2011年08月21日

【レビュー】徳岡正肇『ソーシャルゲーム業界最新事情』(ソフトバンククリエイティブ、2011)


―――――――――――――――――――――――――

【レビュー】徳岡正肇『ソーシャルゲーム業界最新事情』(ソフトバンククリエイティブ、2011)

 井上雄太

―――――――――――――――――――――――――

ソーシャルゲーム業界最新事情 [単行本] / 徳岡 正肇 (著)

ソーシャルゲーム業界最新事情

  • 著者: 徳岡正肇
  • 出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ
  • 発売日: 2011年4月1日
  • メディア: ソフトカバー




 ソーシャルゲームというジャンルが世を賑わしている。そんなもの聞いたことがないけれど、という方もテレビCMでこのところ頻繁に現れる『怪盗ロワイヤル』、『釣りスタ』といったゲームタイトルを耳にしたことはあるだろう。これらがまさにソーシャルゲームの代表作である。驚くべきことにこのソーシャルゲームの市場規模は今や1200億円(*1)を越え、すでに家庭用ゲーム市場(*2)の4分の1にまで拡大しているのだ。

 突然現れたこの新しいゲームはどこからやってきて誰が支えているのか。歴史が短く、いまだ全貌もはっきりしないこの業界にいち早く切り込んだのが『ソーシャルゲーム業界最新事情』だ。著者の徳岡正肇氏はゲーム情報サイト「4Gamer.net」等でゲームのレビュー記事を執筆する一方、『ワールド・オブ・ダークネス』等海外の会話型RPG(TRPG)の翻訳も手がけた、ゲームレビュアーにして翻訳家である。本書はソーシャルゲームの成り立ちと可能性、その業界の現状を具体的な事例やインタビューから伝えている。


・本書の構成

 本書はソーシャルゲームの全体像について俯瞰的に語る「第1部 ソーシャルゲーム概説」と、インタビューによりソーシャルゲーム業界の現在を伝える「第2部 ソーシャルゲーム業界の最前線」とで構成されている。第1部では、まずソーシャルゲームの定義自体が見直される。その上で、日米における発展の経緯、「非同期性」に代表される従来の多人数ゲームとの大きな違い、そして「ソーシャル化」という現象がこれからゲームにどのような意味を持つのかについてまで語っている。もちろん、時折新聞やニュースをにぎわす「基本無料」問題にも触れている。

 第二部では、合計12社ものゲーム会社へのインタビューで構成される。この12社は大手ゲーム企業の事業部から、アプリ専業ベンチャー、動画サイトの運営会社など様々である。この多様さがそのまま業界の勢いと全体像の把握のし辛さを示していると言ってもよいだろう。ここでは、運営中のタイトルに対する各社自身による分析、スマートフォン化や、美しいグラフィック・BGMの利用によるコンテンツのリッチ化などといった将来への展望、それに企業側の求める人材が語られ、多様なソーシャルゲーム像を見ることができる。

 以上の構成を持つ本書は基本的にはソーシャルゲーム業界の動向に興味がある人、あるいは業界への就職を考えている人に業界の現状を伝ようと書かれたものと言ってよいだろう。そのため第2部で扱われるインタビューの内容も、単なるユーザーへのPRとは異なるものとなっている。とはいえ、第1部で扱われるゲームの「同期性・非同期性」という視点や、徳岡のゲームの「ソーシャル化」に対する展望等には、将来のゲーム像を考える上で大きな手がかりとなる情報がぎっしり詰まっている。


・ソーシャルゲームとはなにか

 さて、本書で扱われるソーシャルゲームとはそもそも一体どのようなゲームをさししめすのであろうか。

 単にソーシャルを「社会的なつながり」という意味で取るのならば、MMORPG(オンラインで多人数が遊ぶRPG)や多人数で遊ばれるアナログゲームなども充分にソーシャルゲームと呼ばれて然るべきなのではないか、という当然の疑問を検討することから徳岡は出発する。

 その上で徳岡はソーシャルゲームに対する現在一般的な定義「SNS(Facebookやmixiのようなソーシャルネットワークサービス)を利用し、SNSの参加者がプレイ可能なゲーム(本書 2頁)」を検討していく。ソーシャルメディアとゲームとの連結のみに視点をおけば、MMORPGなどの境界的な事例が多発することは現状必至である。この問題への対応として、徳岡はソーシャルゲームを「ゲームのいちジャンルと理解するよりも、インターネット上で影響力を拡大しているソーシャルメディアにゲームが連結された「状態」あるいは「運動」であると理解したほうが、より適切なのかもしれません。(本書 2-3頁)」という視点を打ち出す。

 この視点によりSNSと連結を持たない従来のブラウザゲームやMMORPG、アナログゲームはソーシャルゲームから、一旦切り離される。もちろん、これらのゲームにもいつかSNSと連結をもつ可能性自体は残されていると言うことはできるだろう。


