2012年09月03日

伝統ゲームを現代にプレイする意義(第12回)


―――――――――――――――――――――――――

伝統ゲームを現代にプレイする意義(第12回)
 
 草場純

―――――――――――――――――――――――――

第11回はこちらで読めます

―――――――――――――――――――――――――

 前回はちょっと寄り道して「創作伝統ゲーム」に触れた。創作/伝統は形容矛盾だが、ある意味小説の本質といえるかも知れない。「事実」を創造するのが小説だからである。裏返せば、歴史を考えるヒントにはなるものの当然、史料とはなりえない。
 そこでここで、再び現存する日本の伝統ゲームに立ち返ってみよう。伝統ゲームの中に、生きた史料を見出せるからである。

 「掛合トランプ」は、今も島根県雲南市掛合町字掛合に伝わるトランプゲームである。日本にトランプが伝わったのは16世紀後半にポルトガルの船員が伝えたとされる第一期と、19世紀後半の幕末・開国・文明開化の時代にいわゆる欧米から伝わった第二期があるとされてきた。しかし掛合トランプはその間を縫うように、18世紀初頭にオランダから伝わったトランプゲームである。
 伝承によれば地元で「絵取り」と呼ぶこのゲームは、掛合の清水何某が長崎の出島に医学を学びに行き、オランダ人から教わって持ち帰ったとされている。残念ながら物的証拠は見出せないもののこの伝承は、日本におけるゲームの受容の過程を辿ることが可能な、貴重な生きた史料となっている。

 ポルトガルのトランプは48枚で、これが近世の日本に与えた影響は大きい。現在でも花札は48枚で、これはその直接的影響であると考えられる。また、伝わったカードは貝覆いと習合して「百人一首かるた」を生み出した。更に第10回で述べたように、うんすんかるたへと発展していった。株札・黒札・大二などの、現在「地方札」と呼ばれる多くのバリエーションも、このポルトガルのトランプの放散の結果であると考えられている。現在でも花札の1月の「松」のシルエットに、ほのかにポルトガルの竜を読み取ることができる。(ポルトガルのトランプはエースにドラゴンを描いた。) 松はドラゴンの尾骶骨と言うべきかも知れない。

 では掛合トランプ(絵取り)はどのようなゲームなのであろうか。その内実を探ってみよう。
 掛合トランプは、カード獲得型のトリックテイキングゲームである。以前にも述べたように、トリックテイキングゲームには、特定のカードにあるポイントテイキング型と、純粋に取ったトリックの数だけを問題にする、トリック数テイキング型とがある。あえて言うなら、後者は前者の進化形と言えるかも知れない。
 具体的にポイントテイキングゲームの一例を挙げるなら、それはドイツのスカートである。スカートに於いては、Aは11点、10は10点、Kは4点、Qは3点、Jは2点、その他は0点という固有の点を持ち、トリックテイクの方法でそれを半分以上獲得するのがプレイの目標になる。一方掛合トランプでは、AKQJの獲得枚数のみが問題になる。とは言え、これは広い意味のポイントテイキングの一種とも言える。A=K=Q=1点と捉えることができるからである。それがポイントテイクの進化した形か退化した形か、言い換えればルールの変化に価値判断を加えることで歴史の見方が変化する。つまり掛合トランプ=絵取りは古い形を残しているとも、日本に伝わって変化したとも考えられるからである。
 その、ゲームとしての評価は別としても、絵取りが日本のゲームに与えた影響は深いものがある。
 もう一点、掛合トランブのゲームの内実(ルール)として興味深いのは、このゲームは4人ペア戦であるということである。これは現在のコントラクトブリッジと同じであり、少なくとも18世紀初頭に遡れるホイストの特徴でもある。
 更に面白い事実としては、掛合トランプやゴニンカンや花札は反時計回りにプレイが進行するが、ホイストやブリッジは時計回りに進行するという点である。因みに、17世紀のトランプゲーム「オンブル」は、三人のトリック数テイキングゲームでありつつ、プレイは反時計回りである。

 青森にゴニンカンという「絵取り」がある。これは掛合トランプ同様にAKQJの合計16枚を、トリックテイキングのルールで取り合うものである。獲得すべき対象は掛合トランプと全く同じであり、ルールもよく似ている。違うのはゴニンカンはパートナーを指定して二対三で戦うという点であり、この点はあとで述べる(日本式)ナポレオンと同様となっている。もっとも、青森の(ゴニン)カンには、ヨニンカンというバリエイションがあり、それでは二対二になる。
 ゴニンカンは、マストフォローのルールはかなり厳格に守るが、完全ではない。それはジョーカーという例外があるからで、こちらはタロットのフール(愚者のカード)の伝統を負っているのかもしれない。その点、掛合トランプは例外がなく、完全なマストフォローである。(ただしスペードA(これを「れんしょ」と呼ぶ)は最も強いカードである、というランク上の例外がある。)

 この点で面白いのはナポレオンというゲームである。この日本独特のゲームは、絵取りではあるが、AKQJ10の20枚を取り合うところが、上記二者とは違う。点数の違いを無視すれば、スカートと同じである。またジョーカーやスペードAが特別強いカードであるのも、上記二者の混交のような雰囲気がある。
 私はこれらのゲームをプレイするごとに、いわゆる文明開花期に伝わったゲームの受容に、その前に伝わっていたゲームの下地を感じないではいられない。日本に於ける太陽暦の採用は明治五年であるが、その直前の天保暦等に、既に太陽暦の影響があったこと(定気の採用など)を連想してしまう。

 ゴニンカンや掛合トランプをプレイすることは、日本におけるトランプゲームの歴史を身を以って味わうことであり、これもまた「伝統ゲームを現代にプレイする意義」だと私は考える。

―――――――――――――――――――――――――

第13回はこちらで読めます

―――――――――――――――――――――――――
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。