2011年05月16日

『エクリプス・フェイズ』ゼロ年(Eclipse Phase: Year-0)―(3):無料ボードゲームの場合

『エクリプスフェイズ』ゼロ年―(3):無料ボードゲームの場合
 蔵原大

Homepage | Eclipse Phase
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 SFゲーム『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase, http://analoggamestudies.seesaa.net/article/183475700.html )は未来の太陽系社会を扱った作品です。その中で描かれているテクノロジーや社会情勢が今のわたし達を原点としているのは言うまでもありません。サイエンス・フィクションをさらに理解し、さらに楽しみたいのだとしたら、まず現実のサイエンスをさらに理解し、さらに楽しむという所から入るのも一つの手法ではないでしょうか。

 そこで今後は"『エクリプス・フェイズ』ゼロ年"という連載コラムを通じ、未来技術・複数の領域での先端研究に関連しそうな研究成果・講演・セミナー等を随時ご紹介していきます。この第三回では『エクリプス・フェイズ』に関心をお持ちの方が楽しめそうな「ファミリーゲーム」「ボードゲーム」に関する内容といたしました。といいましても一般的な遊び用ゲームとは一味違った「無料」かつ「公共の場」(環境省やNASAなど)で活用されている「シリアスゲーム」を取り上げております。

 もともと『エクリプス・フェイズ』もまた「シリアスゲーム」的な側面のあるゲームです。デザイナーのロブ・ボイル氏(Mr.Rob Boyle)はその点を「私たちは『エクリプス・フェイズ』を通じて、単に楽しいSFゲームを生み出す以上のことを成し遂げたいと思い、また私たちが重要と考えたテクノロジーの発展によって引き起こされた現代の社会的・政治的な問題を紹介したいとも思っていました」( http://analoggamestudies.seesaa.net/article/199514106.html )と述べています。こうしたゲームを通じて見える現代社会の風景をお楽しみくだされますと嬉しい次第です。

 なお以前の記事も併せてお読みいただけますとありがたい限りです。

○「ゼロ年」第一回「東京大学の場合」: http://analoggamestudies.seesaa.net/article/198290624.html
○「ゼロ年」第二回「現役研究者ブログの場合」: http://analoggamestudies.seesaa.net/article/198693657.html


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【@.NASAと環境省の場合】

●The Space Place : Fall into a Black Hole!:
http://spaceplace.nasa.gov/en/kids/svlbi_do1.shtml (English Site)
 
 『エクリプス・フェイズ』は未来の太陽系を舞台にしたRPGです。まずはアメリカの「航空宇宙局」(NASA, http://www.nasa.gov/ )のサイトから始めましょう。ここでは「ブラックホールに落ちるぞ!」(Fall into a Black Hole!)という無料ゲームが紹介されています。この2〜4人で遊ぶスゴロク式ゲームでは「地球の軌道を離れて、別の銀河を探検する」(you will leave Earth orbit and go on to explore other galaxies)なかで、宇宙に関する探査活動の歩みを学ぶことになります(ルール等は無料ダウンロードできます)

NASA


 ちなみにこの「ブラックホール」ゲームには日本の電波望遠鏡(Japanese VSOP Radio Telescope)が登場します。1997年に打ち上げられたその人工衛星「はるか」についてはこちらをご参照ください( http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/halca/index.shtml )。

 その他のNASA無料ゲームについては下記をご参照ください。木星の調査や光子を題材にしたゲームなどがありますよ。

○The Space Place : Games: http://spaceplace.nasa.gov/en/kids/games.shtml

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●"エコプラントゲーム." 環境省.
http://www.env.go.jp/chemi/communication/kyouzai/eco_plant.html

 続いては『エクリプス・フェイズ』の未来世界では荒廃が進んでいる地球の状況をグローバルに考えるためのゲームをご紹介しましょう。

エコプラントゲーム
 
 上に示したのは環境省( http://www.env.go.jp/ )がウェブ上で無料提供している「学校の教材用」のゲームです。この「カードを用いた戦略思考型ゲーム」では「プレイヤーは工場長になって、エコプラント(工場)を1年間」経営することで、企業があげる利潤と環境保護との関係を体験することになります(ルール等は無料ダウンロードできます)。

 また環境省のご説明では「学んだことをもとに、より楽しくなるような工夫をして、どんどん発展させたオリジナルのゲームを作ってみてもいいでしょう。できれば、その成果を事例として環境省にもお聞かせください」ともありますので、皆様もゲームを無料ダウンロードされて楽しまれた後、その感想を先方にお伝えされるのはいかがでしょうか。

 同省では他にも無料のゲームを配信していますので、詳しくは下記をご参照ください。

○"化学物質などの環境リスクについて学び、調べ、参加する: 子供のページ" :http://www.env.go.jp/chemi/communication/kids.html
○"教材を配布したい方・掲載したい方へ": http://www.env.go.jp/chemi/communication/kyouzai/haifu.html

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●Conflict Simulation :Philip Sabin :King's College London:
http://www.kcl.ac.uk/sspp/departments/warstudies/people/professors/sabin/index.aspx (English Site)

