2011年02月01日

『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase):さぁ黄昏の未来世界にようこそ!

【レビュー】『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase):さぁ黄昏の未来世界にようこそ!
 蔵原大

Homepage | Eclipse Phase
※当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです( http://eclipsephase.com/resources )。※
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1.『エクリプス・フェイズ』その未来世界の光と影






 ロール・プレイング・ゲーム(以下RPG)である『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase、以下EP)の背景世界は、現実の21世紀に端を発する(百年以上先の)遥かな未来という設定になっています。その世界では今の社会よりずっと科学技術が進歩し、人類は太陽系全体とその向こう側に生活圏を拡大し、医学上の革新のおかげで数百年の寿命を享受でき、星々を結ぶハイパーインターネットの誕生によって未曾有の情報革命が達成されようとしています。

 反面で、人類自らの過ちによる内戦によって地球文明は壊滅し、約80億(eight billion)の人々が死滅し、生き残った僅か5億人弱(slightly less than half a billion)も疑心暗鬼に駆られて次の戦争に備えています。テクノロジーは貧富の格差を是正せず、大国はさらなる搾取のために特権と宇宙艦隊を強化し、各地の植民惑星は自存自衛を求めて策謀を張り巡らし、貧者は生き残るべく犯罪組織やテロ集団を結成しています。太陽系の外側にいる謎のエイリアンは(人類を狙っているのか/恐れているのか/それとも呆れて見放しているのか)不気味な沈黙を守り、太陽系のそこかしこに誰一人上手く説明できない不安と緊張がみなぎっています。

 RPG『エクリプス・フェイズ』の世界は揺らぎゆく平和の、そしてパラノイアの世紀です。人類皆兄弟という神話は退場させられ、「人類」の定義さえテクノロジーとプロパガンダに挟まれて摩滅し、弱肉強食の生存競争が生起しつつあります。内憂外患の中で安定と希望が崩れ去ろうとする現在、残された道は二つに一つ、勝利か死か。それとも社会は別の道を見出すことができるのでしょうか。現代21世紀の、いや違った、EPの宇宙に生きる者は好むと好まざるとに関わらず、この「病魔に冒された時」(Eclipse Phase)の危険な政治ゲームに参加する定めを背負っているのです。

★ お試し版無料ルールブックはこちら→ http://www.eclipsephase.com/qsr
★ 本格的な有料ルールブックはこちら→ http://www.amazon.com/gp/product/1934857165


Ref: http://eclipsephase.com/ and the photo image is sited in ( http://images.nationalgeographic.com/wpf/media-live/photos/000/011/cache/moon-solar-eclipse_1101_600x450.jpg ) in National Geographic Official Site.


Eclipse Phase


 さて、この「ゲーム」における参加者(=マスターとプレイヤー)は事実上、どんな職業のどんな性別の、どんな人種のどんな国籍でもゲーム中で演技することができます。10歳のヨチヨチ冒険者、30歳の美女軍人、60歳の白髪実業家、100歳の元気一杯な科学者、またはそれ以外の何者であろうと御自身のEP世界における代理人(=キャラクター)として選んでかまわないのです(例えば上に挙げたマシーンの画像、こちらは人間の精神データが操作するクモ型戦車です!)。さぁ豊かな発想と超現実感覚とを混ぜ合わせる時がやってまいりました。貴方の思考力(とEPルールブックの規定)が許す限り、自由にキャラクターを創造しようではありませんか。しかし逆の言い方をするなら、頭脳の貧弱な人は何者にもなることはできません(そこは実世界と同じですね。もちろん秀逸なサンプルキャラクターの面々も充実していますので、まずはそちらでお試しされるのでも宜しいかと思います)。

 では貴方の(EP世界における)生存目的は? 単純明快、まずは生き残ることです。貴方は生まれながらの英雄ではありませんし、万能無敵の超人でもありません。警察や社会の善意を当てにしないでください。彼らは権力の亡者で、潜在的には貴方の敵です。仲間も信用できません。彼らが裏切らない保障はどこにありますか。彼らは貴方が彼らに与える好意の、いいえ、もしかしたらその十分の一の好意さえ返してくれるかどうか。もう一度言いましょう、貴方は英雄ではありません。貴方の周りにいる人達は貴方の競争相手です。英雄になりたければ、それに相応しい活躍を通じて自力で地位を勝ち取らねばならないのです。人助けに尽力する孤高の戦士でもOK、札束で人の頬をはたく守銭奴になるのもOK、人の生死など見向きもせずに技術開発の鬼となるのもOK。貴方の存在意義を、御自身の思考力(とEPルールブックの規定)が許す限りにおいて自由に設定しようではありませんか。しかしその後で生き残ることができるか否か、それは(実世界と同じく)御自身の努力と幸運次第だということはお忘れなく。EPの宇宙は慈悲深くありません。

