので、人狼をモチーフに持ってきた。人狼を主体にしていると見せかけて、実は、人狼の方が後付けだったのである。

タブラの狼(2009年版) / Lupus in Tabula - 4th Edition / ダヴィンチゲームズ究極の人狼 完全日本版 / アークライト

 本来ならば、もっと推理合戦の要素を取り入れたかったのだが、スケープゴートが現実化してしまい、登場人物たちは推理どころではなくなってしまう。これは、作者が「小説」としてのルールを意識しすぎた失点ともいえる。だが、ゲームの楽しさを奪われたのは登場人物たちだけであって、読者には推理をする=「何か」を当てる楽しさの「本格ミステリ」要素は残している(と、作者である私は思っている)。さらに、ゲームを現実化させるといったルールを破る者を登場させることによって、ルール違反者はいかにゲームを興ざめさせるかということも描いたつもりである。

 書き上げてみてわかったのは、「本格ミステリ」のゲーム性と「小説」のルールを融合させるのは非常に難しいということだった。「小説」のルールも、まだ感覚的にしかつかみとっていない。なので、そのルールが何なのか明確になるまで、しばらく「本格ミステリ」の「小説」に取り掛かってい
く予定である。

 次作は『シンフォニック・ロスト』というタイトルで今年の2月に刊行された。主人公たちは中学生だ。『マーダーゲーム』からひとりだけ、ゲストも登場する。『マーダーゲーム』ではゲームによって深まる団結力もテーマとしていたが、次は死体がいくつも出てきても崩れない団結心を、「本格ミステリ」のゲーム的要素と重ねて描いた。小説の味も含みつつ、作者と読者の文字による対局ゲームとして読んでいただけたら幸いである。

マーダーゲーム (講談社ノベルス) [新書] / 千澤 のり子 (著); 講談社 (刊)シンフォニック・ロスト (講談社ノベルス) [新書] / 千澤 のり子 (著); 講談社 (刊)

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千澤のり子(ちざわ・のりこ)
 作家。1973年東京都生まれ。専修大学文学部人文学科卒業。2007年、宗形キメラ名義で二階堂黎人氏との共作である『ルームシェア 私立探偵・桐山真紀子』を発表。09年『マーダーゲーム』でソロデビューを果たす。著書に『レクイエム』(二階堂黎人氏との共作)、『シンフォニック・ロスト』がある。別名義で評論活動も手がけている。11年5月にはSF乱学講座にて映像における叙述トリックをテーマにした講演も行なった。

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 先月、二階堂黎人氏と千澤のり子氏の共作『ルームシェア 私立探偵・桐山真紀子』がめでたくも文庫化されました(講談社文庫)。千澤のり子氏とのソロ作品とはまた違った味わいのある本作が、より手軽にアクセスできるようになりました。併せてお楽しみください。(岡和田晃)
ルームシェア 私立探偵・桐山真紀子 (講談社文庫) [文庫] / 二階堂 黎人, 千澤 のり子 (著); 講談社 (刊)
 警視庁を辞めて私立探偵になった桐山真紀子は、埼玉県初の女性知事に警護を依頼されて銃弾を受けた。そのリハビリ中に、姪の早麻理(さおり)からネットで見つけたルームメイトがいなくなったので探してほしいと頼まれる。彼女の部屋に入ると、ポスターに隠された壁一面に罵倒や呪詛の言葉が書き殴られていた――。(裏表紙より)
posted by AGS at 01:09| コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月06日

GMが建設的にしゃしゃり出る方法について

 会話型RPG(TRPG)をプレイするにあたっては、ゲームマスター(GM)という存在が欠かせません。コーエン兄弟監督の映画を思わせるスラップスティックな物語を表現可能な『Fiasco』のようにGMレスのゲームも注目を集めてはいるものの、いまだ数多くの作品においてGMは必須となっています。

 このゲームマスターの「語り」(ナラティヴ)に、ホメロスの時代の叙事詩にも通じる、いわば口承伝統の技術の伝統に則った側面が存在することを否定する意見は少ないでしょう。しかしながら叙事詩のナラティヴ(語り方)と、近代以降の文化的なコード(共通項)に支配された私たちのナラティヴとの間には、少なくない距離感が介在しています。

 とりわけ近代の文芸批評は、ある意味、こうした距離感を認識するところから出発したものでした。文芸評論家のジェルジ・ルカーチは、叙事詩的な伝統に立ち返ることのできない近代文学の悲劇を「世界が神から見捨てられた悲劇」と呼んでいます(『小説の理論』)。

 近代以降の「ナラティヴ」が、一種の神なき時代の悲劇として措定せざるをえないのだとすれば、会話型RPGについて批評的に接するためには、当然、「ナラティヴ」のあり方について、いまいちど考えを進めることは必要な作業でありましょう。そこで「語り」に重きを置いたルールシステム、『クトゥルフ神話TRPG』(『クトゥルフの呼び声』)や『ワーウルフ:ジ・アポカリプス』の熟練ゲームマスター(ストーリーテラー)である汀亜号さまが、J・R・R・トールキンの『シルマリルの物語』を題材に、ゲームマスターの技術について、興味深いコラムをお寄せくださいましたのでご紹介いたします。

 『シルマリルの物語』は、同じ作者による『指輪物語』とは異なり、いわゆる近代小説のスタイルとは異質のナラティヴ、すなわち神話や叙事詩のスタイルを積極的に採用した作品です(*)。

 そのため、それ自体を(いわば直接の「模倣」の対象として)RPGで再現するには、いささかの困難が伴うのも事実です。汀亜号さまは、この問題をどのように考えたのでしょうか。(岡和田晃、下段解説部を含む)

(*)むろん、大江健三郎の『M/Tと森のフシギの物語』のように、両者を混淆させた作品も現代文学には存在します。『指輪物語』そのものにも神話的なナラティヴは部分的に介在しています。