 以前にAGSで取り上げましたが、ロンドン大学キングズ・カレッジ( http://www.kcl.ac.uk/ )では史学講義の一環として無料ボードゲームが活用されています。講義をうけもつフィリップ・セイビン先生(Professor Philip Sabin)の講義用サイトからゲームを無料ダウンロードできますよ。

 詳細は「ウォーゲームを製作する歴史学の講義:フィリップ・セイビンの革新的試み」( http://analoggamestudies.seesaa.net/article/173944846.html )をご覧ください。

 ちなみにゲームと教育との連携という同様の試みは、九州大学の講義「ボードゲームの理論:「モノポリー」の経済学」でも行われています(こちらです→ http://syllabus.kyushu-u.ac.jp/search/preview.php?code=1190507208 )。


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【A.大英博物館の場合】

●British Museum - Senet:
http://www.britishmuseum.org/explore/families_and_children/online_tours/games/senet.aspx (English Site)
●British Museum - Board Games:
http://www.britishmuseum.org/explore/families_and_children/online_tours/games/board_games.aspx (English Site)

British Museum - Senet イギリスにある「大英博物館」では、昔のボードゲームに関する資料や出土品の画像を無料公開しています(ゲーム本体ではありません、残念!)。ここで取り上げた画像は古代エジプトのボードゲーム「セネト」(Senet)。私たちAGSでは以前に、この太古のゲーム※を「伝統ゲームを現代にプレイする意義(第2回)」( http://analoggamestudies.seesaa.net/article/173691672.html )で解説していますが、残念ながら日本では販売しているお店はないようです。どなたか、扱っている店舗をご存知の方はいらっしゃいますか?


※じつは古代インドの「チャトランガ」(将棋やチェスの祖先)はこちらの「ブリックスオンライン」で販売されていました( http://brics.co.jp/shop/70734.htm )。

盤上遊戯の世界史 さて「セネト」では二人のプレイヤーが7個の駒を操って勝敗を競うという話ですが、なにぶん最後にエジプトで遊ばれてから二千年以上が経過し、ルールについてはよく分からない点もあるのだとか。そうした古代ゲームの歴史を紹介した『盤上遊戯の世界史』という本が2010年に出ました( http://www.amazon.co.jp/dp/4582468136 )ので、この機会にお読みになられるといかがでしょう。ちなみに著者の増川宏一先生は将棋やチェスに関する史学研究者です。


 ちなみに大英博物館でも古代のボードゲームに関する本(Ancient Board Games in Perspective: http://www.britishmuseumshoponline.org/invt/cmc11537/ )を販売しています。それとは別にゲームの近現代史ということでしたら、こうした参考文献もありますよ。

○「紛争シミュレーション教育」の理論・実践・政治的利用に関する考察: http://www.fuyoshobo.co.jp/b-sen-4-8295-0507-6.html
○War and Games: http://www.amazon.co.jp/dp/0851158706


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【終わりに】

 今回は無料のゲームということで幾つかご紹介しましたが、科学に関係するボードゲームはまだまだ沢山あります。『エクリプス・フェイズ』( http://analoggamestudies.seesaa.net/article/183475700.html )もそれらのゲームと共鳴を見せる作品ですが、将来、ゲームと先端科学との連携がどのような方向に進むのか、まだまだ未知数の要素が少なくないのが面白いところです。もしかしたらゲームの学術的利用に関する新しい「パラダイム」※が今まさに産まれようとしているのかもしれません。

 少し荒唐無稽でしょうか? 科学史を研究されている中山茂先生は、学問の発展についてこう説明されています。

 パラダイム自体は既成の体制の中で生まれるものではない。そもそも近代科学もスコラ学者が支配する大学の中からではなく、その外に発生した。大学は単に学者の生活を保証する場でしかなかった。
 ふつうパラダイムは既成アカデミズムの外、あるいは民間で生まれて、それが大学のような公的な機関の中に認められて入っていって、能率的に通常科学的な発展をする。近代科学が成立して、科学の専門化が進んで、もうなかなか民間でアマチュアの中からパラダイムが生まれるようなことがなくなっても、既成主流の通常科学の発展の鎖の中からパラダイムが生まれることは理論上ありえない。
(中川茂『20・21世紀科学史』NTT出版株式会社、2000年、pp.19-20: http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100001038


 それでは次回にまたお会いしたく思います。


※なおここでの「パラダイム」の定義は、トーマス=クーン、安孫子誠也・佐野正博共訳『本質的緊張2 科学における伝統と革新』(みすず書房、1992年: http://www.amazon.co.jp/dp/4622016923 )の「第十二章 パラダイム再考」「第十三章 客観性、価値判断、理論選択」で指摘されているように、専門家集団内の「専門母体」(共通要素)における主要な三点「記号的一般化」「モデル」「模範例」の総称とします。


Eclipse Phase Quick-Start Rules

エクリプス・フェイズ Quick-Start Rules

  • 出版社/メーカー: Posthuman Studios, LLC.
  • 発売日: January 2011
  • メディア: 無料PDF




クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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posted by AGS at 12:40| エクリプス・フェイズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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