 RPGであるはずのEPの仮想世界は、明らかに今の21世紀初めの似せ絵です。どちらの世界も、権力核を失って多極化の中で漂流し、グローバリゼーションという変革の波に侵食され、曲りなりにも人の生活を保障していた社会の仕組みは突き崩され、冷徹な現実の問題(民族紛争、自然破壊、利権争奪)で日々のニュース番組が飾られる中、明るい人道的平和という旧き理念は競争至上主義の嘲笑によって抹殺されようとしています。

 EPの宇宙時代、人が明るい夢を抱いて生きていくことはもう一種の倫理違反です。勝てば官軍、負ければ賊軍。食うか食われるか、相手を蹴落とさなければ此方が殺れる。これが新しい倫理です。殺伐とした社会で少しでも這い上がるためには、資金と策略と幸運が不可欠です。しかしそれでいいのでしょうか。人間性を放棄して社会の枠組みが命じる通りのマシーンとして生きる先に、貴方もみんなも笑って暮らせる真の恒久平和があるのでしょうか。あるいは混迷に陥りつつある未来に向けて何を目指し、どう生き抜くのか、具体的な指針はどこにあるのでしょうか。EP宇宙は「今」を生きる術を模索できる壮大な思考実験の舞台として、なんと(簡易版が)無料で提供されているのです。

 それから「キャラクターシート」「サンプルキャラクター」その他ゲーム用のツールがマスター・プレイヤー諸氏への応援として無料公開されています:http://www.eclipsephase.com/resources

 なおEP世界にご興味ある方は以下の記事をあわせてお読みになられてはいかがでしょう。

http://eclipsephase.com/releases(ルール、サプリメント販売の公式ページ)
○ ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その1)(by 朱鷺田祐介)
○ ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その2)(by 朱鷺田祐介)
○ 陰謀団ファイアーウォール(FIREWALL)とは何ぞや?(by 蔵原大)
○ 『エクリプス・フェイズ』キャラクター作成術:「軍艦」と「パズル」と「古典」(by 蔵原大)

 黄昏の新世紀にようこそ!






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2.EPの歴史(21世紀〜大革命の時代まで)

 21世紀の国際平和は、単純明快な論理によって崩壊しました。曰く、自国以外はみな敵だ、犯し殺し奪え、と。資源や利権をめぐる数百年の競争を通じて旧来の「国民国家」が疲弊する中、市場を独占した革新企業(hypercorp、ハイパーコーポ)の連合体が、国際連合や各国政府に代わって様々な公権力の主役となっていきます。この新体制は一応の安定を地球圏にもたらし、同時にさらなる権益を求めて宇宙開発を促進しました。EP世界はかつての「大航海時代」と同じく、飽くなき貪欲さによって幕を開けたのです。

 こうして始まった宇宙開発と並行し、二つの革命が進行します。一つは人間の定義についての革命といえる「トランスヒューマン」(Transhuman)の誕生。もう一つはインターネットの後裔といえる「メッシュ」(Mesh)なるハイパー情報網の創出です。この二点はEP世界とそれ以前との間の分岐点なので、もう少し細かく説明しましょう。

 生物学や医学の革新がハイテク戦争や市場での競争に打ち勝つ上で重要極まりないのは、21世紀でもEP世界でも同じことです。しかし宇宙の支配をめぐる競争の過程で、人間の遺伝子を直接改変することでハイパー戦士、長期の無重力状態でも生活可能な植民者、テレパシーや身体能力を操作できる超能力者、そうした人間を生産するとなると話は違ってきます。必要は発明の母なりという諺通り、競争原理は旧弊な生命倫理を駆逐して新しい倫理を発明しました。各国家、各企業は人類の身体・精神を思うがままに改造する計画を新しい政治理念として打ち出しています。こうして登場したのが、太古から受け継いだ遺伝子に徹底した改造(長寿、身心の強化、低酸素状態での生存能力等)が施され、その肉体には小型兵器や電子機器(インプラント)が埋め込まれた新しい人類こと「トランスヒューマン」です。