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GMが建設的にしゃしゃり出る方法について

 汀 亜号

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■はじめに

 予め、ジャンルのお断りを。
 この覚書はTRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)というアナログゲームの、特にGM(ゲームマスター)と呼ばれる、ゲームの筋書き準備や展開管理を担当する参加者について、その手管を少々書き留めたものです。AGSをご訪問の方々のほとんどにはご紹介は不要でしょうが、複数方面のゲームを扱っておられる都合上、飽くまで確認までに。

 さて、こうして寄稿の機会を頂きましたものの、私は批評をするでなく、ゲームをデザインするでもなく、単にGMを務めるのが好きなだけの者です。TRPGに対しては単に消費者の立場にあります。ですから、高尚な何事かを期待なさっておられる皆様には、予めお詫びしておきます。私が書きますのは一料理のレシピ水準のメモでして、包括的な研究は他の皆様にお任せいたします。分析や総論からはほど遠うございますので、気を楽に読み流して戴ければ幸いです。


■『シルマリルの物語』を表現する

 きっかけは、Twitterをぼんやり眺めていて、ジャーマンメタルバンド「Blind Guardian」の話題をとっかかりに、岡和田さんと交わした雑談でありました。

 「Blind Guardian」はファンタジイ文学に造詣の深いバンドで、アルバム第8作『Nightfall in Middle Earth』(中つ国の夕暮れ)は、J・R・Rトールキンの『シルマリルの物語』を題材にしたコンセプト・アルバムとなっておりますが、その13曲目「Time Stands Still(At The Iron Hill)」は、『シルマリルの物語』で描かれる「俄かに焔流るる合戦」(ダゴール・ブラゴルラハ)においてなされた、「黒き敵」こと悪のヴァラール(唯一神イルーヴァータルに仕える天使のような存在)である“モルゴス”と、ノルドール・エルフの上級王“フィンゴルフィン”の果し合いを歌ったものです。

Nightfall in Middle Earth [CD, Import] / Blind Guardian (CD - 2007)新版 シルマリルの物語 [単行本] / J.R.R. トールキン (著); John Ronald Reuel Tolkien (原著); 田中 明子 (翻訳); 評論社 (刊)

 この曲に代表されるように、『Nightfall in Middle Earth』では、音楽という表現型式で『シルマリルの物語』が演出されるのですが、TRPGにおいて『シルマリルの物語』で描かれるかような場面を表現するにはどうしたらよいか、その際の手管について由無く話をしておりました。

 一騎打ちにおいてフィンゴルフィンは敗退を喫します。そして一方のモルゴスも、『シルマリルの物語』(や続く『終わらざりし物語』等において、さまざまな挿話が語られながら)滅びを迎え、時代が下った『指輪物語』では過去の話として語られる対象となります。

 それでは『シルマリルの物語』を、TRPGでどのように表現できるでしょうか。キャンペーン(連続セッション)を前提にした話です。

 私が即興で考えた演出の方向性は次のようなものでした。

1) GMに対し「GMよ、あなたはモルゴスだ」と告げ、モルゴスの視点から話を語らせる

2) 全ての話は断末魔のモルゴスが見る走馬燈として描く。である以上、シナリオの順番は時間に従っていなくてよい。むしろ、後から見れば決定的瞬間だった時と場だけを辿らせてよい

3) セッションによって確定した事実が、その世界の辿ってきた歴史的事実となり、かつ、最後に描かれる(最初は陰に隠れている)モルゴスの末期を変えていく

4) 末期が決定されるたびに、GM(モルゴス)は次のセッションの展開を軌道修正する

5) PCの成長はシナリオ終了ごとに起こしてよい。時間的には不整合が出るけど気にしない。死亡した場合のみ、復活のコストを追加ルールとして定めておく。フィンゴルフィンが死んだらキャンペーンは失敗、終了でも構わない

 このようにすれば、GMが『シルマリルの物語』について抱いている印象を建設的に語りに組み込めます。また、思い出話だった筈のものが、参加者によって修正され、その修正がいつの間にか現実を変更していく、という不思議な感覚を味わえると考えました(百物語の頃からある、話が現実を侵すという、魔法的な愉悦ですね)。

 これは、「皆でやる思い出話」をTRPGに応用したものです。集団で昔に思いを馳せる時、私たちがよくするのは「納得する思い出を組み立てること」であって、正確なデータを復活させることではありますまい。参加者の思いに従って過去は変わっていくものですし、それで構わない。

 では、TRPGのセッションにおいてもそれで構わないとしてしまえば、整合性やらに縛られずに大きなドラマを遊べるのではないかと思います。


■GMが個性を出すには?

 実は私が文字に起こせるレベルで考えたのは最初のアイデアだけです。この先は由も無い語りとなりましょうがご容赦を。やや一般に、GMが個性を出す手管について、今回のアイデアを起点に短くまとめておこうかと存じます。

 原作や緻密な世界設定があるゲームを遊ぶに当たって、GMが苦労する事柄の一つとして、雰囲気の演出があります。情景を見ているのは通例PCですから、そこにある情感をGMが描いてPLに押しつけてしまうのは大抵愚策です。しかし、叙事的な語りだけでPL諸氏を共感せしめるには話芸が要り、これも大変です。では、何故ここが悩みになるかと問うと、それはGMが中立たらんとしてしまうからです。

 中立者たるGMでは情景が描けないというのならば、語り部としてのGMもまた個性的であることを積極的に受け容れていけばよい。何に対しても全く客観的で中立な人、などという気持ち悪い何かを(失礼、口さがないもので)目指すのはいったん止めて、嘔吐感を伝えようとしたサルトルのように、その人らしく語っていいではないか、と私は思います。ただ、単に建設的かつ個性的であれと言われても却って困ってしまう。

 そこで、主要NPCにGM自身を投影せざるを得ないように仕組むのが、セッション全体に対して建設的な手の一つであろうと思います。そのNPCはキャンペーン全体の流れに添え遂げる事が予め分かっている人物でなければなりませんし、PLの気紛れで舞台から抹殺される危険が少ない立場と能力を持たないといけません。そのために私が思いついたのは、悪のヴァラールたるモルゴスによる、断末魔の走馬燈でした。