・ソーシャルゲーム市場の歴史

 このようなソーシャルゲームとその市場の展開はどのように分析されるのであろうか。徳岡はその展開を、その独自性の発展と共に追っていく。

 ソーシャルゲームの隆盛のきっかけとして、徳岡が指摘するのはFacebookやMySpaceといったSNSでのアプリケーション開発のオープン化である。実際2007年にFacebookでの開発が可能となると、半年で14,000本ものアプリケーションが開発されたという。とはいえこの時点でのソーシャルゲームはこれまでにあった有名なアナログゲームやデジタルのカジュアルゲームをSNS上でプレイできるようにしたという色合いが強く、ソーシャルゲームならではの特徴といったものはまだ存在していなかった。また元となったゲームの権利元との問題の発生も指摘されている。この時点の日本ではGREEの『釣り☆スタ』がソーシャルゲームとして最初のあゆみを進めるが、開発のオープン化はまだ先のこととなる。

 2008年頃になると『Mob Wars(2008)』『Famtown(2008)』等SNSの性質を生かしたゲームが現れ出す。ソーシャルゲームは開発期間・開発コストの安さと、母体となるSNSのユーザー数増加により収益率が高かったことから、多くのディベロッパーがソーシャルゲーム市場に算入することとなった。

 日本でも2009年mixiアプリが公開され「サンシャイン牧場」が1ヶ月で130万ユーザーを獲得し一挙に普及する。これを受け2010年にはGREE、モバゲーにおいてもオープン化が行われ、国内市場でも競争が本格化していくこととなった。

 現在はスマートフォン市場への参入競争、日本企業の海外展開 が進み、海外企業による買収も行われ、勢力図の混沌としたまま先に述べたように市場は急激に拡大し続けている。もちろん急激な市場拡大には、様々な問題が付いて回る。過当競争によるリッチコンテンツ化と広告コストの増大により、すでに参入すれば儲かる時代は終りを告げている。他方で子どもによる高額課金の問題、SNSによるディベロッパーの囲い込みは、ときおり新聞やニュースを賑わしている。ゲームデザインの類似により訴訟問題も生じている。このようなソーシャルゲームが現在向き合っている課題についても一つ一つ丁寧に解説が行われている。


・ソーシャルゲームと「同期性・非同期性」

 ソーシャルゲームの大きな特徴として、遊ぶ時間を共有しない複数のユーザー同士が手軽に「一緒に」遊ぶことが出来るというものがある。この一見矛盾したかに見える状態を解き明かす鍵がユーザーとゲームの関わる時間の「同期性・非同期性」という概念である。

 「同期性・非同期性」とは「ゲームに限らず、多人数が利用するサービスにおいて、そのユーザーの利用時間は共有されているか、いないかということを示す(本書 27 頁)」とされる。人と人が直接あって話すことや電話は当事者同士の時間が共有されているため、「同期的」なコミュニケーションであると言え、それに対し、書籍やメールは書き手と読み手、さらには読み手同士の間にも同じ時間は共有される必要のない「非同期的」なコミュニケーションであるというのである。もちろんこれはどちらが優れているというわけでも、特定のコミュニケーションやサービスについてこれらのどちらか片方しか存在しないという性質のものでもない。

 徳岡の本書ではこのような同期性・非同期性の観点に基づき、将棋や麻雀といった古典ゲームからソーシャルゲームに至るまでのゲーム全般が分析されている。別して、アナログゲームやCGIゲーム(CGIを利用したwebブラウザのみでプレイ可能なゲーム)、MMORPG等の複数人数で遊ぶゲームは、プレイヤーの時間とゲーム内の時間が共有される同期的な面が強く現れる。つまり、複数人で遊ぶためには特定の時間をゲームのために共有する必要がある。さらに、MMORPGにおいては、ゲーム内時間の同期性は顕著なものとなる。プレイヤーがログインしない間もゲームには常に別のプレイヤーが遊んでいるという状況が発生し、ゲームを再開する際には自分を取り巻く状況が変わりうるというのである。そのため、MMORPGはゲームに大量の時間を必要とし、疲れ果ててしまうプレイヤーも現れるという問題点も生じたことが指摘される。

 他方で、コンピュータゲーム以降に大幅に広まったひとりで遊ぶゲームではプレイヤーはいつでもゲームを中断する事ができ、その時点での状況がそのまま保存されるため、ゲーム内の状況とプレイヤーは非同期的であった。もちろん、他のプレイヤーは存在しないため、そもそもプレイヤー間の同期を考える必要はなく、いつでも始められいつでも止めることができる。

 以上のような、一人:非同期、複数人:同期というこれまでのゲームの枠を変えたのが非同期的なソーシャルゲームであると徳岡は分析する。つまり、複数の人間が時間を共有せずに、一緒に遊ぶ事が出来るようになったというのだ。

