2012年04月13日

【レビュー】エドワード・ミード・アール編『新戦略の創始者 マキアヴェリからヒトラーまで』


―――――――――――――――――――――――――

【レビュー】エドワード・ミード・アール編『新戦略の創始者 マキアヴェリからヒトラーまで』

 岡和田晃

―――――――――――――――――――――――――

 今回はエドワード・ミード・アール編『新戦略の創始者 マキアヴェリからヒトラーまで』Edward Meard Earle(ed), Makers of modern strategy: millitary thought from Mahiavelli to Hitler (Prinston: Prinston University Press, 1943)という、戦略研究の分野における古典をご紹介いたします。

 ルドロジー(ゲーム学)の重要な立役者の一人であるゴンザロ・フラスカは、ゲームを定義づけるにあたり、ゲームとパズルを明確に区分しました。その基準を平たく言えば、双方向性(インラタクティヴィティ)を有するか否かというものでした。自分と相手の駆け引きということです。当然そこには何らかの戦略があるとしても言い過ぎではないでしょう。ゲームの達人たろうとすれば、まず戦略の実例を学ぶことが求められます。

 今回レビューを行なう『新戦略の創始者 マキアヴェリからヒトラーまで』は書名の通り、近代の戦略研究を築き上げてきた思想家たちについて論じた「国際的・学際的戦争研究の古典」として知られており、戦略の実例の宝庫といえるでしょう。

新戦略の創始者 〜マキアヴェリからヒトラーまで 上 [単行本] / エドワード・ミード・アール (著); 山田積昭 (翻訳); 原書房 (刊)新戦略の創始者―マキアヴェリからヒトラーまで〈下〉 [単行本] / エドワード・ミード アール (著); Edward Mead Earle (原著); 山田 積昭, 石塚 栄, 伊藤 博邦 (翻訳); 原書房 (刊)

 戦略という概念はその成立にあたり、とりわけ近代の戦争形態の変化と密接な関わりを持っていました。こうした広義に渡る戦略観を概説できるように、本書はルネッサンス期からナチス・ドイツの戦略に至るまで幅広い論考を集め、戦略概念の形成と拡張の過程を体系的に理解できるようになっています。
 そして本書の頁を繰るうち否応なしに伝わってくるのは、各々の書き手が戦略論の立役者たちの読み直し(リ・リーディング)を経ることで、戦略というものをよりアクチュアルに捉え直そうとしていることです。


■本書の構成

 それでは、具体的に本書の構成を見てみましょう。

 序言(抄訳)

 第I部 近代戦の原点――一六世紀から一八世紀まで
 第1章 戦術のルネサンス マキアヴェリ
 第2章 戦争に及ぼした科学の影響 ヴォーバン
 第3章 王朝戦争から国民戦争へ フリードリヒ大王 ギベール ビューロー

 第II部 一九世紀の古典――ナポレオンの解説者たち
 第4章 フランスの解説者 ジョミニ
 第5章 ドイツの解説者 クラウゼヴィッツ

 第III部 近代戦の開花――一九世紀から第一次世界大戦まで
 第6章 軍事力の経済的基盤 アダム・スミス アレクサンダー・ハミルトン フリードリヒ・リスト
 第7章 社会革命の軍事的概念 マルクス エンゲルス
 第8章 プロイセン流ドイツ兵学 モルトケ シュリーフェン
 第9章 フランス流兵学 ド・ピック フォッシュ
 第10章 フランス植民地戦争の戦略の発展 プジョー ガリエニ リヨテ
 第11章 軍事史家 デルブリュック

 第IV部 第一次世界大戦から第二次世界大戦まで
 第12章 文民による戦争の主宰 チャーチル ロイド=ジョージ クレマンソー
 第13章 ドイツの総力戦観 ルーデンドルフ
 第14章 ソ連の戦争観 レーニン トロツキー スターリン
 第15章 マジノ リデルハート
 第16章 地政学者 ハウスホーファー

 第V部 海戦と航空戦
 第17章 シーパワーの伝道者 マハン
 第18章 大陸におけるシーパワーの教義
 第19章 日本の海軍戦略
 第20章 航空戦理論 ドゥーエ ミッチェル セヴァースキー