 GMを投影するNPCの設定方法は、他にも色々あり得るのだろうと思われます。そこはGM諸氏の愉しい妄想にお任せすることになりましょう。

 悪文を充分に長く書きすぎましたので、これにて筆を擱きたいと存じます。半端な覚書にお付き合い下さった皆様、有り難うございました。ご参考とまで行かずとも、暇潰しになりましたならば誠に幸いです。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
GMが建設的にしゃしゃり出る方法について by 汀亜号 is licensed under a Creative Commons 表示 - 改変禁止 3.0 非移植 License.
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 本コラムではゲームマスターの技術について語られましたが、ルール・メカニズムの内部においても、RPG側はこうした問題については試行錯誤を重ねてきました。

 『指輪物語ロールプレイング』においては、舞台となる「中つ国」の歴史的背景の表現に集中することで、こうした幣を乗り越えようとしてきました(『指輪物語ロールプレイング』では、地域ソースブックの情報を活用し、『シルマリルの物語』の主たる時代背景「第一紀」で冒険を繰り広げることができます)。

 近年発売されたシステム、たとえば『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版では「神話級」というゲーム・スケールを採用することで、近代以降のナラティヴ(語り方)では表現が難しいとされる壮大なストーリーを自然に表現することが可能となっています。

 また『ブルーフォレスト物語』第3版においては、キャラクターを「亜神」と規定しつつ、近代的理性では代補しきれない人間表現のあり方に焦点を当てた「権現」システム等、種々の画期的な試みを取り入れることで、既存の物語構造やアーキタイプとしての無自覚な反復に留まるのではなく、主眼たるゲームマスターのナラティヴそのもののあり方の認識に焦点を当てる設計がなされています。

 今回ご紹介する汀亜号さまのコラムは、こうしたルール・システムの冒険ともリンクしうる、優れた提言になっているものと思います。(岡和田晃)
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2011年06月25日

「世界劇場」から外れた演技者ジュヌヴィエーヴ――ジャック・ヨーヴィル『ドラッケンフェルズ』と「流血劇」についての試論(付記:「向井豊昭アーカイブ」のご紹介)

 去る6月12日に東京で開催されました第12回文学フリマでは、Analog Game Studiesでは「Eclipse Phase Introduction Book For 2011 Japanese」を作成して無償頒布を行ない、好評を得ました

 この「Eclipse Phase Introduction Book For 2011 Japanese」を委託していただいた「幻視社」では、このたび「向井豊昭アーカイブ」と題しまして、(遺族の許可を得たうえで)「幻視社」4号で特集されていた反骨の作家・向井豊昭さまについての記事をオンラインで公開するはこびことになりました(http://www.geocities.jp/gensisha/mukaitoyoaki/index.html)。

 向井豊昭さまの小説は、クロード・シモン『三枚つづきの絵』に影響を受けた物語型式の自由さを追求した作風となっており、とりわけ構造と密接に結びついた言葉遊びや詩歌への強い関心は、ルドロジー(ゲームを研究する学問)的な方法論とも親和性が高いと言えるでしょう。
 そして「向井豊昭アーカイブ」と連動する企画としまして、Analog Game Studiesでは、(「幻視社」主幹の東條慎生さまの許可を得たうえで)その他「幻視社」4号(「特集:見えないもの」)所収の論考のうち、Analog Game Studiesの読者の関心領域にも強く共鳴するだろう、「ウォーハンマー」世界を舞台にした文芸評論(ジャック・ヨーヴィル論)をウェブで再掲させていただくことになりました(同号は、在庫がすでにありません)。
 「幻視社」主幹の東條慎生さま、ならびに購読者の方々に改めてお礼を申し上げます。

 試論ということもあり荒削りで恐縮ですが、本稿を、そして「向井豊昭アーカイブ」をご覧ください。そしてRPGやアナログゲームと文学(SF)の、幸福なパートナーシップを体感いただけましたら幸いです。(岡和田)


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※この記事(試論)は、大幅改稿のうえ、2014年5月5日に文学フリマ会場で先行発売される予定の商業誌「TH(トーキング・ヘッズ)」No.45(アトリエサード/書苑新社)に収録されましたので、削除させていただきました。
posted by AGS at 16:27| コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月23日

会話型RPGのシナリオ・デザインのコツ――「謎」を活かす設定と構造、『Pathfinder RPG』編――

 本稿は齋藤路恵氏の「高嶺格と会話型RPG 身体をめぐって」で提起されていた「1回のセッションにふさわしい謎のあるシナリオはどのようにしたら作れるのでしょうか? PCの追及を適度にかわす謎はどうしたら作れるのでしょうか?」という問題への応答として、須賀谷朋さまよりAnalog Game Studiesに寄せられた原稿を再構成したうえで、Analog Game Studiesで公開させていただくものです。

 具体例として『Pathfinder RPG』という会話型RPGのルール・システムが挙げられていますが、この方法論は、その他のRPG――たとえば『ダンジョンズ&ドラゴンズ 第4版』や『ウォーハンマーRPG』――に、適用することも可能でしょう。

 また、本稿でのシナリオ・デザイン方法は、「謎」を可能にする構造はどのようなものか、という観点からまとめられているため、ミステリ小説の読解や創作などにも応用することができるかもしれません。
 皆さまの問題意識に合わせ、本稿を活用なさっていただければ幸いです。(岡和田晃)

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会話型RPGのシナリオ・デザインのコツ
 ――「謎」を活かす設定と構造、『Pathfinder RPG』編――


 須賀谷朋 (改稿協力:岡和田晃、仲知喜)

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 Analog Game Studiesの記事、特に齋藤路恵氏による「高嶺格と会話型RPG 身体をめぐって」を非常に興味深く、また大いに共感をもって読ませていただきました。
 
