2011年04月08日

「世界内戦」下のポストヒューマニズム――『エクリプス・フェイズ』のアクチュアリティ

「世界内戦」下のポストヒューマニズム――『エクリプス・フェイズ』のアクチュアリティ
 岡和田晃

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【2011.04.08追記】

 本稿は東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の前に書かれたものです。
 昨晩の大規模なマグニチュード7クラスの大規模な余震に引き続き、福島第一原子力発電所の予断を許さぬ状況、そしていまだ多くの人たちが避難所から出られずにいる現在、本コラムはともすれば不謹慎との謗りを免れない内容になっているかもしれません。
 しかし、本稿で論じた「例外状態」については、世界は今まさに、その渦中に落とし込められているといえますし、そうした状況において何よりも求められているのは、平常心での思考ではないかと判断し、そのまま掲載させていただきます。ご理解をいただけましたら幸いです。



 あなたは、蔵原大氏による『エクリプス・フェイズ』の世界観紹介記事「『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase):さぁ黄昏の未来世界にようこそ!」をお読みになりましたか。

 「さぁ黄昏の未来世界にようこそ!」は『エクリプス・フェイズ』の基本的な世界観を概説し、『エクリプス・フェイズ』の色調(雰囲気)の一つである、「疑心暗鬼とパラノイア」について焦点を当てた記事になっていました。

 本記事は先の蔵原氏の解説を踏まえたうえで、『エクリプス・フェイズ』の世界に関心を持たれた方のため、あるいは他のRPGはよく知っているが『エクリプス・フェイズ』はあまり知らないという方のために、『エクリプス・フェイズ』がいかなるアクチュアリティ(現代性)を有しているか、すなわち『エクリプス・フェイズ』の何が新しいのかということについて、より詳しく踏み込んだ考察を行なうものです。


【もしもあなたが未読なら】

 Analog Game Studiesでの『エクリプス・フェイズ』の記事を未読の方は、本稿をお読みになる前に、恐れ入りますが蔵原氏の記事へ先に目を通していただけますようお願い申し上げます

http://analoggamestudies.seesaa.net/article/183475700.html



Eclipse Phase Core Rulebook

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  • 発売日: October 13, 2009
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 「さぁ黄昏の未来世界にようこそ!」は『エクリプス・フェイズ』の基本的な世界観を概説し、『エクリプス・フェイズ』の色調(雰囲気)の一つである、「疑心暗鬼とパラノイア」について焦点を当てた記事になっていました。

 この「疑心暗鬼やパラノイア」については、例えば『エクリプス・フェイズ』のルールブックP.41からの文化と社会(「CULTURE AND SOCIETY」)において、「FEAR AND PARANOIA」という見出しのもとに、詳細な解説が盛り込まれています。また『エクリプス・フェイズ』の基本ルールブック等に添えられている世界観を説明するために差し込まれた小説風の描写(フレーバーテキスト)等を見ても、「疑心暗鬼やパラノイア」は繰り返し強調されているものです。

 ティターンズ(TITANs)との戦争は、近代政治哲学の祖トマス・ホッブズがかつて述べた「万人の万人に対する闘争」という比喩表現がおそらく想定していた事態を、はるかに凌駕するものでした。発火源こそティターンズであるものの、相互不信を駆り立てられた人類は類を見ない規模で暴走し、核兵器や生物兵器による災禍(bioplague)が、何百万もの人々を血の海に溺れさせたのです。こうした事態は当のホッブズが予期していたものよりも、はるかに凄惨な事態だったに間違いありません。


 確かに、人類は絶滅こそ免れました。

 しかし、地球壊滅元年(「The Fall」)から10年が経過した『エクリプス・フェイズ』の「現在」においても――アメリカで起きた2001年9月11日の同時多発テロの衝撃を私たちがいまだ忘れられずにいるように――人々の内奥においてこうした猜疑心は燻(くすぶ)り続けているのではないでしょうか。

 ええ、人類は生き残りました。ですが、それは僥倖以外の何であったのでしょう。

 地球壊滅元年以降、人々の住居や生活水準は変貌を遂げました。

 多くの人は戦前よりもはるかに慎ましい暮らしを余儀なくされています。にもかかわらず、人間の基本的な関心毎がまるで変わらず、物資(モノ)の充実を求めたり、あるいは社会的地位の向上や権力闘争に躍起になっているという状況を、いったいあなたはどのように受け止めることでしょう。