Eclipse Phase
 EP世界の一般市民は、極度な保守主義者さえ何らかの遺伝子操作、インプラント無くして正常な社会生活を営むのは難しいでしょう。21世紀の私達が、携帯電話やクレジットカード無くして市民生活をおくる際には支障を来たすように。それどころか人間はその精神データ(Ego)を(例えば脳以外の)ハードウェアに記録しておき、何らかの要因によって肉体(Morph)に死が訪れたなら、いいえ単に肉体に飽きただけの理由からでも結構ですが、保存した記録としての精神データを別の肉体(クローン、機械、他人の肉体)にダウンロードすることが法的・技術的に可能になっています。老若男女のどんな肉体であろうと、たとえ犬猫・イルカやクジラの身体でさえ望めば纏うことができます。極端な話、物理的な身体を捨て去って精神(=「心」とか「魂」と呼ばれるデータの集合体)のみで情報ネットワークを生活空間とする「情報体」(Infomorph)の道に進むことだって許されるのです。

 ハードウェアとしての肉体とソフトウェアとしての精神という分化、あるいは「人間性」の二極化という現象、これが一つ目の革新です。

 こうしたトランスヒューマンとインプラント技術の登場は、大量の情報を瞬時に保存・処理する演算能力を市民一人一人に付与しています。かつての「平常人」(Flat:遺伝子強化されていない人間)は「パソコン」なる外部記憶装置に依存していました。EP世界ではトランスヒューマンの個々人が、パソコン/通信ライン/プロバイダーを兼務する三位一体的情報発信/受信ユニットと化しています。こうした社会状況では「情報"ネットワーク"」という概念はあまりに古臭い話です。個々の市民が端末化して広がるこの情報の海を、EP宇宙では「メッシュ」(Mesh)と呼びます。21世紀の人間にとって新聞やテレビが当り前のように、EP世界の市民にとって「メッシュ」情報網は空気同然の日常と化しています。いわば人々はみな「電波系」なのです。これが二つ目の革新です。

 あとはVR(virtual reality)だのAR(augmented reality / alternative reality)だの、技術オタクが喜びそうな用語がEP世界の日常会話に頻出したりもするのですが、なに気にすることはありません。古代における紙の巻物や近世における活版印刷が、粘土板の堅牢さや筆写の優雅さに比べてそうだったように、新しい技術はいつも奇異で下品な物なのです(※なおEPに関連する現実の最新技術についてはこちら「『エクリプス・フェイズ』ゼロ年」をどうぞ)。

 こうした技術革新は一見すると素晴らしき新世界を提供したかに思えるかもしれません。ある意味では確かに......

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3.EPの歴史(ティターンズ戦争、地球壊滅、今)】 

Eclipse Phase
 素晴らしき新世界、その通り。虐殺や権謀が大好きな手合いにとっては。トランスヒューマンとメッシュの登場、それに深宇宙の開発は、各企業や旧国家群にとっては更なる搾取と戦争の準備に過ぎませんでした。巨大な権力は力を蓄え、劣勢な勢力は策謀を巡らし、迫り来る決戦に備えてしのぎを削ります。そしてついに地球文明最期の時がやって来ました。

 SF映画の定番では、地球を危機に陥れるのは異星人、隕石など外からの異分子です。しかしEP世界の場合、それは人類の中から、正確には人類が互いを殺戮するために作り上げた戦闘システムから勃興しました。それが「ティターンズ」(TITANs)こと「総合情報戦術知覚体」(Total Information Tactical Awareness Networksです。

 もっとも正確には誰も、それが何処から来たのか知りません。ティターンズ自体にも分からないのかもしれません。多分どこかの国のちょっとした実験、あるいは偶然の産物なのでしょう。しかし分かっているのは単純な話で、人類殺戮をプログラムされた人工知性の集合体「ティターンズ」が何時の間にか情報網全体に蔓延し、人々が気付いたときにはティターンズに乗っ取られたハイテク兵器の軍団が(その軍団に営々と税金を供出してきた)市民の頭上に毒ガス、核ミサイル、反物質爆弾をふんだんにぶちまけたのです。