 ここで提起されていた、「1回のセッションにふさわしい謎のあるシナリオはどのようにしたら作れるのでしょうか? PCの追及を適度にかわす謎はどうしたら作れるのでしょうか?」という問題について、今までゲームマスターをしてきた経験上、1つの方法があります。そのことを、応答としてまとめてみました。最適かどうかはさておき、何かしらのヒントになるかもしれません。


●「謎」を可能にするもの

  「謎」をストーリーの中心においたフィクションの形式と言えば、まず、ミステリが思い浮かびますが、ミステリでは往々にして、フーダニット(Who done it?=犯人)、ホワイダニット(Why done it?=動機)、ハウダニット(How done it?=手段)という3つのポイントに焦点が当てられます。

 こうした3つのポイントのように「謎」そのものを多角的に考え、「謎」の(シナリオにおける)あり方を工夫することも重要ですが、一方で、私は解き明かし甲斐のある「謎」の提示を可能にするような、(前提となる)シナリオの構造に気を配ることが、シナリオ・デザインにあたっての最重要事項であると考えています。

 以下、最近私がメインで遊んでいる『Pathfinder RPG』(D&D第3版系列のシステムを受け継いだRPG)を使って、単発シナリオのデザインを、主に設定と構造の観点から考えていきたいと思います。

 『Pathfinder RPG』のシステムはキャンペーン・ゲームを重視したルール・システムですが、単発のセッションにおいて、特にコンベンション(RPGなどのゲームを遊ぶことを目的とした大規模な集会)のように時間制限が用いられている場合でも、工夫次第で面白く遊ぶことができます。この記事は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第3版や第3.5版でのセッションに応用することも可能です。

Pathfinder Roleplaying Game: Core Rulebook [ハードカバー] / Jason Bulmahn (イラスト); Paizo Publishing (刊)Pathfinder Roleplaying Game: Bestiary [ハードカバー] / Jason Bulmahn (著); Paizo Publishing (刊)

シナリオ作法

●【シーン】の定義

 まず、シナリオを構造化して3つのシーンに分けます。各シーンにはゲーム上の機能があります。

1) 【導入シーン】:シナリオの目標を明らかにします。
2) 【探索シーン】:目標の達成に向けて情報収集を行ないます。
3) 【ダンジョン・シーン】:目標達成のための最後の試練です。シナリオの核となるダンジョン攻略です。

 セッションに占めるシーンの割合は均等ではありません。これはケース・バイ・ケースですが、プレイ時間の配分は1:2:3ほどを見込んでください。

 ここから、シーン順にシナリオの作成過程を見ていきます。


●【導入シーン】

 【導入シーン】では、ミステリアスな魔法使い、人目を忍んだ伯爵夫人、深手を負った行商人などが登場します。彼らは問題を抱えており、問題解決のため冒険者に冒険を依頼します。

 まず、シナリオの目標を設定します。ある遺跡に行って特定のアイテムを見つける、あるいは特定の魔物を退治する、盗まれた貴重品を奪回する、誘拐された要人を救出するなど、簡単なもので構いません。

 『Pathfinder RPG』では基本的な意思決定は「パーティ1つで1単位」なので、導入と目的は基本的に1つで構わないかと思います。

 次に、目標に関わる設定を決めます。遺跡を探索して特定のアイテムを探すシナリオであれば「誰が何のために、いつまでにそのアイテムが必要なのか」、「そのアイテムはどういった由来があるのか」、「そのアイテムがなぜその遺跡にあるのか」、「遺跡の内外にはどんな障害があるのか」、「なぜその遺跡がいままで探索されなかったのか」、「その遺跡はどこにあるのか」などを決定します。

 シナリオの重要NPC、モンスター、冒険の舞台となる地域などについてもキーワードをリストアップしておき、大まかな情報を書き出します。

 次に、目標に関わる設定から「謎」を作り出します。ここで、2つのキーワードを定義します。「謎」と「秘密」です。

・謎:「原因と結果の結びつきが明らかにされていない状況」のことです。

・秘密:「原因と結果の結びつきが明らかにされていない状況」において、「結びつき」を明らかにする情報のことです。


 難しく考えないでください。あなたの目前に結果があり、原因が不明なら、それを「謎」と呼びましょう。「冷蔵庫のプリンが消えた」、「メガネが見当たらない」、「車に傷が付いている」すべて「謎」です。

 「秘密」はいわゆる種明かしです。「プリンは同居人が食べた」、「メガネは洗面台に置き忘れている」、「車の傷はノラ猫の仕業」、といった具合です。「秘密」は隠されているときは神秘的ですが、わかってしまえば、なんだそんなことか、ということが多いです。原因の意味は「謎」とは関係がありません。重要なのは、判らないという状況そのものなのです。

 例えをファンタジーに置き換えて、典型的なゴブリン退治シナリオの導入シーンを考えてみます。

 村長:「村がゴブリンに襲われた! 奴らを退治してくれ!」

 少し変化させてみます。

 少女:「夜中に怪物が襲ってきたの。みんな連れていったわ。黒い小さい化け物よ!! お願い、助けて!」

 1番目の例では、村の襲撃とゴブリンという原因と結果の関係が明らかになっており、「謎」はありません。

 2番目の例では、村が襲撃されたという結果は明白ですが、犯人が何者かという原因の部分がはっきりしません。そこには、誰が村を襲撃したのか?という「謎」が含まれています(フーダニットWho done it?)。

 ご覧のとおり、両方の導入部分でもまだ明らかになっていないことが多数あります。ゴブリンが村を襲った理由は何でしょう? ゴブリンはどこからやってくるのでしょう? これは、ホワイダニット(Why done it?=動機)、ハウダニット(How done it?=手段)の部分でもあります。付け加えるなら、犯人がゴブリンかどうかさえ決まったわけではありませんし、村人がそう思い込んでいるのかも知れません。さらに、村人はどこへ連れていかれたのでしょうか? その目的は何? まだまだ判らないことばかりです。まさに、謎は深まるばかりというわけです。