 歴史は繰り返し、人間はいつの時代も変わらない。そう、皮肉屋は嘯(うそぶ)くかもしれません。

 ティターンズとの戦争は、20世紀から21世紀にかけて繰り返されてきた世界戦争の、単なる反復なのかもしれません。

 太平洋戦争の後の闇市から日本が驚異的な経済成長を果たしたように、人々は不屈の精神を発揮し、かつての繁栄を取り戻すだろう。かように淡い期待を抱きたくなるかもしれません。

 しかし一方で、宇宙時代にあっても人々は戦争状態という非日常にすら、慣れてしまったのではないか。

 そう考えると、なにやら不気味なものを感じませんか。




 こうした状況は、批評家の笠井潔氏が分析した21世紀(初頭である現在)の状況に酷似しているのではないか。そう、私は考えています。

 笠井氏は『例外社会 神的暴力と階級/文化/社会』という浩瀚な著書において、19世紀的な国民戦争が絶対的な敵を措定した戦争へと発展していくさまを丹念に追いかけ、その現代的な意味を考えました。

 ルールのあるゲームからはかけ離れ、貴族的な紳士協定とも無縁な、相手を完全に滅ぼすまで戦う国民国家(ネーション・ステート)間の殲滅戦。笠井氏によれば、こうした「絶対戦争」は、既存の公法秩序から逸脱した「例外状態」をもたらすものとなりました。


 「例外状態」とは20世紀ドイツの公法学者カール・シュミットが理論書『政治神学』で用いた言葉で、後に美学者のアガンベンがそれを援用した論考をものしていますが、シュミットが活躍した第一次世界大戦・第二次世界大戦の戦間期――「世界でもっとも民主的な憲法」であるところのヴァイマル共和制の施行から、ナチス政権に代表される「全体主義(ファシズム)」の悪夢――の時代状況の反復を、笠井氏は21世紀の世界に見ています。

 『例外社会』によれば、「絶対戦争」としての二度の大戦を経て、国民国家は世界戦争という「例外状態」を構造の内部に取り込む、いわば「例外国家」へ変貌しました。

 カール・シュミットは「例外状態」における主権者の権能を重視したあげく、結果的にナチズムを理論的に擁護してしまうことになったのですが、そのことへの反省を多分に含んだ『パルチザンの理論』において、シュミットは帝国主義的な侵略と抑圧へ一方的にさらされてきた旧植民地の人々が、パルチザン闘争を主軸として「例外国家」へ対抗を示した様子を活写していきます。

 そして『例外社会』では、2001年9月11日の世界貿易センターへの同時多発自爆テロ事件を転回点として、「例外国家」はパルチザン戦争をも呑み込みながら、世界戦争の位相を内戦へと転化させたという分析が示されるのです。

 笠井氏は『パルチザンの理論』の言葉を借りて、こうした状況を「世界内戦」と呼んでいますが、『エクリプス・フェイズ』で描かれる状況を一言で表現するにあたり、「世界内戦」という言葉ほど似つかわしいものはないでしょう(*1)。

例外社会 [単行本] / 笠井 潔 (著); 朝日新聞出版 (刊)パルチザンの理論―政治的なものの概念についての中間所見 (ちくま学芸文庫) [文庫] / カール シュミット (著); Carl Schmitt (原著); 新田 邦夫 (翻訳); 筑摩書房 (刊)サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ [単行本] / 笠井潔, 小森健太朗, 飯田一史, 海老原豊, 岡和田晃, 蔓葉信博, 藤田直哉, 渡邉大輔, 白井聡 (著); 南雲堂 (刊)

 日常と隣り合わせの戦争。いや、戦争の合間に根付く日常。かように陳腐な謳い文句が、このうえなくリアルに響いてしまう状況。

 かような私たちの状況、私たちが体験している「いま、ここ」を、RPGとSFの最良の部分を抽出する形で体感することができること。それこそが『エクリプス・フェイズ』の面白さなのではないか。私は、そう考えています。

 蔵原氏が言うように、文字通り『エクリプス・フェイズ』は私たちの世界の似せ絵なのです。優れたフィクションは、私たちが今まで目にしたこともないような方法で、世界の新たな観点を提示してくれます。

 誤解を承知で言えば、『エクリプス・フェイズ』は単なる暇つぶしのためのゲームとして閉じているものではありません

 あらゆる芸術がその芸術を成立させた社会的背景と無縁でいられないように、『エクリプス・フェイズ』は、私たちが生きる、この時代の縮図にあり、私たちの世界の変動と技術の革新を、ゲームという形式で、手軽に体感することができるのです。