 一体どうして多人数の非同期ゲームが可能になったのか。その答えとして、徳岡はゲームを中断した際の最低保証と、プレイヤー間の「インタラクション」(やりとり)の待受時間の長さが取り上げる。前者は、プレイヤーがゲームを中断している(と同時に他のプレイヤーがゲームを進めている)間に、ゲーム状況を中断前と同じかある程度進んでいるが大きな変化のない状態にすることにより、あたかも個人用のコンピュータゲームのデータをロードしたときのように、ゲーム内での状況がプレイヤー個人にとっては「止まっていた」と認識させることである。他方後者は、インタラクションの待受時間が長くとることにより、いまゲームをプレイしていないプレイヤーを含む任意の人物にアクションを行えることを保証している。この二つが非同期の多人数ゲームを可能にするというのだ。

 もちろんこの解決方法には問題点があることも指摘されている。最低保証はゲームからリスクやスリル、さらにそれを乗り越えることによって得られるカタルシスといった従来のゲームが提供して来た魅力を取り上げ、またリスクの少なさは新しいコンテンツの必要性を加速させてしまうというのである。そもそもゲームの非同期化そのものにより、「特別なイベントが常態化してしまう(本書 36頁)」というようにゲーム運営の起伏が小さくなり、イベントなどを仕掛ける効果も薄れてしまう問題もある。

 本書で用いられたゲームの同期性・非同期性という概念は、デジタルゲームの分析に固有というわけではない。徳岡は、ゲームにおける同期・非同期の関係性を、古典ゲームだけでなく、ボードゲームの『ディプロマシー(*4)』やTRPG等のアナログゲームにも広げて見せる。例えば『ディプロマシー』における手順自体の非同期性と「交渉」の同期性との関係が挙げられている。この同期性・非同期性の視点から「課金システム」(ゲームのプレイにお金がかかるシステム)とゲームシステムの関係を分析することもかなり刺激的なものとなりそうである。(課金システムとゲームシステムの関係は本書では第2部のインタビューの中で述べられるに留まっている。課金システムとゲームシステムの関係自体においてもある種のゲーム的な状況が成り立っていると言える。あるゲームシステムにおいて運営者がどのようにプレイヤーの課金への意欲を引き立てるか、そのように課金を意図して作られたシステムをプレイヤーがいかに利用するか/しないか、というやりとりはある種ゲーム的である。)

 同期性と非同期性、両者がひとつのゲームのシステムの内外でどのように影響しあうのかという問題は、アナログ・デジタルを問わないゲーム分析の際だけでなく、恐らくはゲームを制作する際においても非常に重要な視点となるのではなかろうか。


ソーシャルゲーム業界最新事情 [単行本] / 徳岡 正肇 (著)

ソーシャルゲーム業界最新事情

  • 著者: 徳岡正肇
  • 出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ
  • 発売日: 2011年4月1日
  • メディア: ソフトカバー



―――――――――――――――――――――――――

[関連書籍・リンク]

 徳岡氏の書かれたものでソーシャルゲームに関わるものを下記したので参照されたい。

・『ウォーゲーマーハンドブック2010』掲載のコラム「野獣(のけもの)げぇまぁ」
http://a-gameshop.com/SHOP/WGH001.html
・『デジタルゲームの教科書』の「第10章 ソーシャルゲーム」
http://www.amazon.co.jp/dp/4797358823
・4Gamer.ner「コアゲーマーが満足できるソーシャルゲームはコレだ! 年末年始の休暇どころか,その先もどっぷりハマれるお勧めタイトルを紹介」
http://www.4gamer.net/games/109/G010913/20101225001/
・4Gamer.ner「[CEDEC 2010]「モバゲー、mixiモバイル、GREE等、モバイルソーシャルゲームの最新動向とゲームデベロッパーへの事業機会」の聴講レポートを掲載」
http://www.4gamer.net/games/105/G010549/20100901070/
・4Gamer.ner「徳岡正肇のこれをやるしかない! / 第11回:「Mafia Wars」に見る,「自分のペースでプレイできる」ゲームとは?」
http://www.4gamer.net/games/085/G008544/20100205058/

―――――――――――――――――――――――――

【脚注】

*1:シード・プランニング「ソーシャルゲームの市場動向調査結果がまとまりました。」http://www.seedplanning.co.jp/press/2010/2010122102.html
*2:モーニングスター「2011年上半期の国内ゲーム市場規模は15.9%減」
http://www.morningstar.co.jp/portal/RncNewsDetailAction.do?rncNo=500519
*3:本書出版以降の最新の事例としては、「モバゲー」を運営するDeNAは6月13日韓国に現地法人を設立が上げられる。
 J-CASTモノウォッチ「ディー・エヌ・エー、韓国に現地法人「DeNA Seoul」設立」http://www.j-cast.com/mono/2011/06/27099575.html
*4:『ディプロマシー』とはアバロンヒル(Avalon Hill)社のボードゲーム(1959年)。ゲームでは、第一次世界大戦前のヨーロッパを舞台として(最大)7人のプレイヤーが当時の列強各国を担当し、ヨーロッパの覇権を目指して競いあう。
posted by AGS at 22:44| レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。