Eclipse Phase
 何しろ人類の諸機関が将来の戦争を期して軍拡にやっきとなっていたおかげで、ティターンズは各地に蓄積されていた武器弾薬類を易々と掌中におさめ、地球の都市を焼き払っていきました。対して人類側はそもそもの相互不信が災いし、指導層は有効な防衛体制を整えないまま市民がバーベキューとなっていくのを互いの責任として擦り付けあい、あまつさえこれを好機としてライバルを襲撃する団体さえ現れる始末でした。こうして市民の避難もまま成らない混乱の中、かつての国民国家の残滓は次々と燃えカスに変わってしまいます。もちろんティターンズの大部隊を阻止すべく多くの人々が勇敢に戦ったのですが、このままでは人類滅亡は時間の問題だというのは当の戦っている人々でさえ覚悟していました。それでも真摯で勇敢な人々は抵抗を続けて死んでいったのです。

 ではEP世界は人類の死滅した社会なのでしょうか。人類は一掃され、清浄なる機械文明が太陽系の覇者となったのでしょうか。いいえ、人類にとってまったくありがたいことに(もしかしたら不幸にして)戦争は一年して突然終わりました。始まったのと同様に。ティターンズは大勝利まであと一歩のところで不意に姿を消し、大量の情報を盗んでどこかに立ち去りました。地球は赤茶けた荒野に変貌し、月や火星などの植民地は戦災を蒙り、80億近くの市民が虐殺されましたが、人類は生き残った、いや正しくは「不戦勝」したのです。この勝利を記念して(あるいは悼んで)それを「地球壊滅元年」(The Fall)と言います。EP世界の「今」は「地球壊滅後10年」です。

 そして謎が遺されました。

 ティターンズはなぜ生まれた?
 ティターンズはどこに行った?
 そして最も肝心な問い、ティターンズはまた戻ってくるのだろうか?

 謎を解く鍵の一つは、戦後すぐに太陽系の各地で発見された不可思議な装置「パンドラゲート」(Pandora Gate)です。ティターンズが創った可能性の高いこの人工ワームホールは、太陽系とそれ以外の恒星系とを繋ぐ通路であると同時に、潜在的には外界からの侵略路になりえます。終戦直後にゲートの向こう側へと送られた偵察部隊の活躍もあって、人類はついに非地球出身の知的生命体と遭遇しました! もっともこの新たな「お隣さん」は人類のことを余り気に入っていないらしく、人工知能や最新テクノロジーを弄ぶなと警告したっきり、ロクに応答もしてくれません。彼らは敵なのでしょうか。何か思惑があるのでしょうか。そして重要な点は、ティターンズの活動は(公式には)未だ発見されていない、ということです。

Eclipse Phase
 ともあれ戦争は終わりました。ティターンズとの戦いは、という意味では。しかし人類の陣営における相互不信は、かえってその度合を強めています。A国は太陽系の支配者になろうとしているのではないか、B国は異星人やティターンズと同盟してはいまいか、C国は恐るべき超兵器を建造しているに違いない。正義や民主主義という美名のもと、太陽系の各勢力は被害妄想を逞しくし、又は第二の地球に成り代わるべく軍拡にふけり、密かに工作員を繰り出し、その果ては大艦隊での電撃作戦を夢見ています(基本ルールブックやサプリメント「Sunward」等で解説されている「ローカス紛争」(Locus conflict)はその一例です)。市民から吸い上げられた資本は、偉大な指導層のもと、営々として軍備増強につぎ込まれているのです。

 ここで陣営の話が出ましたので、ティターンズとの戦いの後のEP世界における勢力分布を簡単に説明しましょう。「今」の太陽系は概ね「内圏」(inner system、火星の軌道から内側)と「外圏」(outer system、木星の軌道から外側)に区分でき、それぞれ独自の勢力による統治が為されています。しかし各地では時折、日常に彩りを添えるかのように「天災」や「不幸な事故」のニュースが流れます。政府のスポークスマンは天下太平を謳っていますが、それが敵勢力による偵察や強襲の別名であることは市民なら当然心得てしかるべき「公然の秘密」です。もちろんそんな事を政府に問いただせば、尋ねた無邪気な人は即座に「不幸な事故」の犠牲者となること確実でして...。

★ 実際の太陽系の様子についてはこちら→ http://analoggamestudies.seesaa.net/article/214717168.html

◆ 内圏:巨大企業の連合体「惑星連合」(Planetary Consortiumが掌握する領域。「自治主義同盟」の有識者曰く、彼らは人類の奴隷化を企む独占資本主義者であり、セレブ集団が専制支配する悪の帝国に他ならない。