 あなたは、既存のゲームにどこか物足りなさを感じることはありませんか。そこで語られる物語が、愛、正義、勇気といった、誰しもが憧れる要素が、作り事めいて興ざめしてしまうことはありませんか。

 もし、少しでもそう感じたことがあるのでしたら、『エクリプス・フェイズ』は、あなたのためのゲーム、あなたのためのRPGです。


 もちろん、『エクリプス・フェイズ』も作り物です。

 しかし『エクリプス・フェイズ』を活用すれば、最も手軽な形で、私たちは現在の状況を、戦略論的に、あるいは哲学的にシミュレートすることができるのです。

 その意味で、『エクリプス・フェイズ』はあなたが創造に参画する作品であり、言い換えれば、『エクリプス・フェイズ』をプレイすることで――一人では気づかなかったような――世界のエッジを垣間見ることができるのでしょう。


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 『エクリプス・フェイズ』の世界において、宇宙時代にありつつ、人々は私たちと同じように、「世界内戦」下の状況を生きています。

 一般論として、RPGでは裏切りプレイや、同卓のプレイヤーを出し抜くプレイが奨励されることはごくまれで、行なわれるにして事前の合意が重要で、そして慎重に行なわれる必要があります。『エクリプス・フェイズにおいても同様に、意味もなく裏切りが奨励されたり、同卓のプレイヤーを出し抜くことが奨励されているわけではありません。

 『エクリプス・フェイズ』が戦後の復興を舞台にしているのは、おそらく『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の背景世界の一つエベロンが「最終戦争」という五つ国が骨肉相食む大戦争の2年後に設定されていること、そして『ウォーハンマーRPG』が背景世界オールド・ワールドが「混沌の嵐」(ストーム・オヴ・ケイオス)なる、無慈悲な戦乱の直後に設定されているのと共通するものがあるでしょう。

 荒廃した世界において、生きる意味を探し出すこと。プレイヤー・キャラクターの動機にリアリティを与え、また語られる物語に深みをもたらすための仕掛けであると思って下さい。

 そして『ダンジョンズ&ドラゴンズ』や『ウォーハンマーRPG』が、プレイする者にゲームを遊んだ喜びとともに、その色調に沿った独自の知的な刺激を与えるように、『エクリプス・フェイズ』が「世界内戦」を背景とするのには、特有の意義があります。


 それゆえ、蔵原氏が「(EP世界における)生存目的は? 単純明快、まずは生き残ることです」と語るとき、この「生き残る」ということは、単なるサバイバルを意味するわけではありません。「ただ生きる」だけではなく「いかに生きるのか」が問われます。数多のイデオロギーや奇怪な宗教・信念が飛び交い、テロルや陰謀と隣り合わせの状況において、あなたは常に、自らの生き様が問い直されることになるのです。


 そもそもテクノロジーによる身体改造、あるいは人工知能(AI)やネットワークが飛躍的な発展を遂げた『エクリプス・フェイズ』の世界において、肉体(Morph)の「死」は、いわばパソコンのハードディスクがクラッシュしたようなもの。

 コストがかかるので痛くはありますが、充分な対策さえ練っていれば致命的なものにはなりません。また社会保障に寄生し、無為に暮らしていくことは比較的たやすい所業です。


 肉体がそうであるように、人々の自我(Ego)は単なる量産型のソフトウェアに過ぎません。しかし同時に、人々はどこかでその事実を疑う部分が残っているかもしれません。

 かつて、ある哲学者は、「世界という大きな書物」を放浪した後に「我思う、ゆえに我あり」という言葉を残しました。その問いかけは、はたして今でも意味を持ちうるのでしょうか。

 そもそも、人間という「器」とハードディスクの違いとは、いったいどこにあるのでしょう。


 生命とは何か。精神とは何か。そして自分とは何か。

 いや、そもそも「生きる」ことはどういうことなのか。 

 あなたの人間性を保証するものがあるとしたら、あるいは阻害するものがあるとしたら、それはいったい何なのでしょうか。

Total Solar Eclipse
 お前の精神はソフトウェア プログラムせよ Your mind is sodtware. Program it.

 お前の肉体は殻 脱ぎ替えよ Your body is a shell. Change it.

 死は病に過ぎない 治療せよ Death is a disease. Cure it.

