2011年02月20日

ウイリアムソン・マーレー/リチャード・ハート・シンレイチ編集『歴史と戦略の本質 上―歴史の英知に学ぶ軍事文化』

【新作紹介】ウイリアムソン・マーレー/リチャード・ハート・シンレイチ編集『歴史と戦略の本質 上―歴史の英知に学ぶ軍事文化』(原書房、2011)が刊行されます
 蔵原大

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 人間の歴史は文字が発明された時点を起点としても既に五千年以上を経過するそうです。時が積み重なれば知恵が増す、と考えるのは当然かもしれないのですが、しかし今の事情は知識の量だけふえる反面、では知恵者の数はというと何故だかそんなに増えていないように思えます。なぜなんでしょうか?

歴史と戦略の本質 上―歴史の英知に学ぶ軍事文化 [単行本] / ウイリアムソン・マーレー, リチャード・ハート・シンレイチ (編集); 今村伸哉, 小堤 盾, 蔵原大 (翻訳); 原書房 (刊)
 
 http://www.harashobo.co.jp/new/shinkan.cgi?mode=2&isbn=04649-2

 今回ご紹介の本『歴史と戦略の本質 上―歴史の英知に学ぶ軍事文化』(原書房、2011)(原題:The Past as Prologue)では、人間はなぜ歴史を「学び損ねる」ことで失敗に突き進むのか、これまでの無学と敗北の歴史的悪循環(ベトナム戦争、イラク戦争、対テロ戦争......)がその回避のための提言を含めて網羅されています。欧米戦略学の有名人ウィリアムソン・マーレー(Williamson Murray)、マイケル・ハワード(Michael Howard)、アメリカ海兵隊の将軍ポール・ヴァン・ライパー(Paul K. Van Riper)を始めとする共著者が挑むのは、どうすれば人はもっと賢く生きられるのかという古来普遍の課題です。

 内容は以下の通り。

 1 序論……ウイリアムソン・マーレー、リチャード・ハート・シンレイチ

 2 軍事史と戦争史……マイケル・ハワード

 第1部 軍事専門職に及ぼす歴史の影響
 3 歴史と軍事専門職との関連性〜あるイギリス人の見解……ジョン・P・キズレー
 4 歴史と軍事専門職との関連性〜あるアメリカ人の見解……ポール・ヴァン・ライパー
 5 仲の悪い相棒――軍事史とアメリカ軍の教育制度……リチャード・ハート・シンレイチ
 6 軍事史と軍事専門職についての考察……ウイリアムソン・マーレー

 第2部 歴史の英知に学ぶ軍事文化
 7 教育者トゥキディデス……ポール・A・ラーエ
 8 クラウゼヴィッツと歴史、そして将来の戦略的世界……コリン・S・グレイ
 9 歴史と戦略の本質……ジョン・グーチ


 ゲーム関係という点で注目すると、面白いのはジョン・P・キズレー(John P.Kiszely)、ポール・ヴァン・ライパーという二人の実戦叩き上げ将軍の目から見た、プロの軍人から見た真の「軍人魂」とは何なのかという解説でしょうか。小説、RPG、ウォーゲームのいずれにせよ「軍事専門職」(military profession、高度な教育を受けた軍人という意味です)とは無縁ではいられない以上、パットンやロンメルの博識ぶりを追憶しながら戦闘力と歴史的洞察との相関を語る両将軍の論調は(お二人とも教育畑で改革の辣腕をふるったこともあって)なかなかに刺激的かと思われます。「頭脳は兵器、書籍は弾薬」と力説するヴァン・ライパーが兵法書を片手にベトコンと戦った経緯については紹介本の第4章をご参照ください。その内容は明らかにRPG(『ガンドッグゼロ』や『エクリプス・フェイズ』など)のキャラ設定に転用可能ですよ。

 さてゲーム以外の文脈にも目を向けると、例えばこんなのがありますよ。

 ◇ 教育畑の人には、第7章「教育者トゥキディデス」:古代ギリシャ人の振る舞いと現代人のそれとの相似を取り上げています。
 ◇ 戦略研究ですと、第8章「クラウゼヴィッツと歴史」:あの『戦争論』に関する思い切った批評が驚かされます。
 ◇ 歴史畑の人に一押しなのが、第2章「軍事史と戦争史」:歴史学者はこうして出来るという自叙伝的内容です。
 ◇ アメリカ贔屓の人にご参考となるのが、第5章「仲の悪い相棒――軍事史とアメリカ軍の教育制度」と第9章「歴史と戦略の本質」:アメリカ流教育に内包されている知的問題をその教育の実務者が批判しています。


 なお今回刊行されるのは原書のうちの半分、残りの半分は下巻として三月に予定されています。もう騙されたくない? プロの軍人の真髄を知りたい? それなら読みましょう。『歴史と戦略の本質』を。

 そういえば、「Role&Roll」というRPGやボードゲームを扱った雑誌では「戦鎚傭兵団の中世“非”幻想事典」という、フィクションと実際の歴史の橋渡しになるような連載が始まったようですね。

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