 ここで先ほど私が述べたことを繰り返します。

 「秘密」は隠されているときは神秘的ですが、わかってしまえば、なんだそんなことか、ということが多いです。原因の意味は「謎」とは関係がありません。重要なのは、状況そのものなのです。

 少女に依頼された冒険者たちは村に出向いて探索を開始するでしょう。おそらく、農場に残された足跡を検分し、襲撃者はゴブリンであるという結論にたどり着くはずです。人数はどのくらいか、足跡はどちらの方角へと向かっているのか、その方角にゴブリンの住んでいそうな場所はあるのか、その情報はどうやれば手に入るのか……。

 というわけで、2番目の襲撃者の「秘密」は「ゴブリンである」となります。ここで大切なことはミステリアスな導入のシナリオでも、基本構造は「ゴブリン退治」でしかないということです。どうです、簡単でしょう?

 まとめると、【導入シーン】では、シナリオの目標を提示する祭に、目標に関わる設定をすべて明らかにせず、部分的に提示するということになります。

 全ての設定を使用しなくても、会話型RPGのシナリオで提示されるミッションの達成には支障が無いものとします。つまり、マスターはそもそも全部の設定を使わないつもりでセッションに挑むわけです。

 このパートはかなり重要です。しかし、最終的にはテストプレイしてみないと、目標を具体化する際の問題点はわかりません。最後までシナリオをデザインした後に、テストプレイを行ない、改めてこの項目に立ち返って問題点を洗い出し、改善をかさねます。

 シナリオの目標が明確になったら【導入シーン】は終了です。

 プレイヤーたちは【導入シーン】で得た断片的な情報(「謎」)を元に、冒険を完遂するため、より詳しい情報(「秘密」)を集めることになります。【探索シーン】のスタートです。

▼サンプル・シナリオ「薬草を求めて」【導入シーン】

・ 依頼人:村の司祭。

・ シナリオの目標:難病の特効薬「エラスティルの慈悲」という薬草を採取し持ち帰る。

・ 設定:近隣の村々の子供達があいついで風土病の熱病に倒れた。この熱病は村の未熟な司祭の能力では治療できない。特効薬「エラスティルの慈悲」はこれまで森の奥に一人で住む腕利きのレンジャーが定期的に調達してくれていたのだが、そのレンジャーは姿を見せなくなっており、連絡の取りようもなかった。最後の薬草も使い果たした。薬草はデイヴォン沼のマカラ丘で採れるという話である。

・ 謎:薬草の特定方法、生える場所、保存方法など。

・ 謎:マカラ丘における薬草の植生場所。

・ 謎:デイヴォン沼の地形。マカラ丘までの道順。地図。

・ 謎:連絡の取れないレンジャーの安否。


●【探索シーン】

 探索シーンでは、さまざまな情報収集活動を扱います。探索行動には、酒場での聞き込み、図書館での文献調査、装備品の調達などが含まれます。時間制限が設定され、冒険者はできるだけ効率よく行動する必要に迫られます。

 シナリオに期限(デッドライン)を設定します。

 「期限」は、たとえば3日間だとか1週間といった時間制限が一般的です。もしくは本当は時間制限がなくても迅速にミッションをこなさなければいけないような状況です。例えば、特定の条件を決めておき、条件が満たされると制限切れとすることもできます。

 時間制限の場合は、「探索行動」のための時間や、必要なら目的地へ往復するための移動時間も含めます。

 適当な期限が思いつかないのなら、期限を「3日間」にすることをお勧めします。

 【探索シーン】では以下のようなハウス・ルールを使用します。探索行動におけるゲーム性を、より高めるための方法です。

『探索シーン用ハウス・ルール』

・「拠点」と「集合地点」を決めます。拠点はダンジョンから離れた安全な場所(村、街、国境の城砦など)です。「集合地点」は宿屋。酒場、広場の噴水前などがよいでしょう。

・各キャラクターが拠点で活動することができるのは1日8時間とします。

・拠点でなんらかの探索行動をとると1d4+1時間を消費します(これは酒場で情報を聞きまわっても、特定の人物に会って話を聞いても図書館で文献を調べても、店に行って装備品を調達しても同じです。アイテム作成などルール的に必要時間が決まっている場合はそのルールに従います)。

・消費時間の決定は、実際の行動の前に行ないます。もし、その日の活動時間が不足した場合、行動判定する以前にその行動は時間が足りずに失敗します。

・複数のPCが一緒に行動する場合は、そのPC同士は同じ時間を費やします(活動時間を共有するものとします)。

・探索行動が苦手なキャラクターであれば下手に単独行動するよりはほかのPCの交渉などへの支援をするほうが効果的です。

・原則、1つの探索行動が終了するごとに「集合地点」に帰ります。同じ時間に集合地点にいれば別の情報を集めに行ったPCと情報交換をし、その集めた情報をもとにして、翌日もともに行動を続けるか、あるいは各自別れて次の行動を行なうかを決めることができます。うまく時間が合わなかった場合は、集合場所で待機して時間調整をすることができます(『Pathfinder RPG』はパーティで行動することが前提のシステムですが、私は基本的に拠点では各人に自由な行動を認めています)。


・情報の設定

 【探索シーン】で与える情報を、階層化させた形で提示します。以下、情報収集判定の難易度とその結果をリスト化してみました。

難易度以下:信憑性の低いあいまいな情報しか入手できません。

難易度以上:対象の大まかな情報を得る

難易度5以上の差:対象の詳しい情報を得る。さらに、次の探索行動につながる情報を1つ得る。

難易度10以上の差:対象のとても詳しい情報を得る。さらに、次の探索行動につながる情報を2つ得る。以降、5以上の差ごとに追加の情報を1つ得る。


 例として、遺跡の位置に関する情報で考えてみましょう。遺跡の存在は地元では比較的よく知られているので、噂話を集めるのはそう難しいことではないと設定します。

難易度以下:「塔は沼地のまんなかにあるよ」「荒地は無人じゃ」「沼地には幽霊が出るよ」

難易度10:遺跡の大まかな場所が特定できます。遺跡にたどり着く際の判定にボーナスを得ます。

難易度15:遺跡の正確な場所が特定できます。濃霧や大雨など状況が極めて困難でなければ、遺跡にたどり着くのに「出目10」(差し迫った危険がない際に、技能判定での1d20で「10」が出たとみなすこと)を選択することができます。さらに、図書館に遺跡の古い図面が存在していることが判ります。