◆ 外圏:土星の衛星にある「タイタン連邦」(Titanian Commonwealthや各地の入植地、無政府主義集団、学術団体等が結成する「自治主義派同盟」(Autonomist Allianceの領域。「惑星連合」の報道機関によれば、彼らは海賊・扇動家・破壊分子・共産主義者......とにかく要するに諸悪の根源である(なお"Titan"「ティターン」と呼ぶのは、連邦に「ティターンズ」のスティグマを貼り付けようとする惑星連合系イエローペーパーの謀略放送だ! そうですが......)。

◆ その他にも「惑星連合」「自治主義同盟」の双方に対して中立を維持する独立コロニーが点在するが、中でも有力なのは木星圏に割拠する「木星共和国」(Jovian Republic。同共和国は「トランスヒューマン」を堕落した蛮族と蔑んで「平常人」による孤立政策を貫いている。

◆ また非政府団体(NGO)の中には政治運動や破壊活動によって太陽系の政局を操作しようとする組織もあり、中でも有名なのが「ファイアーウォール」(Firewallと自称する反ティターンズ秘密結社である。さらには地球復興を絶叫する過激派、太陽系を股にかけるマフィア集団、テクノロジーおたくの超エリート学閥、現世利益を求めるノンポリ遊牧宇宙船など、EP宇宙は奇妙奇天烈な面々に事欠かない。


Eclipse Phase
 こうした世界では専業主婦、中堅サラリーマン、いいえ、あどけない坊ちゃん嬢ちゃんでさえ安穏とはしていられません。高校生や大学生が銃器の使い方を授業で習い、OLさんがミサイルの撃ち方を研修で教わり、お爺さんお婆さんが老後の余暇を銃剣術に費やすとしても、ティターンズとの戦争の衝撃を考えれば止むを得ないでしょう。あるいはもしかしたら中には、平穏な日常生活の裏で反政府活動に勤しむイケナイ連中さえいるはずです。例えば高校生の皆さん、教室の片隅で後ろに座る萌え系少女、実は国家経済を操るフィクサーが潜伏している姿なのだとしたらどうしますか。そして前の席のダサ男君、本当はみんなを監視する思想警察のエージェントではないと断言できますか......?

 ......とまぁ真っ当に考えればありえなさそうな(本当にありえないんでしょうか?)空間の外では、政府のお偉方はところ構わず検閲・徴兵制を推進しています。小心な権力者は弱い者イジメが大好きです。一見リベラルな民主主義体制の中ですら反戦活動や表現の自由は売国行為と見なされ、道徳や社会正義の名において非難や処罰の対象となるのでしょうか。EPの時代精神は猜疑と抑圧に倦むことがありません。なにしろ『エクリプス・フェイズ』は「トランスヒューマンの陰謀と恐怖を扱うロールプレイングゲーム」(The Roleplaying Game of Transhuman Conspiracy and Horror)なのです※公式ルールブックの表紙をご参照)

 反戦? 宥和? それはティターンズ相手の死闘でどれだけの人命を救えましたか。それは父母を失った戦災孤児に何グラムの食糧、何カロリーのエネルギーを供給してくれたのですか。武器を取らない臆病者は、働く気力のないクズでなければ人類全体を脅かす叛逆者、あのティターンズの手先に違いありません。そうです、貴方の資源は官憲に、大企業に、ギャングに、テロリストに、ティターンズに狙われています。戦わざる者、食うべからず。自分以外はみな敵だ、犯し殺し奪え。そうしなけば次に蹂躙されるのは貴方や御家族かもしれないのですよ。

 かつて20世紀の冷戦時代、アメリカやソ連その他の国々にはびこっていたパラノイアが、別の形式を取って復活しようとしています。敵は外にも内にも傍にもいます。殺せ殺せ殺せ。そして今度こそ人類は血を吐きながら続けるマラソンの末、首尾よく自滅できるかもしれませんよ。

Glowing Sun
 ではその世界ではどう生きればいいのでしょう?
 それこそ私達が考えるべき問題です。
 EP宇宙であれ、今の21世紀であれ。
 少なくとも考える自由は私達のものです。まだ。

 さぁ、お考えを行動で示そうではありませんか。

 なおEP世界については以下の記事もあわせてご参照ください。

http://eclipsephase.com/releases(ルール、サプリメント販売の公式ページ)
○ ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その1)(by 朱鷺田祐介)
○ ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その2)(by 朱鷺田祐介)
○ 陰謀団ファイアーウォール(FIREWALL)とは何ぞや?(by 蔵原大)
○ 『エクリプス・フェイズ』キャラクター作成術:「軍艦」と「パズル」と「古典」(by 蔵原大)