 滅亡は迫っている 戦え Extinction is approaching. Fight it.

Ref: http://eclipsephase.com/ and the photo image is sited in ( http://images.nationalgeographic.com/wpf/media-live/photos/000/011/cache/moon-solar-eclipse_1101_600x450.jpg ) in National Geographic Official Site.


Eclipse Phase


 『エクリプス・フェイズ』の世界において、あなたはこうした問いに対する無数の答えを見出すことでしょう。

 いずれの答えにも一理あるでしょうが、仮に結論が得られたとしても、それはおそらく他の誰かの利害と衝突するはずです。

 そこで我を貫くのも、また黙って好機を待つのもまったくの自由。道を選ぶのはあなた自身なのです。


 『エクリプス・フェイズ』であなたが演じるキャラクターは「トランスヒューマン」。すなわちテクノロジーによって、人間の定義そのものが上書きされた存在です。しかし、演じるあなた自身は、(おそらく)普通の人間であるはずです。

 こうした「ずれ」に最初は面食らうかもしれませんが、日々、等比級数的な進化を遂げていくテクノロジーに囲まれて私たちが漠然と抱いている違和感と、『エクリプス・フェイズ』もまた、正面から向き合っていることがわかるでしょう。


 テクノロジーの進化によって本格的な宇宙進出が進み、私たちが所与の条件とみなしていた状況は、いくらでも変化させられるようになりました。

 『エクリプス・フェイズ』においても、あなたはルールブックやサプリメント(設定資料)の記述をもとに、想像力の赴くまま、プレイングを通した思考実験を行なうことが可能になります。


 『エクリプス・フェイズ』において、キャラクターは行動の動機(Motivation)を複数設定することができますが、それらに共通したグランド・テーマとして、「自分とはいったい何だろうか?」というアイデンティティへの問いかけが存在することは間違いありません。

 そしてこの問いかけは、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のフィリップ・K・ディックや「スキャナーに生きがいはない」のコードウェイナー・スミスらSF黄金期の巨匠たちから、『へびつかい座ホットライン』のジョン・ヴァーリィや『レインボーズ・エンド』のヴァーナー・ヴィンジら、サイバーパンク運動の勃興前からサイバーパンク的な問題意識を含有した作品を書き続けてきた作家たち、そして『スキズマトリックス』のブルース・スターリングから『アッチェレランド』のチャールズ・ストロスに至る、サイバーパンク以降の優れたSF作家が常に考察してきた課題でもあります(とりわけ、『スキズマトリックス』や『蝉の女王』など、スターリングの「機械主義者/工作者」シリーズは、『エクリプス・フェイズ』の重要な屋台骨を為しています)。

 そして、アイデンティティの模索と対を為すのが他者への愛ですが、『ポストヒューマンSF傑作選 スティーヴ・フィーヴァー』の多くの収録作では、宇宙時代のポストヒューマニズム(*2)と「愛」の形が模索されています(ここでは収録作のうち、『エクリプス・フェイズ』の設計思想ともおそらく共鳴を見せるであろう、ジェフリー・R・ランディスの「死がふたりを分かつまで」をまず第一にお薦めしておきます)。
スキズマトリックス (ハヤカワ文庫SF) [文庫] / ブルース・スターリング, 小川 隆 (著); 早川書房 (刊)スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー) [文庫] / グレッグ・イーガン, ジェフリー・A・ランディス, メアリ・スーン・リー, ロバート・J・ソウヤー, キャスリン・アン・グーナン, デイヴィッド・マルセク, デイヴィッド・ブリン, ブライアン・W・オールディス, ロバート・チャールズ・ウィルスン, マイクル・G・コーニイ, イアン・マクドナルド, チャールズ・ストロス (著); 山岸真 (編集); 山岸真 (翻訳); 小阪淳 (イラスト); 金子浩, 古沢嘉通, 佐田千織, 内田昌之, 小野田和子, 中原尚哉 (翻訳); 早川書房 (刊)サイボーグ・フェミニズム [単行本] / ダナ ハラウェイ, ジェシカ・アマンダ サーモンスン, サミュエル ディレイニー (著); Donna Haraway, Jessica Amanda Salmonson, Samuel R. Delany (原著); 巽 孝之, 小谷 真理 (翻訳); 水声社 (刊)