難易度20:遺跡の正確な場所が特定できます。濃霧や大雨など状況が極めて困難でなければ、遺跡にたどり着くのに「出目20」(約2分間、じっくりと作業に集中し、技能判定での1d20で「20」が出たとみなすこと)を選択することができます。さらに、図書館に建造物の古い図面が存在していることが判ります。加えて、道に迷った行商人が遺跡近くで空を飛ぶ怪物を見かけたという情報を得ます。

難易度25:遺跡の正確な場所が特定できます。濃霧や大雨など状況が極めて困難でなければ、遺跡にたどり着くのに「出目20」を選択することができます。さらに、図書館に建造物の古い図面が存在していることが判ります。加えて、道に迷った行商人が遺跡近くで空を飛ぶ怪物を見かけたという情報を得ます。そのうえ、遺跡のある沼地では枯れ木など特徴物に地元の狩人やレンジャーが連絡用の符丁を残すことがあるかもしれないと判りました。それらしい場所を、注意深く観察すると符丁を見つけられるかもしれません。

 難易度の高い情報は、1回の情報収集の判定で集めることは困難です。しかし、ある情報について知った状態でさらに詳細に情報収集する場合、難易度の階層1段階ごと易しくします。

 時間をかけ、詳しく調べるほどより低い達成値でも詳しい情報が入手できます。しかし、ピントの外れた情報収集の場合は高い達成値でも何も分からないという事態も発生します。

 各PCの持っている記憶だけの知識判定の場合、時間は費やしませんが、階層の高い(難易度が高い)情報は入手できないとします。あくまで詳細な情報を集めるには街での交渉や文献調査など、とにかく時間を必要とします。



 時間制限があるので『探索シーン』は遅かれ早かれ終了します。【ダンジョン・シーン】に移ります。

▼サンプル・シナリオ「薬草を求めて」【探索シーン】

・ シナリオの目標:「エラスティルの慈悲」を採取せよ。

・ 情報A:薬草「エラスティルの慈悲」の情報。

・ 情報B:「マカラ丘」の情報。

・ 情報C:野外活動と登山道具の調達。

・ 情報D:レンジャーの住居を訪れる(この探索行動は2d4+2時間を消費します)。無人の小屋からのレンジャーの日記や地図を入手できる可能性があります。

・ 制限: 3日(うち「沼地」への移動に1日)。4日目から10%累積で1日超えるごとに子供が1d6−1人死亡します。死者が10人に達したらシナリオ失敗とみなします。


▽問題発生!! 

 私は、冒険者たちが、あなたがせっかく準備した【探索シーン】をすっとばして先に進む可能を否定できません。功を急いだか、善は急げと考えたか、底なしの自信過剰からか、ともかくそれは起こりえます。そんなときGMは落ち着いてゲームを【ダンジョン・シーン】へと進めてください。いったん休憩を宣言して、今後の展開について考えをめぐらせるといよでしょう。【探索シーン】をスルーした冒険者をとっちめてやろうとか罰を与えてやろうとか考えないでください。もちろん、彼らは重要な情報を知らぬまま危険なダンジョンへと急行したのですから、戦闘や時間制限などあらゆる場面において、不利な状況に陥る危険があります。それでも、過度に不幸な「ペナルティ」を与えようという考えは控え、できりかぎり公平な判定を心がけましょう。むしろ、処分は甘いくらいで十分です。ギリギリでゲームをクリアーできるようにバランスを調整しましょう。大切なのは、冒険者に敗北の二文字を突きつけることではありません、次はもっと上手くやろうと感じてもらうことなのです。

●【ダンジョン・シーン】

【ダンジョン・シーン】はシナリオのメイン・イベントです。冒険者の前に直接的なモンスターや罠が登場します。戦闘能力と機転で目標をクリアーしなければなりません。

 このシーンでは、お馴染みのダンジョン探検を扱います。

 【ダンジョン・シーン】とありますが、ダンジョンとはいわゆる地下牢でなくてもかまいません。廃墟となった砦、廃棄された鉱山、山賊の根城、迷路のような下水道、地下墳墓、瘴気の漂う沼地、暗い森の中、あらゆる場所が考えられます。ここでは、冒険者は【導入シーン】で提示された目標を達成するために、さまざまな障害を乗り越えていきます。ときに正面から戦い、ときに迂回することになるでしょう。

 ここまでの手順を踏んでしまえば、もう、シナリオはほとんど完成したようなものです。あとはクリーチャーや罠などの障害を決定するだけです。

 以下、障害を出す際のポイントを、まとめてみました。

 マップを準備する。手描きでも既製品でもよいので、ダンジョンのマップを準備します。

 パーティの強さを考慮したうえで、そのマップ上に相応しい障害を用意します。コンベンションのシナリオなら3〜5回くらいの遭遇が妥当かと思います。

 ただし、実際に用意する遭遇はその1.5倍程度(4〜7回)、用意します。

 すべての遭遇を「回避」または「戦闘」の2つの条件で分類します。それから、遭遇の結果に「評価プラス」「評価マイナス」の2つの評価を定めます。「評価」は遭遇の条件を満たしたときに「評価プラス」の結果をあたえ、逆に満たさなかったときに「評価マイナス」の結果を与えます。

 ▼遭遇例(1):リザードマンの狩猟隊

“100メートルほど先の藪のなかを9匹のリザードマンが移動しています。”