 素晴らしきかな、新世界!
( This above photo image is in http://images.nationalgeographic.com/wpf/media-live/photos/000/065/cache/glowing-sun-prominence_6594_600x450.jpg in National Geographic Official Site )






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4.EP世界のエグさをもっと楽しむための参考書

 ゲーム『エクリプス・フェイズ』を提供する「Posthuman Studios, LLC」のサイトです。
◇ Homepage | Eclipse Phase: http://eclipsephase.com/

 ゲーム会社「Posthuman Studios, LLC」が提供する『エクリプス・フェイズ』用の無料ファイル「Quick-Start Rules」には、簡易ルールと背景世界の説明、単発シナリオが収録されています。
http://www.eclipsephase.com/qsr

 本格的なルールやサプリメントはこちらを参照されたし。
http://eclipsephase.com/releases(ルール、サプリメント販売の公式ページ)
http://www.eclipsephase.com/resources(ファン支援用の公式ページ)

 EPのような世界を扱った書籍やドラマを挙げるなら......
◇ マイルズ・シリーズ http://www.tsogen.co.jp/wadai/0312_01.html
◇ ポストヒューマンSF傑作選『スティーヴ・フィーヴァー』 http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/11787.html

Babylon 5
 そして二〇世紀の文明が生んだ傑作SF政治ドラマ、
 あの「バビロン5」(Babylon 5)を忘れてはいけません。
http://babylon5.warnerbros.com/
http://www.superdramatv.com/line/babylon/

 なおアメリカでのEPレビューの翻訳がこちらにあります。
http://d.hatena.ne.jp/thalion/20100511/p1

 ところでEP世界が夢物語だなどとナイーブな感傷を抱かれる方向けには、も少し専門的な文献としてこんなのがあります。
◆ 富の未来:
http://www.amazon.co.jp/dp/4062134527/ref=pd_sim_b_3
◆ アルビン・トフラーの戦争と平和:
http://www.amazon.co.jp/dp/4594010938
◆ ネット帝国主義と日本の敗北―搾取されるカネと文化:
http://www.amazon.co.jp/dp/434498157X
◆ ボスニア内戦 [国際社会と現代史]:
http://www.amazon.co.jp/dp/4903426122
◆ パワー研究所トップページ:
http://jp.sanyo.com/corporate/power/index.html
◆ Solar System, Solar System Information, Facts, News, Photos -- National Geographic:
http://science.nationalgeographic.com/science/space/solar-system (EPのプレイに転用できそうな星々の画像が無料公開されています)

 さぁ参考資料はかく出揃いました。あとは恐怖と猜疑心、それにほんのちょっぴりの想像力の出番です。よい悪夢を!






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Creative Commons License
【レビュー】『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase):さぁ黄昏の未来世界にようこそ! by 蔵原大(Dai Kurahara) is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs 3.0 Unported License.

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Bibliography: EclipsePhase-2nd.pdf, EclipsePhase_QuickStartRules.pdf, PS+21200_EP_Sunward.pdf which all have been produced from Catalyst Game Labs and Posthuman Studios in 2009-10; John Baylis, James J. Wirtz, Colin S. Gray, and Eliot Cohen (eds.), Strategy in the Contemporary World: Second Edition (Oxford University Press, 2007); Carl Von Clausewitz, Michael Howard and Peter Paret(eds. and trans.), On War (Princeton University Press, 1976); Martin van Creveld, The Transformation of War (The Free Press, N.Y., 1991); James F. Dunnigan, Wargames Handbook: Third Edition (iUniverse.com, Inc., Lincoln, NE, 2000); John Kenneth Galbraith, The Culture of Contentment (Houghton Mifflin Company, Boston, 1992); Alvin Toffler & Heidi Toffler, Revolutionary Wealth (Curtis Brown Ltd., 2006); Homepage | Eclipse Phase: ( http://eclipsephase.com/Solar ); System, Solar System Information, Facts, News, Photos -- National Geographic ( http://science.nationalgeographic.com/science/space/solar-system ) besides TV Drama: Babylon 5 produced by Warner Brothers.(なお記事は情勢変化にあわせて2011年4月2日、7月9日に加筆修正しました)
posted by AGS at 02:13| エクリプス・フェイズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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