 非情な世界のうちで、自らの実存が広大な宇宙のどこに根ざしているのかを見つけ出すこと

 『エクリプス・フェイズ』の世界を生きるにあたって、あなたは必ずこうした問題に直面することとなるでしょう。


 例えば、サイバーパンク小説の名作群において――リチャード・コールダーの小説『デッドボーイズ』のように――性差の撹乱・超越は重要な主題として扱われてきました。

 また批評家のダナ・ハラウェイは「女神よりはサイボーグになりたい」との有名な文句を残し(『サイボーグ・フェミニズム』)、SF作家の大原まり子は、コンピュータ・ネットワークの進展に、性差を超越したコミュニケーションの可能性を夢見ました(「SFの呪縛から解き放たれて」)。


 『エクリプス・フェイズ』のセッションを通して、あなたは「世界内戦」下におけるポストヒューマニズムについての考察を、それとは意識せずに進めることが可能になります。ですから『エクリプス・フェイズ』の資料を読み、実際に遊んだ経験は、決して無駄なものにはなりません。

 ところで、サイバーパンク研究の第一人者である巽孝之氏は、SFと現在をめぐる思想的状況において、以下のように述べています。

 かつてのわたしは、電脳空間以後のテクノロジーが文学的レトリックや政治的イデオロギーとも連携する効果にのみ注目して「SFが見えないジャンルとなった」「世界全体がSF化した」と発言していたと思う。しかし現在ではまったく逆に、SF的思考がそれこそネット社会のすみずみに浸透した結果、SFはニ一世紀人における文字通りの無意識を枠組み、折にふれて現在世界の深淵から一挙に姿を現す「名づけがたき怪物」(安部公房)のエネルギーを回復したのではないかと考える。
 (「SF的無意識、ジャンル的自意識」)


 SF的思考の浸透と拡散が完成し、それらが無意識の底に沈潜した現在。

 その先に待つ人間像がポストヒューマニズムの一種にほかならないことは論を待ちませんが、ともすると「名づけがたき怪物」は、案外『エクリプス・フェイズ』のようなSFとゲームのあわいから現れてくる可能性も高いと言わざるをえません。

 ゲームについて研究する学問「ルドロジー」も、映画研究・文学研究などの下敷きを経て、ようやく独立した学問として提示されてるようになってきているようですし、相互干渉性(インタラクティヴィティ)を主体としたゲームならではの考え方は、既存の文学研究、ならびにSF評論の分野においても、いまだ充分な成果が蓄積されているとは言えないからです。


 それゆえAnalog Game Studiesにおいては『エクリプス・フェイズ』をさまざまな角度から検討し、皆さまに有益なフィードバックが与えられるよう、努力したいと思います。

 その第一段階といたしまして、2011年5月3日〜4日に東京で開催されます「SFセミナー2011」の合宿企画において、実際に『エクリプス・フェイズ』を紹介する機会をいただくことができました。

 多くのSFファン、作家、評論家、編集者らが訪れるイベントです。
 Analog Game Studiesをご覧の皆さまも、是非ともご来場をいただけましたら幸いです。


Creative Commons License
「世界内戦」下のポストヒューマニズム――『エクリプス・フェイズ』のアクチュアリティ) by 岡和田晃 is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs 3.0 Unported License.
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【脚注】

*1:筆者は「世界内戦」を主軸にしたSF評論をこれまで2つ書いております。併せてご参照下さい。「世界内戦」とわずかな希望――伊藤計劃『虐殺器官』へ向き合うために」(「SFマガジン」2010年5月号)、「「世界内戦」下の英雄(カラクテル)――仁木稔『ミカイールの階梯』の戦略」(『サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ』、南雲堂、2010年)。「世界内戦」とグローバル・ガバナンスの関係性について、より精緻に考察した原稿としては「「世界内戦」下の英雄(カラクテル)」をご参照下さい。なお、本稿は後に加筆修正され、改めて、よりまとまった批評文として上梓される可能性があります。
*2:ポストヒューマニズムそのものについては、いずれ別件で考察を行ないたいと考えています。ここでの前提は、本稿で銘記した優れたSF作家たちの仕事、ならびにハラウェイ・サイボーグと、N・キャサリン・ヘイルズの仕事を前提として捉えていただけましたら幸いです。

Bibliography: EclipsePhase-2nd.pdf,which have been produced from Catalyst Game Labs and Posthuman Studios in 2009-10;quotation translated by Dai Kurahara and Naofumi Naegashi.
posted by AGS at 01:46| エクリプス・フェイズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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