 終章 ナチスの戦争観 ヒトラー

 解題 国際的・学際的戦争研究の古典としての『新戦略の創始者』 中島浩貴

 文献解題
 索引

 最後「ナチスの戦争観」で締めくくられるのは、本書がナチス・ドイツが引き起こした第二次世界大戦の真っ只中でまとめられたものだからです。

 本書に収められた論考はそれぞれ、1943年に行なわれたプリンストン大学高等研究所軍事ゼミナールでの議論がもととなっています。

 1943年、ナチス・ドイツが引き起こした第二次世界大戦は、独ソ戦におけるドイツ軍の大敗・イタリア戦線の開始など、泥沼の一途を辿っていました。日本では国家総動員法が施行され、総力戦体制が敷かれつつありました。そうした現在進行形の状況を理解し的確な判断を下すためのアクチュアルな研究として、本書がまとめられたことは疑いがありません。とりわけナチス・ドイツによる迫害を逃れたドイツ人研究者たちの仕事は、本書をより意義のあるものとしたと言われています。

 本書は1978年に原書房より刊行された後、長らく絶版となっていましたが、このたび中島浩貴氏による訳文見直し・訳語統一・文献解題の確認、および詳細な解説を添えたうえでの復刊と相成りました。

 中島氏によれば、本書に収録された論考の多くは1986年に発表された新版にも引き継がれているとのことです。これは、本書は第二次世界大戦中に刊行されたものですが、戦後の社会変化や研究の進展を経てもなお、収録された論考の多くに高評価が与えられているということを意味します。


■本書の特徴

 戦略論に関する著作はいくつも刊行されていますが、本書はその歴史的意義のほかにも、下記のような特徴を有しています。


 ●1:戦略論の古典的な思想が、的確に要約されている。

 本書を一望してわかるのは、マキャヴェリから始まる近代戦の原理を構築した思想家、そしてクラウゼヴィッツなど、ナポレオン時代に活躍した戦略論の古典的思想家が、簡潔に紹介されていることです。


 ●2:戦略論の受容史を知ることができる。

 戦略論の古典がいかに読まれてきたのか、そうした受容史を学ぶためにも、本書は活用することが可能です。クラウゼヴィッツ一人とっても、長い解釈の歴史があり、それを抜きにして戦略を語ることはできません。


 ●3:思想家の意外な側面を知ることができる。

 アダム・スミスやマルクス、ロイド=ジョージなど、主に経済学的な見地から語られることが多い思想家の仕事が、本書では戦略論の観点から紹介されています。思想家の多角的な顔を知り、あるいは戦略論という分野の応用性を知るためにも有用です。経済史や政治史に興味がある方が、軍事史へ射程を伸ばそうとした際、本書はまたとない見取り図を提供してくれます。


 ●4:日本では馴染みの薄い思想を学べる。

 ヴォーパン、ジョミニ、デルブリュックなど、戦略研究に馴染みがない読者にとっては触れる機会が少ないであろう思想家・軍事史家の思想が、本書は明確に要約されています。その意味で、本書は日本人の読者にとって貴重な資料ともなっています。


 ●5:各国の兵学や戦争観を概観できる。

 モルトケやシュリーフェンらのドイツ兵学やルーテンドルフらドイツの総力戦観、ド・ピックやフォッシュらのフランス兵学、あるいはレーニン、トロツキー、スターリンらソヴィエト連邦の戦争観を概観することができます。とりわけ総力戦についての記述は圧巻です。最終章のナチスの戦争観と併せ読めば、本書が二次大戦中、実践的な必要性で編まれたものであり、何よりも戦略論という分野がアクチュアルな必要性をもって求められていたことがよくわかります。


 ●6:戦略論の新たな潮流について知ることができる。
 
 本書の下巻では、地政学・シーパワー論や航空線理論など、今日の戦略研究の基盤を形成する重要な主題についても、充実した研究が寄せられています。こうした新しい潮流についての基礎を知るためにも本書は有用です。


■終わりに

 そもそも戦略を研究することは、再現しようとする戦争行為の内在的論理を探るということを意味します。ひとえに戦争といっても、時代や社会状況、あるいは参加する兵士たちや指揮官の質によって、その性質や展開は千変万化します。

 それゆえに、どのような戦略が功を奏し、いかなる戦略が愚策に終わったのかを精査し考察を重ねることは、特定の戦争における煩瑣な事実を集積するのみに終わるものではありません。いささか大仰な言い方が許されるのであれば、戦略の研究はそのまま、(予想しがたい)未来を切り拓くための術(すべ)を探りゆくことにも繋がるのではないでしょうか。『新戦略の創始者』は、私たちが未来を考えるための、またとない手がかりを提供してくれることでしょう。

新戦略の創始者 〜マキアヴェリからヒトラーまで 上 [単行本] / エドワード・ミード・アール (著); 山田積昭 (翻訳); 原書房 (刊)新戦略の創始者―マキアヴェリからヒトラーまで〈下〉 [単行本] / エドワード・ミード アール (著); Edward Mead Earle (原著); 山田 積昭, 石塚 栄, 伊藤 博邦 (翻訳); 原書房 (刊)
posted by AGS at 13:20| レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。