条件:「回避」

評価プラス:リザードマンは姿を消します。準備した遭遇から「リザードマンの待ち伏せ」を除外します。

評価マイナス:戦闘。リザードマンは角笛を鳴らそうとします。角笛が鳴ったら、後の遭遇「リザードマンの待ち伏せ」の人数を増やします。


 ▼遭遇例(2):リザードマンの狩猟隊

“100メートルほど先の藪のなかを9匹のリザードマンが移動しています。”

条件:「戦闘」

評価プラス:リザードマンの荷物から、レンジャーのものと思しき地図を発見します。地図にはリザードマンの拠点が記してあります。

評価マイナス:リザードマンは姿を消します。


 ▼遭遇例(A):ニンフの宴

“森の空き地から楽しげな歌声と笛の音が聴こえます。こっちへいらっしゃい、と若い女性の声が響きました。”

条件:「戦闘」宴に参加する。

評価プラス:1d4時間消費。ニンフたちはたいへん喜んで、情報と贈り物をくれます。

評価マイナス:ニンフはひどい言葉を浴びせかけ姿を消します。


 ▼遭遇例(B):ニンフの宴

“森の空き地から楽しげな歌声と笛の音が聴こえます。こっちへいらっしゃい、と若い女性の声が響きました。”

条件:「回避」宴に参加しない。

評価プラス:急にあたりは静かになり、無人になった空き地で、やつれた男性を見つけます。もしかしたらあのレンジャーかもしれません。

評価マイナス:大変盛り上がり、酒に酔って夜明けまでぐっすり眠り込んでしいます。


 当然、プレイヤーに遭遇の「条件」を明らかにしません。プレイヤーは状況に応じて遭遇に適切な対処を講じていくでしょう。遭遇の結果がどうあれ、仮にそれらの遭遇を「プラス」でクリアーできなくても、シナリオの目標達成は可能にしておきます (マイナスを連続したら目標達成の難易度は上がるかもしれません)。

 私の場合、コンベンションのようにプレイ時間が制約されている場合では途中で休息できるような時間的余裕を与えていません。基本的にダンジョン探索は1日間だけです。時間的なリソースが限られ、目的がはっきりしているのであれば、【探索シーン】や遭遇の結果で新しい情報やヒントをもとにして、余計と思われる遭遇は避けるはずだからです。

 ただし、シナリオの最後だけは、絶対にPCたちは戦闘を行なわなければならないような設定(最終戦が起こるような設定)を用意します。『Pathfinder RPG』は戦闘が重要な位置にあるシステムである以上、最終戦闘は避けられません。逆に言えば、それ以外は無駄に戦わずに通過することができても問題ありません。しかし、その場合は戦闘した場合と同じくらいリソースを消費する障害がなければいけません。

 冒険者たちが選択の余地なく「戦闘遭遇」に巻き込まれてしまう場合、その遭遇はPCたちにとって(最終戦以外は)しばしば不利な状況で起きるというのが基本です。例えばパーティの半分が崖を登ったところで、まだ登っていない崖下のPC達が襲われる、といった感じです。こういった遭遇ならば、後衛にとって相性の悪い敵であればさほど 強くなくてもかなりの脅威になります。重要な資料と思われる本の山の周辺に、炎に弱いクリーチャーを何体も出すというのもありでしょう。ファイアボールで容易に全滅させることができたとしてもまず、それは行なわないでしょうから、十分脅威になりえます。

 パーティに不利な状況での戦闘は、あまりやりすぎるとプレイヤーにストレスを与えてしまいますが、プレイヤーの機転によって状況を逆転しやすいので、短時間で脅威を与えることを目指した、シナリオ途中での戦闘に向きます。このタイプの遭遇では、プラス評価の内容を普通より有利にするようにしてください。

  遭遇例(X):ヒドラだ!!

“腰まで水に使って移動中に、ゴボゴボと水面が泡立ち始めました。”

条件:「戦闘」

評価プラス:戦闘現場の近くにヒドラの巣があります。最終戦闘に役立つマジックアイテム数点とヒドラの卵を1d6個見つけます。

評価マイナス:戦闘によりリソースが減ります。


 逆に最終戦は事前情報や準備時間を与えるなどPCに有利な状況にする代わりに普通より強い敵を出すなどメリハリをつけます。最終戦くらいはPLに全力で戦って欲しいものですし、マスターも最終戦は力を入れて用意すべきです。

 かといって最初から最後まで常に全力で戦うという状況は、マスターの(ルール確認、運用管理などでの)負担の増大につながりかねません。『Pathfinder RPG』は戦闘が重要なファクターを占めるゲームであるがゆえに、遭遇を設定する際には、戦闘を回避可能な遭遇と、戦闘を避けられない遭遇をバランスよく配分することが最重要課題となります。

サンプル・シナリオ「薬草を求めて」【ダンジョン・シーン】

・ダンジョンの構造:野外冒険だが、基本構造は「通路」と「部屋」からなるタイプ。

・ シナリオの目標:「エラスティルの慈悲」を採取せよ。

・ 遭遇1“無人の船着場”(回避):小屋の二階にスタージがたくさん巣くっている。

・ 遭遇2“黒い石碑”(戦闘):ポイゾン・フロッグが襲ってくる。

・ 遭遇3“リザードマン”(戦闘):リザードマンが待ち伏せを攻撃。

・ 遭遇4“血塗れの島”(回避):リザードマンとオークの死体がいくつも散らばっている。グールとグレイウーズがご馳走に集まっている。

・ 遭遇5“捕虜”(回避):リザードマン戦闘隊が数名のオークに手枷をして移動している。

・ 遭遇6“リザードマンの集落”(回避):たくさんのリザードマンが集まっている。檻の中に行方不明のレンジャーが捕らわれている。

・ 最終戦闘“花の丘。あるいは”(戦闘):リザードマンを利用しているグリーンハッグが登場する。戦闘開始数ラウンド後にリザードマンの援軍が現れる。ここの岩場に、「エラスティルの慈悲」が咲く。


●【PCの作成、魔法のアイテムの制限】

 シナリオそのものからは若干離れますが、最後にPCの作成ルールについて補足的に触れておきます。

 PCの作成ルールは、ルールブックによると、能力値購入方式の場合、15(標準)、20(ハイ)、25(英雄的)と3種類用意されています。

 私は15か20で行ない、よくプレイされている25ポイント購入での英雄的なキャラクター作成は、避けたほうがよいと考えています。これはキャラクターが、1つくらい弱みがあったほうが面白いからです。

 実際にキャラクターを作成してみるとわかりますが、割り振りのポイントが15や20ですと、どうしても6つの能力値のいずれかは10(修正なし)や8(マイナス修正がつく値)にしなければなりません。

 致命的でないのであれば、欠点もキャラクターを形作る大事な特徴です。欠点があるからこそ、お互いの弱点を補い、1つのパーティとして完成するのではないかと思います。人間社会でもこれは同じです。

 また、単発セッションでは、魔法のアイテムの消耗品(矢弾を除く)は、価格を5倍(もしくは使用回数1/5)にしています。

 これはゲーム内時間に制限をつけるのと同様、PCのリソースを制限するためです。呪文やアイテムは使いたい放題ではなく、限られたリソースを最大限うまく使いこなすほうが効果的だと考えるからです。

 また、シナリオでは極端に偏ったキャラクターだけが失敗する(苦戦する)簡単な障害(あるいは雑魚の群れ)を時々用意します。

 この障害は一部の人だけで解決できない、全員で達成しなければいけないような障害とします。

 苦手な人を他の人がサポートすることで達成できても問題ありません。これは偏って作成したキャラクターは得意分野では大活躍できる代わりに、苦手分野では足手まといになることを強調するために組み入れるもの。


●【まとめ】

 基本的には以上です。要点をまとめるならこうなります。

1、PLには時間や装備など明確にリソースに限りがあることを示す。無制限にあるよりリソースが限られている方が、時間も能力もアイテムも効果的に使われることが多い。また、敵の強さも抑えられるので、マスターの戦闘への負担が減らせる。

2、【探索シーン】や【ダンジョン・シーン】はできるだけオープンにしておき、PLたちが相談して自主的に意思決定できるようにする。選択肢が明白すぎるとマスターのシナリオに強引に誘導されている気がして、プレイヤーは不満を抱きがちなる。現実にはマスターが特定の選択肢に意図的に誘導したとしても、それに気づかれなければ構わない。

3、キャラクター全員に見せ場を用意する。『Pathfinder RPG』はクラス(職業)を基本としたシステムなので、主要な各クラス能力が発揮できる場面を用意すればよい。その場面は戦闘だけに限らない。むしろ、戦闘以外で活躍できる場面をできるだけ用意したほうがよい(戦闘中に敵を倒すのと同時間にローグが魔法装置を解除する、人質を救出するなど力押しでは解決で きないイベントを用意するのもよい)。ただし、見せ場にある他のキャラクターが待ちぼうけにならないよう、支援でもよいので、何らかのアクションがとれる 状況を用意する必要がある。


終わりに
 
 以上、私的なシナリオ・デザインのコツを語ってきましたが、これらの方法にも欠点がいくつもあることは判っています。

 しかし、逆を言えば完璧でなくても構いません。

 いったんプレイヤーもマスターも完璧な答えが見出してしまえば、セッションはもはやつまらない単純作業になってしまいます。プレイヤーもマスターも、完璧なプレイスタイルを目指して試行錯誤と切磋琢磨を続け、ジレンマを快楽へと変換していくその過程にこそ、『Pathfinder RPG』の、ひいては会話型RPGの醍醐味はあるのではないかと私は考えています。

 欠点が見つかれば、その欠点から何かしらシナリオを面白くできないかと、欠陥を、むしろプレイヤーの向上心を掻き立てる要因へと変えられるように考えていきましょう。


 ところで、この手法に問題があるとしたら、それはシナリオ作りの負担が大きいことです。

 ある程度の負担は避けようがありませんが、シナリオに盛り込む情報に余裕をもたせるようにしておくことができれば、セッション当日も柔軟に対応することができますし、シナリオの矛盾も起き難いかと思います。

Pathfinder Roleplaying Game: Core Rulebook [ハードカバー] / Jason Bulmahn (イラスト); Paizo Publishing (刊)Pathfinder Roleplaying Game: Bestiary [ハードカバー] / Jason Bulmahn (著); Paizo Publishing (刊)


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須賀谷朋(すがたに・とも)
 1978年生まれ。大学院修了後、家業に就き、バラなどの観賞用植物の生産を行なっている。TRPGは大学在学中に開始。プレイヤー回数より圧倒的にマスターの回数の方が多い。
 『D&D』『アースドーン』などの海外RPGだけでなく『トーキョーN◎VA』『深淵』などの和製RPGも好む。

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【齋藤路恵からのコメント】


 須賀谷様、ご提案ありがとうございます!

 ひじょうに実用的な方法論で、私もさっそく家で遊んでみました。

 今回はインターネットから拾ってきたシナリオフックを2つ組み合 わせてシナリオを作りました。

 PCが解決しなければならないトラブルの原因を2つ作り、 どちらかが解決されれば問題は解決されるという構成にしました。解決までのルートが2本ある形です。

 PLは片方の ルートしかたどらなかったので、うまく謎を残すことができました。

 自宅で遊ぶ場合はセッションが短くても大丈夫なため、準備が少なくても謎を残しやすいようです。


 今後も何度か試してよりスムーズに運用できるようにしてみたいと思っています。(齋藤路恵)

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Analog Game Studiesでは、「RPGゲーマーのための『ペルディード・ストリート・ステーション』ガイド」でも、『Pathfinder RPG』の話題を取り扱っております。

また、ウェブサイト/ウェブログ「4th Cage」では、『Pathfinder RPG』の情報やTIPSが頻繁に更新されています。


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